古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第357話

 デオドラ男爵家にアーシャとジゼル嬢に会いに来たのだが、冷やかされてしまい池の畔のテラスでニールを交えて四人でお茶会をする事にした。

 甘い話は全く無くて留守中の問題についての報告会になっている、問題はエレさんの母親であるメノウさんを妾として囲っていた相手。

 マテリアル商会の会長がメノウさんとヨリを戻してエレさんを養子に迎えて僕に嫁がせる計画をしてる事、その対策についてだ。

 

 ジゼル嬢の機転でメノウさんとエレさんは僕の屋敷で引き取った、貴族の屋敷に引き取られては気軽に訪問も出来ない。

 後はライラック商会をメインにベルニー商会とモード商会を巻き込んで領地経営に協力させる。

 これでマテリアル商会への牽制には十分だ、もし会長が直接協力を申し込んで来たらやんわりと断れば良い、ライラック商会との競争はさせない。

 

「そう言えばライラックさんから聞いたのですが、リーンハルト様の決めたベルニー商会とモード商会ですが……」

 

「過去に娘達が旦那様とお見合いをしたそうですね?ルカさんとマーガレットさんですか、可愛らしい方達ですわ」

 

 コテンと首を傾げて疑問系で質問されたが、ライラックさんも余計な情報は教えないで欲しい。未だ八歳位の幼女二人を僕にどうしろと?

 流石に富豪とは言え平民の娘を嫁にするのは互いに不利益を生じるだろう、僕としても無理だ。

 

「見合いと言うよりは顔見せでしたね、当時の僕は廃嫡前の冒険者でしたから。エルナ様が何とか助力してくれる人達を探してくれたのです、しかし八歳の幼女ですから最初から無理が有りましたね」

 

 今はそんな気持ちは全く無いですよ、そう真面目な顔で伝えた。幼女趣味はヘルカンプ様達だけで良いんだ、僕は違うんだ!

 

「その、リーンハルト様のお屋敷の方に不思議な礼状と祝いの品物が届いたのですが……」

 

「ウルム王国の娼婦ギルドのバレンシアさんと、我が国の娼婦ギルドのチェルシーさんからです。大変お世話になったのでとか」

 

 あの二人め、新婚の僕の家庭に波風立てて無事で済むと思ったのか?娼婦ギルドだか何だか知らないが、僕に喧嘩を売っているんだな。

 

「世話はしてませんよ、ハイゼルン砦で商売していた方々です。僕は総責任者として直接的な関係は全く有りませんが、レディセンス殿に一任し世話をさせました。

また娼婦達は諜報員としての側面も有り、未だ他国には余り知られてない僕の情報は高く売れたのでしょうね。その意味でのお世話になら、不本意ながらしたのでしょう」

 

 戦場では兵士達の為に我慢したが王都で同じ様に配慮してくれると思うなよ、変に伝手が出来たと考えたなら思い知らせてくれる。

 

「あの、旦那様?私達は浮気を疑ってはいませんよ」

 

「ケン達からも聞いています、配慮はしたが全く相手にしなかった。兵士達の戦意高揚の為にハイゼルン砦への滞在を許していたと……」

 

 そのケンもバレンシアさんに相手をして貰って大満足だったらしい、全く歴戦の古強者(ふるつわもの)も女性には弱かったんだよ。僕の情報は結構流れただろうな、身近な連中も多かったし暫く一緒に生活してたし……

 

「しかし娼婦ギルドには文句を言っても良いでしょう、その手紙を読んでから然るべき対応をします」

 

 新婚家庭に波風立ててくれたんだ、ジゼル嬢達は理解してくれたしケンが事実を教えてくれた。だがイルメラやウィンディアはどうだ?リィナの件も有るし、戦争に行ったら女遊びを覚えて来たとか誤解されるのは嫌だ。

 

「罰を与える様な事は駄目ですわ、相手は女性の集団ですから男の度量に訴えてきます」

 

「それに表と裏で貴族達と繋がっています、恥ずかしい話ですが女性の大好きな恥知らずな方も多くて一定数の需要が有ります」

 

「つまり強く出ると常連客に訴えるし、男女間の話にされて僕の度量が疑われると?」

 

 自分の好み通りに女性を調教しているって伏線はこの事か?財力の有る相手なら影響力も強い、娼婦ギルドを相手にするなら常連客も一緒に相手にしなければ駄目なのか……

 

「勝てる気がしなくなりました、なんたる不条理だ」

 

 手を出すと火傷じゃ済まないかもしれない、最低な相手だが女好きには堪らない協力者だな。だから無くならないし手を出され難いか。

 

