古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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明けましておめでとう御座います。今年も宜しくお願いします。思った以上にストックが出来たので1月一杯は連続投稿を続けます。

今年の最初の目標は目指せ通算UA500万!


第358話

 デオドラ男爵がジゼル嬢を同伴しなかった理由、それはドワーフ族のグリモア王から非公式で僕に面会を求めて来て同意に近い対応をしたのだが……

 

 エルフ族から横槍が入った、僕は『ゼロリックスの森』のエルフ族、レティシアと縁が有る。三百年前から繋がる縁であり、僕が転生した事実を知る唯一の女性だ。

 他にはマジックアイテムを買いに『エルフの里』に行き、失礼な対応をしたバイカルリーズと、それを諌めたディース殿。後はレティシアの後任のファティ殿としかエルフ族との面識は無い。

 だがレティシア経由で同じ様にエルフ族の長にまで話が行ってしまったらしい、短命な人間を見下すエルフだが齢350歳のレティシアは『ゼロリックスの森』のエルフ達の中でも古参らしく発言力が有った。

 しかも後任のファティ殿からの定時報告で人間の魔術師としては子供ながらも上位、そんなエルフ族とも縁の有る人間がドワーフ族と懇意にしては気分が悪い。

 

「つまり長年仲違いしているドワーフ族とエルフ族の両方に縁が有るのが気に入らない、どちらかにしろって事ですね?」

 

 微妙な顔で曖昧な態度だな、何時もの豪快さがないのは何故だ?

 

「まぁ簡単に言えばな」

 

 僕は土属性魔術師としてドワーフ族と仲良くしたいのだが、エルフ族にはレティシアが居る。彼女以外は正直どうでも良いのだが、転生した事を知られているからな。無下にすると不味い事になる。

 それにニーレンス公爵が契約を結んでいる『ゼロリックスの森』のエルフ族からも圧力が掛かるかもしれない。彼等は魔法特化種族だし敵対したらエムデン王国が傾くぞ。

 

「どちらを選んでも角が立ちますよね?希望はドワーフ族の方ですが、万が一にもエルフ族と敵対関係になれば他にも悪影響が広まる。ここはグリモア王への面会は辞退するしかないですね、残念ですが……」

 

 エルフ族はバイカルリーズの対応を見ても彼等は人間を見下している、粗略に扱われたと感じれば敵対行動を取る可能性が高い。だが今の僕でも勝てないだろう連中が束になって攻めてくれば、エムデン王国は滅びるだろう。

 宮廷魔術師筆頭クラス以上が群れをなして攻めて来る、悪夢でしかない。

 

「屋敷に来た使者殿にお会いした方が良いですよね?僕の方からグリモア王との面会は辞退すると伝えましょう、種族間の争いは当事者にしか分からないので慎重に行動した方が良い」

 

 魔力の隠蔽が完璧過ぎて屋敷に来た事すら分からなかった、エルフ族が人間の貴族の屋敷とはいえ訪ねて来るのは異例だろうな。

 

「そうしてくれ、先方もお前に会いたがっているぞ」

 

 ん?変な言い回しだな。僕に会いたいエルフ族ってなんだ?直接文句を言いたいって事だよな。

 

「僕にですか?」

 

 それはそれで厄介事の臭いがプンプンして来たな、だが自分で撒いた種だから自分で刈り取るしかないのだが……本心は嫌々なのだが使者殿が待っている応接室へと案内して貰った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します」

 

 デオドラ男爵の屋敷でも最上級の応接室に通されていた使者殿は……

 

「久し振りだな、リーンハルト」

 

「レティシア殿?何故に使者役など受けたのですか?」

 

 絶世の美女が不機嫌な態度を隠そうともせずに足を組んで座っていた、これはジゼル嬢には会わせられないな。痴情の縺れじゃないが、女性関係の争いとか考えたくもない。

 

「お前が私を待たせているのに、ドワーフの王に会うとか言い出すからだ!」

 

 あ、これは駄目なパターンだ。デオドラ男爵も呆けた顔で固まっている、どう見ても聞いても痴情の縺れだよ。

 しかもレティシアはプンプン怒ってるし、世に広まる冷酷で感情の起伏の乏しいエルフ族の態度じゃないし……

 

「僕は七年以内に力を付けてレティシアに戦いを挑むと約束しました、その為に貴女は僕に『疾風の腕輪』を預けてくれた。これが有れば『ゼロリックスの森』に住む貴女に会えるから。そうですよね?」

 

「そうだ!それなのにドワーフの連中とコソコソ会うとか何を考えているんだ?」

 

 レティシア殿もドワーフ族は嫌い、この『疾風の腕輪』もヴァン殿から貰った『剛力の腕輪』が嫌いだからとくれたんだ。種族間の争いとは根が深い、三百年以上前から続いているから当たり前だな。

 

 彼女の正面に座る、デオドラ男爵は少し離れた場所に立って此方を窺っている。巻き込まれたくないってか?

