古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第387話

 ローラン公爵を初めとして、ニーレンス公爵・ザスキア公爵・バセット公爵と順次舞踏会に呼ばれた、バセット公爵を最後に変えたのはヘルクレス伯爵とウィドゥ子爵の件を重く見た結果だ。

 友好的な順番では彼等は最下位、これは仕方無い事だ。協力してくれた順番もそうだが、ザスキア公爵を最後にする訳にはいかない。

 遠回しに嫌味を言われたが蝙蝠みたいにフラフラすれば双方から嫌われる、八方美人は長期的には悪手だと思う。

 

 その間にオレーヌ嬢のお茶会&バイオリンの独奏、モリエスティ侯爵夫人のサロンにも呼ばれた。

 彼女の秘密を知るのが僕だけだからか不満や鬱憤、愚痴等を延々と僕に聞かせるんだ。相談じゃないから聞くだけで、彼女はストレスを発散させるが逆に僕には溜まる。

 

 ストレスで胃に穴が開きそうな駆引きとやり取りを終えて一段落……

 

「しない、やっと舞踏会が終わったら今夜から三連続武闘会だよ!」

 

 執務机から立ち上がり大声を出しても仕方無い筈だ、ストレスが溜まり捲りなんだ!

 

「どうしたの?急に騒いで」

 

「すみません、王宮から各公爵家の舞踏会に直行の日々だったので一言騒ぎたかったんです」

 

 全然イルメラとウィンディアと絡んでない!

 

 ここ一週間は招待先の屋敷に泊まって翌朝は王宮に直行だ、泊まらなかったのは最後のバセット公爵の所だけだ。ザスキア公爵の屋敷に泊まるのには抵抗が有ったが、特に何もされなかった。しかもザスキア公爵の場合は屋敷が改装中の為に別宅だった、それでも豪華さは他の公爵家の屋敷と変わらないって……

 そして舞踏会に誘われた後は礼状を出す、バセット公爵宛ての礼状で最後だ。礼を失わず義理は果たす、誰にも非難されない付き合い方をする。

 悪いがバセット公爵との付き合いは表面上の付き合いになるだろう、敵対せずに中立に。

 

「昨日の舞踏会は大変だったみたいね?」

 

 ザスキア公爵が苦笑を浮かべている、確かに大変だったんだよ。主にヘルクレス伯爵とシアン嬢がさ……

 泣くわ喚くわ泣き崩れるわ、幾らベランダに出ていて人目は無いとはいえ困り果てた。関係改善を目論んだんだと思うが、逆に思惑が透けて見え過ぎて引いた。

 

「流石ですね、既に昨夜の内容を知っているのですね?」

 

 呼ばれていない他家の舞踏会の出来事を翌朝に知っているのは、間者が居るか出席者を買収してるかだな。いや、どちらも有りそうで両方からの情報を擦り合わせて確認していそうだ。

 つまりあの騒ぎを誰かに見られていたのか、最悪だな。もうシアン嬢には絶対に近付かないぞ、変な噂もお断りだ。

 

「まぁね、何処の家も同じだけどメイドを買収したり内緒で二重に派閥に属する者達もいるのよ。リーンハルト様も使用人を募集してるみたいだけど、気を付けないと駄目よ?」

 

 何故最後が疑問系なんですか?

 

「有り難う御座います、王宮勅使の方からも貴族街に屋敷を持てと言われて漸く先日手に入れました。身分相応って難しいです、あとは何が足りないのか……」

 

 執務机に突っ伏す、溜め息を吐き出すと幸せも逃げると言ったのは誰だったっけ?

 

「友好的な公爵四家の中から自分だけ中立に格下げじゃ慌てるわよ、どっち付かずは問題だけどバセット公爵家を切るって凄い判断よ」

 

「皆仲良くなんて幻想か夢想家の戯言ですよ、理想的では有るが人間は三人居れば派閥が出来ますからね。僕は敵と味方の線引きには拘る方です」

 

 ハンナには悪いが向こうも警戒と出来れば排除したいのが本心だ、ならば敵対せず中立が望ましい。

 

 ニーレンス公爵もローラン公爵もお互いに協力し合う気持ちは本物だ、アーシャにまで配慮してくれる事を見れば分かる。

 ザスキア公爵は敵対したら負ける、僕に不足する物を全て持つ才媛とは仲良くしていきたい。最初は貞操の危機かと警戒したが擬態だった、だから問題は無い。

 

「優しい外見に似つかわしくない現実的な意見ね、確かに裏切り前提の相手だから距離を置くのが正解よ」

 

「何れは衝突するかもしれませんね」

 

「バニシードのお馬鹿さんと組めば楽しい事になるのに……何か仕掛けようかしら?」

 

