古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第407話

 魔力刃で腹を裂いて倒したツインドラゴンの臓物の中に光る玉を見付けた、未消化の動物の骨らしき物も付着しているので胃の中に有ったのか?

 拳大の卵形、数は五つあるが完全な円形や歪な物も有る。今まで倒したドラゴンの胃の中は調べてないが、水で胃酸を洗い流し布で拭き清めれば強力な魔力を内包した宝玉だった。

 

「何故ドラゴンの胃の中に?光り物を飲み込む習性でも有るのかな?消化を助ける為に石を飲んで胃に溜める動物も居るから不思議は無いが、魔力を内包してるのは何故だ?ドラゴンの体内に長時間有ったからかな?」

 

 掌の上で輝く宝玉に暫く見惚れる、過去にも見た事が少ない程に強力な魔力を内包している……

 念の為に倒した他のツインドラゴンの胃袋も調べた、有ると分かっていれば魔力探査で腹を裂かなくても存在は分かる。

 そして全てのツインドラゴンの胃袋の中に宝玉が入っていた、少なくて三個多いと七個、全部で四十八個の宝玉を見付けた。

 だがアースドラゴンやアーマードラゴンには無かった、これはツインドラゴンだけの習性かな?

 

 調べて分かった事は大きな宝石の原石を飲み込んで胃の中で削れて丸くなったんじゃない、何かしらの核を包み込む様に大きくなっていったみたいだ。

 じゃないと拳大以上の宝石の原石がゴロゴロしてる事になる、色合いも赤とか青とか緑とか統一性は全くない。宝石の原石なら鉱脈が有る筈だが何種類も有るとは思えない。

 残念な事に何個かは真っ二つに割れていた、僕の魔力刃で切れたんだな。手応えは無かったけど……

 

「エムデン王国に納品した三体の中にも有ったのか?有ったんだろうな、見付けた奴は得したな。報告は無かったが今回のも期待してるだろう、残念だが今回は無い」

 

 一番小さな宝玉でも鶏の卵ほどの大きさだ、宝石としての価値も有るが内包するドラゴンの魔力が凄い。

 これは色々なマジックアイテムの核として使える、割れた物も加工すれば大丈夫だ。良い物を見付けられて良かった。

 これを核とすれば完全自立型ゴーレム、ゴーレムクイーンも作れるだろう。彼女を作ればゴーレムシリーズは完成だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ドラゴン討伐を始めて十五日間が経過した、王都を発ってから二十日なので予定の三分の一を消化した事になる。

 レベルは47となり討伐の成果はツインドラゴン三十体・アーマードラゴン二十七体・アースドラゴン二十一体で合計七十八体。

 ツインドラゴンの胃から取り出した宝玉は百五十一個、最大の大きさは直径22㎝と凄い魔力を秘めている。

 それにワイバーンが四十体、全身骨格十八体分と中々の結果を残せた。ノルマ一日五体も何とか達成しているが、戦い方を接近戦に拘っているので厳しい。

 

 魔法迷宮内でポップするモンスターと違い自然界に生息するモンスターは個体により経験値が違うみたいだ、同じツインドラゴンでも一体倒しただけでレベルが上がった事も有った。

 これで何体倒せばレベルアップするとか計算が無理になった、若い個体は経験値が少なく年を経た個体は経験値が多い。

 

 目標レベルまで残り三つ、少し余裕が出来たのでリズリット王妃の依頼である魔力砲の検証をする事にした。

 デスバレーの4㎞手前の地点まで戻る、この場所ならワイバーンとアースドラゴンしか出ない。目の前の巨岩以外は何も無い荒野だ、敵の接近には直ぐに気付く。

 

「先ずは実寸大の魔力砲の錬金だが大き過ぎてクロスボゥに組み込めない、運用は軍艦に搭載するんだよな」

 

 要は固定式って事か、既存の大型攻城兵器にはカタパルトやバリスタ、それにトレビュシェットが有る。

 カタパルトとトレビュシェットは大型投石器、バリスタは据え置き式の大型弩砲だ。

 一番近いのは槍を直線的に飛ばすバリスタだ、カタパルトやトレビュシェットは放物線を描く。

 攻城兵器は魔法により衰退した、固定化の魔法により強固となった城壁は投石器では壊せない。

 だが要塞の防衛兵器として対人には有効だ、敵兵に心理的圧迫も期待出来る。高価で維持管理が難しく装備出来る場所も限られる、因みにハイゼルン砦にも装備されていた。

 もっともハイゼルン砦は曲がりくねった細い山道を上らせて迎撃する方法を採っていたので、長距離攻撃は弓と魔法に頼っていた。

 

