古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第394話

 侍女のウーノにリズリット王妃への面会を求めた、アウレール王に会いたいのだが宮廷魔術師第二席の僕でも直接的に面会を求めるのは不可能だ。

 謁見の間では可能だが他に人が居て密談は出来ない、アウレール王から呼び出して貰うのが一番良い。リズリット王妃が駄目ならサリアリス様にお願いする、この二人しか伝手が無い。

 

 謁見の目的は二つ、一つ目は下級魔力石を使ったゴーレムポーンの大量運用についての説明。

 二つ目はウルム王国の戦争の前にレベルを上げたいので、デスバレーでドラゴン狩りをする許可。

 

 現状レベル42だが、出来ればレベル50まで上げたい。短期間でレベルを上げるなら単独でのドラゴン狩りが有効だが、無理ならパーティで魔法迷宮バンクに多目に挑む。

 

 バーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様とウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様の結婚式は三ヶ月後、エムデン王国に戦争を仕掛けるならその後になる。

 婚姻外交で結束し、バンチェッタ王を廃し王位を奪いバーリンゲン王国と連携して攻める。それが旧コトプス帝国の描いている未来予想図だと思う、それならば十分にエムデン王国に勝てる可能性が高い。

 

 だからバーリンゲン王国を一蹴して黙らせる必要が有る、近隣諸国で最大戦力を擁するエムデン王国だが、二方面作戦は無理だ。

 短期決戦で一発殴って黙らせる必要が有る、本来なら良くない外交戦術だ。だがバーリンゲン王国領内にガチで侵攻すれば泥沼に嵌まる。

 流石にバーリンゲン王国の首都まで侵攻し完全に負かすのは無理、そんな戦力も時間も無い。やるならウルム王国を滅ぼした後に戦力を纏め直して戦う、それでも三国を纏めるだけの戦力が無いから近隣諸国から攻め込まれる。

 漁夫の利じゃないが国益を考えれば可能性は低くない、その為にアウレール王も近隣諸国に外交で話を通すと思う。その効力を高める為にも初戦で大勝し、エムデン王国の力を見せ付け手を出したら火傷じゃ済まないと知らしめる必要が有る。

 

 現状、王立錬金術研究所の所員達にレジストストーンを作成する為と言って下級魔力石を大量に集めている。

 戦争するなら出来るだけ集めて準備をしておきたい、今は約1800個まで増やしたが未だ足りない。

 出来れば3000個、余裕が有れば5000個まで増やしたいが猶予は三ヶ月、一ヶ月で1000個、一日33個のノルマなら魔力的には大丈夫だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 リズリット王妃同伴でアウレール王に謁見出来る段取りになった、護衛と参謀役でサリアリス様にも同席して貰う。

 そして防諜対策の講じられた謁見室での謁見だが、秘密でなく公表されている。これは僕とアウレール王の関係が蜜月な事を意味する、警戒されてたら謁見室で会ってくれない。

 

 僕は入念なボディチェックの後で謁見室に通された、魔法が使えて空間創造のギフト持ちなのだが慣例って奴なのだろう。

 だが未だ座る事は許されず扉の前で直立して待つ、背後には近衛騎士団員が見張り兼警備で二人が立哨している。

 

 本日の謁見は対外的には結婚式への出席の確認と、他国から寄せられた婚姻外交の件で呼ばれた事になっている。アウレール王が断ったが、一応僕の意見も聞く名目だ。

 

 結果、僕に対する婚姻外交については全てアウレール王に任せる事になる。これで直接僕に話を持って来る事が不可能になった、もし来てもアウレール王に話を通して下さいと言える。

 

「よう!待たせたな」

 

 謁見室にアウレール王を先頭にリズリット王妃とサリアリス様が入って来た、護衛の近衛騎士団員も部屋の外に出したので防諜は万全。

 僕もサリアリス様も探査魔法を使い更に確認をする、これでアウレール王が呼ばない限り誰も謁見室に近付いて来ない。

 

「急な謁見のお願いを聞いて頂き、有り難う御座います」

 

 貴族的礼節に則って一礼する、アウレール王は構わないと軽く手を振ってくれて着席を促した。

 先に三人が座るのを確認して自分も座る、円卓が用意されていたので正面がアウレール王、右側がリズリット王妃で左側がサリアリス様が座った。

 

