古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

361 / 996
第361話

 折角戦争で危ない事はしないと頼まれて誤魔化せていたのに、デオドラ男爵の不用意な言葉によりバレた。

 確かに僕のゴーレム運用は前線に行かないと駄目だ、制御範囲の関係で五百体のゴーレムを運用出来るが半径700mが限界だ。

 戦場での700mは近いかも知れないがロングボゥの最大射程距離300mを足せば1kmは離れられる、決して最前線で剣を交える戦いはしないのだが純粋に心配された。

 ご機嫌を回復させる為に一緒にライラック商会の本店に宝石を買いに行く事にした、宝石は購入し僕が錬金で装飾品にする。流石に空間創造に収納している三百年前の物を使うのは問題だ、入手先を言えないから……

 

 本妻殿と側室の方々とのお茶会を行うが昼食は辞退させて貰う、三日間の休暇だが色々とやる事が有ると説明して申し訳無いが暫くは忙しいのでお茶会や音楽会等の参加は出来ないと念を押しておく。

 凄く残念そうなのは色々と企画していたんだな、だが少しは自由時間が欲しい。そういう意味ではハイゼルン砦の総司令官をしていた時は楽だったな……

 

 その後でアーシャとジゼル嬢を宥めて漸く自分の屋敷に帰る事が出来た、流石に二泊は出来ない。早くイルメラとウィンディアに会いたいんだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 デオドラ男爵家の家紋の付いた馬車に乗って帰宅する、本来なら使いを出して迎えに来させるのだが水臭いと言われてしまった。

 僕がデオドラ男爵家の馬車に乗る事にも対外的な意味が有るのは分かるが、側室の実家に頼り過ぎと思われてしまう。

 前は良かった、向こうが爵位も権力も財力も上だから頼る事に抵抗は無かった。だが財力は別として爵位と権力は逆転した、この事を材料に指摘し嫌味を言う連中も居る。

 

『未だ頼るのか?既に自分の方が上なのに、下に頼るとは情けない』

 

『デオドラ男爵より爵位は上がっても関係は今でも下なんだな』

 

『節約家なのは良いが時と場合を考えるべきだ、急に金持ちになったら守銭奴になったのか?』

 

 色々と言われているらしい、イーリンとセシリアが調べて誰が言ったかまで知らせてくれる。恐ろしい情報収集能力だが、王宮の侍女達の一部も協力的らしい。その為に合同お茶会なる不思議な催しに強制参加なのだが、諜報の対価としては安い物だ。

 

 考えに耽っていると時の経つのが早い、もう貴族街を抜けて新貴族街の僕の屋敷の近く迄来ている。見慣れた景色に帰って来た事を実感する、やはり自宅とは良いものだな。

 

「リーンハルト様、到着致しました」

 

 窓から顔を見せれば、僕を確認したバーナム伯爵とライル団長から派遣された警備兵が正門を開けてくれる。警備の責任者も派遣してくれたが、未だ顔合わせはしてないんだ。

 正門を開けて左右に整列して招き入れてくれる、全員が三十代以下の若く逞しい連中だ。それなりの人材を派遣してくれたのだろう、余談だが本妻(予定)としてジゼル嬢がナナルと共に面接している。

 ギフトにより思考と能力を調べられて問題無しと確認されている、凶悪なコンビだよな……

 

 玄関前に馬車を横付けして貰い降りれば全員が整列して出迎えてくれた、懐かしい顔に思わず笑みが零れる。

 イルメラとウィンディアを中心に家臣として雇ったコレットにアシュタルとナナル、リィナもメルティと一緒にサラの後ろに控えている。

 エレさんとメノウさん母娘も同様だがタイラントはコック長のナフサと見習いのフォルスと共に少し離れた位置で全体を見渡している、全員元気みたいで良かった。

 

「ただいま、留守中に何か変わった事は有ったかい?」

 

 先ずは全員に声を掛ける、主人として雇用主として大切な事だ。この未だ少ない仲間達が、この先僕の家臣としての中核を担ってくれる。

 

「お帰りなさいませ、リーンハルト様。問題は有りませんでした」

 

「お帰りなさい、リーンハルト君。少し寂しかったよ」

 

 代表して?二人が返事をしてくれた、本当なら両手を広げて抱き締めたいところだが誰が見ているか分からない。彼女達が僕の大本命だと知られたら色々と不味い、後援者を見付けて側室に迎える迄は極力我慢だ。

 

