古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第380話

 

「俺に死ねって言うのか?それ程、奴に手柄を立てて貰いたいのかよ!」

 

「愚か者ですね、貴方は確かに不幸だが周囲を巻き込まないで欲しいのですよ。リーンハルト卿は最善の方法を提示してくれたのです、貴方の武芸者としての最期とメルカッツ殿達の安全。その二つを成し遂げる為のです」

 

 もはや貴方は死ぬしかない、その死に方を選べるだけでも幸せなのですよ。そして貴方の死に方により残された者達の運命が変わる、吉か凶か……

 

「やっぱり納得いかないな!何故ユニオンが死なねばならない?」

 

「全くだ、英雄様の糧になれは酷い。もっと方法が有る筈だ!」

 

「俺達全員でやれば、ヘルクレス伯爵家だって襲える!」

 

 ユニオン殿に共感していた三人が騒ぎ出した、彼等は貴族に何等かの恨みが有りそうですね。だが騒いでも行動しても無駄、もう手遅れなのです。

 ユニオン殿の最善はシュターズ殿を返り討ちにした後に国外に逃げる事、けして『カルナック神槍術道場』に逃げ込む事じゃなかった。

 逃げ込んだ時点で他人を巻き込んだ事を理解していない、自分は正しい事をしたと思っている。確かに被害者だし自己防衛ですが、二回目の襲撃は只の復讐。

 その時点でシュターズ殿と変わらない、貴族が頂点の世界で我を通したのなら最後の幕は周囲を巻き込まずに自分で降ろして下さい。

 

 この世間知らずの馬鹿共の世話は本当に疲れます。

 

 私達冒険者ギルド本部は確かにランクC以上には助力しますが、あくまでもギブアンドテイクの関係なのです。

 メルカッツ殿とユニオン殿ではリーンハルト卿と釣り合わない、出来れば即切り捨てたい。

 ユニオン殿がリーンハルト卿に倒されて事件が沈静化しても、メルカッツ殿と『カルナック神槍術道場』の看板は地に落ちる。

 貴族殺しが門下生にいた過去の汚点は大きい、汚名の返上は難しいでしょうね。だが命が助かるだけでも十分でしょう……

 

「メルカッツ殿、ユニオン殿、最後通告です。冒険者ギルド本部としては、これ以上の協力は出来ません。このまま籠城しても聖騎士団か常備軍が動けば抑えられません、ユニオン殿は捕まり拷問されて処刑。

メルカッツ殿も匿った罪で同罪、門下生も罪を問われるでしょう。

私達はリーンハルト卿の御厚意に甘えるしかないのです、明日の朝にこの先の大通りを馬車で通ります。後は分かりますね?」

 

「俺は武芸者として最後の戦いを英雄様に挑める、そしてメルカッツ様や仲間達は英雄様が守ってくれる。そうだな?」

 

 黙って頷く、漸く自分の置かれた状況を理解したのでしょうか?両膝に置かれた拳が震えてますね、此処まで来て怖じ気付くのは勘弁して下さい。

 

「良いですか?リーンハルト卿は冒険者ギルド本部にとって必要な御方なのです、新貴族男爵の長子から伯爵まで出世街道を駆け抜けましたが私達平民を見下さない稀有な存在。

協力的で我等の事を考えて配慮までしてくれるのですよ、貴方の場合もです。良く考えて行動して下さい、私達が貴方達に協力出来るのは此処までです」

 

 もし明日の朝に行動しなければ、冒険者ギルド本部は貴方達を見切ります。同じランクBでもリーンハルト卿とは天と地ほども差が有るのですから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最後の晩餐、俺達は道場で車座になり酒を酌み交わしている。思えば『カルナック神槍術道場』の門を叩いたのは丁度十年前だ、子供ながらに現役だった『豪槍使い』のメルカッツ様に憧れて武芸者を目指した。

 モンスターと戦うのが主な冒険者だが、対人戦に特化した槍術でも対応出来た。お陰で冒険者として一流と認められるランクCになり良い仲間とも巡り合えた。

 仲間達は既に捕縛されたらしいが、冒険者ギルド本部が圧力を掛けて拷問等の酷い尋問は受けていないそうだ。

 彼等にも罪が及ぶのは避けねばならない、苦楽を共にした仲間達と同門の皆の為に、我が師であるメルカッツ様の為にも……

 

「俺は明日、英雄に挑む。協力してくれ」

 

「共に戦って死ぬのはお断りだ、リーンハルト卿にとっては完全な八つ当たりだぞ」

 

「二千人の本職軍人と真っ向勝負が出来る化け物だぞ、俺達を巻き込むな。一人で突撃しろよ」

 

「何を言ってるんだ!ユニオンは仲間だろ?」

 

「厄介事を押し付けるのが仲間?馬鹿言えよ!」

 

 ああ、言い争いになってしまった。確かに俺はウィドゥを殺した後に怖くなり、我が身可愛さに此処に逃げ込んだ。

 最初は受け入れてくれたが現状を知るにつれて意見が別れてしまった、誰だって死にたくない。だが皆が世話になった、レミアム爺さんが殺されたんだぞ!

