古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第346話

 王家主催の舞踏会、僕は主賓としてセラス王女をエスコートしているのだが誤解を招く会話が多くて胃が痛くなってきた。周りはロイヤルなプリンセスとのラヴなストーリーだと勘違いしている、誤解にしても酷い。

 だがセラス王女のエスコートだからこそ、彼女を優先し他の令嬢達をダンスに誘わなくても良い大義名分が有るんだ!

 

 既に一回目のワルツへのお誘いの駆け引きをのんびり眺める余裕も有る、壁の華と言われる壁際に並ぶ淑女達も目当ての紳士に視線を送って無言のアピールしている。

 人気の有る淑女には何人かが申し込むが差し出した手を取らないのは本命じゃないからか……何組かは一回の申し込みで踊りの列に加わっている、ワルツは三回以上有るからチャンスは残っている。

 だが余り断り過ぎると紳士達も遠慮して淑女を誘わず他に行く、だが何人も節操無く申し込むのも問題視されている。手当たり次第って意味だから軽い男と判断されるんだ。

 

 今回は流石にザスキア公爵もセラス王女が側に居ると近付いて来ない、凄い虫除け効果だ。だが僕とセラス王女を狙っている紳士と淑女も多い、凄く視線を感じるんだ。

 

「他の紳士や淑女達はパートナー探しに血眼ね、私の旦那様は国家が決めるから関係無いのよ、少しだけ羨ましいわ」

 

 あれから同じテーブルに座り専属の上級侍従や侍女に世話して貰い、軽食やワインを軽く楽しむ余裕が出来た。このテーブルに近付いて来れる連中は少ないだろう、だが合間を見て僕はニーレンス公爵達に挨拶に行きたい。

 

「王族や上級貴族達に自由恋愛は不可能でしょう、僕は無理を言いましたが家の繁栄や存続に個人的な感情は挟めないのが我々貴族の常識です。悲しい事ですが……」

 

「そうね、リーンハルト殿は自分の功績のみで出世した変わり種だから貴族特有の柵(しがらみ)が少ない。今の側室も本妻予定も恋愛結婚だそうね、奇跡に近いわよ」

 

 宮廷魔術師にして侯爵待遇、伯爵位を持ちローゼンクロスの領地を治める未成年、強欲な親族が居たら食らい付いてくるな。

 僕には恩を受けた連中が少ない、故に派閥や親族からの拘束力も殆ど無い。今回の件も貸しは有れども借りは無い、反面仲間も少ない。集団はそれだけで力だが、個が強いから何とかなっているだけだ。

 

「最初は冒険者として活動を始めたのです、四ヶ月前ですね。運と時期が良かったのでしょう、気が付けば今の位置に居ました。勿論、努力もしましたが出来過ぎな結果ですね」

 

 シャンパンを飲み干す、直ぐに侍女が注いでくれるが今夜は飲み過ぎは駄目だ。

 

「お母様も最初は凄く警戒してたわよ、実際に会って話して漸く警戒を解いたけどね。でも秘密は多そうよ」

 

「男の秘密なんて探っても楽しく有りませんよ、僕の秘密なんて大した事は有りませんしね」

 

 肩を竦めて大した事は無いと突っ込んでくれるなをアピールする、実際はヤバい秘密が山盛りだけど……

 

 裏事情を察したのか目を細めて僕を見る、元々美人だが大変気の強そうな顔立ちのせいか睨まれているみたいだ。テーブルに組んだ腕を置いて身を乗り出して来たが、胸が薄い為に隙間が大きく神秘のゾーンが……

 

 然り気無さを装いテーブルに置かれたワイングラスを持つ、一気に飲み干して新しいシャンパンを注いで貰う。

 

「今夜は此処までね、私は先に帰るけどウーノに伝言させるから。お休みなさい、リーンハルト卿」

 

 舞踏会の中盤で帰ると言うセラス王女に立ち上がり一礼して見送る、彼女は他国との会合には参加は厳しいだろう。明日と明後日は方舞だけで他は不参加だな、すると誰をエスコートするんだ?