「うん、留守を守ってくれて有り難う。アシュタルもナナルも色々と世話を掛けたね、大分仕事を減らしてくれて助かる」

 

 次は初めての家臣の二人に声を掛ける、順番は大切だし有能で事務仕事の出来る彼女達は貴重だ。僕を弄る所は改善して欲しいが許容範囲としておこう。

 

「「お帰りなさいませ、御主人様。凱旋おめでとうございます」」

 

 一語一句間違えずに揃ってるよ、だが彼女達は良い買い物だったな。内政系の家臣が少ない僕には貴重な能力で助かる。

 

「コレット、少し魔力総量も増えたし身に纏う魔力制御も良くなったね。大分鍛練したみたいだな?」

 

 相変わらず女性っぽい服装だ、前にも言ったが女性に間違えられるのを嫌がるのに服装は似合わないからと女性っぽいのを着るんだよ。

 

「うん、魔法迷宮バンクの探索が進んだよ。イルメラさん達との連携も慣れてきたかな」

 

 コレットとアグリッサさん達にはイルメラとウィンディアとパーティを組んで、魔法迷宮バンクの攻略をお願いしていた。レベルアップがメインだが少しでも強くなって欲しかった、自衛の為にだ。

 

「そうか、有り難う。それと、リィナ。王都には慣れたかい?」

 

 控え目な性格の為かサラの後ろに隠れる様に控えている彼女に声を掛ける、早く王都とこの屋敷に慣れて欲しい。そしてメイド服が似合っているな。

 

「はっ、はい。皆さん良くしてくれますので……その、楽しく仕事をしています」

 

 良い笑顔だ、控え目だが本心から喜んでいるのが分かる。やはり後妻の件は嫌だったんだな、引き取って良かった。

 

「それは良かった。サラとメルティの二人に良く学んで早く仕事を覚えてくれ、サラとメルティも頼む」

 

「畏まりました、リーンハルト様」

 

「分かりました、リーンハルト様!」

 

 サラは確りしているし落ち着いている、流石はジゼル嬢がメイド長にと寄越した事は有る。

 実際有能だし気配りも配慮も出来る、平民出身なので下級貴族の子女が多いデオドラ男爵家ではメイド長になれなかった。

 メイドにまで身分による上下関係が有るらしいが、僕は他にもメイドが増えても彼女をメイド長から変える気はない。譜代の家臣なのだから新参者に交代はしない、これも雇用者側の配慮だ。

 働き易さとヤル気を起こさせる環境の整備は必要、だから忠誠心が芽生え裏切りが減る。防諜対策にもなるから地味に大切なんだよな。

 

 メルティは元気一杯好奇心一杯な娘だ、此方は下級貴族の四女らしい。実家に仕送りをしている家族思いなのだが、父親は女好きで収入が少ないのに本妻に妾二人で子供が十人居るそうだ。

 後継者以外は働きに出てるそうだが末の子供は未だ生まれたばかりとか聞いたな……

 

 その後でタイラントとコック二人に声を掛けて現状の報告と昼食のリクエストをしておいた、久し振りに自分の屋敷で過ごせる。だが直ぐに引っ越しなので辛い、住んだのは短期間だが愛着は有るんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 自分の執務室にイルメラとウィンディアを伴い入る、他の連中は遠慮して貰った。三人だけなのだが扉を開けた瞬間に一ヶ月以上放置した事を悔いた。

 執務机に置かれたトレイ二つに整然と積まれた親書の山、贈り物の目録が巻物みたいになっている。部屋の隅には現物が山積みで入りきれない物は隣の部屋を侵食していた。

 ジゼル嬢が定期的に訪ねて処理してくれたらしいが、予想を上回る量に驚いたし嬉しくも有る。皆が祝ってくれているのだ、粗略には扱えないが休みの二日間で処理出来るのか?

 

「折角三人切りになっても仕事の山を見てしまうと、ちょっとアレだね」

 

 前回もデスバレーにドラゴン狩りに行って仕事が山積みだったが、今回は更に酷い。いや祝いの品や手紙だから気持ちは嬉しいのだが量が凄い、前回の三倍以上有るぞ。

 

「今回はエムデン王国内の商人さん達からもお祝いの品や金貨が来てるよ、出陣式の言葉に感激したって民衆から絶大な支持を得たんだよね」

 

「敵対していない、中立や様子見の方々からも一斉に祝いの手紙や品物が来たとジゼル様が異性には見せられない笑みを浮かべていました。此方の目録が慌てた方々のリストと品物の目録、それと手紙の返信です。

