古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第397話

 アウレール王とリズリット王妃との謁見は色々と悩ましい話になってしまった、臣下の僕を別荘に招くなど畏れ多い事だ。

 しかも婚約者のジゼル嬢と側室のアーシャも同じく招かれた、これも異例だよな。従来貴族とはいえ男爵令嬢達がアウレール王に招かれる、同行出来るのは女性陣の専属メイド一人ずつだけだ。

 

 余りの内容に暫し思考が固まり解きほぐす為に水差しからコップに水を注ぎ一気に飲む、冷たい水が喉を通ると少し気持ちが落ち着いた。

 アウレール王はニヤニヤしリズリット王妃も微笑んでいる、僕が動揺するのが楽しいのか?

 

「我が側室と婚約者まで招いて頂き有り難う御座います、ですが三人も長期滞在させて頂き宜しいのでしょうか?」

 

 国王に賓客扱いなど一泊でも畏れ多いのに二ヶ月近くだぞ!

 

「構わんぞ、ドラゴン討伐なら影響力も利益も大きい。逆に困難な事を命じたのにフォローが無い方が問題だ、待遇の悪さは引き抜きの材料にされる。

お前に来る婚姻外交は100%引き抜きだ、だから相手は容姿も性格も最上級の女達を用意してくる。流石に奥手のお前でも、会ってしまえば気持ちが揺らぐぞ」

 

「殿方の気を引く術を叩き込まれている淑女達です、会話や仕草一つで異性を陥落させるのですよ。だから我が夫は会わせる前に全て断ったのです」

 

 む、それは僕が相手の魅力に負けて捕まると思われたのか?確かに転生前はそんな女性ばかりを相手にしていた、だから強かさやあざとさを見付けてしまうと萎えるんだ。

 素の状態の魅力を感じなければ美しいだけの女性など芸術品と変わらない、見て楽しみ手は出さない。婚姻外交を何度も経験して嫌気がさしてる僕の方が変なのかな?

 

「お気遣い有り難う御座います、アウレール王が断って下さったのなら僕も同じく断ります。

会ってから断れば先方の面子を潰しますし、立場故に会わずに断りますとすれば双方角が立たないでしょう」

 

 あの媚びを含んだ視線や仕草は嫌なんだ、実際に子供を作れなかったので出来るまで頑張って下さい的な気持ちもガンガン押し付けられたし……

 

「お前、本当に嫌なんだな。普通は美女が貰えるなら喜ぶんだがな」

 

「申し訳ないです」

 

 深々と頭を下げる、何を言っても言い訳にしかならない。国王からの報酬に要らない物が有ると言ったんだ、普通は黙って有り難く頂くんだ。

 

「この話は此処までにしましょう、本題ですがデスバレーは広大ですが出入口は限られます。

険しい山々に囲まれ危険生物が徘徊する場所に好き好んで行くのは、ドラゴンを倒せる者だけですから隔離するのは難しくないでしょう」

 

 む、急に話題を変えられたがリズリット王妃の本題とは何だ?確かにデスバレーは広大で安全に出入り出来る場所は限られている。

 つまり僕の為にデスバレーを隔離し閉鎖してくれる……閉鎖?ドラゴン討伐を他の誰にも見せない為にか?ああ、そうか!

 

「閉鎖して頂けるなら、ドラゴン討伐と並行して魔力砲の研究も行いましょう。既にミニチュア版の魔力砲は完成しています、実用化に向けて試し射ちが何度かしたかったのです」

 

 そう言って空間創造から試作品を取り出して円卓の上に置く。

 

「長さ30cm、直径10mmの穴を開けた肉厚5mmの縮小した筒に見立てました。射撃兵器なのでクロスボゥに組み込み照準をしやすくした物です」

 

「これが魔力砲の縮小した試作品ですか?このサイズでは大した威力は無いのでは?」

 

 試作品を手に取り色々と確認しているが、魔力石さえ反応させなければ安全だ。幸いリズリット王妃には魔力は全くないので誤射の心配も無い。

 アウレール王も彼女の手元に有る試作品を興味深そうに見詰めている、やはりマゼンダ王国と軍事協力が有り共同開発的な物だったのか……

 

「近距離ならば僕の自慢のゴーレムの装甲を凹ませる程の威力が有ります、ですが命中精度が悪いので鉄球でなく弓矢の形状にする等の実験がしたかったのです」

 

