古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第400話

 魔術師ギルド本部での『王立錬金術研究所』の所員達との顔合わせとレジストストーンの作成指導だが、思った以上に所員達はマジックアイテムの錬金に慣れてなかった。いや、マジックアイテムの錬金をした事がなかった。

 

 初歩的な事からの指導が必要であり、レニコーン殿とリネージュさんが僕の渡した魔導書を写本し何段階にも分けて座学から指導する事になった。つまり直接指導は未だ先だ、ドラゴン討伐から一旦帰る一ヶ月後辺りが丁度良さそうだ。

 本日の主目的の直接指導は中止、皆で昼食を食べて食後の紅茶を味わいながら懇親する事になった。

 懇親と言っても平民の所員達とは同じ席には座れない、ホストのレニコーン殿とリネージュさんと貴族令嬢の三人だ。まぁ女性ばかりで華が有るって解釈が無難かな?

 

 会話の中で思った事だが、アイシャ嬢は貴族と言えども三人の中では立場は一番下なので猫を被り控え目だ。扇動家の一面も有るが、最初は目立たずに様子見な感じだな。

 シルギ嬢は意外だったが頭の回転が早い、会話の内容も貴族の常識を弁えているが高圧的な態度が減点かな。いや、これが普通に特権階級が育った者の態度だな。格上にこそ礼を尽くすが下には高圧的だ……

 

 一番期待していたマーリカ嬢だが……

 

 イーリンやセシリアに通じるモノを感じる、ザスキア公爵程ではないが優しそうな笑顔の下には何か有る。只の出戻り令嬢じゃない、旦那とは死別だと聞いたが他にも何か有るのか?

 昼食の後は自宅に領地に隣接した領主達を招くお茶会の準備の為に、予定より少し早いが帰る事にした。

 

 新しく知り合った一人目のマーヴィン領主はネクス・マーヴィン・フォン・ガルネク伯爵。若過ぎる十代前半のリンディ嬢を正妻に迎えている。

 髭面の厳つい外見なのに孫みたいなリンディ嬢と恋愛結婚したって言うから驚いた。

 

 二人目のラベルグ領主はジルベルト・ラベルグ・フォン・ベルリッツ伯爵。適齢期の愛娘、ヒルダ嬢を溺愛している。その度合いはユリエル殿にも勝るとも劣らないだろうな。

 

 癖の有る二人の領主達とその愛妻と愛娘とのお茶会だが、調べた限りでは領地経営に問題は無く領民達からも慕われている。所属派閥も前者がニーレンス公爵で後者がローラン公爵だから問題無い。

 マーヴィン領は主に林業をラベルグ領は主に農業を中心としている、僕のローゼンクロス領は漁業だからバランスが取れている。

 最近新鮮な魚介類が食卓に出るのも領地から運ばれてくるからだ、氷漬けにして早馬で運ぶのか僕と同じく空間創造のギフト持ちが居るのか分からないが嬉しい事だ。

 今日会う相手の事を考えていると馬車が屋敷に到着した、エムデン王国の貴族街でも最も古い部類に入る蔦が絡んだ屋敷と隣接する新しい屋敷。

 古い方は人避けの陣も内部の罠も発動させている、追加でゴーレムも配置した。三百年前の知識が詰まる宝の山だ、時間に余裕が出来たら集中的に調べたい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ようこそいらっしゃいました、歓迎しますよ」

 

 午後三時丁度に一台の大型馬車に乗った本日の招待客が到着した、一応だが正門で警備兵のチェックは行う。

 仮に正門を突破しても先ずは庭に配置したゴーレム達が迎撃し、屋敷に到着しても固定化を重ね掛けしているので玄関や窓も簡単には壊せず侵入出来ない。

 稼いだ時間で常駐する私兵も駆け付けるので防衛手段は厳重だ、屋敷の内部にもゴーレムを配置しているから下手な砦より堅牢。

 そして新しく作った隠し通路で隣の古い屋敷に逃げ込めば、更に防衛装置は充実している。籠城すれば敗けは無い、睡眠時間を削り手間隙掛けて改造した自慢の屋敷なのだ。

 

「本日はお招き感謝する、しかし凄い屋敷だな。これ程の屋敷を成人前に構えるとは驚きだ」

 

「本当に素晴らしい屋敷ですな、隣の蔦が絡んだ屋敷の噂も聞いている。エムデン王国創立時代に建てられた由緒有る屋敷だが、知られざる魔法により人を寄せ付けなかった筈だが……」

 

「現代最強の土属性魔術師であるリーンハルト様が、あの屋敷の謎を解いた。巷で噂になってますわ」

 

「歴史有る屋敷なのですわね、中を見てみたいのですが駄目でしょうか?」

 

 ベルリッツ伯爵とガルネク伯爵が驚き、リンディ嬢が巷での噂を教えてくれたのだが僕が屋敷の探索を終えた事が広まってるのか?