 一人になったテーブルに最初に来たのはザスキア公爵だった、まぁ予想通りだ。

 

「あらあら、セラス王女に振られたわね」

 

「正確には業務通達は完了したから用は済んだ、ですよ。端から見れば良い雰囲気だと思われたかもしれません。ですが実際は王立錬金術研究所の所長として新たなノルマを課せられた、かな?」

 

 セラス王女と同じくポーズをするが何かが天と地程も違う。モアの神よ、貴女の信徒に与えた試練は厳し過ぎると思います。

 

 視線を反らして周りをグルリと見回す、包囲網が敷かれているな。父娘連合軍が包囲の輪を狭めて来た、この状況で先陣を切れるのは流石は公爵だな。

 

「何時になったら貴方の贈り物を周りに見せられるのかしら?」

 

 意味有り気に左手首に嵌めた『魔法障壁のブレスレット』に巻いたリボンを撫でる、そろそろ自慢したいのか?私と僕は親密な協力関係に有ると、他の公爵達への牽制かな。

 

「暫くは内緒で、今回は回避率35%のレジストストーンを献上します。次の課題は悩んでますが、ソレは少し早いかと考えているのです。先ずはエムデン王国の宝物庫に眠るマジックアイテムを見せて貰い、適当な物をコピーしようかと思ってます」

 

「オリジナルは隠して先ずは模倣からね、確かにコレは刺激的過ぎるわよ」

 

 意味深に触らないで下さい、貴女よりも身分上位者に聞かれたら見せないといけないのですよ。それに防御系のマジックアイテムは秘匿が基本、知られてないから対応されずに防げるんだ。

 

 その後は暫く時事ネタで雑談してザスキア公爵は去って行った、彼女もフリーダムだがセラス王女より一枚も二枚も上手だな。僕との親密さを強烈にアピールした、周りが警戒する位にね。

 その後はニーレンス公爵夫妻、ローラン公爵夫妻、ライル団長にラミュール殿、バセット公爵夫妻と談笑し今回のハイゼルン砦の攻略メンバーは親密な関係を築いているとアピールした。

 

 最後はデオドラ男爵だ、彼の場合は主賓のテーブルに来て貰うのではなく僕の方から歩いて近付く事にする。丁度同じバーナム伯爵と派閥の連中と雑談していたが、周りが騒がしくなり僕に気付いた。

 

「バーナム伯爵、デオドラ男爵、ご無沙汰しております」

 

 笑顔を添えるのを忘れずに友好的に挨拶をする、勿論先方を立ててだ。

 

「おお!バーレイ伯爵、素晴らしい勝利でしたな」

 

「詳細はウォーレン達から聞いたが完璧過ぎて言葉が出なかったな」

 

 二人が僕の肩に手を置いて話の輪に招き入れる、僕はバーナム伯爵の派閥内で上手く行っていると周りに知らせる必要が有る。

 デオドラ男爵には恩が有るしバーナム伯爵とはお互いに利用価値が有る、僕のせいでエムデン王国内の派閥順位に変動が有って迷惑を掛けるからお詫びの意味も有る。

 

「アウレール王の勅命を果たせて安堵しています、色々と良い経験も積めました」

 

 要塞の総司令官とか普通なら無理だが戦時だから可能だった、現場での身分が最上位だったのとアウレール王の指示が有ったから可能だったんだ。通常ならライル団長で僕は補佐だよな……

 

「当代無双の宮廷魔術師殿にしては控え目だな、早く戦勝祝いの武闘会をやりたくて仕方がないぞ」

 

 義父上、義息子を労る気持ちが無いのですか?ギラギラした目を僕に向けないで下さい、此処は華やかな舞踏会の会場です。

 

「全くだな、前回は不参加だったから後悔してるんだ。俺が一番最初だぞ、譲らないぞ」

 

 確かに前回(の舞踏会で)は王宮への急な呼び出しで模擬戦はしていませんが、ハイゼルン砦滞在中に何度も訓練と言う名の模擬戦をしましたよね?

 

「落ち着け、三回チャンスが有るんだ。各々の家に招いた時が一番最初だ、先ずは派閥の長である俺からだ」

 

 毎回三人と三回も模擬戦はしません、派閥の長なら構成員を労って下さい!

 

 おかしい、舞踏会が武闘会になってないか?この人外共と三回ずつ戦うとか全然祝う気が無いだろ!

 

「嫌です、辞退します、一人一回十分です。これは譲れません」

 

「「「だが断る!」」」

 

 この戦闘狂共め、僕を労れよ。固まる笑顔を何とか維持して次の挨拶が有るのでと離れる。このままだと飲み比べに雪崩れ込むから逃げ出した、主賓が大量に酒を飲んで競うとか有り得ない。

 

 さて、主賓としてラストワルツ迄は残る予定だが他に挨拶したい相手だが……周りを見回すとレディセンス殿とボーディック殿、それにミケランジェロ殿が一緒に居て雑談している。

 だが向こうが先に気付いたな、此方を向いて軽く会釈したので笑顔で近付く。今夜は笑顔の大盤振る舞いだ、相手が居るので途中で割り込む奴も居ない。

 

「三人で雑談とは遠征中に友好を深めましたか?」

 

 この三人、少年・青年・中年と年齢も立場もバラバラなのだが馬が合ったのか不思議と仲が良いんだ。

 

「これはローゼンクロス伯、おめでとうございます。お陰様で我々も勲章を頂きました」

 