 

「皆、落ち着け。ユニオン、もうお前を庇う事は出来ない。リーンハルト卿の温情を受けるしか、お前が武芸者として最期を迎える事は無い。分かるな?」

 

「はい、捕まって惨めに殺される位なら戦って死にます。それが英雄と言われる男に挑めるなら本望。ですが襲撃のタイミングを知る手伝いはお願いします、挑む前に捕まるのは嫌だ」

 

 この道場から大通り迄は直線で30mは離れているし、周囲にはウィドゥ子爵家の連中が見張っている。奴等に見付からずに飛び出すのは不可能だ。

 

「大通りを見張る者と連絡する者、それと外の連中の気を引く者に別れるぞ。裏口から大人数で出れば奴等は集まってくる、そこで一悶着する。お前はその隙に真っ直ぐ大通りに向かえ、悔いの無い戦いをしろ」

 

 メルカッツ様の言葉に目頭が熱くなる、俺は良い師に出会えた。そして最高の死に場所も得られたみたいだ、エムデン王国最強の魔術師である『ゴーレムマスター』のリーンハルト卿に挑める。

 ジウ大将軍も跳ね退けた最強の男に平民の俺が挑めるのなら……

 

「メルカッツ様、それに皆有り難う。俺は明日の朝に英雄に全力で挑む、皆には迷惑を掛けたが最後にするので宜しく頼む」

 

 頭を下げる、明日で俺の人生は終わる。短くも有意義な人生だったさ。

 

「ユニオン……分かった、見張りは任せな」

 

「そうだ、ウィドゥの家臣など俺達に任せておけ」

 

「英雄様に勝てれば将軍になれるかもな」

 

「将軍か、悪くはないな」

 

 その俺の言葉に周囲から笑いが漏れた、万が一にも勝ち目が無いのは理解している。だが今は馬鹿笑いをしてくれる仲間が居るだけで幸せだ、レミアム爺さん、明日の昼には又会えるぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 予定通り魔術師ギルド本部に行くと言って一人で屋敷を出る、襲撃される為にとは誰にも教えていない。普段通りに変わり無く誰にも悟られずに出掛けられた、僕は今日ユニオンを倒す。

 もはや助ける事は叶わず、如何にして彼が武芸者として最後を迎えられるかの問題でしかない、悪いが僕が負けるとは思わない。

 

 御者にも襲われるとは教えていない、だが襲われる場所は大体分かる。この先辺りだが……気配を探れば、やはり来たか。

 

「宮廷魔術師第二席、ゴーレムマスターのリーンハルト卿の馬車と見受けられる。俺はカルナック神槍術のユニオン、正々堂々の勝負を願う!」

 

 堂々と口上を述べた、武芸者として最後の口上だが声や口調に乱れ無く落ち着いている。既に覚悟は決まっているのだろう。

 

「リーンハルト様、巷を騒がせている賊と思われますが、如何いたしますか?」

 

「構わない、馬車を止めてくれ。名指しで挑まれたんだ、相手をしよう」

 

 御者にまで噂が広まっているみたいだな、馬車を降りればフードを目深に被って槍を構えた男が一人。その少し離れた後ろにはメルカッツ殿と数人の門下生と思う男達が居る、全員武装しているが纏めて戦うのか?

 

「何用か?」

 

 茶番劇だが続ける必要が有る、僕は急に襲われたので警戒している様に見せる必要が有る。相手は被っていたフードを脱いだ、やはり先日見た青年か……

 

「武芸者としての意地を通させて貰う、尋常に勝負して欲しい」

 

 大音声で周りに分かる様に勝負を挑んで来た、ならば此方も受けねばなるまい。茶番劇は終わり、此処からは真剣勝負だ。

 相手は既に槍を構えている、穂先を地面スレスレに付ける独特な構えだな。

 

「この賊ごときがぁ!父上の仇を討たせて貰う」

 

「何が正々堂々だ、お前は惨めに拷問されて処刑だ!」

 

「道場の連中も全員仲間だな、捕まえろ!」

 

 知らない内に観客達が集まって周囲を取り囲んでいたが、その間からウィドゥ子爵家の私兵達が出て来た。多分だが先頭の男が長男のトレック殿か?