「え、アーシャ?」

 

 後ろに回ったアーシャが両手で抱きついてきた、右側に彼女の顔が見えて控え目だけど良い匂いが……

 

「新婚だから浮気はしない、そう言って娼婦達を寄せ付けなかったと教えて貰いました。嬉しかったです、戦場とは怖い所で男の方は女性を抱いて安心を得るのが普通だと聞いていましたが……」

 

 大胆な行動と台詞だが、少し勘違いをしてないか?世の中の男共は戦場で死の恐怖を紛らわす為に女性を抱くのが当たり前とか違うぞ。

 回された彼女の腕に手を添える、触れた肌が少し赤いのは大胆な行動が恥ずかしかったのだろうか?

 

「それが普通と思わないで下さい、僕は恐怖に駆られて女性に逃げる事は全く無いです。魔術師とは己が置かれた状況で最善を尽くす連中の総称、逃げたり現実逃避などしない。

僕は絶対に浮気はしないし誰かに関係を強要もしない、好きな相手だけで十分なのです」

 

 久し振りに嗅いだアーシャの良い匂いに頭がクラクラする、口では綺麗事を言ったが僕も嫌らしい男共と変わらないな。不特定多数か特定の女性かの差だけだ。

 

「その、今日は泊まられていくのですよね?久し振りに、あの……」

 

 視界の隅でヒルデガードさんがニヤニヤし、ジゼル嬢とニールが不機嫌に睨んでいる。困ったな、確かに今夜は帰れないと覚悟していたが直球で来られると照れる。

 

「んんっ、今夜は泊まりますから。アーシャも今は自重してくれ、嬉しいが照れる」

 

 やんわりと言うと漸く離れてくれた、唯一の側室だし彼女も色々と大変なのは聞いている。特にお茶会やサロンへのお招きが多いらしいが、半分以上は僕への顔繋ぎが目的だ。

 相手はアーシャを見ていない、アーシャを通じて僕をターゲットにしている。彼女からすれば辛い扱いだろうな……

 

「嬉しくてつい、だって軍規とはいえお手紙も無かったですし寂しかったのですわ」

 

「それならば私とニールも同じです、アーシャ姉様はリーンハルト様を独占し過ぎですわ」

 

「ジゼル様に同意します」

 

 まさかのジゼル嬢からの言葉にニールも追従した、だがアーシャは余裕の笑みを浮かべている。これって巷で噂の修羅場って奴か?

 

「リーンハルト様の欲望を受け止めるのは私だけの権利なのですわ。今は、ですが……」

 

「いや、その。アーシャ?仮にも令嬢がだな、ドヤ顔など浮かべて欲望とか言っては駄目なんだぞ」

 

 本妻のジゼル嬢とは結婚迄は清い交際だし、ニールはジゼル嬢の後だと思っている。実際はジゼル嬢と結婚したら、イルメラとウィンディアが先なのだが時期的には少し後だ。これで終了する、もう精神的にも一杯だから……

 だが笑顔で口喧嘩というか刺の有る会話を続ける姉妹から目を逸らす、ヒルデガードさんの『色男は大変ですね?』的な視線を向けないで欲しいのです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 長い二時間だった、初めて姉妹喧嘩らしき物をみた為か精神的な疲労が凄い。複数の女性を側室に持つデオドラ男爵の凄さが分かる、見習いたくはないけどね……

 しかも彼女達と二時間過ごした後に疲労困憊な僕を見た連中の生暖かい目が嫌だ、周囲の目が有るお茶会だったんだぞ!

 

 途中から屋敷が騒がしくなったのが気になる、王宮に拘束されていた僕がデオドラ男爵家を一番最初に立ち寄った事には意味が有る。

 そして情報が伝わるのは早いんだよな、エムデン王国の武の重鎮と言われても領地持ちの従来貴族の男爵だからな。全ての横槍を防げる訳じゃない、僕は国王と宮廷魔術師筆頭サリアリス様から期待されている。

 しかもセラス王女が発案した『王立錬金術研究所』の所長に就任し、リズリット王妃が命名した『春雷』の量産品である『雷光』を作り出せる唯一の魔術師。

 あの四人に接近出来る最短距離に僕は居る、元々は貴族社会の最下級に居た新貴族男爵の長子だけに嫉妬も凄いがバニシード公爵を失脚に追い込んだ事で状況は変わった。

 バニシード公爵とビアレス殿の派閥以外は様子見か、積極的に取り入ってくるかに分かれたんだ。

 