 僕は中立論を唱えたのにザスキア公爵は排除を画策するのか?曖昧な笑みで誤魔化す、地盤の固まってない僕には公爵二家との敵対は厳しい。

 先ずは地盤の強化だな、下級官吏の取り込みだがハンナ側は微妙になった。バセット公爵の息の掛かった奴等を信用し過ぎるのは危険、ロッテの方に期待するしかない。

 

「リーンハルト様に提案、オリビアの実家にも夕食に呼ばれなさいな。無所属派の引き込みは有効よ、あの娘の父親は無所属派の中心の一人だから頑張りなさい」

 

「全てを見通されていると自分の未熟さを痛感します」

 

 全く勝てる気がしないぞ……物理的なら勝てるが、それ以外では完敗だな。

 

「オリビアを指名して専属侍女にしたなら考えていたんでしょ?あの娘は派閥関連には疎いから此方から言い出さないと分からないわよ」

 

 いえ、食べ物関係が強いからと向こうから言い出したんです。そんな思惑なんて全く有りませんでした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーナム伯爵の舞踏会ならぬ武闘会に参加するのは二回目だ、前回は派閥の御披露目の時だったな。

 訪問と同時に模擬戦に突入し、僕に不満が有る若手達と戦おうとしたら何故かデオドラ男爵とも戦った。

 

 後はエロール殿からナンバーズワンドを貰ったけど、実は過去に僕がジプシーの王の側近十人に贈った物だった。うっかり魔力刃を発動させて騒ぎとなってしまった。

 『ハンマーガイズ』のカイゼリンさんに悩みを聞いて貰ったりもした、イベントが多かった武闘会だったな……

 

 今回はザスキア公爵が僕の模擬戦を見たいとお願いされたので、バーナム伯爵と調整したんだ。

 相当ザスキア公爵を警戒していたが、僕の協力者として尽力してくれていると説得し同伴する事で参加を許可してくれた。

 まぁ彼女にも他に思惑が有る、表はバーナム伯爵の派閥と友好度を高める事、裏は分からない。

 

 デオドラ男爵とジゼル嬢にも油断するな、警戒しろと念を押された。確かに敵対すれば怖い御姉様だが、互いに利用価値を見出だしているし大丈夫だと思う。

 

「これから化け物みたいな連中と戦うのに平気なの?」

 

 馬車内で向かい側に座るザスキア公爵が、バーナム伯爵達に対して結構酷い評価を下した。

 

「慣れました。それに模擬戦の相手としては格上で破格な強さです、命の心配をせずに何度も挑めるのは素晴らしい事で感謝しています」

 

 実際は油断すれば大怪我だが、互いに配慮しながら戦えるので最悪の事態にはならない。

 

「それは凄い事よ、あの三人に挑んだ相手は殆どが負けて自信を無くして二度とは挑まない。それを練習相手として見ているなんて、流石はリーンハルト様ね」

 

 純粋な誉め言葉は嬉しいのだが内容が宜しくない、確かに練習相手としては最高だが利用してるっぽい受け止め方だぞ。

 そしてイルメラの評価とも同じだ、案外気が合うかもしれないが会わせるつもりは無い。オリビアが怯えて警戒しているんだ、何か有ったらしいのだが教えてくれないんだよな。

 

「でも良くバーナム伯爵が私の参加を許したわよね、何か条件を付けられたの?」

 

「正直に言えば大分警戒されてましたよ、僕が同伴して目を離さない事で許可を貰いました」

 

 苦笑を交えて報告する、普通は公爵本人が二つも下の伯爵の舞踏会(武闘会)には出たがらない。来たいと言われた方は警戒するのは仕方無いだろう、しかも諜報と謀略に優れた相手なら尚更だ。

 

「監視を付けられた訳ね?」

 

「その監視役が模擬戦を挑まれて目を離すんですけどね、意味は無いのかな?」

 

 クスクスと笑い合う、窓の外が見慣れた景色にかわった、そろそろバーナム伯爵の屋敷に到着するみたいだ。

 正門は解放されていて警備兵が左右に並んでいる、完全武装は八人だが、この化け物達が集まる饗宴に飛び込む馬鹿も居ないのか素通りだ。

 

「警備が厳重かと思えば弛いわね?」

 

 武の重鎮の屋敷にしては警備が弛いと思ったのか?実際にニーレンス公爵の屋敷とか警備が厳重だったよな。

 

「知ってます?来客の殆どが何かしらの武器を携えているんですよ。不審者が現れたら、それこそ全員が喜びますね」

 

 賊の捕縛とか大好物だろうな、だから殺到するだろう。そんな危険な屋敷だが敢えて侵入する価値が有るかと言えば……

 

「苦労の割には見返りが少ない、一派閥の長でも領地を持っていても伯爵ですものね。同じ伯爵ならリーンハルト様の手に入れた古い屋敷の方が価値が有りそうだわ」

 

 む、目付きが怪しいが古い屋敷に興味が有るのか?貴族院に申請許可済みで引っ越しを始める準備をするんだけど、もしかして曰く付きの屋敷の中を見たいのか?

