古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第35話

「「リーンハルト君、此処が盗賊ギルド本部だよ!オークションは此処で開催されるの」」

 

 盗賊姉妹に連れられて来たのは冒険者養成学校から近い、蔦の絡まった殆ど窓の無い石造りの建物だ。大きさは冒険者ギルドと同じ位だが此方の方が建物に歴史を感じるな……

 嬉しそうに自分達が所属する盗賊ギルドの説明をしてくれるのだが、周りの注目が痛い。多分だが彼女達は盗賊ギルドから選抜されるくらい有能な姉妹だから知名度が有るのだろう。

 因みに詳細は知らないのだが魔術師ギルドも有るらしく冒険者ギルドとの重複登録も可能らしい。必要ならば魔術師ギルドにも加入するが、今の所は必要性を感じない。

 魔術師ギルドは他のギルドとは違い加入の条件が厳しく一定の成果を出さないと駄目らしいが、この閉鎖性が今の魔法技術の低下を招いたとも言われている。

 つまり自分の知識は自分だけの物で周りに積極的に教えない、教える場合も高い対価を要求する。

 元々魔導とは追求するのに多大な時間と費用と才能が必要だから、自分の研究に没頭する連中は俗世の煩わしさを嫌う引き篭もり傾向があるんだよね。

 話は逸れたが改めて目の前の建物を見上げる。

 

「何とも言えない雰囲気を醸し出している建物だよね……攻め込むのに躊躇する造りだ、騎士団の本部に近い感じがするよ。

えっと、時間が有るなら昼食を食べないか?」

 

 攻め込むとか敵対前提な事を口走ってしまった、反省……空腹で何時間掛かるか分からないオークションに参加したくはない。

 悲しいかな成長期の14歳の胃袋は本体に空腹を訴え続けている、つまりお腹が鳴りました。

 

「「お薦め、有るよ!」」

 

「盗賊ギルド本部に入ってるって、おい?」

 

 左右から両手を引っ張られて建物内に入ってしまった、特に入館手続きとかは無いみたいだ……

 

「中に食堂が有るの!」

 

「凄い安くて美味しいんだよ!」

 

 そのまま地下に連行され『お袋の胃袋』なる大衆食堂みたいな所に押し込まれた。

 

「良かった、席に座れたよ!」

 

「うん、混む前で良かったね!」

 

 意外と広い四人掛け丸テーブルが10組ほど適度に離して配されている。既に9組は埋まり最奥のテーブルが空いていただけだった。

 

「オバちゃーん、日替り定食三つとオレンジ果汁水もね!」

 

「メニュー無いんだ……」

 

 日替り定食という聞き慣れないメニューだが周りの様子をさり気なくチラ見すると普通らしい。

つまりシェフのお任せメニューなのだな。

 料理は同じらしいが座っている連中はマチマチだ……

 右隣は妙齢の美人が三人、革の鎧を着込み腰に鞭を吊している。

 左隣は鋭い目付きの青年達が無言で食事をしているが、隙が無いと言うか存在感が凄いと言うか、高レベルの盗賊職の連中だな。

 同い年位の子供から壮年の男性と客の年齢はバラバラだが全員が盗賊だ、当たり前だが……

 

「えっと、部外者が入って良い食堂なのかな?注目が半端無くて胃がキリキリ痛いんだけど、割と本気でね」

 

 ガン見する奴も居れば表面上は無視してる連中も居る、だが全員がそれとなく僕の動きを観察してるのを感じる。

 

「大丈夫だよ、警戒のし過ぎだって!」

 

「私達と一緒なら平気だって!」

 

 君達と一緒じゃない時点で駄目だって事だよね?

 ニコニコと僕を見詰める姉妹には何も言えなかった、周りを取り囲む連中とはどうにもならないレベル差が有りそうだ。

 

「む、別に敵対してる訳でもないから良いか……」

 

 どうにも盗賊と言うと構えてしまうな。

 

「はいよ、日替り定食三つにオレンジ果汁水だよ。僕、小さいし細いから沢山食べな!大盛りだよ」

 

 給仕の中年女性が親しげに料理を並べてくれる、周りのテーブルにも同じ物を並べてるので、これが日替り定食か……

 

「む、コレは……随分と刺激的な匂いがスパイシーだが、何だろう?こっちのは偶にサラダに入っているライスだったかな?」

 

 茶色のスープからは香辛料の刺激的な香りがして食欲を誘う。知っている料理で近い物はタンシチューかな?