「お前のゴーレムを凹ませるなら普通の鎧兜では簡単に貫通するな、初見殺しの武器としては有効だが正規兵の装備じゃない」

 

 歴史や格式、面子や世間体を考えると微妙な武器だと思う。攻城や軍艦相手になら良いが、人間を相手にするとなると卑怯と取られ兼ねない。

 同じ遠距離攻撃のロングボゥやクロスボゥ等は扱う技量と鍛練が必要になるが、これは鍛練を必要としない。これで負けた方は戦いを愚弄した卑怯者だとか言い出すだろうな。

 

「暗殺兵器、暗器と呼ばれる仕込み武器に相当するでしょう。僕も同じ様に考えました、攻城か軍艦相手に大型の魔力砲で攻撃するなら問題は無いかと思います。

ですが騎士達の様に個人の技量を必要とする戦いには不向きです、これは雑兵が単独で騎士団員を倒してしまう危険性が有りますから……」

 

 有効なのは分かるが使えない、だが応用は出来るから使えない技術じゃない。屋敷を守る罠には使える、そもそも罠の内容は秘密だし掛かる奴は盗人か敵だから構わない。

 

「ゴーレムマスター、お前には苦労ばかり掛けて悪いと思っている。何か希望が有るなら叶えるぞ」

 

「いえ、十分に報われていますので不要です」

 

 これ以上の厚遇は周囲から要らぬ嫉妬を受ける、地盤の固まらない僕には嫉妬による嫌がらせや敵対は辛いんだ。

 

「お前ならそう言うと思ったぞ、まぁ婚前旅行と思って夜は楽しめや」

 

「早くお世継ぎを作るのも貴族として必要な事ですわ」

 

 夫婦で笑っていますが、王と王妃という貴方達の影響力を少しは考えて貰えると助かります。それにジゼル嬢と婚前交渉はしません、対外的には、もうヤッちゃった認定になるかもだがケジメがですね……

 

 詳細については代官を待機させていたので擦り合わせる事にした、その日の午後にアウレール王の名前で僕がデスバレーのドラゴン討伐を受けた事も王の別荘に滞在する事を含めて正式に発表される。

 名目はエムデン王国内に詳細が知られてない危険な大型モンスターを放置出来ないので、調査及び討伐をって事らしい。王命を正式に公表してくれるので、周りも騒がしいが無理は言わないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 出発は三日後に決まったが、その前にやる事は多い。デオドラ男爵にはエムデン王国から正式な通達が出る、愛娘を二ヶ月近くも王都から出すんだ。

 いくら婚約者同伴と言っても常識的には良くないのだが、アウレール王が招いてくれたのでギリギリOKだと思いたい。

 後はお茶会の約束をしているローゼンクロス領の隣接領主の二家、はマーヴィン領主のネクス・マーヴィン・フォン・ガルネク伯爵と奥方のリンディ嬢。

 ラベルグ領主のジルベルト・ラベルグ・フォン・ベルリッツ伯爵と娘のヒルダ嬢との約束だが……

 

 両家を訪ねる暇が無いので新しく手に入れた屋敷に招待する事にする、リンディ嬢とヒルダ嬢が色々と計画していた筈だが二ヶ月以上先伸ばしには出来ない。

 約束は早目に済ませたいが急な招きに応じてくれるかは分からない、招待状を送り返事を待つ事になるな。

 

 執務室に戻ると未だザスキア公爵がソファーで呑気に寛いでいる、今回はオリビアが対応しているのは彼女がお気に入りなのか?

 

「お帰りなさい、話し合いはどうだったの?」

 

「ドラゴン討伐中はアウレール王の別荘に賓客扱いで滞在する事になりました、主に虫除けと監視の為にでしょうね。ですが国王の別荘になら突撃して来る連中は少ないでしょうから助かるのかな?」

 

 マーヴィン領主のガルネク伯爵とラベルグ領主のベルリッツ伯爵に詫び状と招待状を書く為に執務机に座る、引き出しから便箋と封筒を取り出しながら文面を考える。

 

「あらあら、アウレール王も思い切ったわね。忠臣とはいえ自分の別荘に長期滞在を許すとか普通は有り得ないわよ」

 

「僕もそう思いましたが最初がリズリット王妃の別荘に滞在、次が王家所有の別荘を贈るでしたので諦めました」

 

 インク瓶の蓋を開けて羽ペンの先をインクに浸す、リンディ嬢とヒルダ嬢の準備を無駄にしてしまうし……何て書くかな?

