古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第385話

 メディア嬢から誘われたお茶会、そこには意外な人物が同席していた。

 

 リザレスク・ネルギス・フォン・ニーレンス、高齢の土属性魔術師。足腰が弱っているのか車椅子に乗っているが惚けてはいない、かなり強かな性格だと思う。

 エルフ族のファティ殿迄は予測したんだ、レティシアの件が有るし何かしらの嫌味を言われる事は覚悟していた。

 後はレディセンス殿が居るかと思えば違った、メディア嬢にファティ殿、それにリザレスク様の三人だけが待ち構えていたんだ。

 

「リーンハルト殿は、レティシア殿の探している人物を知っているそうだの?」

 

 不意討ちな質問に表情が固まり頬が引きつる、確かに僕はその人物を知っている。何故なら転生前の自分自身だから、レティシアは今の僕と過去のツアイツが同一人物だと知る唯一の存在だ。

 

「はい、知っていました。ですがレティシア殿の許可無く、他人に話す事は出来ません」

 

 知っていたと含みを持たせる、つまり過去に知っていて既に別れて音信不通か死んでいるか……辛い表情と合わせて下を向けば、勝手に色々と考えてくれるだろう。

 

「なる程、確かに事情を知らぬ他人が首を突っ込むのは礼儀知らずですね。この話は終わりにしましょう」

 

 困った顔をした、色々と考えたみたいだ。此方の思惑に乗ってくれた。

 

「有り難う御座います」

 

 やはりデリケートな存在と判断してくれた、これで終わりと楽観は出来ない。でも最初の頃のレティシアは、僕と接触を持ちたがる理由をメディア嬢に話していたと聞いている。

 

 曰く『全く似ていないがアイツと重なる』と……

 

 弟子が師匠に似るとかの意味で捉えてくれれば良い、全く似ていない別人との評価も有るし僕がツアイツと同一人物とは幾ら何でも思うまい。

 だが古代の魔法技術関連を知っている事には辿り着くだろう、だがそれは『その探している人物』から教えて貰った事にすれば良い。

 今の僕の立場なら多少の不自然さからの追及は跳ね除けられるし、何とか誤魔化せたかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「メディアや、良い男だがジゼルに取られるとは情けない。出来れば我がニーレンス公爵家に婿入りさせたかったな」

 

 戦闘に耐えるゴーレムの三百体同時運用、しかも500m以上の遠隔操作が可能とか信じられない高性能よの。私でさえ戦闘用は最大三十体、遠隔操作は精々30m。

 土属性魔術師として桁違いに優秀な男だ、ハイゼルン砦を落とした実績も大きい。

 

「最初は敵対一歩手前でした、ここまで関係を回復出来た手腕を誉めて欲しい位ですわ」

 

 ふむ、メディアはリーンハルト殿に恋慕は抱いてないの。下手にジゼルに嫉妬するよりは良いな、痴情の縺れは予想外の馬鹿な行動を平気でする。

 男女としての今の関係は及第点だの、確かにメディアにしては良くやった方か……

 

「あの少年、嘘は言ってなかったぞ。一時期落ち込んでいたレティシアが元気になった、いやなり過ぎたのは少年の存在が原因だ。レティシアが気にかける人間の男など奴しか居ない、だが奴は死んだ……」

 

 ふむ、例の精霊魔法で真偽を確かめたのだな、レティシア殿が人間の事で落ち込み元気になった。つまりリーンハルト殿はレティシア殿を落ち込ませた人物を知っていた。

 ファティ殿の言葉から判断するに、その人物は既に他界している。その最期を教えたのがリーンハルト殿、そして元気になった。

 

 きっと伝言か遺品でも預かっていたのだろう、そして最後の思いを伝えた相手に恩義を感じて配慮する。精神的な繋がりを重視するエルフ族らしい考え方だ、我等なら損得勘定で動くがの。

 

「ふむ、理由が分かれば過度の警戒は不要、懇意にするには良い男だの」

 

 皆は扱い辛いと言うが私にとっては扱い易い、リーンハルト殿はアウレール王に厚い忠誠心を捧げている。真面目で常識的、善か悪かで言えば善。

 用心深く用意周到、自分に絶対の自信が有る男だの。つまり立場と役職に合った扱いと報酬を用意して、礼節に則ってお願いすれば無下には扱わない。

 反面敵対すれば容赦無く攻めてくる、革新的より保身的、だが能力が突き抜けているから周囲からは真新しく見える。

 