 いや、噂だから希望的な意見が混じったか単なるガセネタか判断出来ない。噂を信じて探索済みですと教えるのもリスクが高いし……

 ヒルダ嬢は単純に珍しい屋敷なら見てみたいとかだな、それ以上の欲望とかは感じられない。

 

「未だ一階部分の一部だけしか調べてません、中々手強い屋敷です。ですが私的な事なので単純に割ける時間も余裕も無い、残念ながら未だ屋敷の内部を安全に見せられないのです」

 

 申し訳なさそうに言うのがポイントだろう、巷の噂に新しい燃料を投入する。これで探索を終えたから探索中になれば儲け物だ、貴族の間で広まれば牽制程度にはなるか?

 

「さぁ屋敷を御案内します、此方の屋敷も中々ですよ」

 

 客人達を通すのは庭に面した一階の応接室だ、大きな窓から手入れのされた季節の花と装飾を施した噴水が見える。天気も良いので窓を開けるのも良いだろう……

 案内の最中に贈り物の中からジゼル嬢が厳選した調度品や美術品を配置しているのだが絶賛された、何気に多才な令嬢だよな。

 

「此処が一番庭が良く見える場所です、前の持ち主であるパンデック殿のセンスですが僕も気に入ってます」

 

 手に入れても日が浅いので庭師達も手入れのみを行い大幅な仕様変更はしていない、幾つか草案を貰ったが決めてない。

 新しく手に入れた屋敷の庭を自分好みに変えるのが上級貴族のたしなみらしい、前の主の痕跡は消すって意味か?

 

 サラとリィナが紅茶と焼き菓子を配る、リィナも慣れてきたのか危なげ無く配膳している。因みに茶葉はローラン公爵から分けて貰ったロンネフェルト産、生産量が少ない最高級品だ。

 芳醇な茶葉の香りを楽しむ、どうやら全員が紅茶党らしく用意した砂糖やミルクは入れずにストレートで味わっている。

 

「素晴らしい紅茶だ、茶葉はロンネフェルト産かな?」

 

「はい、ローラン公爵から分けて頂きました」

 

 ガルネク伯爵が銘柄を当てた、最高級品質だがロンネフェルト産と似ている同じ最高級品質のハロゲイト産との見分けは難しい。彼は相当な紅茶党だな、逆にヒルダ嬢は分からなかったか違ったのか慌てている。

 

「明後日からデスバレーでのドラゴン討伐ですが、王命とはいえ大丈夫なのですか?」

 

 大丈夫?地上最強種に挑む事か準備や段取りの事か?リンディ嬢は、どちらを心配してくれたんだ?

 その言葉を聞いたヒルダ嬢は味わっていた紅茶のカップを置いて不安な顔をした、此方は僕の身体の心配で間違いないだろう。

 

「慢心はしませんが大丈夫ですよ、伊達に前回一ヶ月間もドラゴン狩りをしてませんから。心配してくれるのは嬉しいのですが、僕は何故かビクトリアル湖周辺の別荘が賑やかになった方が心配なんです」

 

 疲れた笑顔を見せれば大体の事は察してくれたみたいだ……、いや十三歳のリンディ嬢が察してヒルダ嬢が分かりません的な顔をしちゃ駄目だって!

 

「滞在はアウレール王の別荘だそうだな、賓客扱いでの長期滞在を許可されたのは異例だぞ。それだけリーンハルト卿の事を忠臣として扱っている、正直羨ましい」

 

「実は私達もビクトリアル湖に別荘を持ってまして、良かったら遊びに来て下さい。歓迎致しますわ」

 

 やはりアウレール王の別荘に突撃は出来ないよな、虫除け効果は抜群だが自分の別荘にお誘いは出来る。断る事は可能だが、ジゼル嬢とアーシャが別荘に軟禁状態になるのは……

 

 彼女達の気晴らしは必要だし、拒絶だけでは友好関係は維持出来ない。

 

「今回は我が側室と婚約者の同行も許可されました、出来れば彼女達を紹介したいのでお邪魔させて頂きたい」

 

「ジゼル嬢とアーシャ嬢ですな、リーンハルト卿が溺愛する噂の美姫を紹介して貰えるとは楽しみだ」

 

「私達もお友達になりたかったのです。ねぇ、ヒルダさん?」

 

「はっ?はい、そうです。是非ともお願いします」

 

 本当にリンディ嬢は十三歳なのか?友好関係を太くする配慮だと思うが中々どうして手強いぞ、お互いに利が有るし女性間の交流は屋敷に籠りがちなアーシャには必要だ。

 

