古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第369話

 魔術師ギルド本部を訪ねたところ、凱旋のお祝いとして五本のマジックワンドを貰った。全て魔力が枯渇し実用性は無くなったが、研究材料としてなら最適だ。

 その中の一本は、僕が作ったナンバーズワンドの性能に似た物が有った。五本共銘が『リ・ツアイツ』と刻まれており、模倣品だとは思うが中には本物と思われている性能の高い物も有るらしい。

 

 そもそもナンバーズワンドとは、僕がジプシーの王の配下の連中に作った柄が伸びて魔力刃を生成する武器だった。

 エースが想像を超える力、つまり錬金術を指し、2が財産で3が交易、4が急速で5が競争、6が勝利で7が勇気、8が素早さで9が警戒、最後の10が抑圧を示すが性能は一緒。

 今の僕なら同じ物が作れる。魔力刃は込める魔力量により強度と切れ味が変化する。

 僕の最大魔力を込めればゴーレムナイトの鎧兜なら切断出来る威力が有り、初見殺しには最適だが肉弾戦を挑まなければ駄目なんだよな……

 

 ん?僕のゴーレムキングに組み込めば良いじゃないか!

 

 ゴーレムキングは強化装甲と呼んでいる着込む鎧兜だ。長柄の武器は扱い辛い為に、鎌状の三本の爪を武器にしている。初見殺し用に飛び出す細工をしているが、魔力刃を組合せればより強力で凶悪な武器になるな。

 

 レニコーン殿とリネージュさんは『王立錬金術研究所』以外での研究にも協力します、って意味を含めてこのマジックワンドをくれたんだ。

 まぁどれか一本は修復して渡せば良いかな、それで十分元が取れる筈だ。武器・防具絡みの研究は自分一人で行い他人は噛ませない、故に借りは直ぐに返す。

 

 それとシルギ嬢の件とマーリカさんの件を話しておいた。前者は丁寧に断り、後者は無条件で所員にする事。

 マーリカさんは後で顔合わせをするが、人格に問題がなければ能力面は問題にしない。レベルも25前後らしいから大丈夫だろう、彼女の役割は僕とフレネクス男爵との繋ぎだから。

 『王立錬金術研究所』の方は所員が全員集まってから訪ねる事にした、これで魔術師ギルド本部との話し合いも終わった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 休日三日目、前半二日間は魔法迷宮バンクの攻略と、冒険者ギルド本部と魔術師ギルド本部との調整と話し合いで終わった。

 最終日はゆっくりしたいが、残念ながら予定が詰まっている。

 モリエスティ侯爵夫人のサロンに呼ばれている。彼女はハーフエルフであり、迫害された反動からか華やかで賑やかなサロンの中心に居る事を望んだ。

 極めて凶悪な『神の御言葉』という洗脳系のギフトを使い、旦那や若い芸術家達を支配下に置いている。

 確かモーリス、ケンブリック、ロッシーニと呼ばれた三人、画家と作曲家と彫刻家だったかな?彼等は彼女に操られていて態度も何もかも変だった。芸術家連中は普通の人とは違うから誤魔化しやすいのか?

 洗脳など人格破壊と変わらないから、一度掛けられたら元の性格とはかけ離れたモノになるだろうな……

 

「貴族社会は狭い。名声を得た様でも、有名なサロンに呼ばれなければ時の人として騒がれた人も直ぐに忘れられるとかさ。変だよね?」

 

 ちやほやされたい訳じゃないが、周囲からの評価が落ちるのは問題にされる。特に役職や立場が上の場合はライバルに付け込まれる原因になるから。

 

「貴族社会で活躍される方はそれなりに居ますが、継続して活躍される方は少ないのです」

 

「旦那様はその数少ないお方なのです。常に話題を振り撒く旦那様とお近付きになりたい紳士淑女の方々は多いのですよ」

 

 何故か狭い馬車の座席に無理矢理三人並んで座る、我が側室と本妻(決定)から言われた言葉に溜め息を吐く。モリエスティ侯爵夫人から彼女達を同伴して来いと手紙を貰った。

 彼女はハーフエルフと言う秘密を握られた僕に対して、共犯者意識が高い為か何故かとてもフランクだ。彼女のサロンに呼ばれる事自体が名誉らしいが……

 

「でも急な誘いで悪かったね」

 

 元々は僕一人の予定だったが、招待状に彼女達二人を同伴して来いと書かれていた。理由は『変人の僕を射止めた女性が見たいから』だそうだ。

 下手に側室候補を集められるよりはマシだから応じたが、あの『神の御言葉』を持つモリエスティ侯爵夫人に会わせたくないのが本音なんだよな。

 