 だがスープとサラダに使うライスだけが皿に山盛りって、パンが欲しいな。

 

「リーンハルト君、カレーライス初めてかな?エムデン王国よりもずっと南の国の料理なんだって。

こうしてルゥをライスにかけて食べるんだよ」

 

 何だと……ドバッとルゥ(スープ)をサラダにかけた?それをスプーンで掬い美味しそうに食べだした。

 それとなく周りを見ると同じ様に食べている、つまり食べ方は合っているのか……

 ベルベットさんとギルさんと同じ様にスパイシーなルゥをライスにかけてスプーンで掬い一口頬張る。

 

「む、辛いが旨い……パサパサしたライスにルゥが絡んで食べ易い……辛さは後から来るけど嫌じゃないな……後を引く旨さだ」

 

 具材は羊の肉、ジャガイモにタマネギそれとニンジンと簡素だが何とも言えないスパイスが後を引く……瞬く間に半分食べ終えてオレンジ果汁水を飲むが、このカレーには味の無い冷たい水が合うな。

 

「おや?カレーライスは初めてだったのかい?凄い食べっぷりだね」

 

 料理を運んでくれた給仕の中年女性が話し掛けて来たが、どうやら彼女がコック兼給仕のオバちゃんと呼ばれている女性らしい。

 スラッとした褐色の肌をした中々油断のならない雰囲気の美人だ、オバちゃんと言うには抵抗が有る。

 

「はい、初めてです。南国料理とか……

ライスはサラダとして食べた位でパサパサして好きではなかったんですが、ルゥなるスープをかけると美味しくなるんですね」

 

「そうだろ、南国の暑さにも負けない食欲増進のスパイス料理さね。

暑い時はどうしてもサッパリした物ばかり食べがちだけどさ、栄養にゃバランスが必要なのさ」

 

 ふむ、栄養バランスか……確かに暑い時期はサッパリした冷製スープにパンとワインだけって事も多いな。

 良くイルメラに注意されたっけ。

 

「確かに……このルゥは所謂ソースになるのかな?

ならばエムデン料理のシュニッツェル(牛肉にパン粉をまぶして油で揚げた)やクネーデル(裏ごししたジャガイモを丸めて油で揚げた)にかけても美味しいかな?いや、好物のハンバーグに……」

 

「ほぅ、他国の料理を混ぜ合わせるとは考えなかったね……

カレーにハンバーグやシュニッツェル、ハンバーグカレーか。ヨシ、少し待ってておくれ」

 

 独り言を言ったのを聞かれて厨房に走って行ったが、カレーか……レシピを調べればイルメラにも作れるかな?

 

「不思議な人だね、只の食堂のオバちゃんには思えないよ」

 

 何だろう、女性陣がニマニマ笑ってるが変な事を言ったかな?もしかしてオバちゃんって実は有名な料理人だったとか?

 冷めない内にと残りのカレーに挑む、だが山盛りなので中々減らない。

 

「はい、お待ちどうさま、ハンバーグだよ。

シュニッツェルやクネーデルは仕込んで無かったけどハンバーグはミンチ肉が有ったからさ」

 

 そう言って食べてる途中のカレーライスの上にハンバーグを乗せてルゥを足してくれた。

 

「む、更に山盛りに……」

 

 スプーンでハンバーグとカレーを一緒に掬い口の中へ……

 

「む、むむ……旨い。

単体のハンバーグも旨いのだが、カレーと一緒に食べると更に旨い」

 

 満腹で無理っぽかったが、ハンバーグを足した事により量が増えたけど食べれる、食べれるぞ!

 

「良い食べっぷりだね……

厨房で試食したが確かに合うよ、ハンバーグとカレーはさ。その発想は使わせて貰うよ、ハンバーグカレーはメニューに載せるよ」

 

 口の中が一杯なので頷いて同意を示す、男らしい笑顔で頭をクシャクシャと撫でられた。

 彼女に子供扱いされた事が不思議と悪い気がしない。

 

「「一口貰うわよ!」」

 

「ちょ、マナーが悪いぞ!異性の皿から料理を奪うとか……」

 

「やだ、ちょっとコレ美味しい」

 

「本当、カレーにハンバーグが合うとか不思議……」

 

 確かに他国の料理と自国の料理を混ぜ合わせるなんて普通のコックなら考えないな。

 料理は伝統を重んじるし貴族なら自国の料理に誇りを持っている、マナー的にもハンバーグをスプーンで崩して食べるのは駄目だろうな。

 

「む、皿ごと奪うとか異性が口を付けた料理を食べるとか女性の行動じゃないよ」

 

