古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第408話

 検証から数日、根を詰めてしまった為か中間で帰るつもりが三十日も経過してしまった。午前中ドラゴン狩り、午後は魔力砲の検証と実際にゴーレムに魔力砲を使わせたドラゴン狩り。

 流石に一旦王都に帰ろう、僕は本当に魔法馬鹿だ。熱中し過ぎてイルメラとウィンディアとの約束を忘れる所だった。

 ベヘル殿と話して明日には王都に帰る事にする、予定通りレベルが50に上がった。そして大幅な能力アップが有り全盛期の80%の力が戻った。

 アウレール王との約束であるレベル50は達成、ドラゴン種も合計で百体以上倒した。結果を報告してもドラゴン討伐を続けさせてくれるかな?

 

「レベルも50になり自信もついた、今日は最後の仕上げとしてデスバレーの謎に挑む!」

 

 今迄はデスバレーの2㎞手前迄だったが今日はデスバレーまで行ってみよう、近年は誰も到達していないデスバレーに挑む。

 ゴーレムキング(強化装甲)に身を包む、魔力は満タンに近い。自分を中心に半径10mの円陣を組む、配置したのはゴーレムナイトニ十四体。

 

 ゆっくりと警戒しながらデスバレーに向かう、距離は2㎞を切った。ここからは未知の距離だ、魔力探査を行うが近付く敵は居ない。

 

「もうデスバレーを見上げるまで近付いた、1㎞も離れてないぞ」

 

 荒れ果てた荒野だ、大地は乾燥し巨岩がゴロゴロしている。草木は全く無くて見付けられた生き物はサソリと毒蜘蛛だけ、ドラゴン種の骨を見掛けるが全て全長10m以上の大物だ。

 乾燥した空気、僅かな風が運ぶのは細かい埃だけ。目や喉を容赦無く痛める、極悪な環境なのにドラゴン種が他の住み易い場所に移動しないのは何故だろう?

 

「漸く到着した、ここがデスバレーの入口か!」

 

 見上げると両脇には高く切り立った崖、その間の幅は100mは有るだろう広い通り道。

 僕の侵入を拒む様に強風が吹き付ける、風が岩の隙間を通るからか嫌な音が鳴り響く……詩的に言えば女性の叫び声か悲鳴かな?

 見上げても崖の上は見えない、高さは300m以上かな?流石に高過ぎて目測もあやふやだ。

 

「ゴーレムナイトよ、二重の円陣を組むぞ!」

 

 合計五十体のゴーレムナイトを錬成し二重の円陣を組み防御陣を強化する、目には見えないが強烈なプレッシャーを感じ……

 

「不味い、上だ!」

 

 一瞬周囲が影で暗くなる、見上げた先には三つ首で赤銅色の身体と真っ黒な羽を持つ全長30m以上もあるナニかが居た。

 

「何だ、あの化け物は?三つ首の巨竜だと?」

 

 一旦真上を通過し余裕綽々と旋回して向かってくる、真ん中の頭が大きく口を開いた。不味い、ブレス攻撃か?

 直感が魔法障壁では防げないと伝える、足元を錬金で深さ5m程の穴を開けて身体ごと入る。頭上に全力で魔法障壁を張った瞬間、視界が真っ赤に染まった……

 激しい衝撃と熱波に襲われた、数秒なのに死を予測する程のドラゴンブレスの攻撃だ。

 

「クソッ!なんて化け物竜なんだ、三重に張った魔法障壁の二枚が破られたぞ」

 

 信じられない熱線だ、簡単に二枚の魔法障壁が破られ最後の一枚で辛うじて防げたが正直ヤバかった。一度防いだだけで魔力が三割も消耗したぞ。

 ラインを繋いでいたゴーレムナイトの反応は無い、全滅だな。

 

「早く敵を確認しないと二回目の攻撃が……クソッ、見逃されたのか」

 

 悠々とデスバレーの奥へと遠ざかっていく三つ首の巨竜、僕を見付けられなかった訳じゃない。警告だろうな、デスバレーの奥には来るなって事だ。

 周囲を見回す、想像を絶する熱量だったのか岩が真っ赤に溶けて自慢のゴーレムナイト達もドロドロに溶けている。ゴーレムキング(強化装甲)を纏っていても熱さが皮膚に突き刺さる。

 

「デスバレーの謎に挑むとか思い上がったものだ、だが今回は見逃された。素直に命が助かった事を喜ぶ事にしよう、デスバレーの秘密は僕には手に負える物じゃなかった」

 

 あの三つ首の巨竜が完全に見えなくなるまでデスバレーの奥を睨み付ける、あの先には想像もつかない謎が有りそうだ。

 デスバレーの先は険しい山岳地帯でどこの国の領地でもない、誰も奥には入った事が無いと聞く。そこはドラゴン種の楽園なのだろうか?