「急な謁見要求だな、人払いまで必要とはどうした?」

 

「リーンハルトや、何か困った事か?アウレール王に話すとなれば相当な難題じゃな?」

 

「例の魔力砲の件でしょうか?もし無理なら……」

 

 女性陣二人から心配されてしまった、確かに国王に直接話したい事など普通は良い事ではないと考えるよな。

 用意されていた水差しからグラスに水を注ぎ一口飲む、知らず知らずの内に緊張して喉が渇いていたみたいだ。冷たい水が美味しい……

 

「ザスキア公爵からバーリンゲン王国の第五王女オルフェイス様とウルム王国のシュトーム公爵の長男レンジュ様の婚姻外交が決まった件を聞きました。

状況次第ではウルム王国とバーリンゲン王国の二国と開戦する可能性が高い、そう自分なりに予測しました」

 

 謁見を求めて、いきなり近隣二国と戦争になる可能性が有ると言い出した事に頷くも不思議そうだ。その程度なら誰でも気付く、改めて話す内容ではない。

 

「そうだな、俺も猶予は四ヶ月から半年以内と考えている」

 

「あの会談の後からバンチェッタ王は疑心暗鬼になって病気がちと聞く。暗殺か病気による引退、どちらかだろうな」

 

「リーンハルトや、お主が心配せずとも我々で対策を考えておる。だから安心して良いんじゃぞ」

 

 やはり生暖かい目で見られた、サリアリス様なんて心配しなくても大丈夫だと言って頭を撫でてくれるし……

 アウレール王もリズリット王妃も優しい目で僕等を見ている、凄く居たたまれない感じだぞ。一応周りから認められる実績は作った筈なんだが子供扱い?

 

「いえ、そのですね。状況については確認の意味で、対策は当然されていると思いました。僕が謁見を申し込んでまで言いたいのは、対策の条件についてです」

 

「条件?何だ、言ってみろ」

 

 漸く話し合いの雰囲気になった。今までは心配し過ぎな子供を宥める祖母と、それを見守る上司夫婦みたいだったし。

 

「土属性魔術師は錬金に特化しゴーレムを操ります、通常はリアルタイムでラインを繋ぎ自身の魔力を消費しながら操作します。

ですが事前に下級魔力石に魔力と魔力構成を仕込んでおけば、起動する時だけ僅かな魔力を消費すれば簡単な自立行動が可能なのです」

 

 この言葉に全員が黙ってしまった、言われた言葉の意味が飲み込めないのだろう。もう少し砕いた話をしないと駄目かな?

 

「下級魔力石に仕込みをしておけば、数さえ揃えればゴーレム軍団を用意出来ます。目の前の敵を倒せとか簡単な命令しか出来ませんが、一千体単位で運用出来ます」

 

「ゴーレムマスター、それはお前の空間創造のギフトと合わせれば目の前に一千体規模のゴーレム軍団を即座に用意出来る。そう解釈して良いな?」

 

「はい、仕込みを済ませた下級魔力石は約1800個です。現在下級魔力石を集めていますので四ヶ月の猶予が有れば合計5000個は用意出来ます」

 

 全員が深い溜め息を吐いた、だが自分の執務室や屋敷に半自立行動型ゴーレムを配置してるから不可能とは思われないよな?

 居たたまれないのでグラスの水を飲み干す、アウレール王は眼を瞑り腕を組んで上を向いて考え始めてしまった。リズリット王妃は笑っているし、サリアリス様は僕の頭を撫でている。

 

「お主の錬金術の応用には驚かされっ放しじゃな。確かに執務室の自立行動型ゴーレムを見れば可能だが、創意工夫と技術力が凄いの」

 

「全くですわ、これで二方面作戦が可能となりましたわね。主力をウルム王国に向けて、連携して攻めてくるバーリンゲン王国にも対応出来ます」

 

 サリアリス様とリズリット王妃は僕の考えていた二方面作戦が可能と判断した、細かい作戦は任せるが開戦場所さえ誘導出来れば何とかなる筈だ。

 だが万全を期すにはレベルアップが必須だ、果たしてデスバレーに行ってドラゴン狩りを許可してくれるかな?