 大好物のハンバーグを半分取られたので嫌味を言ったのだが、全然気にしてないな盗賊姉妹め……ハッ?盗賊だけに奪ったとか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの内容で日替り定食の値段は一人分銅貨7枚、三人でも銀貨2枚銅貨1枚とリーズナブルだ。だがオバちゃんは料金を受け取ってくれなかった、次は受け取るから又来いと言われたのが嬉しかった。

 次はイルメラも連れてこよう。

 地下食堂を後にしてオークション会場に向かう、一階の奥が会場らしく受付に盗賊ギルドの人が二人座っている。

 冒険者ギルドと違い制服は無くて普通に革の鎧を着込んだ青年達だ。

 

「ビーチャさん、オルロスさん、オークション見学したいので宜しくね」

 

「何だ、欲しい物が出品してるのか?今日は客も少ないから競り落とせるかもしれんぞ」

 

 どうやら二人は知り合いらしいな、気楽な会話から付き合いの深さを感じる。

 

「違うよ、リーンハルト君がね、魔法属性の付加された品物の相場を知りたいんだって。ならオークションが一番分かり易いじゃん」

 

 受付の青年を観察するが隙が無いのは当たり前だが腰に吊したレイピアから強い魔力を感じる。魔法属性は風だろう、中々の逸品だな。

 これはオークションに出される品物に期待が膨らむ、今回のは無理でも高級品を扱うオークションには逸品が出されるのだろう。

 

「入札に参加しないなら入場料金は要らないぞ。お前等が同伴なら関係者席にでも座ってろ」

 

 言葉使いはぶっきらぼうだが悪気は無いのだろう、だがついレイピアに目が行ってしまう。

 

「いえ、目録も欲しいですし気に入った品が有れば入札したいので普通に参加します」

 

 そう言って金貨3枚をテーブルに並べる。一人だけだとルールも分からないので変な失敗は恥ずかしいから最初のオークションには二人に傍に居て欲しい。

 

「ほぅ、じゃ目録と割り符だ。割り符は落札した後の品物の受け取りと支払いの時に必要になる」

 

 受付の青年に促されて奥へと進む、細い廊下を通り抜けてカーテンを潜ると大広間に出た。

 この途中の廊下は幅が60㎝しかなく天井壁共に石造りだ、オークションの品物を盗んでも逃げられずに押さえられるな。

 当然ギルド職員用の通路が別に有るにしても調べられるかは別問題だ。一段高いステージに客席数は30位だろうか、既に半分ほど席は埋まっている。

 ベルベットさんに腕を捕まれ最前列右側に座らされたが良くステージが見える。

 

「目録に載ってる出品数は20か……多いの?」

 

「大抵は20前後よ、目玉商品は目録の最初に載ってる奴だけどオークションは最後になるわね」

 

「今回はウチ(盗賊ギルド)のパーティが迷宮の宝箱から見付けたのがメインよ」

 

 あれ?魔法迷宮で見付けた物は冒険者ギルドに売るのが基本じゃない?

 

「魔法迷宮で見付けた物なのに冒険者ギルドには売らないで平気なの?」

 

「モンスターのドロップアイテムは売るけど宝箱から出た物は違うのよ。低確率でしか現れない宝箱から、更に低確率で見付かるマジックアイテムは大抵オークションよ。

数多く見付かって在庫が有る物は別だけど、希少品は買取価格を決められないの」

 

「一月に数個しか見付からない物は欲しい人は幾らでも出すでしょ、だから決まった買取価格じゃ誰も売らないから……仕方なくね」

 

 確かにランダム要素が多く偶にしか出ない物に定価は付け辛いのかな?

 

「リーンハルト君、オークション始まるよ」

 

「む、アレが司会者か……」

 

 ステージの上には恰幅の良い中年が挨拶をしていて、後ろにタイトなドレスを着た美女が布を被せたワゴンを押さえている。

 

「アシスタントに美女を侍らすとはね、だが腰に武器を吊してるのが怖いな……」

 

 司会者もアシスタントも只者とは思えない、盗賊ギルドは冒険者ギルドとは全く違うのだな。

 

「はい、では最初の品はバンク五階層より発見された『防毒の小手』です。

モンスターの毒攻撃を確率15%で防ぎます。最初は金貨30枚からスタートです。

張り切って競り落として下さい!」

 

 周りから一斉に声が上がる、金貨35枚41枚45枚と小刻みに値段が上がり金貨52枚で止まった……

 

「はい、では金貨52枚で落札です!」

 

 成る程、これがオークションか。欲しいものが他の参加者と被ると落札価格は高くなるな、この辺の駆け引きは苦手なんだよね。

 これはダミーで幾つか落札した後は、同じ様な物を自分で作った方が良いかもしれない。


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