古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第362話

 

 心地好い目覚めだ、あの性癖の告白の後にイルメラとウィンディアと暗いベッドの上で並んで寝ながら本音の話をした。

 僕だって男だから好きな娘に色々としたい欲望は有るが、ケジメとして清い関係のままで結婚すると誓った。まぁ馬鹿だとは思うが、相手を大切に思う気持ちからだ。

 その分アーシャには負担を掛けてしまうが、彼女とは早く子供を作り立場を安定させてあげたい。唯一の側室だが従来貴族の男爵家令嬢だから身分は低い、だから色々と言う輩が多いんだ。

 身籠ればバーレイ伯爵家の跡取り候補の母親として、アーシャの立場は良くなる。貴族にとって血縁者、特に実子には強い意味が有る。後継者候補は当然だが婚姻による親族関係の構築が主な理由だ、特に娘はそうだ。

 

 貴族と言えども女性の地位は総じて低い、武を尊ぶデオドラ男爵家で最も才能に恵まれ赤い髪を継いだルーテシアが後継者になれないのも男尊女卑が原因だ。マリオン将軍は稀有な存在だな。

 逆に魔術師は血筋より才能により後継者となる、ウェラー嬢がそうだ。稀に後継者不足や傑出した才能により家督を継ぐ女性も居る、ザスキア公爵がそうだ。

 彼女は自分の才能を生かして公爵家を継いだ女傑であり、公爵四家の中で僕が一番信頼し警戒している女性だ。敵対したら相当の犠牲を覚悟しなければならない、だから最大限優遇する。

 

 もう少し寝れるかな?

 

 カーテンから射し込む日の光は未だ淡い、太陽が登って間もない時間だろう、多分六時過ぎ位か?

 起床は七時で今日は魔法迷宮バンクの九階層を攻略し早目に上がり冒険者ギルド本部に寄る、その後に魔術師ギルド本部に顔を出す予定だ。

 レニコーン殿とリネージュさんに回避率35%のレジストストーンの作成に成功しセラス王女に献上した件と、次は『睡眠』と『混乱』のレジストストーンを作成する予定だと伝える。

 実は王都の商業地区の一角に『王立錬金術研究所』の建物が有るので確認しておく事と、配下となる土属性魔術師の顔合わせの日程を組みたい。

 因みにリネージュさんが副所長となりサポートしてくれるが、コレットも所員に推薦しておいた。シルギ嬢の件も伝えておこう、贔屓無しで選定してくれと言えば察するだろう。

 

「ううん、リーンハルトさまぁ……」

 

「おはよう、起きたのかい?」

 

 抱き付いた腕に頬をスリスリしないでくれ、此方はいっぱいいっぱいなんだぞ。かなりギリギリなんだ!

 

「おはよう、リーンハルト君。少し恥ずかしいな、寝起きの顔を見られるなんて」

 

 此方は言葉で攻めて来たぞ、ヤバい昨夜の決意表明を反古にしたくなった。

 

「おはよう、ウィンディア。幸いだが薄暗いから少ししか見えないよ」

 

「リーンハルト君が少しエッチで変態になって帰って来たよ、嬉しいけど困るよ」

 

「殿方は少しエッチな方が良いのです、厳格過ぎるとスキンシップが少ないそうですよ」

 

 え?真面目で品行方正なモア教の僧侶のイルメラの言葉とは思えない、それはスキンシップを多く望むと言う事なのか?

 

「そうだね、浮気の心配はしてないけど奥手の心配はしたもん。少し変態さんだけど逆に良かったね」

 

 久し振りにウィンディアの『もん』を聞いた、やはり彼女が言うのが一番似合う。

 

 だが不思議な会話をしながら朝の支度をしますと部屋を出ていった、彼女達の夜着は真っ白の飾り気の無いワンピースで腰を赤い帯で縛っている。

 扉を開けて出ていく時に廊下の明るい光が差し込んで身体のラインが透けて見えてだな……

 

「駄目だ、欲望丸出しで迫るからエッチで少し変態になったと言われたんだ。反省しないと駄目だ、駄目駄目だ」

 

 思わず頭を抱えてしまう、僕ってこんなにも性に対して貪欲だったかな?もっと控え目と言うか抑えている方だった筈だし性欲も低かった。なのに転生してから少し弾け過ぎてないか?肉体の若さに引き摺られているのかな?