 

 結局デスバレーのドラゴン種の生態は謎のままだ、今の僕でも勝てない。転生前の僕でも無理だ、アレがデスバレーの主(ぬし)なのか他にも居るのだろうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 屋敷に戻ると王宮からの使者が待っていた、流石に待たせる訳にもいかず埃を濡れタオルで拭いて新しいローブを羽織り応接室に向かう。

 

「お待たせして申し訳ないです」

 

 デスバレーの謎に挑み入口で負けて帰ったら王宮からの使者殿とは、タイミングが良いのか悪いのか?

 

「此方がアウレール王からの親書に御座います」

 

 簡単な挨拶の後、国王からの親書を渡された。この場で読んで返事を使者殿に言わなければならないみたいだ。

 封筒の蝋封を切り中から便箋を取り出す、エムデン王国の紋章入りの便箋を広げて読む……

 

「国内で反乱?クリストハルト侯爵の旧領で農民達が反乱を起こしただと!」

 

 逃げ出すだけじゃなくて反乱を起こした、エムデン王国で反乱を起こせば全員死罪だ。貴族に逆らう事は極刑を覚悟しなければならない、クリストハルト侯爵はそこまで農民達を追い込んだのか?

 領地経営を引き継いだとはいえ、ニーレンス公爵も未だ何もしていない筈だ。引き継ぎの合間に起こったんだな、領主の変更で不安になったか?

 いや、普通なら酷い領主から新しい領主になれば様子を見るだろう。良くなったとか、やはり駄目だったとか判断には時間が掛かる。

 

 命懸けの反乱だぞ、普通は慎重にならないか?

 

 その先を読めば煽動者が居るらしい、旧コトプス帝国の残党共が現地の農民を煽動している。それに傭兵と残党共の正規兵も領内に入り込んでいるだと?

 大問題じゃないか、エムデン王国内に仇敵の残党共が入り込んだとか考えたくない。

 だがハイゼルン砦の件と良い色々と仕掛けて来やがる、現状で国内での反乱は不味いな。

 

「早急な反乱鎮圧、だがそれは僕の仕事じゃないのか。僕は『王国の守護者』だから外敵に対処し自国民に剣を向けてはならない、か……」

 

 イメージ重視、反乱鎮圧にはエムデン王国正規兵ではなくニーレンス公爵の私設軍が当たる。貰ったばかりの領地だが責任は負わせるって事だよな、負担を強いるのが目的なのは分かったが結構酷い。

 領民を弾圧した領主を受け入れるか?例え暴動を鎮圧しても灌漑事業をしても善政を敷いても、彼等は受け入れられないだろう。

 

 エムデン王国正規兵を使わないのも意味深だ、アウレール王は国民に優しいお方となっている。正規兵は国王の指示で動くが、ニーレンス公爵の私設軍は違う。

 これはニーレンス公爵も反乱軍の討伐には気を使うな、攻めて来るなら殲滅だがある程度は逃がすか?

 

 どちらにしてもニーレンス公爵はアウレール王から拝領した領地の経営を適当には出来ない、相応の財と労力を使わされる事になる。

 その恨みの矛先が何処に行くか?クリストハルト侯爵家に向かうだろうな、あれでニーレンス公爵は恨みを忘れないタイプらしいぞ。

 御家断絶は免れたけど公爵五家筆頭の恨みを買った、不祥事の尻拭いをさせた訳だからな。クリストハルト侯爵家に未来は無いかもしれない……

 

「そして早く王都に戻って来いか……分かりました、明日の朝に此処を発ちます」

 

 ギリギリ予定のレベルアップが間に合った、魔力砲もプロトタイプは完成。ツインドラゴンの宝玉も貯まったし、デスバレーの奥には来るなと警告も受けた。

 

 もうこの地に居残る必要は殆ど無い、潮時だな……

 

「私はこのまま先に王都に戻ります、通過する領主達には歓待は控える様に伝えておきます」

 

 一礼して足早に去って行った、だが領主達の歓待攻勢が無いのは助かる。五日間の日程が三日間に詰まるだろう。あの歓待攻勢が避けられる、それだけでも助かるな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「リーンハルト様、アーシャ様、ジゼル様、是非またいらして下さい」

 

