古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第339話

 旧コトプス帝国の残党共だが、かなり深くウルム王国に浸透している。アウレール王は既にバンチェッタ王を見切った、仮初めの休戦の後には本格的な戦争になると考えている。

 一応、上級官吏達の交渉は続けるがハイゼルン砦を確保出来た事だけで成果は有ったと納得していた。欲張り過ぎるのは足元を掬われる原因だ、後の交渉による成果はオマケ程度で良いらしい。

 長いと覚悟していた遠征も一ヶ月で終了、ハイゼルン砦の総司令官の役職を引き継ぎ王都に凱旋する事になった。しかもアウレール王に同行して護衛も兼ねての凱旋帰国だ。

 

 ハイゼルン砦の総司令官になったマリオン将軍と常備軍二千人は居残りに決まった、コンラート将軍の兵も合わせてマリオン将軍の配下とした。

 他にも千五百人規模の増援と砦の維持に必要な人材も送られる事となった、ウルム王国と本格的に戦争になった場合は攻防の要となる要塞だから半端な事はしないのだろう。

 ユリエル様とフレイナル殿と配下の宮廷魔術師団員二十人も派遣される、アンドレアル様が親子で赴任したがったが直情傾向の有る火属性魔術師親子は危険と思われ安定感で定評の有るユリエル様がマリオン将軍の補佐に付いた。

 フレイナル殿については最前線で経験を積めって事だ、新人三人の内一人は既に脱落したから彼を鍛えなければならない。

 

 謎の、殆ど旧コトプス帝国の残党共と認識している敵から襲撃されて五日後に漸く一時休戦及び補償金として金貨二十万枚の支払いで上級官吏達は話を纏めた。

 後は両国の調印だけだが代理の上級官吏にて済ませて即日金貨二十万枚が運び込まれた、これで有耶無耶だが今回の騒動は手打ちとなり漸くエムデン王国の王都に帰れる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイゼルン砦の総司令官の任を解かれてマリオン将軍に引き継ぎを行った、彼女には『雷光』と毒付加の槍を渡しておいた。王都には帰れないので代わりにライラック商会から借金をして代金を払ってくれた。

 立て替えはせずに律儀に借金までしてくれたのは驚いた、だが嬉しそうに『雷光』に頬擦りしていたので武人って武器や防具に凄い愛着が有るんだと再認識した。

 サービスとして固定化を重ね掛けしたラウンドシールドも渡しておいた、最初は不信がられて反発もされたが何とか友好的な関係を築けたかな?

 

 バレンシアさんとチェルシーさんには困った、あの二人は僕に逆夜這いを掛けてきて護衛のゴーレムポーンに捕縛されたんだ。

 総司令官の私室に突撃とか警備や防諜上の問題でも大騒ぎになって二人共に祖国に戻される事になった、だが元々帰る気満々で最後の仕上げに僕に逆夜這いしたんだよな。普通は厳罰だが男女間の秘め事として許された。

 ハイゼルン砦に籠る兵士の主力は精鋭部隊から常備軍に変わる、規模は三千人を超えるが一般兵だから客層は下がる。それに顧客人気上位は粗方身請けされるから引き上げ時なんだ、マリオン将軍は娼婦達に配慮はしないから旨味も少ない。

 驚いた事にゲッペル殿が清楚系美少女に捕まって、いや捕まえて身請けした。仲睦まじいらしいが、あの堅物魔術師が年下趣味とはねぇ……

 

 僕の方はズルズルと引き留めてしまった女性達二十人を連れて帰る、既に親書で事前にニクラス司祭にお願いしているので教会に連れて行けば大丈夫だ。王都近郊の湖の近くの修道院に入って貰い、清貧だが落ち着いた生活を送って欲しい。

 私物の整理と戦利品の処分、持ち込んだ資機材や食料、医療品はエムデン王国が買い上げてくれてハイゼルン砦に備蓄した。輸送費を考えたら安いし早いので最低限を残して適正価格でお願いした。

 ハイゼルン砦の宝物庫に有った金貨だがエムデン王国公式金貨二万八千枚、ウルム王国公式金貨四万五千枚は僕の正当報酬と言われたので遠慮無く貰った。

 ウルム王国の金貨はエムデン王国の物に換金したが金の含有率とレートの関係で四万枚に減り計六万八千枚の利益。

 それと敵兵から剥いだ物とビアレス殿の配下から回収されて保管されていた武器や防具の売値が金貨八千枚で合計七万六千枚、資機材と食料を売って得た金額に必要経費を引くと金貨七万枚が純利益。

 ライル団長とマリオン将軍に『雷光』と毒付加の槍を売った代金が金貨三万枚、やはり錬金した物を売った方が利益率は高い。

 今後は王立錬金術研究所と個人的な研究とを合わせて稼ぐのを基本にするか、実績と成果と利益が得られるので効率的だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイゼルン砦を旧コトプス帝国の残党共から奪い返し、ウルム王国との小競り合いに勝利した凱旋と言う事で、アウレール王と一緒に王都に向かう。

 日程的には行きと同じだが国王が居るという事で対応が街や村の代表から、その地を治める領主や代官に変わった。

 領地内を通行する時は領主の私兵達も護衛として同行する徹底振りだ、流石に軍馬でなく特注の御用馬車に乗って貰っている。同乗者はサリアリス様と何故か僕もだ、緊張を強いられるので辛過ぎる。

 

「何て言うかアレだな、そんなに緊張するな。お前ってアンバランスなんだよ、未成年なのに宮廷内でも戦場でも慣れすら感じる安定感は異常だぞ」

 