 本気で自重しよう、会えなかった反動がエロい方向に進んでいる。これは直さないと駄目だ、色を好むとか噂になれば酷い目に遭うのは分かっている。

 

 深呼吸をして心を落ち着けてから起きる事にした……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りに魔法迷宮バンクを攻略する、最後に来たのはマグネグロ殿と戦う前だったな。未だ宮廷魔術師第六席だったから自由が有った、今は立場に合わせた拘束が有るので辛い。

 気軽に魔法迷宮の攻略も出来ないんだよな、昨日の内に聖騎士団に連絡して管理小屋の騎士団員に通達して貰っている。

 僕がバンクを攻略するのはライル団長公認だ、賄賂ではないが発見した魔力の付加された武器を複製する研究をするって言ったら聖騎士団が全面的にバックアップすると意気込んでいた。

 前にマリオン将軍と共に毒付加の槍を売ったのだが、凄く気に入ってくれたらしい。

 急に僕が行ったら大騒ぎだが事前にライル団長から通達が行けば大丈夫、トップが許可してるから現場も混乱しない。

 冒険者ギルド本部も同様に連絡した、裏口から入る事になる。僕の立場では一般募集の依頼は受けられない、指名依頼も無理だ。

 冒険者としての活動よりも魔法迷宮の攻略に専念するしかない、エムデン王国以外の魔法迷宮にも行けなくなった。

 廃嫡して平民となった冒険者だったら可能だったが、公人として要職に就いた今では不可能だ。

 身分を偽り他国に入り込んでバレたら大騒ぎになる、下手したら開戦の理由にされるだろう。侵略目的で単一最強戦力の宮廷魔術師を調査に向かわせた、または籠城時に内側から攻める為にとか理由は幾らでも用意出来る。

 

 家紋の無い黒塗りの馬車に乗って魔法迷宮バンクに向かう、身元を隠す配慮だが貴族絡みだとは直ぐにバレるだろう。前に『デクスター騎士団』だっけ?子爵の実子達も同じ様な馬車でバンクに来ていたな、懐かしい思い出だ。

 

「リーンハルト様、改めて凱旋おめでとうございます。中々言い出せなくて……」

 

「忙しくて御免ね、エレさん。有り難う、無事に帰れて良かったよ」

 

 広くない四人乗りの馬車で僕の隣の位置を確保したのは素早い盗賊職だけの事はある、向かい側に座るイルメラとウィンディアは苦笑いだ。

 

「メノウさんの件だけど、マテリアル商会の会長との復縁は……」

 

「お母さんとも話した、拒否しますって。色々と大人の事情に巻き込まれるのは嫌だって」

 

「そうか、そうだね。強引に屋敷に呼んじゃったけど平気かい?」

 

 大人の事情って言うか、元凶は僕なんだよな。取り入る為にメノウさんとエレさんが巻き込まれた、それは間違い無いだろう。彼女達は僕と縁が出来た事により自由が無くなった、関係者として周囲から見られる。

 だから守らなければならないんだ、何としてもね。

 

「平気、だけど気分は貴族のお姫様。タイラントさんが私にもマナー教育が必要になるからって勉強が大変」

 

 少し疲れ気味に教えてくれたけどさ、何故タイラントはエレさんにマナーを教えるんだ?

 チラリとイルメラを見れば笑っている、とても綺麗で見惚れる笑みだが知ってるだろう理由は教えてくれない。これは深追いは危険と判断した、後でタイラントに聞こう。

 

「そうなんだ、大変だけど頑張ってね」

 

 思わず頭を撫でてしまう、当たり前だがエレさんには匂いを嗅ぎたい衝動は起こらない。だが我が子みたいに愛でたい衝動は押さえられない、何故だろう?

 

「やはり子供扱い、淑女には程遠い」

 

「ごっ、御免ね。つい撫で易くて止まらないんだ」

 

 撫でていた手を止めて謝る、彼女達の前では僕は伯爵でも宮廷魔術師でもない。ただの冒険者『ブレイクフリー』のリーダーであるリーンハルトなんだ、この対応が凄く嬉しい。

 

「そろそろ到着かな、大袈裟な出迎えが無いと良いんだけど無理かな?」

 

「リーンハルト君は王都で一番人気だからね、難しいんじゃないかな?」

 

「全くの歓迎無しは逆に失礼、何かしら用意してると思う」

 

「民衆の方々からの支持が凄いのです、流石は私達のご主人様です」

 

 む、またイルメラの私のご主人様話が出たな。私達の旦那様だと嬉しいのだが、エレさんが居るから誤解されると思ったのだろう。

 

「特別扱いは嫌だけど魔法迷宮バンクの攻略も宮廷魔術師としての仕事にも繋がるからね、高品質のドロップアイテムを複製出来るかもしれないし……そろそろ到着だ、素早く目立たず行動したいから準備をしてくれ」

 

 見慣れた管理小屋と冒険者ギルドの出張所の隣に建物が増えている、しかも聖騎士団員が整列していれば僕関連だと分かる。

 此方に気付いたのだろう、馬車の停留場所に一人の騎士団員が歩み寄ってくる。馬車が止まり御者が扉を開けてくれたが、この出迎えでは僕が最初に降りないと駄目だよな?

