古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第388話

 バーナム伯爵の舞踏会(武闘会)にザスキア公爵をパートナーとして出席した、彼女は前々からバーナム伯爵達の武闘会に興味が有ったとの事だ。

 表向きは僕と彼等との模擬戦を見てみたい、裏はバーナム伯爵の派閥の取り込みだが更に裏に何か有る。その何かは僕には分からない……

 

 先ずは主賓とパートナーの僕達は、ホストであるバーナム伯爵と養女のエロール嬢に主要な派閥構成員の紹介と挨拶を交わすのが通常の流れだ。

 その後に本来なら無い筈の模擬戦が有り、落ち着いてから舞踏会の始まりである方舞を踊る。最初から模擬戦は有り得ない、身内の集いでなく爵位が上の相手を招いたのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「改めて紹介する必要も無いが、聖騎士団のライル団長とデオドラ男爵だ。俺の派閥のNo.2とNo.3だな、No.4はリーンハルト殿だ」

 

 略し過ぎに気を使って下さい、僕の胃が痛いんですよ。本人達は『今更だよな』『本当ね』とか言って笑っているが、誰が見てるか分からないんですよ。

 難癖を付ける事も可能なんですよ、流石は脳筋連中だけあり貴族の常識を知らず相応しくないとか……

 

 そして三人共に完全武装している、最初から舞踏会じゃなく武闘会のつもりだ。幾ら着替えは用意してるとはいえ、全身鎧兜を着込んでの参加は普通に考えたらおかしい。

 

「貴女がジゼルさんね」

 

「はい、ザスキア公爵様。宜しくお願い致します」

 

 丁寧に頭を下げる所作は良かったが挨拶が少し変だった、初対面なのに何故最初から宜しくお願いします何だ?お初にお目にかかりますじゃないかな?

 

 デオドラ男爵の脇に立つジゼル嬢が余所行きの笑みを張り付けている、バーナム伯爵の隣に立つエロール嬢は少し困惑気味だ。

 前者は僕を見ず、後者はチラチラと視線を寄越す。ジゼル嬢が僕を見ないのは、頼る弱さを相手に見せない為だと思う。後者は不安で仕方ないので何とかして欲しいか?

 

「ジゼルさんとは一度ゆっくり話したかったのよ、今度私の屋敷のお茶会にリーンハルト様と一緒に来なさいな」

 

 公爵家に呼ばれた舞踏会には全てアーシャを伴って行った、僕と結婚する迄はジゼル嬢の立場は弱いから。

 

「有り難う御座います、是非とも参加させて頂きますわ」

 

 うわぁ、笑顔の応酬だがジゼル嬢はギフトである『人物鑑定』を発動している。ザスキア公爵には感知出来ないから良いけど、心を読んでるなど不敬でしかないから冷や汗が止まらない。

 

「うふふ、楽しみだわ。リーンハルト様が本妻にと固執する、貴方の魅力の秘密が分かるかしら?」

 

「私も他の公爵の方々を差し置いて優先されている、ザスキア公爵様の魅力を少しでも教わりたいと思っております」

 

 美女と美少女の会話なのに、内容も互いを尊重しているのに、僕の胃がキリキリと痛い。ストレスに弱いと思われたくないので何とか平常心を保つ、少なくとも顔をしかめたり腹を押さえたりはしない。

 

「もう挨拶は終わりで良いよな?では模擬戦を始めるぞ、今回は会場を広く整備したから手加減や遠慮は不要だぞ」

 

「バーナム伯爵よ、リーンハルト殿に手加減無用って言うと本当に何もさせて貰えずストレスが溜まる。だから魅せる模擬戦をしろと言った方が良いぞ」

 

 防戦一方で何もさせて貰えなかったぞって、笑いながら言わないで下さい。バーナム伯爵とライル団長の目付きが変わった、ギラギラと血走るのは獣の眼差しと同じだ。

 だが話題を変えてくれた事には感謝する、でも女性陣の仲を取り持つより戦っている方が楽とか思われたくはないな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 完全武装で既にロングソードを鞘から抜いた状態のバーナム伯爵が、首だけ回し模擬戦会場を見る。前回は無かったから、あの後に整備したんだな。

 

「どうだ?噴水と花壇を潰して広さを倍にしたんだ、これで思いっ切り戦えるぞ!」

 

「どうだと言われましても……」

 

 あの見事な彫刻の施された大理石の噴水と、それを取り囲んで四季の花を楽しませてくれた花壇が無くなり赤土が剥き出しの広場が出来ている。

 広さは100m四方だから観戦には不向きかな、防御用の冊も有り観戦席は二階の高さに設えてある。

 

 剥き出しの地面では小石等も多く激しく動く模擬戦での怪我の元なのだが、乾燥する季節は土埃で大変だな……

 

