盗賊ギルドが主催するオークションに参加した。
ランク的には低いオークションだが金貨何百枚とかで競り合うのには参加出来ないし、自分の所持する低級の属性魔法付加の武器の価格が知りたかった。
最初の『防毒の小手』は金貨52枚、しかもバンクで見付かったそうだ。ボスのドロップアイテムの検証も有るし魔法迷宮とは興味が尽きないな……
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最初の出品は『防毒の小手』次は『硬化の盾』『硬化の兜』『硬化のブーツ』等の普通の防具に固定化の魔法を付加した物、価格は魔法付加前の値段の三倍程度が落札価格だ。
この辺は今の僕でも作れるレベルだな……
大抵は金貨100枚以下で落札されているし落札者は現役の冒険者が多い。少しでも自分の装備品を良くしようって事だな。
出品数が16番目になってから、つまり残りの五つが目玉商品だ。
「はい、次からは目玉商品になります。
先ずは『硬化のハーフプレートメイル』です。鎧系は中々宝箱から見付かりません、久し振りです。
最初は金貨100枚からです」
あれ?ニケさんに渡したハーフプレートメイル、このオークションで競り落としが熾烈な奴より格段に高性能だけど……
だって、アレには固定化に軽量化に衝撃緩和まで付加したし鎧の性能自体も目の前の奴より出来が良い。
「金貨150枚、150枚出ました……はい、180枚です。アーッと金貨200枚、200枚です」
何故なら今の僕の出来る限りの技術を注ぎ込んだ逸品だからだ。この時代は転生前の僕が生きていた時代よりも魔法技術が低いな。
「はい、金貨200枚で落札です。おめでとうございます」
金貨200枚、アレで金貨200枚だと?あの程度の魔法付加なら今の僕でも一日に50回以上出来る。不味いなコレは、この時代の魔術について調べないと異端として見られ碌な事にはならない。
今の時代は何か変だ、300年の間に魔術とは魔術師とは何が変わったんだ?少なくともランクC以上になる迄は魔法属性の付加については自分達が使う以外は自重しよう。
「リーンハルト君、どうしたの?」
「急に黙り込んで、オークションの熱気にやられたのかな?」
む、考え込むと周りが見えなくなる癖も直した方が良いな。女性陣に心配させてしまうとは男として未熟者だね、心配そうに此方を覗き込む二人に笑いかける。
「うん、確かに凄い熱気だね。
でも固定化されただけの『硬化のハーフプレートメイル』が金貨200枚になるんだね、少し驚いた。
素材の鎧自体も質は余り良い物じゃないのにね。ゴーレム使いとしては少し疑問に感じたんだ」
僕の嘘を信じてくれたのか、笑って次の出品が始まると教えてくれた。
その後に出された品物は『火属性のロングソード』が三本だが、昔は殆どの火の属性魔術師が大量に造ったのがコレだ。
同じ物が三本と言う事で良く観察出来たが、装飾も刀身の造りも鞘までも全て寸分違わず同じだ……落札価格は最初の一本が金貨180枚で残り二本は買い手が付かなくて次回に繰り越し。
そしてラストの出品は『体力回復の指輪』だったが、効果は小で落札価格は金貨165枚と微妙だった、やはり武器や防具に人気が集まるんだな。
色々と考えさせられるオークションは無事に終わり、僕はベルベットさんとギルさんにお礼を言って別れた。
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自室のベッドに仰向けに倒れこみ魔法の灯りでボンヤリと照らされた天井を見詰める……僕の魔術と今の時代の魔術に違いが有るのかを知りたい、早急にだ。
ゴーレム召喚やポイズンミスト、ストーンブリットは人前で見せても大丈夫だった。土属性の魔術なら冒険者養成学校で初級から中級までは教わる事が出来るから大丈夫だ。
水属性が使える事は隠しているから教えを請うのは不自然だろう。
ゴーレムについては土属性の魔術師で有名なのはバルバドス氏だが、弟子がアレでは期待出来ない。リプリーやウィンディアでは未熟だから教わるにしても微妙だ……