「世話になりました、ベヘル殿。慌ただしく帰る事になって申し訳ない、滞在期間中の接待は完璧だったとアウレール王に伝えておきます」

 

 昨夜、使者殿が帰って直ぐにアウレール王からの帰還命令だった事を説明し朝九時に出発する手配を頼んだ。

 ジゼル嬢とアーシャには詳細は伝えてない、慌ただしく準備を終えて用意された馬車に乗り込む。別荘の使用人一同から見送りを受けて馬車は王都へと出発した。

 

「急な帰還命令ですが、近隣諸国で何か動きが有りましたか?」

 

「王国の守護者である旦那様を呼び戻すのです、相当な問題が起きたのでしょうか?」

 

 向かい側に座る二人が心配そうに僕を見る、因みにヒルデガードさん達は別の馬車に乗っている。他にも護衛の騎馬兵は八人同行している、既に滞在予定の街にも使いを送り最低限の持て成しにしろと話を通した。

 

「他言無用ですよ、クリストハルト侯爵の旧領で反乱が起きました。ニーレンス公爵の私設軍が鎮圧に向かいましたが、旧コトプス帝国の残党が煽動した疑いが有ります。

だから僕が王都に居ない事が不味いのでしょう、守りの要の宮廷魔術師が不在では国民が不安になる」

 

 この混乱に乗じて攻めてくる可能性は低いが、アウレール王が正規軍を動かさなかったのも周囲に対する備えかもしれないな。

 だが侯爵七家の一角とはいえ、領地を切り売りしていたクリストハルト侯爵家の残された領地は広くない。だが領民は一万人以上は居るので、男手が全員反乱軍に加われば……

 

「謀略により扇動された方々の処罰は、酷い事になるのでしょうか?」

 

「反乱に参加した者は死刑よ、扇動されたとか強制されたからとかは言い訳にもならないの」

 

 アーシャの問いにジゼル嬢が現実を教えた、反乱に参加した連中は例外なく死罪だ。残された家族や親類については恩赦が有ると思う、領地は領民で成り立つから全滅は不利益。

 だが男手が全員死罪だと残されるのは女と子供と老人達だけだ、この辺はアウレール王とニーレンス公爵の考え方次第だな。

 

「本人達は無理でも残された家族や親類は大丈夫かもしれないよ、アウレール王は国民に優しいからニーレンス公爵も配慮するだろう。新しく拝領した領地の民を皆殺しじゃ治めるのに苦労する、慈悲深さを見せる筈だよ」

 

 暗く重たい話題に皆が黙り混む、何の気なしに窓の外を見ればパレモの街の外壁が見える。今回は強行軍だがバズー村で宿泊など出来ない、僕等を泊められる宿など存在しない寒村だ。

 故に今晩は周辺を管理している貴族の屋敷に泊まる手配になっている、地方の貴族で敵対派閥ではない人物の筈だ。

 

「今夜はレダラッハ男爵の屋敷に泊まる手筈になっている、ニーレンス公爵の派閥構成員の筈だよ」

 

「レダラッハ男爵ですか、確かセルビア地方を治める領主様の親戚の方ですね。御子息は王都で下級官吏として働いている筈ですわ、レダラッハ男爵は高齢で故郷に屋敷を構えて悠々自適な老後を送っています」

 

 少しだけ羨ましい、貴族の柵(しがらみ)から解放されて悠々自適の余生を送るか……

 ニーレンス公爵の派閥構成員なら問題は無いだろう、本人も第一線から退いているなら下手な色気も出すまい。宿泊先でも気を使うのは大変なんだ、行きの接待攻勢は思い出しただけで胃が痛くなる。

 

「リーンハルト様は途中で切り上げになってしまいましたが、王命の方は大丈夫なのでしょうか?」

 

 暗く沈んだ雰囲気を変える為か、ジゼル嬢が話題を振ってくれた。夜の報告会はノルマを押し付けるみたいで嫌だから、結果は聞きませんって気を遣ってくれたんだっけ。

 

「レベルはギリギリで50になったよ、三十日の討伐の成果はツインドラゴン五十四体・アーマードラゴン五十七体・アースドラゴン五十一体で合計百六十二体。それにワイバーンが百七十九体かな」

 

「それは凄いですわ!」

 

「ドラゴン種を単独で百六十二体ですか、凄い事になりそうですわ」

 

 アーシャは単純に喜んでくれたが、ジゼル嬢は色々と考えたのか苦笑いだ。そしてツインドラゴンの胃から出た宝玉は二百三十三個になった、この宝玉は研究するから売らない。

 


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