古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第371話

 セイン殿とカーム殿の夫婦漫才という名の痴話喧嘩は放っておく、罵られるのが大好きなセイン殿には気の強いカーム殿と相性が良いのだろう。

 だが集まった他の宮廷魔術師団員の呆れた顔と諦めた感じを見れば、日常的にじゃれ合っているんだな。

 カーム殿が一方的に罵りセイン殿が恍惚として聞いている。彼も魔術師としては一皮剥けたのだが人格もズル剥けだよ、面倒臭い方向に……

 

「さて、あの二人は勝手に遊ばせておきましょう。先ずは鍛練の成果を見せて貰います、全員ゴーレムを質と数のバランスを考えて錬金して下さい」

 

 最高の一体より平均化された複数体の方が戦いでは有利だと僕は思っている。一対一の正々堂々とした決闘紛いの戦いなんて少ない。

 一対多数が僕の考えるゴーレム運用方法だ。それが可能になってから品質の向上をすれば良い。

 

「それは質より量って意味ですか?」

 

 一人の団員から質問された、半分正解だが低品質のゴーレムを量産しても無駄だよ。

 

「違う、最高の一体じゃなくて実用的な範囲で運用できる複数体を錬金するんだ。数を頼りに戦うにしても質は大切だ、分かるかい?」

 

「質と数の両立、リーンハルト卿のゴーレムポーンの大量運用の模倣ですね」

 

 デスキャンサー君、正解だ!

 

「そうだよ、僕達土属性魔術師はゴーレムを大量運用するのが有効的な戦い方だと個人的に考えている。最高の一体を作るのはその後の方が良いんだ、制御数を増やせばゴーレムと繋いだラインの制御の訓練にもなる。

高性能ゴーレムとは素材の強度や作り込みも大切だが繋いだ制御ラインの数が重要だ、より高度な操作が出来るからね」

 

 今の僕が繋げているラインの数は、ゴーレムポーンで三本、ゴーレムナイトで十本、大型ゴーレムのルークなら三十本だ。

 単体最強のゴーレムビショップも同じ三十本を繋いで操作している。繋げるラインの数を増やしたり、細かい制御を可能にするのは地道な鍛練しかないんだ。

 

「分かったら始めてくれ。セイン殿達もイチャイチャしないで始めるぞ」

 

「「イチャイチャなんて、してません!」」

 

 真っ赤になって吠えられたが息がピッタリだ、やはり相性は良さそうだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ほぅ、流石はセイン殿ですね。グレイトホーンが十体ですか……」

 

 カーム殿とイチャイチャしていても鍛練は怠らなかったんだな、一番手前のグレイトホーンの肩の装甲部分に触れてみる。

 

「素材は鉄製だが強度は合格点だな。中に込められた魔素の濃さも十分、ラインは各三本か」

 

 十分に実用に耐えられる出来映えだ。肩の部分の装甲は20mm以上、最大の武器である角は太さ8cm長さ80cmは有る。並みの鎧兜なら余裕で貫通出来るだろう。前に見た時より全体的に強化されている。

 デザインも神話に登場する神秘的な牡牛のクレータを模して改造したらしく、悔しいが格好良いな。

 

「見事ですね、少し動かして下さい」

 

 錬金自体は合格点だが実際の運用はどうだろうか?

 

「見ていて下さい。行くぞ、グレイトホーンズ!」

 

 グレイトホーンズ?僕も名前を付けるセンスは皆無だが、セイン殿も同じみたいだ。流石に神話の牡牛の名前は使えないよな。

 十体のグレイトホーンズが五体ずつ左右に別れて20m程の距離で向き合う、走る姿も滑らかだ。

 

「動きも良いですね、重心が低く安定しているのは突撃に強い」

 

 グレイトホーンの攻撃方法は角と突起の付いた肩当て、要は突撃しか出来ない。

 四つん這いの四本足の動物は背丈が低い、だが重心も低く安定している。二本足より四本足の方が踏ん張りが利くと思う、つまり激突した後も力を加え易い。

 

「グレイトホーンズよ、グレイトスタンプ!」

 

 は?呪文の詠唱は必要無いのだが、セイン殿は謎の技名を高らかに叫んだ!

 

 真っ直ぐに走り出したグレイトホーンだが首を下げ、角を水平にして貫通力を高めた。これは重装備の騎士団の突撃に匹敵するか?

 金属同士のぶつかる甲高い音が鳴り響き、十体のグレイトホーンは相討ちになった。だが正面装甲20mm以上を貫く突撃は使える。

 

「見事ですね、これなら重装騎兵部隊の突撃と同等でしょう」

 

 拍手を交えた激励を贈る、短期間での能力アップとしたら十分な成果だ。

 

「ヨッシャー!見たか、カーム殿?」

 

 あれ?そこでカーム殿に声を掛けちゃうの?やはり出来ちゃったのか?