「魔術師には必ず師匠が居る、僕は母上から教わった事にしてるし、母上は冒険者時代にパーティを組んでいたロータルと言う魔術師に教えて貰った事にした、実際は嘘だが……」
やはり誰かに師事した方が無難なのか?僧侶の母から教えて貰い後は独学でとは変だろうか?今更師事するのも逆に変だし師弟と言う上下関係を作るのも問題有りそうだな……明日、冒険者養成学校で聞いてみるか。
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翌日、冒険者養成学校に真面目に通う、週末は休みだから五日目の今日が今週最後になる。
来週は初日が実地訓練でタクラマカン平原に行く事が知らされている、今回は純粋にゴブリン討伐のみだから如何に数を倒すかだな。
気持ちが急くが午前中の講義の前半は来週行くタクラマカン平原に生息するモンスターの生態を主に教えてくれた。
ゴブリンの他に巨大な蜂のビックビーが居て、平原に小山の様な巣を造り幼虫の餌となるタンパク質を集団で集めるそうだ。
奴等は羽根を広げても50㎝位しかないが、数が多いし動きも速い。ゴブリンよりも注意が必要だし、此処まで入念に教えてくれるのは実地訓練の裏の目的はビックビーの対処だな。
此処の先生方はそういう嫌な事を引き起こして突発的な対応を学ばせる気だと思っている。つまり事前にヒントは与えたから準備を整えておけって事だ。
虫除けと刺された時の解毒薬、それと高速で飛び交うビックビーを倒す手段だが……簡単なのは複数のゴーレムの召喚による数の暴力だが、それをやると先生方の評価は低いだろう。
パーティメンバーと共に対処となると、どうしようかな?
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講義の後半は応急処置の方法だ。水の属性魔法も使える僕はイルメラ程の威力は無いが一通りの治療が出来る。
麻痺・毒・怪我の回復どれも大丈夫だし、特に毒に関しては人より詳しい自信が有る。
講義は切られた場合の止血の方法……
傷口に近い血管を押さえるとか紐で縛って止血した場合も30分毎に緩めて血を流さないと患部が壊死(えし)してしまうとか。
後は一番傷付けては危険な場所……
頭部外傷、打撲による皮下血腫(たんこぶ)から骨折、又は外傷が無いが脳震盪による意識障害など治療魔法でも時間が経ち過ぎると後遺症が出たり治療が出来ない場合が有る。
少なくとも六時間以内には治癒魔法を施して貰うか教会に運び込んで治療をして貰うのが必要。頭部の怪我は下級ポーションでは治せない場合もあるので注意が必要と繰り返し説明された。
最悪腕や脚がもげても腹に穴が開いても治せるが頭は無理って事だな。
今日習った事をノートに纏めていると、ウィンディアとベルベットさんギルさんが待って居たので一緒に昼食を食べた。
何故か四人行動が当たり前な扱いなのが不思議だ。ゼクスやスィーも恨めしそうな目で此方を見てるし、あれは嫉妬の篭った眼差しだから放っておくと不味い。
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午後の武術の授業をパスして図書室へ向かった。図書室は冒険者ギルド本部内に有り入館には制限が多い。
閲覧も目録からタイトルを申告して一冊ずつしか借りれない、盗難防止とかなんだろうな。分厚い目録を見ているがタイトルから中身を想像するのが難しい。
『ボルドー領主お抱え魔術師ヘラーの記録』
『コソドの内乱で功を上げしデスラーの魔術と生涯について』
『偉大なる宮廷魔術師マーサ生涯の挑戦』
この時代の魔術師って自己主張激し過ぎない?本のタイトルに自分の名前付けるって、しかも内容が自伝か自慢話か想像出来ない。
何で『土属性魔術初級編』とか無いんだよ!
司書さんに怒られない様に丁寧に目録を捲り書かれたタイトルに目を通すが無理だ、適当に借りるか?
「熱心に目録を読んでますがお探しの本が有るのですか?」
「えっ……ええ、まぁその実は土の属性魔術について書いてある本を探してまして……」
ウンウンと悩む僕を可哀想に思ったのか、司書さんが声を掛けてくれた。やはり本職に聞くのが良いよね?