「リーンハルト様は私のナイトですから、ジゼルの旦那様が私に配慮してくれるだけでも十分ですわ」

 

 良い笑顔だの、あの少年は高慢だった孫娘を変えてくれた。その礼はしなければならない、貸し借りは極力無くす事が必要なのだ。早急に借りを返してから取り込みに動く。 

 ニーレンス公爵家が配慮する限りは敵対はしない、訳も無く向こうからは攻めて来ない。

 それはウィドゥ子爵家とヘルクレス伯爵家の扱いを見れば分かる。

 

 折角アウレール王の思いに倣えと諭したのに反発した前者は御家断絶に追い込まれ、後者とは和解し礼を尽くした親書とガラス製の珍しい護身刀を贈った。

 

 まぁ後者も距離は置かれるが最悪の敵対行動はしていない、しかも絶対の忠誠心を捧げる配下まで手に入れて『王国の守護者』という名声まで得ている。

 只では終わらせない強かさも有る、本当に未成年なのかと疑ってしまうの。

 

「だが急激に力を付けてきている、僅か一ヶ月で倍近い能力アップだぞ。レティシアにも頼まれているし、少し鍛えてやるか」

 

 ファティ殿も妙に嬉しそうだの、エルフ族が積極的に鍛えたがる程に有能なのだな……

 だが能力が倍増し?そんな馬鹿な事は無い、能力を秘匿して全てを見せないでいたのだろう。レベル42と聞いたが感覚的にはレベル80以上に感じた、流石にそれは無いかの?

 

「それは良い事ですの、我が家で相応しい舞台を用意します。見世物にせず互いの力量を見定められる、最高の舞台を用意させて下さい」

 

「そうか?悪いな、感謝する」

 

 あの手の男は無駄に力を誇示しない、エルフ族と模擬戦など他人には見られたくない筈だ。それは見栄より勝つ為の手段として力を極力隠すから、結果が全てと思っている。

 

「いえいえ、私達もファティ殿とリーンハルト殿の模擬戦を貶める様な事は避けたいのです。無駄な見学人など不要ですからの」

 

 ファティ殿も満更ではなさそうだ、勿論だが会場をセッティングする私やメディアは模擬戦を見る。どんな戦いを見せてくれるか楽しみだの。

 

 満足げに消えたファティ殿、本当にエルフ族の扱う精霊魔法は意味不明だの。人が消えて気配すら感じない、まさか瞬間移動なのかの?

 

「ロッテの持って来た報告を聞いたかの?」

 

「はい、お婆様。遂にバセット公爵が失敗し、リーンハルト様が彼等と距離を置くと……」

 

 我等ニーレンス公爵家とローラン公爵家、それにザスキア公爵家とは協力体制を敷いた方が良いの。

 競合相手とはいえ連携が必要、国益に添う限り協力は惜しまず敵対もしない。

 バセット公爵家とバニシード公爵家が完全に沈む迄は連携してリーンハルト殿を取り囲む、他に渡してなどなるものか。

 

 抜け駆けは無しだの!

 

「しかしアウレール王の思いを尊重するとは考えましたわ、これならバセット公爵は何も言えないでしょう」

 

「そうだの、相手を完全に封殺しての勝利。国民にもリーンハルト殿が忠誠心の厚い男と思うし、アウレール王も国民思いだと知らしめた。非の打ち所が無い、惜しむらくはアウレール王の所までは報告が行かない事だの」

 

 ウィドゥ子爵家が断絶しても国王までは報告は上がらない、貴族関連の不祥事だし貴族院で止まる。国王に対してのスタンドプレーにはならない、だが周囲には十分に伝わる。

 

「あざとく媚びるより万倍もマシですわ。時にはスタンドプレーも必要ですが、リーンハルト様には不要でしょう」

 

「ふむ、確かにそうだの。重用されれば自然と実績を上げられる、リーンハルト殿に依頼される仕事は難しい筈だ。故に達成後の評価も高い、何と言っても『王国の守護者』だし戦争関連は殆ど頼まれるの」

 

 エムデン王国を脅かす者達全てとの戦いの最前線に身を置く覚悟が有ると言った、不利な状況でも構わず参戦すると明言した。

 この事実は重い、我等とてエムデン王国を守る為になら戦うが家の繁栄と存続の為に色々と条件を付ける。不利な状況での参戦など断るか押し付ける、一族に利益を出せない当主など無能で不要。

 

