古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第354話

 先任侍女二人の旦那を紹介された、しかも夫婦仲は円満らしく腕を組んでいる。ロッテの旦那はモンベルマン子爵、ハンナの旦那はヤザル男爵と言い財務系の官吏として王宮内で働いている。

 僕は下級官吏達に嫌われているらしい、急激な出世に対する嫉妬らしいがザスキア公爵が危険視した。彼女の方が王宮内での駆け引きは巧みだから本当に危険なのだろう、だが末端の連中を全て抑えるのは不可能だから中間管理職を抱き込む事にする。

 その為にロッテとハンナの旦那と関係者達と懇意にする事にし彼等からの夕食の招待を受けた、多分だが一族と友人一同が待ち受けているだろう、それが狙いだから丁度良い。

 

 それとバーナム伯爵主催の舞踏会で会ったコリン子爵の御子息であるグランジ殿にも会ったので挨拶と軽く雑談をした、歳の離れた恋人との結婚式に呼ばれているんだ。

 だが僕の周りには歳の差カップルが多いよな、ヘルカンプ様やガルネク伯爵とか自分の年齢の半分以下の少女を嫁にするとかどうなんだ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 豪華絢爛な三夜連続舞踏会への出席が続く、最終日は挨拶と根回しが殆どで気付いた時には舞踏会も半ばを過ぎていた。舞踏会だがダンスホールには近付かずって、どうなんだ?

 父上達を探しているのだが、知り合いやその他に声を掛けられて中々辿り着けない。明確に敵対していなければ友好的な態度で接するのが、敵を作らない賢い人付き合いだ。

 

 漸く四人がテーブルで軽食を食べている所を見付けた、いやインゴの持つ皿は肉料理で山盛りだ。甲斐甲斐しくニルギ嬢が世話をしている、仲睦まじいと感じるな。

 

「父上、エルナ様。それにインゴにニルギ様、ご無沙汰しております」

 

 向こうも気付いていたが2m程手前で声を掛ける、父上とエルナ嬢は嬉しそうに、インゴとニルギ嬢は微妙な顔をした。

 インゴとは少し嫉妬絡みでギクシャクし、ニルギ嬢はお祖父様との縁を拒否した事で警戒されている。

 

「おお、リーンハルト!見事な武勲だったな、父親として嬉しく思うぞ」

 

「アウレール王も、リーンハルトさんの活躍を嬉しそうに褒めていましたわ」

 

 暖かい笑顔と言葉で迎えられた、二人とも本心から嬉しそうにしてくれている。僕も嬉しいのだが、少し不機嫌そうなインゴと困惑気味なニルギ嬢が気になる。

 インゴよ、先ずは肉料理が山盛りの皿をテーブルに置いてくれ。そして口の回りと手に付いた肉汁を拭くんだ、君は前回別れた時には少し痩せていたが今は最盛期と変わらないのは何故だ?

 

「有難う御座います、王命を達成出来て安心しています。久し振りだな、インゴ。それにニルギ様も仲良くしているみたいだね」

 

 微笑みを浮かべてインゴを見る、お祖父様に僕と比較されて傷心していたからな。変に接すると余計に拗れそうなんだ、実の弟と不仲なのは精神的に堪えるから……

 

「兄上、ご無沙汰しております」

 

「リーンハルト様、おめでとうございます」

 

 小声で挨拶をしてくれたが、気が小さく大人しい二人は似ているな。似た者同士、仲良くなったのかな?

 口の回りの汚れに気付いたニルギ嬢がナプキンで拭いている、インゴは照れてはいるが止めさせない。これって、なる様になっちゃったのか?

 

「有難う、無事に王都に帰り再びインゴと会えたのが嬉しいよ」

 

 そう言って頭を撫でたが子供扱いで駄目だったかな?嫌そうにはしていないが、少し困った風に見上げている。

 

「家族水入らずで良い事だな」

 

 不意に声を掛けられた、振り向くとバーレイ男爵本家のお祖父様が知らない女性を伴って立っていた。

 また知らない女性だが二十代半ば位のニルギ嬢に似ているが、此方は気が強そうで其れなりの魔力の反応が有る。身に纏う制御力からみても抑えてないと思う、魔術師としては並みだな。

 

「これはこれは、お祖父様。ご無沙汰しております」

 

 失礼の無い様に貴族的作法に則り一礼する、距離を置きたい相手だが敵対はしていない。無闇に威嚇する必要もない、だがニルギ嬢の扱いに困る。

 彼女がインゴに何か頼んだら、僕に何かをインゴが要求してきたら、僕は兄として大抵の事は断れないだろうな。

 