「バリスタに組み込んでみるか……」

 

 四本足の木製長テーブルの上に魔力砲を乗せて挟み込む様に固定する、これでは水平にしか射てないな。

 流石に魔導書の通りに直径30㎝の鉄球を打ち出すのは大き過ぎるので直径10㎝の鉄球にする、筒の長さは2m。厚みは余裕を見て5㎝にすると重さは筒だけでも65㎏にはなる。

 拳大の魔力石を入れて、その後に直径10㎝の鉄球を押し込む。

 

「まぁ良いか、先ずは試射してみよう」

 

 的は30m先の巨岩、幅10m高さ4mは有るから水平射ちで外す事はないだろう。

 

「では、着火!」

 

 大音量の爆発音が鳴り響き鉄球は目標を大きく外して右側に飛んでいった、飛距離だけなら100mはこえたかな?試射は失敗だ、機能的には成功だが他が駄目過ぎる。

 

「先ずは検証しよう」

 

 何故、照準が狂ったか?

 

 爆発の衝撃が筒に伝わり跳ね上がってしまったから、乗せていた木製の長テーブルの後ろ足二本は折れた。筒の固定も甘かったんだ、筒自体に亀裂や破損は無い。

 

 対策をどうするか?

 

 魔力石の量を減らし適量を探す、それでも衝撃は筒に伝わる。だから筒の固定方法を考える、バリスタと同じは駄目だった、発射時の衝撃が全く違う。

 ならばトレビュシェットを参考にしてみよう、平衡錘投石器とも呼ばれた巨大な重りの位置エネルギーを利用して巨岩を飛ばす兵器だ。

 シーソーの原理らしいが良く分からない、だが同じように大きな力が土台に掛かるので応用は利く筈だ。

 

 四角に組んだ土台に筒を乗せる、脚を四方に張り出し大地に杭で固定。更に筒もバンドを巻いてボルトで固定、魔力石の大きさは半分にする。

 

「これが錬金術の強みで反則と言われる理由、普通は最初の試射に失敗したら固定台の作成に数日掛かる。だが僕なら五分で改良案を形に出来る、何度でも作り替える事が出来る」

 

 魔力砲改良二型の試射を行う、魔力石に着火し爆発力が筒の中に充満し鉄球を前方に押し出す。

 

「む、改善はされたが的には当たらずか」

 

 筒と発射台の固定と強度は問題……有るな、ボルトが折れている。これは剛性で耐えるでなく力を逃がす方法を考えるべきか?

 発射時の僅かなズレが僅か30m先の的にすら当たらない、実用化には程遠い。

 衝撃を逃がす方法か?馬車に応用したスプリングは使えるかな?いや、余計にブレて照準が定まらないか……

 

「次は重量を無視して発射台も全て鉄で一体に錬金してみるか」

 

 形状は二型と同じ、だが全金属だからボルト等の金具は不要。自重が400㎏をこえるので魔力石の爆発の衝撃にも耐えるかな?

 

「魔力砲改良三型の試射を実行する、着火!」

 

 三度目の正直となるか?魔力石に着火し爆発力が筒の中に充満し鉄球を前方に押し出す。

 爆発の衝撃で少し浮き上がったが耐えた、鉄球は照準より少し上に当たった。僅か10㎝の鉄球は広範囲に巨岩を砕いた、威力は申し分ない。

 これなら木製の軍艦なら木っ端微塵だろう、固定化の魔法を掛けても破損するな。船体に穴が開けば沈没の可能性も有る、海戦には有効な武器だ。

 

「ふむ、基本は改良三型で実験しよう。魔力石の大きさを変えて射程距離と威力を検証する、後は耐久性かな」

 

 一門400㎏、軍艦に積むにしても重すぎる。有効射程距離を100mとした時に、どれだけ軽量化出来るかだな。

 軍艦なら海戦は海の上、つまり敵との位置関係は水平だ。固定砲で水平射ちでも十分に運用出来る、並列で何門か並べて同時に射てば敵の軍艦に大ダメージを与えられるだろう。

 

「楽しいな、兵器だとは理解しているが錬金による検証は楽しい」

 

 時刻は昼過ぎだし未だ検証出来るな、次にリズリット王妃に会う時には中間報告が出来るだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 楽しい実験を邪魔する連中が居る、ワイバーンとアースドラゴンだ。前者はアイアンランスで撃墜する、レベルアップの恩恵でワイバーンは脅威ではなくなった。

 後者は、折角なので魔力砲の的にしてみるか……

 

 大きな破裂音をさせているせいか、アースドラゴンが近付いてくる。苛立っているみたいに四つ足で走ってくる、アレを敵の戦艦に見立ててみるか……

 魔力砲改良三型を五門錬金して横一列に並べる、微妙に扇形にして角度を調整して30m先で全門が当たる様に調整。

 アースドラゴンは直線的に走ってくる、これは当てやすいな。

 

「50m……40m……35m……30m、着火!」

 

 五門の魔力砲改良三型が火を吹いた!