 

「その手紙は誰宛かしら?」

 

「ガルネク伯爵とベルリッツ伯爵です、領地の隣接領主ですがお茶会に誘われてまして。三日後に王都を発つので先に自宅に招こうと思います、その詫び状と招待状です」

 

 二ヶ月滞在となるが中間で一度王都に戻ろうと思う、イルメラやウィンディアに一ヶ月以上も会えないのは嫌だ。それに長期に屋敷を留守にするのも問題だ、手紙のやり取りだけでは終わらないだろう。

 今回のドラゴン討伐には私情も入っている、レベルアップを望んだ事の半分は戦争に勝つ為にじゃない。今考えれば資金集めと自己鍛練欲、それにストレス発散にデスバレーの秘密に迫る知的探求心と俗物な欲望が殆どだ。

 

「私もビクトリアル湖にバカンスに行くから一緒に行きましょう」

 

「ははは、僕もジゼルとアーシャを同行させますし、色々と邪推されますから止めましょう」

 

 婚約者と側室を同行させての移動にザスキア公爵も一緒に行動する、少しじゃないくらいヤバいから無しだ!

 

「あら、そう?残念ね、なら現地で別荘に遊びに行くわ」

 

 良い笑顔だが、公爵本人だから王家所有の別荘にも問題無く訪ねる事は出来るよな。しかも友好関係を結んでいる相手なら余計に訪問を断れない。

 

「そうですね、夜は空いてますし週一で休みを設ける予定です。歓迎しますが僕もお客なので……」

 

「大丈夫よ、話は通しておくから安心なさいな」

 

 苦笑いで返事はしない、その辺りの事は彼女なら問題無く処理するだろう。そして他の公爵家、ニーレンス公爵とローラン公爵も訪ねて来る。

 いや、親書を送り状況を報告しておくか。午後にはアウレール王が公式発表するから、少なくともその前には連絡するのがマナーだ。序でにザスキア公爵も遊びに来る予定ですと書いておこう、後は返信で自分達も訪ねるとなるだろう。

 

 新たに三通の親書を書く為に封筒と便箋を用意する、この配慮が大切でバセット公爵にも書くが内容は前の二人とは変える。

 此方は現状報告だけでアウレール王の別荘に滞在するので気を使いますと書く、賓客扱いでの滞在だから訪ねるのは控えてねって意味だ。

 他の公爵三家とは扱い方を変えるが礼を失う対応はしない、バセット公爵との関係は中立であり……それだけだ。

 

 一時間位かけて親書を書き上げた、その間もザスキア公爵はイーリンとオリビアとで雑談し盛り上がっている。一応仕えし主は仕事中なのだが……

 

「イーリン、親書をニーレンス公爵とローラン公爵、それとバセット公爵に届けてくれ」

 

「はい、畏まりました」

 

 親書三通を受け取り控え室に下がった、後は関係者であるハンナとロッテ、それにセシリアに渡すのだろう。

 両手を上に伸ばし凝った身体を解す、夕方はデオドラ男爵家に寄って方針変更の報告だ。大人数を用意したが賓客扱いで招かれたから同行する使用人は専属侍女の二人だけ、王家から招待状が行く手筈だから驚くだろうな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 完成した魔導書四冊を渡す為に魔術師ギルド本部に向かう、既に連絡済みだがアウレール王の発表も終わったので色々と考えているだろう。来訪の目的は伝えてあるが、明日から二日は準備期間で休みを貰っている。

 非常招集をして顔合わせ兼技術指導は必要だな、一日潰して指導するか……

 

 大体の方針を固めていると魔術師ギルド本部に到着、裏側に回り要人用の馬車停めに向かう。前回と同様に既に八人の職員が待機していた、笑顔で並んでいる職員に違和感を感じる。

 愛想の良い魔術師ってやはり変な感じがする、僕は良くも悪くも魔術師ギルド本部にとって重要だから扱いも大変だな。

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様」

 

 レニコーン殿とリネージュさんが二人揃って笑顔で出迎えてくれて、挨拶に合わせて後ろの職員達も頭を下げてくれる。

 

「急に予定が入ったので今後の予定の相談に来ました」

 

 魔術師ギルド本部にとっても悪い話じゃない、猶予は明日しかないが午後一には全員集めて顔合わせとレジストストーン作成の技術指導がしたい。

 急な事になるが、何とか対応して貰おう。駄目ならドラゴン討伐から帰った後になるのかな……

 


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