古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第37話

図書室で捜し求めていた本を探し当てた、それはもう凄い回り道をして気力の半分以上を持っていかれたが当初の目的は達成された……

 

『土の属性魔法:初級編』と『水の属性魔法:初級編』の二つを読んだ。

 

結論から言えば300年の時差は酷かった、進化した物も劣化した物も有る。特にマジックアイテムとゴーレムに関しては微妙な感じがする。

主にワグナー氏とバルバドス氏の所為だが僕の理想から掛け離れていた、残念過ぎるゴーレム使いは基本に帰るべきだろう。

いや、原点回帰が必要だ、ゴーレムに多脚とか車輪とか……どうなんだ、ソレ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

今日と明日は冒険者養成学校は休みなのでバンクを攻略する。久し振りという訳でもないがイルメラが張り切って早朝から昼食の準備をしていた。

ボス部屋は倒せばセーフティーゾーンだし空間創造からテーブルセットを出し入れ出来るからか食事内容が日々豪華になってないかな?

 

「リーンハルト様、久し振りの魔法迷宮探索楽しみですね」

 

笑顔が眩しい、まるで暫く相手をしていなかった事を責められていると錯覚してしまう。

 

「そうだな、今日は二階層のボス狩りと少し三階層に降りてみたいんだ。三階層から宝箱が見付かるが罠が仕掛けられている。

だが罠の種類は未だ少ない、ポーラさんの情報を信じれば警報・毒・麻痺・仕掛け矢だが宝箱を開けた時に発動するらしい。ならばゴーレムで開けられるか試してみたいんだ。

盗賊を仲間にすれば大丈夫だけど未だ決めてないし……可能か不可能かは低層階で試しておきたい」

 

イルメラがマップを机の上に広げながら地図上に人差し指を這わせながら何かを探しているが……

 

「分かりました、リーンハルト様。

ギルドから買ったマップによると三階層にも武器庫が有りその前の通路には警報の罠が常設されてます。通過すれば必ずモンスターがポップしますし武器庫も必ず宝箱が出ますので検証には最適かと思います」

 

指を差した場所には確かに二階層と同じ武器庫の文字が有り、その部屋に行く為の通路には常設罠の警報が有る。

警報に引っ掛かってもモンスターがポップするだけだから美味しい罠だな、通路を徘徊しなくて良いなら効率的だ。

だが人目に晒される危険が大きい、それに武器庫の様な密室で罠が発動した場合に毒や麻痺が噴霧タイプだった場合、全員危険だな……

因みに三階層のボスはビッグボア、大きな猪のモンスターだ。

 

「武器庫と警報の罠は様子を見よう、他人の目が有るからヘタにレアドロップアイテムを連発すると不思議に思われる。

それに宝箱をゴーレムで開けて部屋の中に毒ガス満載も避けたい。罠が発動すると麻痺や毒がどう開けた者に効果を発動するのか分からないし……」

 

「そうですね、分かりました。では、そろそろ行きましょうか?」

 

方針が決まったのでバンク行きの乗合馬車の停留所に向かう。久し振りに二人で歩く街並みは朝の喧騒に溢れているな……

停留所の待合室には『静寂の鐘』のメンバーが待っていた、今日はバンクに行くと事前に知らせてたからな。

 

「おはようございます、『静寂の鐘』の皆さん」

 

「おはよう。リーンハルト君、イルメラちゃん。今日も仲良しね、それにリーンハルト君は軽戦士みたいな装備とは珍しい」

 

何時もの様に停留所で待っている彼女達に挨拶をする。そう、今日の僕は革鎧にラウンドシールドと父上から頂いたロングソードを装備している。

意味は防御力の向上の為だ、流石にローブだとコボルドの弓矢とかが脅威だから。この革鎧も心臓とかの急所には鉄板を仕込んで部分的に補強している、今風のデザインを真似て僕が造った。

 

「ええ、二階層のコボルドは弓を使うので防御力UPです。ラウンドシールドなら弓矢位は弾きますし……」

 

勿論ラウンドシールドも僕が造った、固定化を重ね掛けして強度を増している。革鎧とラウンドシールドは外観は量産品に似せて造ったので、見られても問題無い。

この時代の武器防具は量産品は一通り武器屋で観察したから変に疑われないだろう、時代によりデザイン性が変わるんだな……

 