「孫の活躍を喜ばぬ祖父は居ないぞ、ついに伯爵となり領地も頂いたか。凄い出世で驚いたぞ、いやはや参ったよ」

 

 若干声が大きい、周囲の連中に僕との関係が良好だと思わせたいのだろう。貴族は血縁関係を大事にする、血の繋がった一族の結束は強い。僕は廃嫡されるから自らが当主となり、これから自分の一族を作っていくのだが……

 

「有難う御座います。領地経営については両隣のガルネク伯爵とベルリッツ伯爵に教えて貰う予定ですが、実際は僕は宮廷魔術師として王都から離れられないので代官任せですね。

アウレール王やサリアリス様からも宮廷魔術師の任務を邪魔しない領地として拝領していますから、領地経営に携わるのは程々です」

 

 困った風に説明しておく、領地経営のレクチャーとか協力とかは不要。国王から収入源としての領地を貰ったとしておく、嘘じゃない厚待遇だから困る。

 

「そうか、やはりアウレール王の信頼が厚いのだな、良い事よ。そうだ、ニルギの従姉のシルギを紹介しよう。土属性魔術師であり内政関係では中心的な働きを任せている」

 

「シルギです、リーンハルト様にお会い出来て光栄ですわ」

 

 スカートの裾を掴んで少し持ち上げて足を引いて頭を下げてくれる挨拶のカテーシーが様になっているが、第一印象の気の強さのせいか敵対心が垣間見える。

 似ているとは思ったが従姉だったのか、同じ土属性魔術師であり領地経営にも携わっている。僕がローゼンクロス領を拝領したから手伝うつもりだったのかな?遠回しに断ったよな。

 

「初めまして、シルギ様。此方こそ余り接点は無いが宜しくお願いします」

 

 笑顔を添えて正式な挨拶を返す。嫌だな、愛想笑いが上手くなった気がする。だが向こうも作り笑いを張り付けている、やはり紹介前に遠回しに断られたからか?

 

「領地経営のノウハウを教えて差し上げようと思ったのですが残念ですわ」

 

「宮廷魔術師として役職を頂いているので本業優先です、領地経営は隣接した領地の先輩方を頼ります。それに商才の有る家臣もいますし大丈夫ですよ」

 

 実際にアシュタルとナナルに任せても大丈夫だろう、最初に新しく家臣となった代官やその配下達をジゼル嬢とナナルがセットで面接すれば完璧だ。

 彼女達のスキルである『人物鑑定』と『能力査定』は凶悪だ、雇用主として配下の思惑と能力が全て分かるのだから……

 

「私も土属性魔術師として、リーンハルト様に憧れています。是非とも一度ご教授願いたいのです」

 

 あの手この手で攻めてくるが挑発的な視線を向けていて大丈夫と思っているのだろうか?敵対の意思有りと僕に伝えているんだよな、勘違いじゃないよな。

 

「優れた魔術師に師事出来れば大いに成長するだろう。どうかな、リーンハルトよ?」

 

 祖父だから呼び捨ても有りか、だが甘いぞ。

 

「良いですよ、僕もセラス王女より『王立錬金術研究所』の所長を任されています。魔術師ギルド本部に所員を集めさせていますので申し込んで下さい、マジックアイテムの製作について直接指導します」

 

 魔術師ギルド本部に適当な理由で不採用とすれば良い、能力重視だから彼女では選考漏れでも不自然じゃないな。

 

「半年以上前に噂になった『王立錬金術研究所』の所長にリーンハルト様が?」

 

「ええ、既にレジストストーンの作製で成果をだしています。それの量産体制の為の人員募集ですが、僕が直接指導します」

 

 周囲が僕達に注目しているのはセラス王女の名前が出た事と『王立錬金術研究所』の名前は知れども誰が何をしてるか不明だったからだ、魔術師ギルド本部も成果を出せない事で話題になる事を嫌った筈だ。

 本来なら王族の立ち上げた事業だから注目するのに何も知らなかった、だが僕が所長となり直接関わってくるとなれば……

 

「お口添えをして頂けるのでしょうか?」

 

「所員の選定はレニコーン殿に一任していますが、シルギ様なら大丈夫でしょう」

 

 無理と言うのは魔術師としての能力不足を認める事になる、だから所員に入れてくれとは頼めない。それにお祖父様の家臣だから離れる訳にもいかない、僕も忙しいから個人授業は無理だ。

 逆に王都の魔術師ギルド本部に圧力を掛けられるなら喜んで受け入れよう、多分だが何人かはそんな連中が入って来るだろうな。

 

「そうですか、そうですね……」

 

「ええ、楽しみにしていますよ」

 

 固まった笑顔の彼女に同じく作り笑顔を向けて終了。意地悪はしていない、宮廷魔術師第二席に簡単に個人授業して貰える訳がない。

 後は礼儀的な会話をして終了、家族の会話の再開なのだがエルナ嬢が少し拗ねている。今の会話に何か問題が有ったのかな?