 だけど二人はモリエスティ侯爵夫人の凶悪なギフトを知らない。だから僕と一緒にサロンに呼ばれた事を純粋に喜んでいる。

 彼女のサロンに呼ばれる事はアーシャとジゼル嬢にとっては評価がプラスされる事になるし、呼ばれて来ませんは不味い。

 それだけモリエスティ侯爵夫人のサロンとは人気が有り注目されている、だから断れなかった……

 

 それに珍しくジゼル嬢が気合いを入れたお洒落をしている。最近買った今風の、胸元が大きく開き胸を強調するドレスを選んだ。

 アーシャも色違いだが同じデザインのドレスを選んだ。二人共にショールを羽織る予定だが、今は畳んで膝の上だ。故に目の毒なんです。

 

「急なお誘いでも嬉しかったですわ」

 

 左側に座るアーシャが、そう言って身体を寄せて来る。控え目な性格なのに時々大胆になる。柔らかい二つの何かの間に僕の腕を埋めるのは止めなさい。

 

「私達は初めて招待されるので嬉しいです。彼女のサロンに呼ばれるのは貴族としてのステイタスなのですわ」

 

 同じ様に身体を寄せて来る、此方も母性の象徴が大変立派に成長していて感触がけしからん状態だ。

 最近のジゼル嬢はスキンシップが素直になってきた。前は頬を引っ張るとか太股をつねるとか罰の要素が濃かったんだ。姉妹二人の行動に頬が熱くなるのが分かる、ヤバい冷静になれ!

 

「その、腕にだな、そのアレがだな……」

 

 紳士として淑女らしく行動しろと注意しなければ駄目だよな。

 

「当ててますの」

 

「挟んでますの」

 

 艶っぽい笑顔を浮かべてますが、わざとですか!

 

 嬉しいが嬉しくない状況に追い込まれた。目的地まで後十五分以上有るぞ、精神的に長い戦いになりそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モリエスティ侯爵の屋敷は貴族街でも王宮に近い位置に有る。流石はエムデン王国でも七家しかない侯爵だけある。

 公爵五家よりも侯爵七家は伝統を、家の格を重んじている。エムデン王国創設時から存続しているのがモリエスティ侯爵家だ。

 

 アヒム侯爵家とラデンブルグ侯爵家に次ぐ第三位がモリエスティ侯爵家だ。その下にクリストハルト侯爵家、エルマー侯爵家、グンター侯爵家、カルステン侯爵家と続く。

 ザスキア公爵情報によれば、僕に批判的な発言をアウレール王に繰り返したのが、クリスハルト侯爵とグンター侯爵、それにカルステン侯爵の三人だ。

 前に聞いた三人にバニシード公爵が含まれているかと思えば別だったのか、侯爵家の半数近くと敵対に近い関係か……

 

 桃色になりそうな思考を何とか現状の確認をする事で現実に引き留められた。妄想が花開くとジゼル嬢のギフトでバレるから必死だったよ。

 

「リーンハルト様、モリエスティ侯爵家に到着致しました」

 

「ん、有り難う」

 

 今日は招待された側なので、屋敷の正面玄関前に馬車を横付け出来た。執事が扉を開けてくれたので先に降りる。

 

「アーシャ、手を」

 

「はい、旦那様」

 

 馬車を降りる手助けの為に手を差し出す、先に降りるのはアーシャだ。彼女は伯爵である僕の側室で、ジゼル嬢は男爵家の令嬢だ。本妻予定だが未だ結婚はしていない。

 結婚したら立場は逆転するが今は違う、五月蝿く言う奴等も居るので仕方無いんだ。

 

「ジゼル様」

 

「有り難う御座います、リーンハルト様」

 

 三人が降りて玄関先で並んだ頃、わざわざモリエスティ侯爵夫人が出迎えの為に出て来てくれた。これはかなりの厚待遇だぞ、サロンを仕切るマダムは普通は外に出て来ない。

 その後ろに夫であるモリエスティ侯爵が控えている。完全に支配下に置かれているが、愛妻家で恐妻家だと思われているんだよな。

 

「ようこそ、我が屋敷へ。歓迎しよう、リーンハルト卿」

 

「私のサロンへようこそ、リーンハルト様」

 

 モリエスティ侯爵夫妻から歓迎の言葉を頂いた。気さくに肩に手を置いて屋敷の方へと導いてくれるが、先に連れを紹介させて下さい。洗脳効果なのか、モリエスティ侯爵は僕しか見ていないぞ。

 

「先に僕の側室と婚約者の紹介をさせて下さい」

 

 モリエスティ侯爵夫人に視線を送ると彼女も不味いと思ったのだろう、旦那の腕に手を添えながら耳元で何かを囁いた。

 端から見れば仲睦まじい夫婦の内緒話だが、実際は再洗脳だろう。彼女の『神の御言葉』は凶悪だ。

 

「おお、これは済まない事をしましたな。リーンハルト卿の大切な女性二人を忘れておりました」

 

 不自然な笑みを浮かべるモリエスティ侯爵に、アーシャは普通だがジゼル嬢は困惑の顔になった。何かに気付いたか?