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト卿。お待ちしておりました」

 

 後ろに並ぶ騎士団員二十人も同時に頭を下げてくれたが、遠巻きに何人かの冒険者達が見ている。ヒソヒソ話してるのは僕が誰だか分かったんだな、慌てて頭を下げてくれたし……

 

「有り難う、だが余り大袈裟にしないで欲しい」

 

「いえ、ライル団長からリーンハルト卿を丁重におもてなしする様に厳命されております。

我等聖騎士団の為にレジストストーンや武具の研究を進める為にバンクを攻略すると聞いておりますし、既に聖騎士団の予算からレジストストーンの購入案も固まりました」

 

 ライル団長め、騎士団員を焚き付けたな。嬉しい協力だが大量発注するから安くしろって意味も有るのだろう、聖騎士団は総勢三百人を越える。

 回避率35%や30%は高いし僕しか作れない、だから20%前後を大量に作らせて格安で売るかな、新しい所員の土属性魔術師達の訓練も兼ねれる。

 上級団員の為に少数の高性能品を渡せば予算は切り詰められる、見習いは回避率にばらつきが有るから安く提供出来る。最大値引きで一個金貨十枚、三百個で金貨三千枚は高いな。

 

「そうですか、ライル団長にはお世話になっているので最大限協力しましょう。それで今日は高ランクパーティは来てますか?」

 

 ランクC以上なら八階層以降で鉢合わせする可能性が有る、帳簿にはパーティ名と人数と冒険者ギルドランクを書くから分かる筈だ。

 

「ハッ!本日の探索者は総勢百二十七人、二十四パーティです。ランク別ではCが一組にDが三組、Eが八組で残り十二組がFです」

 

「有り難う、早速挑戦して来るよ」

 

 ランクCは一組か、ならば遭遇率は少ないな。ボス狩りの予定だから余計に会わないだろう。

 畏まる騎士団員に軽く手を振って魔法迷宮バンクの入口を潜る、あの新しい建物の事は聞けなかったが帰りは寄る事になりそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「久し振りの魔法迷宮だな、この湿気を含んだ空気が懐かしく感じるとは驚いたよ」

 

 エレベーターを降りると10m四方の部屋となっており前面と左右に扉が見える、八階層は大ホールでモンスターが沢山ポップしたが違うみたいだな。

 天井・壁・床と正方形にカットされた石が隙間無く嵌め込まれている、表面は磨いたみたいに平坦だ。これは滑り易いぞ、戦闘の時に踏ん張れるかな?

 

「いきなり九階層まで降りて来たけど大丈夫かな?」

 

「冒険者ギルド本部から完成品のマップを貰って来た」

 

「通常の手段で降りれるのが九階層です、武器庫と宝物庫の他にセーフティゾーンと呼ばれるモンスターがポップしない部屋が三ヶ所有ります。九階層のボスはグレートデーモンが六体固定です」

 

「グレートデーモンね、懐かしいけど思い出したくない」

 

 ウィンディアが顔をしかめたが自分とルーテシア嬢が殺されかけたモンスターだ、僕等の出会いの切っ掛けでも有るが他人には話せない秘密なんだ。

 グレートデーモンは未だ僕が駆け出し冒険者時代に遭遇した『デクスター騎士団』を全滅に追い込んだモンスター。

 あの時、ウィンディアは腹を爪で刺される重症を負っていた。オリジナルの毒性を強力にしたポイズンミストで何とか倒したんだ、自然魔力回復力増のデモンリングとレイス系ダメージ大のデモンソードを手に入れた。

 デモンソードは空間創造に収納しっ放しだが、デモンリングは重宝している。魔術師と僧侶には必須のアイテムだ。

 

 確か品薄で入荷待ちの予約が多いとか言っていたっけ?今回の攻略で冒険者ギルドに、ある程度纏まった数は提供できるだろう。

 


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