 

「エルナ様、何か有りましたか?」

 

「セラス王女の『王立錬金術研究所』の件は知りませんでした、何時もリーンハルトさんは肝心な事を教えてくれません」

 

 ませんって拗ねられたが、少しお腹の膨らみが目立ってきた第二の母親は少女の様に振る舞う時が有る。父上もそんな妻に対して生暖かい目で見詰めている、仲が良いんだよな。

 

「リズリット王妃とセラス王女から『王立錬金術研究所』の所長就任の依頼が有ったのは出陣する直前でしたから、連絡が遅れて申し訳ないと思っています」

 

 深々と頭を下げる、家族に知らせる必要は無いのだが気持ちの問題だ。それにエルナ嬢は拗ねると長引くのでお腹の中の赤ちゃんの成長に悪影響だと思うんだ、出来れば今度は妹が欲しい。

 

「兄さん、あの噂話は本当なの?リズリット王妃が命名した『春雷』の複製品である『雷光』を作れるって……」

 

 インゴよ、誰から聞いたんだ?騎士団絡みかな、隠してないしライル団長にも渡しているからな。だがお前も武器好きになったんだな、父上の後継者としては良い事だ。

 

「そうだよ、複製だから性能は低いが麻痺の効果を付与する事が出来る」

 

「僕も欲しいな」

 

 武器をおねだりとは可愛いものだ、兄として叶えるべきだろう。だが甘やかすだけではなく手綱を引き締める事も必要だ、不用心に高価なマジックウェポンを持たせるのは危険だし……

 空間創造から二本の『雷光』を取り出して父上に渡す、既に二十本以上は量産しているので二本位なら平気だ。

 

「リーンハルト?」

 

「父上の分も含めて二本渡します、本当に必要な時に父上が判断してインゴに渡して下さい」

 

 王家優先のマジックウェポンで売値は金貨一万枚、簡単に異母兄弟とはいえ渡すのは本来なら駄目だ。父上に渡すのも駄目かもしれない、だが僕は負い目から渡してしまう駄目な兄だ……

 

『あれって噂の『雷光』だろ?王家の買取り価格が一本金貨一万枚らしいぞ』

 

『騎士や戦士の垂涎の的、近衛騎士団に優先的に配備される品を血縁者だからって貰えるのかよ』

 

『依怙贔屓だろ、バーレイ男爵は聖騎士団の副団長だから分かるが、弟殿は見習い騎士だろ』

 

『リーンハルト卿も人の子だな、弟だからって高価なマジックウェポンを簡単に与えるのか』

 

 随分と否定的なヒソヒソ話が聞こえて来るな、確かに二本で金貨二万枚だと新貴族男爵の年金十年分だ。稀少品で簡単に手に入らないマジックウェポンを弟だから貰える。

 インゴに無用な僻みを集めてしまったか?この場で渡さずに後で内緒で渡せば良かったか?失敗してしまった……

 

「インゴ、お前?」

 

「兄さん、有難う。必ず使いこなしてみせるよ」

 

「ああ、頑張れよ」

 

 インゴ、お前のその勝ち誇った暗い笑みは何だ?僕の弟だから優先されて当たり前みたいな傲慢さをその暗い笑みの中に見付けてしまった。

 それは直さなければ駄目な感情だぞ、確かにお前は僕の異母兄弟だが……

 

「兄さんはマジックアーマーも錬金出来るんだよね?今度僕にも作ってよ」

 

「ああ、今は忙しいが余裕が出来たらな。インゴも父上と鍛練に励むんだぞ」

 

「うん、約束だよ!」

 

 どうしてこうなった?インゴよ、父上とエルナ嬢がお前を見詰める目に宿る感情が分かるか?新しい弟か妹が出来ると相続問題が発生するんだ。

 僕は辞退したが新しい弟が有能だったら大変な事になる、今からでもしっかりと鍛錬に励んでくれ。

 


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