古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第363話

 

 

 魔法迷宮バンクの九階層のボスは、過去に苦戦した思い出深いモンスターであるグレートデーモンが六体固定だ。

 

 ルーテシア嬢とウィンディアが強制的に所属させられた『デクスター騎士団』は、デオドラ男爵でも配慮が必要だったグリム子爵の息子のエリックが遊びで作った冒険者パーティだった。

 メンバーはエリックの他にマードック男爵の三男のビクターを含めた四人、だがビクターはグレートデーモンに殺された。モンスターに殺されたなど貴族の面子に関わる問題だから、秘密にして難病になって今は田舎で療養中だったかな?

 しかるべき時期に病死の届けが貴族院に提出される筈だ、グリム子爵とマードック男爵の二家はバーナム伯爵の派閥だが今は少し勢力が落ちている。

 

 愛娘を危険に晒された事でデオドラ男爵が明確に敵対した、そして自動的に僕も表立って敵対はしないが距離を置いたのが原因。

 派閥No.4の物言わぬ拒絶は周りに与える影響が大きい、巻き添えを恐れて他の貴族達も彼等との付き合い方を変えてくるから……

 

 グリム子爵はエリックの為に死んだと思っていたルーテシアに罪を押し付けようとしたが、生還してデオドラ男爵に報告。最終的にはバーナム伯爵が両家に沙汰を出した、彼は両家を天秤に掛けてデオドラ男爵家を選んだんだ……

 

 この因縁深いグレートデーモンだが、僕が倒したのは迷宮内の通路にポップする方でボス部屋にポップする方が強いらしい。

 ドロップアイテムもノーマルはデモンリングとデモンソードと同じだが、レアは『治癒の指輪』といって怪我の治りが通常の十倍以上早くなる優れ物だ。

 怪我の他にも疲労や毒や麻痺等の状態回復力も早まる、ランクB以上の冒険者垂涎のアイテムで買取ではなくオークションになる。

 平均落札価格は金貨四万三千枚と破格だが、大量に手に入れても買えるだけの財力の有る冒険者は少ない。武器や防具を優先的に買い揃える為に欲しくても優先度は低いんだ。

 

 上級貴族達は自身の守りの為に買い求めるのかと思えば、ある程度老化も防ぐらしく女性に大人気だ。

 常に身に付けておくと良いらしい、実際に装備している女性達は同年代より若々しいので確かな効果は有る。若い内から装備すれば尚良し、他の装備品と重複装備可能な逸品だ。

 

 因みにリズリット王妃やザスキア公爵は装備しているがセラス王女は持ってない、エムデン王国でも十個前後の貴重なアイテムだが通常のレアアイテムのドロップ率の3%よりも更に低いらしく1%前後らしい。

 百体倒して一個ドロップするか否かの低さとグレートデーモンの強さによって集める者が少なく、中々市場に出回らない。

 多分だが平均落札価格に意味は無い、出品者に対する報酬であり過度に値段を上げないでも売ってくれる金額なのだろう。

 

 実際はオークションに参加した貴族達の中で、一番力有る者が手に入れるのだと思う。領地持ちの侯爵以上なら金貨の十万枚や二十万枚でも払える、僕だって年俸の半分だから頑張れば買える。

 だが金さえ積めば買える品物じゃなく女性以外は無くて困る品物でもない、確かに便利だが金貨十万枚以上を払ってまで手に入れたいかは微妙だ。

 逆に若さを渇望する女性には必須アイテムだ、この温度差が男には理解出来ないのだろう。

 

 この『治癒の指輪』も派閥争いに使えるマジックアイテムだ、出来るだけ集めたい。勿論だがイルメラやウィンディア、ジゼル嬢やアーシャとニールには優先的に装備させる。

 惚れた女性の美容と健康と老化防止は旦那の務めでもある、愛情の表現方法と言い換えても良い。だからこそ愛妻家や恐妻家は欲しがると思う。

 

 兎に角だが、九階層でボス狩りをするのは決定事項なのだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 綺麗に磨かれた石畳をエレさんの案内に従い歩く、壁には魔力の灯りが均等に並んで明るい。湿度が高くて気温は低い、夜の埋葬地みたいな感じだ。辺りに漂う魔素は濃い、錬金術には適した環境だが魔素で構成される敵も強いだろう。

 