「結局レディセンス殿は、あの八人を囲ったんだってさ。バーレイ伯爵だって一人なのに八倍だよ、精力余り過ぎだよね」

 

「違う、リーンハルト卿と同じく屋敷で雇っただけだ、手は出してねぇ!」

 

 三者三様の呼び方をしてくれたがエムデン王国の正式な呼び方は、名前+領地+フォン+家名。僕の場合は、リーンハルト・ローゼンクロス・フォン・バーレイとなる。

 対外的にはバーレイ伯爵かローゼンクロス伯になるのかな?フルネームで呼ばれたり名乗るのは正式な式典くらいで普段は略すけど今回は特別だよな。

 

「良いではないですか。皆さん器量良しでしたし、何よりレディセンス殿を慕っていました。僕は怖がられていましたから……」

 

 三千人近くを一人で倒したのを直接見てるからな、敵兵とはいえ大量殺人者は畏怖の対象でしかない。逆に話を伝え聞いた王都の民衆は称賛してくれた、凄惨な現場を生で見てないしザスキア公爵が上手く噂を広めてくれた。

 

「それでもアイツ等の為に資産を集めてくれた、全て金貨に替えてくれたから一人当たり金貨一千枚を越えていたぞ。俺が屋敷で雇わなくても金銭的には問題無いのだが……」

 

「精神的なケアが必要、それには強者の庇護が必要不可欠です。頼みましたよ」

 

 見知らぬ親族や金に目が眩んだ悪党にとって彼女達は美味しい獲物でしかない、ニーレンス公爵家の実子の庇護は大きい。それに公爵家なら使用人が八人位増えても何ともないだろう。

 

「ご自分は二十人の女性達を問題無く安寧に暮らす手配をしましたな、俺は民衆からの評価が上がったのは喜べない。与えられた称賛だからだ!」

 

「真面目ですね、そして女子供に弱い。でも素直に美徳だと思います、僕はひねくれ者ですから……」

 

 思わず苦笑してしまった、レディセンス殿が此処まで弄られ易いとは驚いた。上級貴族なのに珍しい人だ、だからメディア嬢も甘えるのだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ラストワルツはレディセンス様とメディア様の兄妹とは白けるのではなくて?皆さんは主賓のリーンハルト様を祝いに来てるのよ」

 

 既にアウレール王もリズリット王妃も退場された、公務と言えども国王が最後まで出られるのは稀だ。僕は途中退場は出来ないと事前に言われたがラストワルツは特に言われてない、必要なら相手も事前に決められている。

 今回の舞踏会は主に関係者に重点を置いて催された、明日以降は対外的だから諸外国からの使者も来る。

 

「公爵五家筆頭、ニーレンス公爵の実子二人なら誰も文句は言えません。逆に僕が誰かと踊るとセラス王女の顔を潰す事になる、そう屁理屈を捏ねました」

 

 この超理論で全ての淑女やその親族からのお誘いを断った、本当なら最後までセラス王女は残りラストワルツを踊らねば駄目だったんだけど……

 

「指示は無かったから自由にしても構わない、そしてリーンハルト様は公爵四家の中でニーレンス公爵家に配慮した?」

 

「順当です、ニーレンス公爵は公爵五家筆頭です。一番角が立たない人選だと思ってます」

 

 兄妹だが見応えの有る美男美女のカップルだ、残念ながら身長が低い僕ではイマイチだろう。ラストワルツは社交界では誇らしい事だ、これでニーレンス公爵家に義理は果たした。

 個人的にレディセンス殿への詫びも兼ねている、女性関係で少し弄り過ぎた。この晴れ舞台で気持ちを切り替えて欲しいのだが、出来れば妹のメディア嬢でなくて……

 

「そうね、貴方のお相手はアーシャ様とジゼル様。でも失脚したと言ってもバニシードのお馬鹿さんは未だ力を持っている、身辺警護をしっかりなさいな」

 

「僕個人を倒したいならば軍隊を持ってこいと啖呵を切れるのですが……実際二千人迄なら負けない自信は有ります。ですが周りの人達は違います、ご忠告感謝します」

 

 手は打っている、『召喚兵のブレスレット』に『魔法障壁のブレスレット』の組み合わせは凶悪だ。百人単位でも退けられる、レベルアップにより更なる強化も可能となった。

 イルメラ達に新しいブレスレットを早く渡したい、近くに居ない事が不安になっている。

 

「まぁ実際に軍隊に単独で挑んで完勝してるからハッタリじゃないわね。困った男の子だわ」

 

 ザスキア公爵にも『召喚兵のブレスレット』を渡して結束を強めた方が良いかな?武力でない力を扱う彼女は協力者としては最高だし……いや、最初はセラス王女だよな?

 


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