 ガルネク伯爵も才媛な幼女に捕まったんだな……

 

 初めての自分の屋敷でのお茶会は中々盛り上がり、また有意義でもあった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お茶会自体は結構楽しかった、現役領主二人の話は新米領主の僕としては興味深く為になった。リンディ嬢のヒルダ嬢推しは少し困った、あの少女は相当の遣り手だぞ。

 旦那を立ててはいるが、かなりの部分を掌握している。

 夕食を済ませ風呂に一人で入りベッドで寛ぐ、猶予は明日一日しかなく明後日は早朝に出発だ。僕の馬車でデオドラ男爵の屋敷にジゼル嬢とアーシャを迎えに行く、護衛の兵士も同行するが向こうに着いたら一旦帰す事になる。

 アウレール王の別荘に滞在するので、警備やお世話係は向こうが用意している。

 此方は女性二人の専属メイドだけ同行を許されたが僕は駄目らしい、アウレール王の精々持て成してやるって話したのが心配だ……

 

「リーンハルト様、宜しいでしょうか?」

 

 ノックの後にイルメラから声を掛けられた、もう十時過ぎだが何か有ったかな?

 

「開いてるよ、何か有ったかい?」

 

「えへへ、今晩は。リーンハルト君」

 

「お休み中、失礼します」

 

 扉を開けて入って来たのはイルメラとウィンディアだが、真っ白な夜着に大きな枕を抱えている。

 後ろ手に扉を閉めて僕の前に並んで立つ、頬が少し赤いのは見間違いじゃないだろう。いや、冷静に状況を把握するなって!

 

「どどど、どうした?枕なんか持って?」

 

 いや、どうしたも何も一緒に寝ようって事だよな?二人一緒に三人で、三人でか?

 

「今夜はリーンハルト君と一緒に寝たいんだもん!」

 

「私達も構って欲しいのです、ご迷惑でしょうか?」

 

 二人一緒に上目遣いで見上げられると僕の心の中の何かがガラガラと崩れるのを感じた、イルメラのお願いの仕草とウィンディアの『もん』は破壊力が抜群だ!

 

「いや、迷惑じゃないぞ」

 

「「有り難う御座います!」」

 

 イルメラが右腕をウィンディアが左腕に抱き付いて、そのままベッドに倒れ込む。三人でも十分な広さが有るベッドに川の字に横になる、二人は抱えた腕に更に強く抱き締めるから……その、柔らかい何かがだな?

 

「私達、心配だよ。また二ヶ月間もデスバレーでドラゴン討伐なんて……」

 

「王様からの信頼が厚いのは喜ぶべき事ですが、不安なのです」

 

 不味い、王命にして貰ったが本当は僕から願い出た事なんだ。情けない、正直に言えない小心者だな。二人の匂いを目一杯吸い込んで気持ちを奮い起たせる!

 

「あの、クンクンと匂いを嗅がれるのは嬉しいけど恥ずかしいです」

 

「うふふ、リーンハルト君は私達の匂いが大好きなエッチさんだよね」

 

「そうだよ、僕はイルメラとウィンディアと一ヶ月も離れると駄目な情けない男なんだ。だからドラゴン討伐が成功するように匂いを一杯嗅いでおかないと駄目だ」

 

 イルメラの恥じらい、ウィンディアの可愛い挑発のせいだろうか?素直に甘えられる。左右から抱き付く彼女達の匂いを嗅ぐ為に忙しく鼻を押し付ける、この異常な性癖を教えたのは二人だけだ。

 周囲からは英雄とか持ち上げられて幻想を崩さない様に振る舞っているが、本当は疲れていたのかな?本心を曝け出す事の解放感の素晴らしさ!

 

「うふふ、甘えん坊さんなんですね」

 

「ちょ、駄目だよ。首筋を舐めるのは駄目じゃないけど駄目なんだもん!」

 

 イルメラが優しく頭を撫でてくれるし、ウィンディアも言葉では駄目だって言うけど舐め易い様に首筋を押し付けて来る。

 何だかんだ言っても甘やかしてくれる二人に、僕は本心から依存しているんだな。

 

「ああ、心が満たされるってこう言う事なんだな……」

 

「リーンハルト様!」

 

「リーンハルト君!」

 

「僕はね、この幸せを壊そうとする奴等を許さない。でも未だ力が足りないんだ、だからドラゴン狩りをする。力を付けて障害を叩き潰す、だから二ヶ月間我慢してくれ」

 

 ウルム王国やバーリンゲン王国との二方面戦争とか詳細は教えられない、でも思いは伝えたい。結婚迄は清い関係と決めていたが……

 キス迄ならOKと自分ルールを追加する、何事も例外とか特例とか逃げ道は有るのだ。

 


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