「確かに急所に当たると即死する場合も有るからね。

リプリーも木の盾位は持たせたいけど、両手持ち杖だから避けるか男共を肉の壁にするかよね」

 

魔術師は決してひ弱な訳ではない、街に居る連中と比べても決して体力的に劣っていない。

日々命懸けの冒険を行っているのだから身体は鍛えている、但し周りにいる体力馬鹿の連中と比較されれば劣って見える。

それと魔術師は高齢になる程熟達してくるから、現役でいられる年齢が戦士職より遥かに高い。戦士職が40代で順次引退するのに魔術師は60近く迄現役の連中が居るからな……

だから魔術師のイメージはひ弱でヨボヨボなんだよ。

 

「肉の壁……兄弟戦士、哀れだな」

 

「それもパーティ内での役割さ、盗賊のポーラと魔術師のリプリーは後衛職。リーダーのヒルダは全体を見渡して指示を出す、俺等は指示通りに攻撃と防御を行う。その為に最優先に良い物を装備させて貰ってるのさ」

 

なる程、納得済みな役割分担なのだな肉の壁は……

少しだけ彼等を見直した、例えそれが完全に尻に敷かれた状態に見えようとも男なら女を守ってナンボだからだ。

 

「そうですか……頑張って下さい、応援しています」

 

「おっ、おう。有り難いが、何故そんな優しい目で俺達を見るんだ?」

 

「そうだぞ、何だか擽(くすぐ)ったいだろ?」

 

何と無く皆が笑って和んだ頃に乗合馬車はバンクに到着した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

一週間振りの魔法迷宮は混んでいた。何故だろう、乗合馬車は待たずに乗れたのに到着先が混んでるとは?

管理小屋に列が出来てるのを初めて見た。20人位が並んでいるが、名前を書くだけなのに何故?

受付をする為に列の最後尾に並ぶと、その訳が分かった。

 

「だから事件の有った時の名簿を見せて欲しいと言っているのだ!」

 

「それは出来ません、上層部に許可を貰って下さい」

 

「それが出来れば此処に直接頼みに来てないと言ってるだろうが!」

 

どうやら名簿を見せろと無理を言う誰かが居るらしく、会話からして相手は貴族。だから並んでいる皆も我慢している。

そして事件って言われると最近問題になったのは『デクスター騎士団』の壊滅……

デオドラ男爵の評判を信じるなら、こんな無茶苦茶な事はしない。

ならばエリック絡みのグリム子爵か、死んだビクター絡みのマードック男爵の関係者だろうか?

前に並ぶ戦士風の青年に話し掛けてみる。

 

「すみません、何を騒いでるんですか?」

 

背の高い彼は見下ろす様に僕を見て子供と思ったのか口元に笑みを浮かべてから教えてくれた。

 

「あの騒いでいるのはマードック男爵家の次男坊らしい。

どうやら弟が……ほら、一時期バンクを騒がしていた『デクスター騎士団』に居たらしいんだよ。

今は病気療養中らしいがな、バンクで何か有ったと思ってるらしいぜ。もう三日目なんだ、騒ぎを起こしてるのはよ」

 

「ああ、だから当日バンクに居た人達を知りたいと?

何か家名に傷がとかいう話なのかな?

三日も騒がれちゃ迷惑ですね、下手に関わると有りもしない濡れ衣を着せられそうだ……」

 

全く貴族様って奴は迷惑だよなって笑われてしまった、僕も未だ貴族なんですけどね。

結局騒いでいた奴は管理小屋の騎士に追い出されたが、悪態をついて去って行った。

リストが貰えなくても今並んで居る連中に聞いたりとか手段は有るのに、何故騒ぎを起こしてまで騎士団と揉めるんだ?

ビクターは既に死んでいて今は病気療養の為に郊外の別荘とかって話だが、奴は裏事情を知らないのか?