 インゴもニルギ嬢と男女の関係になったし、僕の周囲は桃色だな。いや、僕もアーシャと桃色だから人の事は言えないのだが……

 

 見事な成果だが、カーム殿は幾つか辛辣な問題点をあげている。その話を嬉し悔しそうに聞くセイン殿、幸せ一杯ですね?

 

「リーンハルト卿、次は俺のアルティメットデスキャンサーを見て下さい!」

 

 アルティメットデスキャンサー?直訳すれば『究極の死の蟹』で良いのかな?

 久し振りに見たデスキャンサー君には、『究極』と頭飾りがついた。目の前に並んだのは前に見た蟹だ、蟹ゴーレムだ。

 違いは四体居る事と、前よりも二回り小さくなっている事かな?

 

「小型化したんですね、だけど両手の鎌の部分は……挟む事を出来なくして刃物の鎌に変えたか、単純な攻撃力は高まったのかな?」

 

 前は不自然に大きな右手のハサミが特徴だったが、今回は左右均等で長い。手長海老を想像すれば分かりやすいが、ボディは蟹だ。

 

「我がアルティメットデスキャンサーの必殺技を見ろ、ダブルインパクトスラッシュ!」

 

 いや、凄く恥ずかしい台詞を吐いて練兵場に備え付けの的(まと)、直径30cm程の丸太杭に向けて左右から降り下ろす!

 

 少しタイミングをズラして降り下ろしたので、斜めの切断面で三等分に切り分けられた。威力は合格だが、横歩きしか出来ないのはマイナス評価だ。

 そして挟めない蟹爪って蟹とは呼べなくないか?

 

「中々の攻撃力ですが、横歩きの為に行動に制限が加わりますね」

 

 横向きで直線的だが動きが早く安定しているし、制御ラインも三本と多い。

 

「だが形状からして正面歩きは無理だ、でも細い道でも素早く歩ける。活躍の場所は多い筈ですぞ!」

 

 力説されたが確かにレベル20以下の歩兵なら圧倒出来るだろう、蟹に拘ってはいるが改良も加えているし合格点だ。

 

「次は私の番です!我が忠実なる殺戮人形、邪気赤子よ」

 

 おぃおぃおぃ、漸く人間型が来たけど身長80cm程度の三頭身のゴーレムが刃渡り50cmのナイフを装備している、それが六体居るが……

 

「邪気赤子達(カースベビーズ)よ、殺戮人形よ、『戦慄の赤い竜巻』を見舞わせてくれるぞ!」

 

 恥ずかしい技名を撒き散らかして丸太杭に一斉に襲い掛かる、だが身体に対して武器が大きい。

 此方も制御ラインを各三本繋ぎ、見事なバランス感覚で大振りのナイフを振り回している、動きも素早く安定しているな。

 だが赤子サイズまで小型化してはリーチも短いし直ぐに距離を取られるか逃げられる、歩幅30cmじゃ小走りでも遅いって。

 

「うん、良く連携してると思うよ。じゃ次は誰かな?」

 

 ゴーレムのサイズ以外は合格だ。だが指摘するのも少し違う。自分の好きな分野を伸ばした一点豪華主義っていうか一点突破型っていうか……

 

「次は自分です!見て下さい、この甲虫王(カブトムシキング)の勇姿を!」

 

 全長1mの巨大甲虫が三匹、いや三体鎮座していた。だがコレは失敗だろう、足が細すぎて動きが鈍い。

 リアルに造形を求めた為に技術が追い付かず、お粗末な動き方になってる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 甲虫王の後に全員のゴーレムを見せて貰った。趣味に走る連中ばかりだが、技術の進歩は認めざるを得ない。

 コイツ等、一ヶ月近く放置したが驚く程に自主的に強くなった。だが僕の言葉を全然聞いてない、僕は人型のゴーレムポーンを見本に見せて、複数体運用出来る様になれと言ったつもりだった。

 しかしコイツ等は自分の好きなゴーレムの改良と強化に勤(いそ)しんだ。成果は有りだが、有りなんだが……

 

「全員集合、全てのゴーレムを見せて貰ったが凄い進歩だ。素直に凄いと認めよう、次は実際の戦闘力を見せてくれ。僕と模擬戦をやって貰うぞ」

 

「全員で宜しいですか?」

 