 

「そうですね、曰く付きとパンデック殿が監視用に建てた二つの屋敷が有りますが、曰く付きの方は三百年近く前の物です。備品一つとってもアンティークなのは間違いないですよ」

 

 完全に制御下に置いてないが問題は時間だけだ、あの三冊の本は暇を見付けて全て読んだので大丈夫。魔力球に魔力を補充し少しアレンジすれば、あの屋敷は要塞化する。

 惜しむらくは少し狭いので、実際は隣の屋敷に住む事になるのかな……

 

「つまり、あの曰く付きの屋敷の中を確認出来たのね」

 

 何だろう、少し此方を伺う様に上目遣いで僕を見てるけど?

 

「ああ、そう言う事ですか!あの曰く付きの屋敷ですが土属性魔術師ならば解除可能な罠や仕掛けですよ、時間を掛ければ全て解除出来ます。未だ安全に不安が有りますが、年内には隅々まで調べられるかな」

 

 本は読んで罠や仕掛けの類いは全て分かるが、経年劣化して誤作動の可能性も有る。魔法障壁を展開出来る僕が全て確認・点検した後じゃないと他の人は危なくて招けない。

 

「遊びに行っても良いかしら?」

 

「勿論、御招待しますよ。もしかして引っ越し祝いとかって発生したりします?」

 

 凱旋祝い・出世祝い・引っ越し祝いとかは勘弁して欲しい、もう御礼状を書くの嫌だ。王宮の執務室の仕事が手紙書きだけだ、そして手紙書きは正確には仕事じゃない私事だ。

 

「貴族街に引っ越しですものね、でも近年に引っ越しした人は居ないから。因みに私は不足しがちなメイドを数人送ろうと思いますわ」

 

「使用人の雇用は間に合ってます、ザスキア公爵からのメイドを受け入れたら歯止めが利かなくなります。そろそろ屋敷に到着ですね、準備をしましょう」

 

 丁度馬車が屋敷の正面玄関前に横付けに停まった、だがバーナム伯爵本人が待ち構えているのって嫌だな。前回も玄関から中庭に連行で、ウェルカム模擬戦だったんだ。

 

「良く来たな、リーンハルト殿にザスキア公爵」

 

 僕が先に降りてからザスキア公爵に手を差し出す。貴婦人は馬車の乗り降りもエスコートが必要なのだが、色々と簡略して挨拶は不味いですって!

 

「無理を言って参加させて貰い感謝してますわ、リーンハルト様との模擬戦の観戦が楽しみで仕方無かったのです」

 

 非礼に対して微笑みを浮かべながら礼を述べる、相手は完全武装で獰猛な笑みを浮かべている。お互い派閥の長だけにドチラかが主導権を握るか牽制し合ってる?

 

「そうか、俺もリーンハルト殿と戦いたくて我慢が出来んのだ。早速要望に応えよう、今回は会場も拡張したから本気を出しても大丈夫だぞ」

 

 あっさり乗せられたよ、この戦闘狂は!

 

 模擬戦って餌に食い付くのは分かるが、仮にもエムデン王国に五人しか居ない公爵家当主をおざなりに扱う事は不味い。政治的にも色々不味い、後で不利益が発生する可能性も有る。

 

「今回はウェルカム模擬戦は駄目です、ザスキア公爵を招いた名目は舞踏会ですから先ずは……」

 

「む、そうか?楽しみは後に取っておけと言う訳だな、だが焦らし過ぎると反動はデカいぞ」

 

 貴方の相手は海千山千の魑魅魍魎が蔓延る王宮内での情報操作と謀略に長けた女傑です、先ずは非礼が無い正規な手順で持て成して下さい!

 

「ようこそいらっしゃいました。ザスキア公爵様、リーンハルト様」

 

「あら?可愛い魔術師さん。バーナム伯爵の養女のエロールさんね、此方こそ宜しくお願いするわ」

 

 タイミングを見計らいフォローしてくれたが、ザスキア公爵はエロール嬢の事も調べていたのか。若干引き気味な彼女をサポートして屋敷の中に入る。先ずは挨拶回りからだ。

 




誤字脱字報告有難う御座います。感想でも教えて貰いましたが自動で修正すると本文が変になる場合が有り修正中ですが少し時間が掛りそうです。
明日で連続投稿は終わりですが、次回は四月を目安にまた行いますので宜しくお願いします。

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