 

「鍛練は欠かしてません、今で半分かな」

 

 隠蔽していた魔力を完全解放する、デオドラ男爵の前でさえ全力は見せなかったがレティシアを納得させるには隠しては駄目だと判断した。攻撃的な魔力の放出にレティシアとデオドラ男爵の目が細まる。

 

「む、確かに鍛練は欠かしてなかったみたいだな。だが漸く半分だぞ、まだ全然足りないではないか」

 

 少し嬉しそうな顔をしたが直ぐに不機嫌な顔に戻した、まだ半分って別れて一ヶ月程度ですよ。七年間は待つって約束しましたよね?

 

「基礎魔力量は向上しています、ですが僕の本領はゴーレム運用です。それには炎と大地の精霊たるドワーフ族の知識と技術が必要なのです、ただ魔力を大量に込めたゴーレムなど役には立たない。ゴーレム錬成の技術には……」

 

「ドワーフ族の鍛冶の知識が必要なのだな、そこは独学にしろ。代わりに魔力付加の技術を私が教える」

 

 痛し痒しの逆提案を貰った、確かにゴーレムに多様な魔力付加は魅力的な提案だ。今でも固定化に重量軽量化、それに衝撃緩和の魔力付加を行っている。

 属性魔法の防御とかは、もう少しレベルが上がれば可能な域まで来たけど……

 

「何だ?ドワーフには教えを請いて私には嫌なのか?」

 

 350歳の乙女が拗ねたよ、エルフって種族がこんなにも表情豊かだとは思わなかった。

 

「いえ、嫌では有りませんが……僕にも立場が有ります。レティシア殿に師事する事が出来れば素晴らしい事ですが、周囲からの反発を受けます。今でも結構酷いのです、それ以上だと……」

 

 過去に実の父親から危険視されて謀殺された事を匂わせた、彼女はエルフ族特有の探査魔法を僕に掛けていない。これは友好の証だと思っている、普通は人間に遠慮などしないで構わず掛ける。

 

「そうか、そうだな。二度も嫌な思いをさせられないな、人間の嫉妬とは醜いモノだな」

 

 しんみりとしてしまった、レティシアは僕が処刑されて三百年も悲しんだと言ってくれた。また同じ様に嫉妬により殺害される可能性が有ると知れば思い止まってくれるだろう。

 

「人間の本質なんて簡単には変わりませんよ、ですが信頼出来る仲間は増えました。同じにはなりません」

 

 転生前も気心の知れた仲間が五百人も居た、だが配下としての関係だった。今は違う、家族も出来たし同じ位置に居る仲間も出来た。僕は少しずつ変われているんだ。

 

「仲間か、それに私も加えろ。ならば我が王に今回の件は問題無いと伝える、どうせ七年以内には私の元にくるのだ。心配は無いだろう」

 

 え?エルフ族のレティシア殿を仲間に?

 

「何だ、その呆けた顔は?まさか私を仲間にするのは嫌なのか?」

 

「いや、その……別に嫌なんて事は無いですよ、全然ですよ。う、嬉しいと思います」

 

 いや、そんな不安な顔をしないでくれ。本当にエルフ族なのか?感情制御がお粗末になってるぞ。

 

「そうだろう、お互い前とは違うんだ。ヴァンに会うのは認めてやるが他のドワーフ共は駄目だ、だから五年で私の元に来い」

 

「二年縮めましたね。分かりました、努力します」

 

 多少の無茶をすれば大丈夫だろう、やはりデスバレーには再挑戦するしかないな。地上最強生物は資金と経験値が半端無い、美味しいモンスターだ。ドラゴン狩りの再開だな。

 

「うむ、待っているぞ。ではな」

 

 そう言って微笑むと霞みの様に消えてしまった、魔力感知でも全く分からない。瞬間移動なのか壁抜けなのか違う方法なのか……

 怒るし拗ねるし不安になるし、最後は笑って喜怒哀楽が激しかったな。

 

「やれやれ、本当に何を考えているんだか」

 

「本当だな、どう見ても嫉妬と独占欲だったぞ。あれがエルフ族だとは信じられない、どんな魔法を使って口説いたのだ?」

 

 後ろから両肩に手を置いて力強く握ってきた、骨が折れんばかりの圧壊攻撃なのに僕の魔法障壁が反応しなかったぞ?