 セイン殿の挑発的な意見に頷いて了承する。流石に実力差を理解しているのか、誰も不満そうな顔はしない。

 だが一ヶ月間の努力と研鑽は彼等の中で確固たる自信を植え付けたのだろう、善戦もしくは引き分けに持ち込めるかもって感じだな。

 

 自信を持つ事は悪い事じゃない、根拠となる努力もしたのだから。

 

「だが色物ゴーレム軍団では駄目なんだ、基本の人型を徹底的に覚えさせる。それから自分のオリジナリティを出せば良い」

 

 軍隊は規律や統一とかに煩い部分が有る。今後ウルム王国や旧コトプス帝国の残党共と戦う場合に色物ゴーレム軍団では実力より低く見られる心配が有る。

 先ずは画一化された歩兵ゴーレムの集団戦が出来る様に鍛える。その次は武器の変更だ、歩兵から弓兵、または槍兵といった兵種変更は重要な勝因となる。

 

 ゴーレムの強さとはダメージ無視と汎用性だ、敵を見てから弱点となる属性に変えて攻撃出来る事が最大の利点なんだ。

 

 各自が十体を運用出来れば百体以上の不死の軍団、いや中隊位は運用出来る。

 雑兵の五百人以上と渡り合える戦力だ。取り敢えずレベル15から20位の強さのゴーレムを扱える様にするか……

 

「用意出来ましたが宜しいか?」

 

 練兵場の片隅で団員達と30mの距離で向き合う、向こうは得意のゴーレム達を錬成済みだ。グレイトホーンを中心に合計五十体前後、異種溢れる編成だな。

 アルティメットデスキャンサーに邪気赤子達(カースベビーズ)それに甲虫王(カブトムシキング)だっけ?

 他にも動物やキメラ擬きと多種多様だな、確かに強そうだが表現に困る混乱具合だ。

 

「突撃だ!リーンハルト殿は未だゴーレムを錬成していない、数の利を生かすんだ!」

 

 セイン殿の号令の後に一斉にゴーレム達が襲い掛かる、グレイトホーンやアルティメットデスキャンサーは動きが早いが邪気赤子はヨタヨタ歩きだ。

 当然だが一斉攻撃だとスピード差で数の利を生かせない、各個撃破されるんだよな。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムポーンよ、各個撃破するぞ」

 

 レベル40の強さを持つゴーレムポーンが、平均レベル20前後のゴーレムに負ける訳が無い。

 頭一つ図抜けているセイン殿のグレイトホーンが集団の先頭を走る、僅か20mを走る間で差が付いている。連携って言葉を知らないのか?

 

「僕と良い勝負がしたいなら単独では無理と知れ!」

 

 頭を下げて突進してくるグレイトホーンだが、強度を増したゴーレムポーンには力不足だ。一体が両手で角を掴み突進を止めて、他の二体が両手持ちアックスで首を刈る。

 

「ば、馬鹿な?俺のグレイトホーンの突進が止められた?」

 

「甘いぞ、残り約四十体か。やれ、ゴーレムポーンよ!」

 

 横一列に並んだゴーレムポーンで正面からゴーレム軍団に挑む、アルティメットデスキャンサーは突進を真横に避けて胴体を両手持ちアックスで粉砕。

 邪気赤子達はリーチの差を生かして正面から薪を割る様に一刀両断、他のゴーレム達も潰していった……

 

「馬鹿な、五十体のゴーレム軍団が一分と掛からず全滅だと?」

 

「一ヶ月の努力が全く通用しない?そんな馬鹿な事が、俺達はレベルアップもしてるんだぞ!」

 

「俺の邪気赤子達が虫けらみたいに簡単に潰されただと?」

 

 呆然としてるが同じ数でレベルの低い方が連携すらしなくては負けるだろ、勝てると思う方が異常だぞ。

 だが一応僕の派閥で配下なのだから、突き放すだけでは失格だ。この負けの原因と対策を練らないと一向に成長しない。

 

「個々のゴーレムは成長しているが、何も考えずに突っ込んで来るから負けるんだ。君達のゴーレムはレベル20前後で僕のゴーレムポーンはレベル40。

普通に戦っては勝てないよ、同じ宮廷魔術師団員なのだから連携しろよな」

 

「あら?同じ宮廷魔術師団員なら私達とも連携して構わない訳よね?」

 

 む、見学していたカーム殿と風属性魔術師達か。確かに同じ宮廷魔術師団員だから構わないが、まさか他の属性の魔術師に協力するとは驚きだな。

 

「構いませんよ、カーム殿はセイン殿と仲が良いですし認めましょう。一時間後に再戦するので良く作戦を考えて下さい」

 

「「仲が良くなど有りません」」

 

 息ぴったりで何を言っているのだか……

 


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