 

 直径10㎝の鉄球は真っ直ぐにアースドラゴンに向かい、地上最強種の肉体を吹き飛ばした。

 五発中二発命中、命中精度はイマイチだが動く的に当てたのだから合格の範囲かな?しかし右肩に当たった鉄球は右前足ごと吹き飛ばしたな。

 僕のアイアンランスは命中精度と貫通力に優れているが、魔力砲は打撃力に優れている。

 

「コレをゴーレムに持たせたらどうかな?筒のサイズからだとゴーレムビショップなら持てるか?」

 

 試しにゴーレムビショップに筒だけの魔力砲改良三型を腰だめに持たせる、足で確りと大地に踏ん張らせる。少し不恰好だな、戦う兵器に美的センスを求めるのも問題か……

 

「目標30m先の巨岩、構え……着火!」

 

 おお!発射の衝撃は完全に消せる、ゴーレムビショップは人間と同じ動きが出来るから腕の肘や足の膝を曲げたりする事で衝撃を逃がした。

 真っ直ぐに鉄球は巨岩の狙っていた場所に当たった……

 

「成功だ、ゴーレムシリーズの打撃武器として使える。雑兵じゃなく僕のゴーレムとしてなら卑怯な武器にはならないな、だが使用にはリズリット王妃の許可が必要だ」

 

 借り物の魔導書に書かれていた知識だ、僕の考えじゃないしマゼンダ王国との絡みも有る。勝手に使う事は問題になる、だが散弾は僕のアイデアだ。

 別に砲として筒に詰めなくても……

 

 ん?砲に詰めなくても?

 

「散弾は拡散する、拡散したから只のプラムが僕の魔力障壁を展開させた。脅威じゃないが脅威と判断されたから魔力障壁が展開したんだ、つまり……」

 

 一辺30㎝の四角い箱の下部に魔力石を配置し、その上に直径3㎝の鉄球を詰める。これは実験だ、攻撃用というよりは防御用。事前に設置する罠と言った方がよいかな?

 

 大地に置いた箱の周囲にゴーレムポーンを五体錬金して配置する、下から爆発を伴い飛散する鉄球の威力はどうだろう?

 安全の為に20m程離れて魔力障壁も展開する、何処に飛び散るか分からないので用心が必要だ。

 

「では、着火!」

 

 軽い爆発音の後に甲高い音が鳴り響く、これはゴーレムポーンの装甲に鉄球が当たった音だな。

 

「さて、効果だが……」

 

 うーん、駄目だな。威力は十分だ、自慢のゴーレムポーンの装甲に鉄球が食い込んでいる。だが均等に配置した五体の内の三体にしか当たってない、しかも一体に攻撃が集中している。

 散弾は広範囲に均等に攻撃出来るのが利点、鉄球を小さくして攻撃力を控えて数で攻める。だが左手前のゴーレムポーンにダメージが集中し右後方のゴーレムポーンは無傷。

 

「散弾はオマケみたいな物だし、今は単発の魔力砲の精度を上げる事に集中するか……」

 

 先ずは命中精度と軽量化が課題だな、魔力砲の形自体は改良三型で十分だ。実用化迄は無理だがプロトタイプとしては完成、後は検証し改良を加える。

 それが終わったら魔力石と鉄球の装填方法も考えないと駄目だ、今は手前に倒せば詰めた鉄球は落ちてしまう。

 運用するなら鉄球を込めた状態で配置しないと迅速に攻撃は出来ない、揺れる海上では詰めていた鉄球が横揺れで筒から落ちたとか笑えない事になりそうだ。

 

「色々と考える必要が有りそうだな、殺伐としたドラゴン討伐だが気分転換が出来た。癒しも……」

 

 癒しと言えばジゼル嬢とアーシャなんだが、最近ジゼル嬢が一緒に添い寝するって寝室に来るんだよな。アーシャは子作りが出来ないと拗ねるが、ジゼル嬢は分け隔てなく接して欲しいって言うから悩む。

 


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