 

「口説いてなんかいません!手加減無しの相討ち覚悟の攻撃を仕掛けても負けた関係です、だが将来性を見込まれて半殺しで済まされた。だからリベンジを申し込んだ期限が五年です」

 

 本当は隙を突いて勝ち逃げしたんだ、そのリベンジを受ける側なのだが弱体化して猶予を貰った。あと五年で全盛時の力を取り戻したい、だが肩も痛い。

 

「ふん、俺との模擬戦は手加減してたんだな。あれだけの殺気と魔力を感じたのは初めてだ、長年戦場に身を置いて強敵を倒し続けた俺が僅かとはいえ怯んだんだぞ。

お前は俺との模擬戦に全力を出していなかった、許されざる裏切り行為だ。よって今から模擬戦を行う」

 

 ルールが有るのが模擬戦で最悪の事態にならない様に配慮するのを手加減と言わないで欲しい、だがこの戦闘狂は納得していない。

 

「嫌です!今日は癒しを求めてアーシャとジゼル嬢に会いに来たのです、模擬戦はしません!」

 

「だが断る!」

 

 結局義父との親子喧嘩となりアーシャとジゼル嬢が仲裁して口喧嘩は有耶無耶となった、だが模擬戦は無くならなかった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 逢魔が時、東洋の言葉で太陽が沈みかける昼と夜の境の時間帯には魔が潜んでいるそうだ。夜に切り替わる直前は気が緩み危険だと警告していると僕は思っている。

 デオドラ男爵家の屋敷は広い、数ヶ月前に何度か模擬戦をした場所に久し振りに立っている。

 

 初期の頃の模擬戦を思い出すな、手の空いた使用人が集まり庭木の影からアーシャが隠れて覗いていた。あの意味は何だったのかな?

 今はデオドラ男爵の本妻と側室の方々、それにルーテシア嬢にジゼル嬢、アーシャまでテラスに席を設えて観戦している。ジゼル嬢とアーシャは凄く不安顔だな、自分の父親が今迄で一番好戦的だからか?

 

「くはっ!くはは。楽しみだな、リーンハルト殿よ、今回は手加減無しだぞ!」

 

「手加減でなく模擬戦としてのルールの配慮だと言っても聞き入れてくれませんか?」

 

 完全装備だな……僕の錬金した鎧兜を着込み、右手にピュアスノウ、左手に雷光を抜き身で持っている。余程全開した魔力に当てられて酔ったか、戦闘狂の血が騒いだのか興奮し過ぎて誰も止められなかった。

 目がギラギラと血走って口は吊り上がって歯が剥き出しだ、アルクレイドさんですらドン引きした興奮状態らしい。

 

「頭では分かる、だが心が認めない。お前は正論を言って、俺が我が儘を言っているのは理解してる。馬鹿な義父と諦めてくれ、これが赤髪のデオドラ一族なのだ」

 

 観戦しているルーテシア嬢に視線を向けたら力強く頷かれた、これが戦闘貴族デオドラ一族の悪癖というか特徴か……

 そしてルーテシア嬢も僕に模擬戦を持ち掛けてジゼル嬢とアーシャに説教されていた、曰く『御父様だけで大変なのに貴女までデオドラ男爵家の血に酔うのは止めて下さい!』だそうだ。

 

 確かにデオドラ男爵だけでも大変なのに、同じ赤い髪を引き継いだルーテシア嬢の相手などしてられない。

 諦めて15m先のデオドラ男爵を睨み付ける、準備万端で睨み返して来た。審判役の執事に軽く手を準備完了の上げて合図を送る。

 

「制限時間は五分、致命傷を与える攻撃は認めません。それでは……初めっ!」

 

 手加減は不要と言われたが殺傷力は抑えなければならない、あの人外の戦闘狂に配慮が必要か悩むけどね。

 

「我が敵を拘束しろ。捕縛の鎖よ、山嵐!」

 

 地中に山嵐の株となる物をデオドラ男爵を中心に円形に配置し錬成する。各十本ずつ鋼の蔦を生やして、拘束する為に全方位から伸ばす。

 株の数は五個で一つから最大で三十本の蔦を生やせる、様子見の五十本の鋼の蔦を避けられるか?

 

「その魔法は見た事が有るぞ、俺に同じ魔法は通用しないと思え!」

 

 うねりながら襲う鋼の蔦を両手の剣で弾き、または切断する。直径5cmの鋼鉄の蔦を断ち切るって凄い技量だが、僕も過去に一本では切られる事は学んでいる。

 デオドラ男爵に同じ攻撃は通用しない、毎回変化を付けなければ引き分けすら怪しい。

 

 だが簡単に負ける訳にはいかないんだ!

 


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