一応リーンハルト様に内容を確認して欲しいと頼まれてます」

 

「ジゼル様が四割は処理してくれたんだよ、机に乗ってるのが残りの六割だよ」

 

 アレが残りの六割?半数近くをジゼル嬢が処理してくれたのか、それは大変だった筈だ。相応の礼をしないと駄目だな、王宮の執務室に届けられた方はザスキア公爵本人が半分処理してくれた。

 それでも残りが山盛りとは人気者は辛いな、嬉しい意味では言ってないぞ。

 

「二人共おいで」

 

 長いソファーの真ん中に座る、両側に座った二人が腕に抱き付いて来た。久し振りに二人の匂いを堪能する……むふぅ、イルメラのミルクの匂いにウィンディアは柑橘系の匂いだ。

 胸一杯に吸い込んでは吐き出す、やはり僕は女性の体臭に拘りを持っているんだな……

 

「あのリーンハルト様?首筋に鼻を押し付けられて匂いを嗅がれては恥ずかしいので困ります」

 

「私は平気だけど胸元に顔を押し付けるのは恥ずかしいよ」

 

 交互に匂いを嗅いでいたら叱られた、だが止められない止まらない。この転生してから芽生えた性癖には逆らえないんだ!

 

「イルメラとウィンディアの成分が切れ掛かっていたんだ、僕は君達と一ヶ月も離れると駄目らしい」

 

 今気付いたのだが、彼女達は今風のデザインである胸元が少し広めに開いたドレスを着ている。本人達に気を取られて気付かなかったんだ、反省しなければ駄目だが今は忙しい。

 

「イルメラさん、リーンハルト君が変だよ。変態さんになってるよ、私達限定だから良いんだけど人前では見せられないよ」

 

「私は……あっ、駄目です、リーンハルト様。そんなに強く吸われては……」

 

「ん、もう!イルメラさんったら、自分も喜んじゃ駄目だよ。でも私の匂いが好きだって言うなら、嬉しいかな」

 

 ああ、男の本懐ここに極まれりだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 久し振りに自分のベッドで寝る事が出来た、王宮のベッドよりは品質は低いが両隣に素晴らしい宝物が居てくれる。幸せだ……

 

 午後は土産話に花を咲かせて貰った祝い品の幾つかを皆に分けた、還元するのが雇用者としての務めだ。

 女性陣には宝飾品を男性陣には金貨で労をねぎらったのだが、何故かコレットは宝飾品を欲しがった。男性らしくなりたいと言ったのにブローチを欲しがるのは何故なんだ?

 夕食後は溜まった仕事に取り掛かり、疲れて三人一緒に寝る事になったが添い寝だ。モアの神に誓って疚しい事はしていない、ちゃんと嫁に貰う迄は清い関係を貫く。

 

 仰向けに寝た右側にイルメラ、左側にウィンディアが居て僕の腕に抱き付いている。まさに両手に花の状態であり至福の時でも有る、転生して一番幸せを感じている瞬間だ……

 

「リーンハルト様、起きてますか?」

 

「ん?起きてるよ、何か寝れないんだ。安心してるし幸せなんだが妙に意識が冴えている」

 

 両手に伝わる温もりと柔らかさを全身全霊で感じているからだ、僕はこの瞬間を忘れない。薄暗いから顔は良く見えないのが残念だ、寝顔が見えないんだ。

 

「ふふふ、ウィンディアは安心して寝てしまいましたね。私達、リーンハルト様の事は信じていましたが無事に帰って来てくれる迄は心配だったんです」

 

「手紙を送れたら良かったんだが、諜報対策で無理だったんだ。心配させて済まなかった」

 

 ミケランジェロ殿の伝令部隊は信用していたが、報告先は限定していたし私用で頼むには気が引けたんだ。もし伝令部隊が敵に捕縛された時、僕の弱点として彼女達が狙われるリスクを考えたら我慢するしかなかった。

 

「その、何故最後迄なさらないのですか?私達も覚悟は出来ているのですが……」

 

 イルメラの告白に思わず身体が固くなる、そんな事まで考えていたのか?一応プロポーズはしたから恋人だし問題は無いんだよな?

 

「ちゃんと結婚する迄は控える予定だ、そのケジメって奴だと思う」

 

 一線を越えたら歯止めが効かないと思うんだ。

 

「では私達も我慢いたします、ウィンディアも良いですね?」

 

「分かったわ、抜け駆けはしないから」

 

 おぃおぃ寝た振りかよ!

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。