 

「誰かは知りませんが僕が挑まれた戦いです。邪魔するな、下がれ!」

 

 軽く手を振って彼等の前にゴーレムナイトを二十体錬成する、物理的に止めないと乱入しそうだ。自家の存続が掛かってるから必死なのは分かるが邪魔をするな。

 

「お、お待ちください、リーンハルト卿。奴は我が父であるウィドゥ子爵の仇なのです、我等に敵討ちをさせて下さい!」

 

 トレック殿が声を掛けるが、ゴーレムナイトが怖いのか近付けないでいる。

 

「僕が先に挑まれた戦いです、悪いが引く事は出来ません。では相手をしましょう、僕はゴーレム使い。お相手はゴーレムビショップに任せます」

 

 騒ぎ出すトレック殿と配下の連中だが、ゴーレムナイトを更に近付けたら黙った。邪魔するな、そこで見ていろ。

 

 全長2m、全身真っ黒のルトライン帝国魔導師団の正式鎧兜を今風にアレンジしたデザイン。制御ラインは三十本、現状では最強のゴーレムだ。

 武器は両手持ちの長剣、ツヴァイヘンダー。

 

「感謝します、リーンハルト卿」

 

 槍を構えるのは止めずに頭だけを下げた、ヤル気は満々だな。

 

「最近巷を騒がす賊とは貴方ですね?王都の治安を乱す者は許しません、此処で討ち取ります」

 

 確か過去に『刺突三連撃』を教えてくれたのは、カルナック剣闘技の使い手だったな。彼等流の試合の挨拶というか作法が有った筈だ、確か……

 ゴーレムビショップの右手を握り最初に額を次に心臓の部分に触れた後、抜刀して両手で握り剣先は天に向けて胸の前に合わせる。

 

「それは?カルナック剣闘技古流の作法、この戦いに全力を出してくれるのですね!有り難う、リーンハルト卿。俺も全力で挑みます」

 

 何か失敗したのか?妙に気合いが入ったみたいだ。本人もそうだが、メルカッツ殿と門下生達も興奮して騒ぎだしているし……

 槍の構えを解いて同じ動作をしてから槍を水平に構えた、此方も構えに入る。最大の技で一撃で決める、ツヴァイヘンダーを右手だけで持ち弓矢を射る様に構える。腰を下げて引き絞る弓の様に力を溜める。

 

「その構えは?まさか伝承に有る、あの技なのか?」

 

「馬鹿な?魔術師は武芸者とは違う、でも戦いの礼は正式なモノだった」

 

 あの技?やはり同じカルナックの同門か。僕は開祖カルナックの名を継ぐ後継者を王宮に呼んで何度も技を見せて貰い模倣したんだ、彼の未来の弟子達が彼等か。

 

「行くぞ、双竜撃!高速の二連続の突きを避けられるか!」

 

 頭上で槍を回転させてから水平に構えて突っ込んで来た。だがこの技は迎撃にも適しているんだ。

 

「刺突三連撃!」

 

 高速で繰り出される槍の二連続攻撃、だがツヴァイヘンダーの突きを合わせて迎撃する。

 槍の先端を砕き柄も破壊した、武器を壊した上で最後の突きでユニオンの胸を突く!

 

 全力の突きは彼の胸に大穴を開けて、更に後方に跳ね飛ばした。丁度、メルカッツ殿達の方に飛んでいったので受け止められた。

 マグネグロ殿と違い上半身は吹き飛ばしていない、だが心臓を周辺ごとブチ抜いたので致命傷だ。

 

 ゴーレムビショップの構えを解いてから魔素に還す、キラキラと粒子が風に乗って拡散すると同時に観客達が沸いた。

 

「リーンハルト様が逆賊のユニオンを倒したぞ!」

 

「王都を騒がせた賊をリーンハルト様が倒したんだ、平和を取り戻したぞ!」

 

「流石はリーンハルト様だ、街は平和になったんだ!」

 

 素直に喜べない、本来なら救えた命なんだ。シュターズ殿が馬鹿な事をしなければ、老人もユニオンも死なずにすんだ。

 だが貴族殺しは重罪、血縁者も同罪だが彼は独り身だった。巻き込まれる連中は居ないのが不幸中の幸いか、後味の悪い結果になってしまったな。

 

 




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時間が取れたらと思いつつ中々出来ない誤字脱字修正なのでお恥ずかしいかぎりです。

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