未だ『デクスター騎士団』の件は、けりが付いてないみたいだな、少なくともマードック男爵家では当主と一部しか真相を知らないと思う。

これは気を付けないと面倒臭い事になるな……来週ウィンディアに聞いてみるか。

ああ見えて彼女は強(したた)かだから上手く立ち回ってくれるだろう。

お互いの為に情報は共有しておくかな。

 

「リーンハルト様……」

 

不安そうに僕を見詰める彼女の肩を軽く叩く。

 

「ああ、話は家に帰ってからだ。今は迷宮探索に集中しよう」

 

マードック男爵家の事を変に気にしている事を周りに知らせるのはマズい。

だが……グリム子爵とマードック男爵は蜜月の関係だったが、我が子が死んだ事により亀裂が入ったのか?

調べ方が杜撰過ぎるから次男坊の暴走か?

受付をする為に並んでいる最中に嫌な考えが頭の中に浮かんでは消える。ウィンディアから脳味噌筋肉と言われ今は彼女と別行動が多いルーテシア嬢が心配だ。

あの次男坊が真相を知らないなら元仲間の所に行く可能性も有る……受付の順番が回ってきたので必要事項を記載し、ゴーレムを召喚して中に入る。

今は考えずにバンク攻略に集中しよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「午前中はオーク狩りをしよう、午後は三階層に下りて宝箱の罠を検証して時間が余ればオーク狩り続行だ」

 

「了解しました、リーンハルト様」

 

先頭に両手持ちアックス装備のゴーレムポーンを三体、ロングソードとラウンドシールドを装備させたゴーレムポーンを僕等の前と最後尾に配置して迷宮内を進んで行く。

入口が詰まっていた所為か他のパーティがポップしたモンスターと戦っていて狭い通路を迂回して二階層に到着、一度も戦闘をしていない。

二階層も複数のパーティが徘徊しておりモンスターを倒さずにボス部屋に到着してしまった。

 

「今日は何時もより混んでましたね」

 

「うん、だが低層階で戦うレベルのパーティが多かったね。ゴブリンやコボルドを瞬殺出来ない連中だった、良く言えば善戦?」

 

高レベルな連中はゴブリンやコボルドなど文字通り瞬殺して階段に直行するからな、さっき擦れ違ったパーティもコボルド相手に苦労していた。

 

「平日は討伐や素材採取の仕事を請けて週末に魔法迷宮に潜るパーティは多いですよ。基本的にギルド本部とか支店は週末は人が少ないので達成報告とか待たされますから」

 

「週末はギルドの仕事は買取だけの魔法迷宮に来る連中が多い?」

 

ニッコリ笑って頷くイルメラを見て週末位は休めよと思ってしまう。でも早くギルドランクを上げたいなら平日は依頼をこなす必要が有るのも確かだ。

 

「じゃオーク狩りを始めるよ、準備は良いかい?」

 

「大丈夫です、扉を開けます」

 

彼女が扉を開けて直ぐにゴーレムポーンを部屋の中に入れる。配置は前回同様先頭に両手持ちアックス装備三体、二陣にロングソードとラウンドシールド装備を二体。

僕と僕の後ろにイルメラを配置して魔素が集まり輝きだして実体化するのをアックスを振り上げた状態で待つ。

徐々に肉体を形成するオーク、その数三匹……光が消えて奴等が雄叫びを上げようとした所を脳天めがけてアックスを振り下ろす。

うん、このハメ技は有効だがタイミングを間違うと接近した状態で戦闘開始になるんだよな。

五回に一回位はギリギリ実体化してなくて床を叩いたゴーレムポーンがオークの反撃を食らい三体共半壊した事も有ったし……

二陣のゴーレムポーンが攻撃を受けて僕がストーンブリットで止めを刺す事も多い。ダメージ無視は有効だが、油断すると状況が一変するから緊張する……

 

 

「リーンハルト様、そろそろ休憩しませんか?」

 

「む、二時間弱で23回で丁度50匹か……」

 

魔素となり消えて逝ったオークのドロップアイテムを拾いながらイルメラが提案してきた。

ハイポーションを受け取りながら午前中の戦果を思い浮かべる、ハイポーション15個に耐魔のアミュレット10個、ロッド・オブ・ファイアボールが2本か……

 

「了解、お昼にしようか」

 

そう言って空間創造からテーブルと椅子を取り出して配置し料理を並べて行く。今日はローストビーフを挟んだサンドイッチ、それとジャガイモを裏漉しした冷製スープだ。

 日に日に豪華になっていく料理を見て本当に魔法迷宮を攻略中なのかと考えてしまった。


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