「くはっ!くははっ、楽しいぞ。あのハイゼルン砦を落とし、ジウ大将軍を負かせた相手と戦えるとはな」

 

「派閥上位者は常に力を見せなければならない、それがバーナム伯爵の派閥のルール。そのルールに則った模擬戦です、手加減は不要。本気で行きます」

 

 周囲にも分かる様に建前をブチ上げる、派閥下位者やその家族から不満が漏れているらしい。新参者の未成年で戦士じゃなく魔術師、反発する理由には困らない。

 

「当然だ!お前は俺等三人と互角に戦える稀有な存在、つまらねぇ配慮は無しだ」

 

 バーナム伯爵から今迄に感じた事の無い殺気が噴出する、木々の中に居た小鳥達が一斉に逃げ出す。これは本気で掛からないと危険だな、戦いに関してバーナム伯爵はデオドラ男爵より我慢と欲望に弱いと見た!

 

「先手必勝!『多重隔壁圧壊』錬金とは応用性と独創性が全てなのです」

 

 バーナム伯爵の四方に地面から高さ20m幅6mの角柱を地面から高速で生やす、その二辺を挟む様に動かし圧殺する。

 動ける範囲は6m四方、大技の予備動作には狭いだろう。固定化を掛けた硬い角柱は壊し辛い、逃げ道は上しかないぞ。

 

「舐めるなよ!」

 

 多分だが角柱を蹴る反動で上に登ったのだろう、一瞬で判断して行動するのは流石だ。でも過去の武人達も同じ行動をした、『多重隔壁圧壊』の目的は対象者を上に登らせる事だ。

 

 錬金した角柱を魔素に還すと、バーナム伯爵が地上20mに浮いている。障害物は何も無く煌めく魔素が視界を奪う、だが僕は正確に相手の位置を把握している。

 

「アイアンランス、乱れ射ち!」

 

 カッカラを空間創造から取り出し頭上で一回転させてからバーナム伯爵に突き出す、自分の周囲に浮かべた先端を丸めたアイアンランスは百本。

 それを重量に従い落下するバーナム伯爵に向けて、一斉に射ち出す!

 

「動きを制限したつもりか?だが甘いぞ。剣激一閃、乱れ切り!」

 

 ロングソードを振り回すと衝撃波が飛んで来た、想定の内だがアイアンランスを弾きながら僕に向かって来る。

 

「魔法障壁全開!」

 

 体捌きで避けられる技量は無いから防御するしか無い、五つの衝撃波だが当たるのは一つ。残りはアイアンランスを弾く為に放ったのだろう、だが二陣も射てるんだ!

 

 魔法障壁で防御する、バーナム伯爵は自由落下で真下に落ちたが難なく着陸したぞ。軽く膝を曲げただけで落下の衝撃を緩和出来るのか?

 

『曲刀乱舞!(きょくとうらんぶ)』

 

 過去に曲がった刀を投げると回転しながら弓なりに対象に飛んで行く剣技を見た事が有り模倣した、アイアンランスは直線で点だがコレは曲線で線の攻撃だ!

 ランダムな軌道で飛んで来る三十本の曲刀を捌き切れますか?

 

「ぬ、新技か!」

 

「畜生、俺が最初に対応したかった!」

 

 デオドラ男爵とライル団長が大声で反応した、あの二人は一度見せた攻撃方法に対応してくるから最初に仕掛けられた時がワクワクするとか言ってた。

 

「避けられないか、絶対防御『硬身変化(こうしんへんげ)』耐えてみせる!」

 

 え?ちょ、仁王立ちして何してるんですか!

 

 信じたくないが、バーナム伯爵は『曲刀乱舞』を避けずに受けた……回転しながら襲う曲刀が全弾当たる、身に纏う鎧兜に食い込んだ曲刀。

 だが浅い、あの深さでは皮膚で止まって身体を切り刻んでないぞ。

 

「自慢の鎧兜が傷だらけだぞ、だが俺の身体は無傷だ!」

 

 生身で三十本からの曲刀攻撃に耐えるだって?あの最後に叫んだ絶対防御と硬身変化、文字の意味を考えれば生身の身体を強化した……

 

「心臓に悪いです、ですがこの広場は既に僕の支配下です。斬撃が効かなければ圧壊はどうですか?無慈悲なる断罪の刃、山嵐!」

 

 五本を一本に纏めて強度を増した山嵐を足元から生やす。最初は単純に槍として刺殺しようと突き出し、避けられたら身体に絡み付かせる。

 自分の足元から十本の鋼の蔦が突き出して来たのに慌てず飛び下がったが、鋼の蔦は操れるのです。

 

「クソッ!右足を捕まれた」

 

 何とか右足首を掴んで引き倒そうとするが逆にロングソードで切られた、残り九本の先端を開いて四方から押し込む。

 だがロングソード一本で巧みに鋼の蔦を捌き掴ませない、この攻撃は時間の無駄か……

 

「ならば『多重隔壁圧壊』岩石に潰されろ!」

 

 前回は角柱を生やしたが、今回はバーナム伯爵の包み込む様に四方八方から岩の壁を産み出し覆い被せる。合計20tonにも及ぶ岩石を受け止められるか?