 本来ならポッと出の新人など寄って集って潰されただろう、だが僕は魔術師として攻撃力を伴う実力で成り上がった。その後で権力者達と懇意にして国民達からも認められる成果を上げた……

 さぞや悔しかっただろうな、潰すタイミングを削がれたのだ。大きく成りすぎて杭じゃなく丸太位にはなったのだろう、暫くは対処する時間を稼く事が出来た。

 

「リーンハルト殿、少し宜しいか?」

 

 ジゼル嬢達と分かれて自分に宛がわれた専用の部屋で休んでいたが、デオドラ男爵本人が訪ねて来た。つまり問題が起こったんだな。

 

「構いません、入って下さい」

 

 爵位も宮廷での序列も上になってしまったが、目上の恩人で義父でもあるデオドラ男爵には感謝している。問題事なら解決したいのだが……

 

「済まんな、厄介な相手が訪ねて来たんだ」

 

「厄介な相手ですか?」

 

 デオドラ男爵の屋敷なのに僕がソファーを勧めるとか変だよな、家主は相手で僕はお客さんなんだけど。

 向かい側に座るデオドラ男爵は真剣だ、彼に此処までさせる相手って誰だ?生半可な人物じゃない。それに問題事の相談にジゼル嬢を同伴させないのは何故だ?

 

「リーンハルト殿はドワーフ族のヴァン殿と懇意にしているな」

 

「はい、二ヶ月程顔を出していないので心苦しいのですが……」

 

「ヴァン殿はドワーフ族の七士族の長の一人だ、彼は長寿のドワーフ族の中でも最古参の族長であり偉大な鍛冶師でもある。

そんなヴァン殿が認めた人間の事がドワーフ族の中で広まらない訳がない、しかもリーンハルト殿の渡したガントレットが問題だった」

 

 ガントレット?ああ、偉大なるドワーフ族の鍛冶師であるボルケットボーガン殿の作品を模倣した奴だな。確かにヴァン殿の工房に置いてきたが、転生前の僕の初期の作品で魔力付加は固定化だけだった筈だ。

 

「あのガントレットが何か?」

 

「ヴァン殿が認めた人間の作品、それがドワーフ族の偉大なる英雄ボルケットボーガン殿の作品に酷似している。今の七士族は彼の高弟達なのだそうだ、我が師匠の作品を模倣を越えたレベルで作れる人間が居る」

 

 ああ、そうか。三百年前に活躍し百三十年前に亡くなった偉大な鍛冶師の模倣品を人間の子供が作る事が不愉快なんだな、だから文句を言って来た。

 

「事情を説明し謝罪すれば宜しいでしょうか?デオドラ男爵にご迷惑をお掛けして申し訳ないです、後は自分で何とか致します」

 

 謝罪要求だからジゼル嬢を同伴しなかった、不甲斐ない所を見せないデオドラ男爵の優しさだな。確かにドワーフ族にすれば、僕は胡散臭いだろうな。

 

「違うんだ、彼等は作品を見れば制作者の人となりが分かるそうだ。愚直な迄に模倣し作り込んだガントレットは七士族の長達から絶賛された、自分達でも同じ物が作れるか分からない。

これだけの精度の物を作るには気の遠くなる程の努力を必要とする、それが鍛冶で作ろうが錬金術で作ろうが変わりはないとな」

 

 思わず目頭が熱くなり視界が滲む、僕は泣いているのか?嬉し泣きなのか?

 

 ヴァン殿に認められた時も嬉し泣きをしてしまったが、他の士族の長達にも認められるとは感無量とはこの事だ。

 

「素直に喜ぶとはな、リーンハルト殿は錬金術に対しては純粋な子供みたいだな。いや、信じられないが実際に子供か……

それでドワーフ族を統べるグリモア王が俺の所に非公式で面会を求める使者を送って来たのだ」

 

「ドワーフ族の王様がですか?それは何か問題が有るのでしょうか?」

 

 他種族の王が僕に非公式とはいえ面会する事は問題なのだろうか?出来れば鎧兜を錬金する魔術師として彼等の王に会ってみたい、色々と聞いてみたい。

 

「俺も問題無いと思って驚かそうと黙ってたんだがな、エルフ族にバレたらしいんだ。リーンハルト殿はエルフ族とも懇意だったのだな」

 

 は?エルフ族と懇意だって?もしかしてレティシアの事を言っているのか?




今年一年有難う御座いました、二次創作小説主体のサイトでオリジナル小説としては破格の評価で嬉しく思います。評価も沢山入れて頂き有難う御座います、執筆の励みになります。
今年一年有難う御座いました、来年も宜しくお願いします。

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