「個人で二千人規模の軍隊と渡り合えるのです、準備も補給も最小限で済みます。リーンハルト様はハイゼルン砦の攻略で指揮官としても合格点を出されました、ライル団長やマリオン将軍を配下に置いて問題無しだとか……」

 

「宮廷魔術師第二席、侯爵待遇の上級貴族だしの。しかも実戦での評価も高い、反発出来るのは同格の侯爵本人以上か団長や将軍クラスのみだの」

 

 他の連中は正面から反発など不可能、協力を拒否されてもリーンハルト殿なら一人でも戦える。故に兵士の数で圧力も掛けられない、近衛騎士団と聖騎士団とは懇意にしている。

 優先的に『春雷』を錬金した複製品『雷光』を渡す事で懐柔された、武人は魔法の付加された武器や防具が大好きな連中だ。

 進んで協力を申し出る、魔術師ながら最前線に出て戦うから好感度も高い。

 

「超脳筋戦闘集団、バーナム伯爵の派閥No.4の肩書きは戦士達が一目も二目も置きますわ。故に非協力的な殿方は少ないでしょうね、本当にジゼルは良い旦那様を捕まえたわ」

 

 アウレール王が認めた結婚、本来なら男爵の娘など釣り合わないのにジゼルとの結婚式には出席すると言った。ならば側室を送り込みたいのだが、アーシャの他はローラン公爵がニールを押し付けただけだ。

 だがニールは手を付けられずにデオドラ男爵に預けられて魔法戦士として育てられた、中々の強さらしいの。

 

「まぁ良いか。久し振りにローラン坊やとザスキアの嬢ちゃんに会うかの、色々と楽しい話が出来るだろうよ」

 

「お婆様にとっては現役公爵様も坊やと嬢ちゃんですか?」

 

 オシメをしてる時から知ってる相手だぞ、今更畏まれなど無理だの。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「あら?何か嬉しそうですわね」

 

「リズリットか、面白い報告書を読めたからな」

 

 休憩の合間に定期的に上がってくるゴーレムマスターの報告書は面白い、短期間に色々な事に巻き込まれ解決しているな。

 まさに波乱万丈な人生だ、あいつ未だ成人前なのに大丈夫なのか?このペースで難題に遭遇したら早死にしそうだぞ。それは困るのだが……

 

「ヘルクレス伯爵とウィドゥ子爵の件ですわね。理想的な終わり方ですが、ザスキア公爵の協力も効果的でした。あの二人は良い協力者同士なのでしょう」

 

「ザスキアとゴーレムマスターか、確かに互いに不足した部分を補い合えるが……」

 

 情報収集と情報操作に長けたザスキアに、圧倒的な軍事力(ゴーレム軍団)を率いるゴーレムマスター。言われてみれば相性は良いが、恋愛関係に発展させるのは駄目だ。

 

 報告書には、ザスキアの手の者が噂を広めたとなっている。実際に民衆達の中には……

 

『リーンハルト様がアウレール王の国民を守る気持ちを真摯に受け止めて、ウィドゥ子爵の息子を諌めたのに逆恨みして後日老人を探し出して殺した。

リーンハルト様は関係者に二度とアウレール王の気持ちを踏みにじるなと怒った』

 

 俺まで持ち上げた内容になっている、これにはバセットの奴も困っただろう。ウィドゥの首を切ってヘルクレスに改めて詫びを入れさせた、だがゴーレムマスターはバセットと奴の派閥連中と距離を置くそうだ。

 バセットは内務系の連中だ、距離を置かれても敵対しなければ関係は薄い。問題は少ないな、武闘派のローラン・内政のニーレンス・諜報のザスキア、そして宮廷魔術師筆頭予定のゴーレムマスター。

 

 うむ、布陣としては悪くない。奴等が協力すれば大抵の事は出来そうだな。

 

「でもそれが先程の嬉しそうな顔の答えにはなってないですわ」

 

「む、そうだな。嬉しかったのは然り気無い忠誠心だ、俺に分かり易くアピールしてくる馬鹿共と違う。アイツは本心から俺と国を想ってる、それが分かるから嬉しかったんだ」

 

 前に直ぐに戦わせてやると冗談混じりで言ったのに、エムデン王国を害する全ての敵対者と最前線で戦う覚悟が有ると言いやがった。

 

 巷の噂では『王国の守護者』らしいが、中々言えない台詞だぞ。参ったな、頬が緩むのが止められない。俺は本心から嬉しいみたいだぞ。

 


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