 

「ヌゥン!土塊に負けるかよ」

 

 連続打撃で岩石を殴り砕いた?馬鹿な、岩を殴って壊すなんて……

 

「貴方は人間ですか?」

 

「人間の範疇なんぞ、とっくに越えているぞ。お前も片足突っ込んでいるだろ?」

 

 ガハハッて笑うバーナム伯爵は無傷で身体に付着した泥を払っている、あれだけの攻撃を無傷で捌くとは呆れを通り越して更に呆れた。確かに人間の範疇を越えた魔神だな……

 

「いえ、違います。僕は純粋に魔術師として魔法関連は鍛えていますが、肉体は人間の範疇です。ここからはゴーレムを使います、クリエイトゴーレム!」

 

 ゴーレムナイト四十八体による三重の円殺陣を捌き切れますか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「凄いわね、アレなら正規軍を相手に一方的に勝てる訳よ。一瞬で巨大な石柱を生やすとか有り得ないわ」

 

 現代最強の土属性魔術師、最年少宮廷魔術師の実力を未だ甘くみていたわ。正規軍二千人と正面から戦っても負けないって啖呵を切ったのも納得よ、あの石柱を並べて倒すだけで敵軍は圧死する。

 曲刀乱舞って投擲攻撃も凶悪よね、接近して来る相手に射ち込めば簡単に殲滅出来るでしょう。

 

 その猛攻を捌き切るバーナム伯爵もまた、人間の範疇から逸脱した存在……

 

「リーンハルト様には未だ余裕が有ります、円殺陣は使い慣れた攻撃方法ですが包囲網も数も最大です」

 

「ゴーレム大量運用の真髄は操作と連携、あの五十体近いゴーレムを完全に操っているのが凄いわね。凄いって言葉しか出ないわ……」

 

 内列が剣と盾、中列が槍、後列が弓、全ての間合いと武器を使っての連携攻撃。倒されても外側から常に補充されているから包囲網は破られない、多対一の戦いが巧みだわ。

 

「完全に押さえ込まれたわね、バーナム伯爵に焦りが見えるわ」

 

「そろそろ包囲網を解いて最高の単騎ゴーレムを用いた戦いに変えますわ、一対一の正々堂々とした戦いに……」

 

 ジゼルさんの言う通り、大量のゴーレムが魔素に還りキラキラした粒子に広場が包まれる。自分に有利な状況も、バーナム伯爵の不興を買うから解除したのかしら?でも観客の興奮は最高潮ね。

 

「余裕なのかしら?いえ、違うわね。魅せる戦いをしろって意味が分かったわ、最初はインパクトの強い錬金術の大技、次はゴーレムマスターの本領を見せ付け、最後は正々堂々の一騎討ちね」

 

 これが戦い大好き超脳筋戦闘集団の中でNo.4だと認めさせる為の戦いね、観客達のギラギラした熱い視線にも臆する事無く飄々としている……

 

「嗚呼、やはり最高の男の子だわ」

 

 あの子を組み敷いて苛めたい、その強い光を湛える瞳を快楽に耐える瞳に変えたい。その為にはもっともっと信用と信頼が必要、あの子が私に屈する事は……今は不可能な夢物語ね。

 

 嫌だわ、身体が熱く火照ってきたわね。静めるのは大変、だって今も私を興奮させる状況を作り出しているのだから。

 

「ザスキア公爵様?」

 

「ジゼルさん、何かしら?」

 

 周囲に私が興奮してるのは分からない筈だけど、彼女が冷たい視線を私に向けてくるのは何故かしら?

 

「いえ、何でも有りませんわ。そろそろ決着が付きそうです、お互い大技の溜めに入っていますから……」

 

 うーん、自分の婚約者に熱い視線を向ける事が嫌だったのかしら?

 

 言われてリーンハルト様の周囲を見れば全長2m以上のゴーレムが一体、弓を引き絞る様な体勢になっている。対するバーナム伯爵も同じ様に構えている、もしかして同じ技を繰り出すのかしら?

 




これで2か月連続投稿は終わりです、次回は2月4日(木)の週一に戻ります。
それと読者の方から登場人物一覧の草案を貰いましたので加筆修正して本日20時に投稿します。

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