 九階層にポップするのはグレートデーモンと稀にポップする鬼火と呼ばれるレイス系のモンスターだ、この鬼火だが実体が無いので物理攻撃が効かない。

 なのでグレートデーモンがドロップするデモンソードが必要不可欠なのだが、僕は早い時期に手に入れて研究したし過去にもレイス系に効く武器は作っていたから問題無い。

 だがレイス系に効く武器は物理攻撃力が低いので切り替えが必要、普通に使えば痛みが早い。

 レベルアップの恩恵で問題無く錬金する事が出来る、レベル50相当のゴーレムナイトを前に六体、後ろに四体配置して通路を進む。

 因みにパーティメンバーもレベルアップしており、イルメラがレベル34でウィンディアがレベル33、エレさんが31になっている。

 ニールはデオドラ男爵家絡みの仕事の関係で殆ど参加出来なかったそうだ。だが厳しい鍛練によりレベル29に上がっている。

 彼女達と共に毎回魔法迷宮バンクを攻略してくれたアグリッサさん達『野に咲く薔薇』のメンバーも全員レベル32、コレットもレベル29と大幅に強くなった。

 これは稼ぎよりも経験値集めに拘った事と七人の変則メンバーだが、アタッカーの戦士職三人に補助のゴーレム、盗賊・僧侶・魔術師二人とバランス良く機能的だった事だ。

 

 僕が同行した時はメインがゴーレムだったが、戦士職であるアグリッサさん達との連携はイルメラ達に良い経験を積ませて貰ったと思う。勤勉な彼女達なら尚更だろう、お互い一ヶ月間で成長したんだ。

 

「前方に魔力光、モンスターがポップする」

 

 エレさんの指摘に前方に集中する、魔力光の規模からして五体か六体だな。九階層で初めて遭遇するモンスターは……

 

「グレートデーモンが六体か!ウィンディアは魔法で牽制、イルメラは防御、エレさんはクロスボゥで積極的に攻撃してくれ。ゴーレムナイトよ、突撃しろ」

 

 先ずは様子見で無難な指示を出す、エレさんに渡したクロスボゥの矢は特製で毒矢にしたが装填の時間を考えると一戦闘で一回しか使えない。

 デモンソードを模したロングソードとラウンドシールドを装備したゴーレムナイト六体を突撃させ一対一で戦わせる、コイツ等はピンチになると仲間を呼ぶから極力同時に倒したい。

 

 腹に響く叫び声を上げて此方を威嚇してくる、怪力で爪による攻撃とブレスによる中距離攻撃をしてくる厄介なモンスターだ。

 一気に距離を詰めて先制攻撃をする、外れても後続がフォローする。

 

「刺突三連撃!」

 

 幅6mと戦闘には狭い廊下だ、グレートデーモンは三体二列でゴーレムナイトを迎え撃つつもりらしく、ポップした場所から動かない。

 同じ様にゴーレムナイトも三体二列で突撃し、先頭の三体に先制攻撃を掛ける!

 二体に致命傷を追わせたが一体が逆にゴーレムナイトを殴り倒した、腕の一振りで頭を弾き飛ばした。人間なら即死級の攻撃だ、一応反応して左腕を上げてガードしたが守り切れなかった。

 

 後続の三体に集中攻撃させて先頭二体は残りの三体を牽制する、体勢を崩した所に正面と左右からロングソードで斬り掛かる。一体は弾かれたが二体は致命傷を与え、更に何回か斬り付けて倒す。

 

 三対一でも瞬殺は出来ない、時間が掛かってしまい前衛を倒した時にはグレートデーモンは五体に増えていた、仲間を呼ばれたんだ。ウィンディアとエレさんが牽制するが仲間を呼ぶ為に、更に叫び声を上げ始めたぞ。

 

「一筋縄では行かないか、ならば……アイアンランス!」

 

 自分の周囲に三十本のアイアンランスを浮かべる、射線上で戦っているゴーレムナイトを同時に伏せさせた瞬間に射ち出す!

 

「乱れ射ち!」

 

 腰から上を各五本以上、アイアンランスで貫かれた事で漸く全滅した。僕がゴーレムの他に魔法攻撃をするなんて久し振りの事だ、流石は九階層だな。八階層よりもモンスターの強さが段違いだ……

 

 グレートデーモン八体が完全に魔素となり消える迄は不用意に近付かない、一瞬の油断が命取りになる。流石に即死攻撃を受けたら助からない、用心に越した事はない。

 完全に魔素となり消え去ると二本のロングソードと一個の指輪が落ちていた、ドロップアイテム三個とは幸先が良いな。

 

「はい、リーンハルト君。ドロップアイテムだよ」

 

 ウィンディアが拾って渡してくれた、デモンソード二本にデモンリングが一個だ。デモンソードは空間創造に収納する、これは何本か残して売るか……

 