 

「幾つか質問するから答えろ、ゴーレムの最大運用数と強さは?」

 

「最大運用数は自身のレベルに比例するので現状で3000体、レベル50になれば5000体、強さはレベル20相当です」

 

「制御範囲と運用時間は?」

 

「一度命令すれば制御範囲は無いのですが、再度命令するなら制御範囲は1km圏内。運用時間は全力で戦闘を行うとなると約1日、壊れたら行動不能となり補修は出来ません」

 

「この事を知っているのは?」

 

「ザスキア公爵だけですが口止めはしています」

 

 この質問も最後に又考え始めてしまった、アウレール王の考えを妨げない様に全員が黙り込んでしまった。重たい雰囲気になったが、話題を振って会話する訳にもいかない。

 三分か五分か?漸く考えが纏まったのか組んでいた腕を解いて自ら水差しからグラスに水を注いで飲み干した。

 

「レベル50で5000体、間違いはないな?」

 

「はい、ですが短期間でレベルアップするには効率的に行動しなければなりません。是非ともデスバレーでのドラゴン狩りの許可を下さい」

 

「デスバレーでドラゴン狩り?確かに効率的だが普通なら狂気の沙汰だな、お前にとってはドラゴンも経験値と資金にしかならないのか……」

 

 渋い顔だな、やはり宮廷魔術師第二席の役職に就いているから無理か?ならば週三日は魔法迷宮バンクの最下層を攻略するか?

 

「仮にレベル50まで上げるとして何日欲しい?」

 

「往復の日程を含めても最低二ヶ月は必要かと思います」

 

「二ヶ月か、だが5000体の運用が可能ならば作戦の幅が広がる。3000体でも問題は無いが、余裕は持ちたい。お前が王都から離れるとなると国民達が不安になる、それが問題だ」

 

「ゴーレムマスター殿は巷で『王国の守護者』と噂されています、貴方が王都を離れる事は想像以上に周囲を不安にさせるのです」

 

 その恥ずかしい呼び方は止めて欲しい、エムデン王国の『最強の剣』って呼び方も恥ずかしかったのに更に酷い。

 

 近衛騎士団や聖騎士団、常備軍だって不快になるだろう。彼等だって国を護る為に日々努力している、ポッと出の子供に良い感情は持たない。

 だが転生してエムデン王国に生まれたが、僕はこの国が好きだ。イルメラやウィンディア、それにサリアリス様やアウレール王も好きだ。ならば護る事に妥協は必要無い、過去の力を取り戻すんだ!

 

「ですが力不足なのです、未だ全然足りないのです。今回の件が予想通りなら、前回の小競り合いと違い本格的な戦争になります」

 

「ジウ大将軍との戦いが小競り合い?お前の考えている戦争とは……

リーンハルトよ、お前は俺が考えている以上に戦争って奴を理解しているな?良かろう、結婚式に向かう半月前迄に戻って来い」

 

「デスバレー周辺はエムデン王国の直轄地、最大限のフォローをしましょう。対外的にも話を広めます、ドラゴンスレイヤーのリーンハルト殿がデスバレーの秘密に挑む。

さぞや周りも慌てるでしょう、これ以上強くなられては対処に困るのですから」

 

「留守の間は儂に任せるが良い、宮廷魔術師団員は鍛え直しておくぞ」

 

「有り難う御座います、細かい内容は調整して報告致します」

 

 一番の難関は突破した、次はジゼル嬢に相談して周りの人達の説得だ。アーシャは悲しむだろうし、デオドラ男爵は参加したがるだろう。

 イルメラやウィンディアにも説明し了解を得る必要が有る、バーレイ伯爵家の当主が二ヶ月も留守にするからな。だが片道一週間も掛からない、近くのパレモの街かワーズ村に拠点を作るのも良いな。

 久し振りに『陽炎(かげろう)の栄光亭』のマダムの手料理、ワイバーン肉のステーキとか食べたい。

 

「妙にニコニコしやがって、お前ってアレだよな?自己鍛練とか魔術の研鑽とか自分を苛めるのが好きだな。ザスキアに捕まるなよ、有る意味お似合いだが俺が困るから駄目だ」

 

 ザスキア公爵に捕まる?有る意味お似合い?何だろう、不吉なワードが幾つか有ったが彼女の年下好きは擬態なのに……

 

「良く分かりました、肝に銘じておきます」

 

 それはザスキア公爵の作戦だが擬態なので否定せずに頭を下げる、彼女の情報操作は凄い。だがこれでレベルアップの道筋が出来たな。

 


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