 

「ようこそ、アーシャ様、ジゼル様。お話はリーンハルト様から良く聞いておりますわ。本当に相思相愛で羨ましいですわ」

 

 オホホホッて笑って誤魔化してくれたが彼女達の話なんてしてないぞ。今回二回目のサロン訪問だが、僕とモリエスティ侯爵夫人の仲の良さと言うか連携にジゼル嬢が何かを感じ取ったな。

 モリエスティ侯爵夫人も誤魔化せてないと分かって僕に視線を送ってきたが露骨過ぎる、もう少し然り気無さを装おって欲しかった。何かを隠しているのは完全にバレたぞ。

 僕に向ける笑顔がさ、何時もの詰問調なんだよ。後でモリエスティ侯爵夫人と口裏を合わせておかないと駄目だな、彼女にギフトを使って黙らせる事はさせない。

 あのギフトは凶悪過ぎてジゼル嬢が変になるのは間違い無い、絶対に阻止するからな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モリエスティ侯爵がアーシャとジゼル嬢を先にサロンへと案内し、僕はモリエスティ侯爵夫人とパトロンをしている芸術家の卵達からの祝いの品を見る為に別室に向かう。

 勿論口裏を合わせる為の口実だ。女性絡みで秘密など最悪だよ、浮気を疑われるのは一回で十分だよ。

 

「随分と勘が良さそうな娘ね。危険だからギフトを使って忘れさせましょう、その方が安全だわ」

 

 部屋に入るなり開口一番洗脳するとか言い出しやがった、絶対に駄目だ!

 

「駄目です、彼女にギフトを使うのは反対です!口裏を合わせれば問題有りません」

 

「口裏って何をよ?私の秘密がバレそうなら躊躇無く支配下に置くわ、貴方の都合の良い妻にするから大丈夫よ」

 

 いや、都合の良い夫が今のモリエスティ侯爵だろ!説得力が皆無なんだよ、あんな不自然な行動や思考をするジゼル嬢なんて嫌だ。

 

「駄目です、全然大丈夫じゃないだろ!ジゼル嬢は勘が良いんです、それに加えて洞察力も高い。秘密には辿り着いてないけど、僕とモリエスティ侯爵夫人が何かを隠していると感じた。だから、その隠している事を誤魔化して違う内容にすれば良い」

 

 このハーフエルフの御姉様は過去に迫害されてたから保身には相当気を使う、危険を感じたら躊躇無く洗脳するだろう。今は口を尖らせて拗ねるだけだ、秘密を共有し愚痴れるのが僕だけだから……

 

「どうするのよ?」

 

「僕がバニシード公爵と敵対した時に、周囲には内緒で僕に協力した。それはサロンを使って不自然にならない程度にバニシード公爵の不利を訴え、僕の味方を増やした。内緒にしたのは僕が負けた場合のリスク回避の為に」

 

「そして貴方が勝ったから大々的にサロンに呼んで親交を深める、内緒にしていた後ろめたさが不自然な態度って訳ね」

 

 そうだ。ザスキア公爵が民衆を扇動し、モリエスティ侯爵が貴族達に働きかけた。単純な武力だけでなく、搦め手も使う黒い部分を知られたくなかった、そう思わせれば良い。

 

「僕は、出陣式の時に自分が誘導したとはいえ英雄扱いです。そんな男が民衆を扇動したり貴族間で謀略を進めたりと黒い部分を共有している貴女と営利関係で強く結ばれている。できれば内緒にしたかった、そう思わせましょう」

 

 後はジゼル嬢のギフトをモリエスティ侯爵夫人に対して発動させない事、これで騙されてくれれば儲け物だ。彼女は浮気対象にはならない、だからレティシアの時とは条件が違う。

 

「全く偉大な英雄様なのに彼女には甘いのね、結婚前から既に尻に敷かれている噂は本当みたい。もっと頑張りなさいよ」

 

「尻に敷かれているのは本当ですからね、僕は魔法馬鹿ですから他の事には疎いのです」

 

 生暖かい目で見られた。噂の英雄と呼ばれたって実像はこんなものなんですよ。過度の期待は辛いのですが……

 


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