「デモンリングはウィンディアが装備してくれ」

 

 僕とイルメラは既に装備している、魔術師専用アイテムだから盗賊職のエレさんには不要だろう。

 

「うん、有り難う。はい、お願いします!」

 

 輝く笑顔で差し出した左手に全員の視線が集中する、これは嵌めてくれって意味だよな。前に『銀の指輪』や『回復の指輪』を嵌めた事は有るが、やはり気恥ずかしい。

 

「えっと、分かったよ」

 

 ウィンディアの白く細い手を取り人差し指に嵌める、未だ薬指は早いから……

 

「えへへ、リーンハルト君から指輪を貰えるなんて嬉しいかな」

 

 ニヤニヤと指輪の嵌まった左手を見詰めるウィンディア、それを羨ましそうに見詰めるイルメラとエレさん。居たたまれない空気が漂う……

 

「み、皆にも『治癒の指輪』を渡すから。だから大丈夫だよ、大丈夫だから」

 

 何が大丈夫だか分からないのだが、何かに負けて言ってしまった。男って駄目な生き物だよな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後二回モンスターと遭遇した、二回共にグレートデーモンで合計十一体を倒した。流石は最下層だけあり遭遇率が高い気がする、ボス戦は確りと準備をしないと駄目だな。

 エレベーターから三十分ほど移動するとボス部屋に到着した、静かだし中で戦闘はしてないな。通路でも他の冒険者パーティには遭遇していないから、九階層は僕等だけの貸し切りか……

 

 両開きの扉を内側に開ける、通路と違い中は真っ暗なのでライティングの魔法を唱えて光球を十個作り中に浮かべる。

 

「広いが天井は低いな、30m四方の広さだが天井高は3mくらいかな?」

 

 八階層のボスである『蒼烏』がポップするボス部屋は天井も高くて飛行モンスターが十分に機動力を生かせたが、此処は中途半端な広さと高さだ。

 

「ふむ、この程度の広さだと直ぐに接近されるな。やはり前回同様のロングボゥによる飽和攻撃が有効かな」

 

 開け放った扉をエレさんに押さえて貰い、先ずは左右の壁に十五体二列の合計六十体のゴーレムを錬成する。同じ様に正面にも十五体二列、合計で九十体のロングボゥ装備のゴーレムナイトを配置する。

 サーチ&デストロイ、ポップして実体化した瞬間にロングボゥによる一斉攻撃を行う。外してもロングソードも装備しているので接近戦の切り替えも可能だ。

 

「普通なら戦士職九十人とか用意出来ないよね、リーンハルト君のゴーレムって反則だよ」

 

「本当にそう、大人数での攻略は頭割りの経験値や配当金が減るから普通はしない。しかもダメージ無視だし鎧兜の修復費も無いし反則」

 

「確かにアグリッサさん達と合同で戦った時の配慮が一切要らないなんて凄い事です、流石はリーンハルト様のゴーレムさん達ですね」

 

 三者三様に言われたが、確かに手に入れたいアイテムが有っても大人数で魔法迷宮を攻略する話は聞かないな。九十人は大袈裟でもパーティ四組で二十四人位なら何とかなりそうだが……

 

「戦争と違って冒険者の戦いは数じゃないんだろうね、稼ぐ為に冒険するんだし苦労して倒しても経験値は微々たる物でドロップアイテムも手に入らないじゃ嫌がるかな?

さて、準備が出来た。エレさん扉を閉めてくれ、九階層のボス狩りの一回目を始めるよ」

 

「分かった、閉める」

 

 パタンと扉が閉まると部屋の中央に魔素が集まりだした、ボス部屋にポップするグレートデーモンは六体固定だ。

 白いモヤモヤが人形を成してモンスターへと変貌していく、完全に実体化する迄は攻撃はしない。六体は微妙に数秒の時間をずらして実体化した。

 

「ゴーレムナイトよ、一斉攻撃だ!」

 

 六体全てが実体化した瞬間に左右の六十体だけ弓矢を放ち前面の三十体は様子を見る、空を飛び回る蒼烏で慣れた為か大地に立つ敵には照準を合わせ易い。

 均等に十本ずつ射ち込むがグレートデーモンも腕で致命傷となる部分を防御したりする、流石は最下層モンスターだな。

 

「追撃!」

 

 待機させていた三十体に生き残りのグレートデーモンに向けて矢を射る、流石に強靭な皮膚も近距離からのロングボゥの攻撃は防げないか。駄目なら投槍と思ったが大丈夫みたいだな。

 

 


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