30代前後のふくよかで優しそうな司書さんは僕の手から目録を取ると直ぐに一冊のタイトルを指差してくれた。
「この『ワグナー大全集』が土の属性魔術について書かれているわよ」
「タイトルから内容が全く想像出来ません!」
「そうね、でも直筆本なんてそんな物よ。別に教材として書いていないから殆どが自伝か自慢話よね」
「そんな馬鹿な!」
叫んだ僕は間違ってない自信が有ります。
司書さんは書架から一冊の本を取り出して渡してくれた、貸出はギルドカードの提示が必要だが養成学校に通っているので料金は無料だった。
手渡された『ワグナー大全集』は皮のカバーの如何にも手製感たっぷりの薄い本だ、厚みは2㎝も無い……
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図書室内に設置された閲覧コーナーに向かう。
一人用のテーブルと椅子が用意されているが木製だから固く長時間の読書には向かないな。
早速『ワグナー大全集』を読む……読んで……読む努力を……
「駄目だ、ワグナー氏の生い立ちから始まる自己紹介文が長い……
既に全体の半分迄読んだが、生まれてから結婚し離婚して再婚した波乱万丈な人生の折り返し地点で本も半分だぞ……」
挿し絵も最初の奥さんと二番目の奥さんの肖像画だし別れた理由は死別だが、相当な遊び人だったみたいだ。因みに肖像画とは本人の添削が入る事を見込んで美化三割が普通だが、それでも美人に書かれている。
萎えた気力を振り絞り、何とか頁を捲る……
最初の妻は親戚の紹介で二番目は愛人から後妻らしく馴れ初めとか書いて有るのが凄くどうでも良い。
「とある夜会で一目惚れをした君と偶然の再会を果たす為に、彼女の一族を調べ上げて金に不自由している叔父を買収して紹介して貰ったね……」
転生前の僕は恋愛など無かったな……相手は全て宛てがわれた女性達で彼女達も別に僕個人が好きではなく、宮廷魔術師筆頭の肩書きと血筋を欲しただけだ。
勿論、彼女達も僕に尽くしてくれたし情を交わせば愛着も湧いたが、それが好きと言う感情なのか分からない。
彼女達に向けた思いとイルメラに向ける思いは全く違う、別物だ。
多分だが僕は何処か壊れているのだろう、転生など神から与えられた寿命を曲げる禁術であり外法でしかない。
家族の愛も伴侶との愛も知らない僕は……
気を取り直して頁を捲る……漸く魔術について書かれ始めたぞ。
『土属性の魔術師にとってゴーレムは必須の魔術。
過去の偉人達は人間に近付けようと努力したが近年は人型に拘る事が少なくなった。
より機能的な形を追い求めると人型の何て不便な事か!
私は従来の人型ゴーレムを……』
何だと……このイラストのゴーレムって……腕の長さ長すぎ、幾らリーチを稼ぐ為とはいえカニみたいだぞ。
何だコッチは足が車輪になっているが小回りが効かないだろ!
水中用の人魚タイプは認めよう、だが何故上に何も着ていないのだ?鎧着せろよ、造形重視で関節とかないじゃん、動かないぞコレ……
そっと本の頁を閉じる、駄目だこの本趣味に走ってやがる、気持ちは分かるが方向性には同意しかねる。
「司書さん、本を返します。これは参考になりませんでした。
すみませんが、呪文の覚え方とか種類とか載ってる本とか無いですか?」
「ああ、呪文ですね。
それなら此方の教材を見たらどうですか?」
カウンターに差し出された薄い本のタイトルには『土の属性魔法:初級編』と書かれていた。
「最初からコレを出して下さい、序でに聞きますが『水の属性魔法:初級編』も有りますか?」
微笑みで頷かれたので思わず額をカウンターに着けてしまった。
泣ける展開だが諦めて本を受け取り席に戻って本を開いた。
初級編で覚えられる呪文は五種類、攻撃系の『ストーンブリット』『ストーンランス』防御系の『アースシールド』『アースウォール』そして召喚系の『クリエイトゴーレム』
良かった、僕の時代と同じだ。
勿論これらは基本の基本で有りレベル上昇や技能・技術の向上により威力は上がる。同じ呪文でも術者の能力により威力が違うのを学んだ。
『ストーンブリット』の大きさが頑張っても拳大迄でそれ以上は形をランス状にして撃ち出す『ストーンランス』に分類されるらしい。
だが『ストーンブリット』の応用編には散弾の様に広範囲に複数の弾を撃ち出す方法もあった。
「これだな、高速で飛行するビックビー対策に適した呪文は……だが昆虫の外皮を撃ち抜くとなると拳大は必要だよな。速射と散弾を使い分ければ大丈夫だろう」
そっと『土の属性魔法:初級編』を閉じて余韻に浸る、現代との差異が酷過ぎる。次に『水の属性魔法:初級編』を借りて読む事にする。疑われる事なく両方の属性の本を読めて良かった。