「ふむ、才能って奴は残酷だの。無い奴の妬みを買うからな、前の会議でも馬鹿三人が的外れな妄言を垂らしてくれたので凍死させそうになったぞ」

 

 俺が抑えろって言わなければ大問題だったぞって笑われても困る、国王が出席するとなれば問題発言をした奴等はバニシード公爵と侯爵七家の内の二家の筈だ。目立ち過ぎて出る杭として打たれたかな……

 広い馬車の中には我々三人しか居ない、僕が一番下だから何も言えない。なのに話題は僕の事が多い、故に曖昧な笑いで遣り過ごすのも不敬なので出来ない。

 

「バニシードの馬鹿の領地は四割没収、領地は王家の直轄地として改革する。お前には俺の直轄地を与える、バニシードの領地じゃ反発する馬鹿も居るだろ」

 

「なるべく王都に近い場所が良いですぞ、リーンハルトなら領地経営も問題無くこなすと思うが煩わしい事に労力を割くのも勿体無い。あくまでも収入源としての手間の掛からない領地が望ましいの」

 

 うわぁ!普通は領地経営に四苦八苦するのに、そんな上等な領地を要求するのは駄目だって。その条件に該当する直轄地は農地でなくて中規模の街とかだぞ、税収が安定するのは二千人以上の規模の住人が必要だし。

 

 この前代未聞の要求にアウレール王は笑って頷いている、酔ってないぞ、素面だぞ。不味い話の流れだ、優遇してくれるのは嬉しいが周りの反発を考えればマイナス面が多い。

 喉がカラカラで手には汗が滲んできたのでローブの裾で拭く、目眩もしてきたのは間違いでは無いよな。急激な厚待遇にメンタル面がついていけない、こんな結果になるとは予想外だ。

 

「何だ、不満か?」

 

「成果と報酬の釣り合いが取れません、そんなに優遇されては……」

 

 それ以上はアウレール王の強い視線により言えなかった、本気でサリアリス様の提案を飲むつもりだ。横目で見たサリアリス様は嬉しそうに優しく微笑んでいる。

 

「聞け、ゴーレムマスター。俺は即位してから四度ハイゼルン砦を攻めた、今回のを含めて失った兵士は延べで二千人を超える。兵士だけじゃない、将も二人失った。それだけの犠牲を強いても落ちなかったのが、難攻不落と言われたハイゼルン砦なんだ」

 

「ビアレスの馬鹿がな、バニシードの兵を借りても大敗した。その報告を聞いた時にやはりハイゼルン砦は落ちないのかと落胆したんじゃ、あの卑怯な連中に奪われてまた負けた。その悔しさは先の大戦を経験した者にしか分からないじゃろうな」

 

 ワシワシと頭を撫でられた、アウレール王やサリアリス様にとってハイゼルン砦は別格の思い入れが有るんだ。撫でられて目を細めてしまう、僕は肉親の愛情に飢えている。サリアリス様は僕にとって母であり祖母でも有る、僕は……

 

「お前等、本当に血の繋がりは無いのか?有るなら正直に言えよ、悪い様にはしない。親族の屑共が騒ぐなら俺が潰してやるぞ」

 

「申し訳有りません、仕えし王の前で甘えん坊な所を見せてしまい……いえ、甘えん坊じゃなくてですね。その誤解が、ですね。あの……」

 

 何を口走ったんだ?甘えん坊だと、馬鹿な。僕は宮廷魔術師第二席としての……

 

「冷静沈着、出来過ぎとリズリットに言われたお前が、サリアリスの前では子供同然だな。サリアリスよ、良い孫を持ったな」

 

「自慢の孫で愛弟子で後継者じゃよ。リーンハルトや、お主は隠しているが水属性も持っているじゃろ?」

 

 え?何時バレたんだ?僕はサリアリス様を騙すつもりは無かった、嘘を吐いて騙すなんて事は……

 

「そんな絶望的な顔はするな。儂は咎めてないぞ、逆に嬉しいんじゃ。儂とて水属性を極めし魔術師じゃ、お主の素質は早くから見抜いていた。普通は二つの属性を持つならば自慢する筈じゃ、だがそれをしないのは何故か?そう考えていた……」

 

 優しく微笑んで、その先は自分で話せと言っているのが分かった。悪戯がバレた子供の心境に近いんだろうな、恥ずかしく情けない。

 

「確かに僕は土属性の他に水属性も持っています、サリアリス様と同じく毒特化のです。秘密にしたのは切り札として最後まで隠し通すつもりでした、ゴーレム使いが毒を扱う魔法を使えるとは思われないし思わない。

僕は土属性一本を極めると周りに思わせて、最後の切り札として毒付加の魔法も研鑽してきたんです」

 

 思い込みは時に隙を誘発出来る、僕の年齢で二つの属性を極めるのは難しい。周りは僕をゴーレムマスターの二つ名の通りに土属性一本の特化魔術師と思うだろう。

 

「己が勝つ為の切り札として最後まで自慢出来る事を隠す、いや隠せるのか。言われなければ俺もお前が土属性一本のゴーレム特化魔術師だと思っていた、ゴーレム運用だけでも際立っているのに更に切り札まで隠し通す。恐れ入ったよ、リーンハルト」

 

 黙って頭を下げる、仕えし王に嘘を言ったのだ。罰は甘んじて受ける覚悟は有る。

 

「アウレール王、一ヶ月時間が欲しいのじゃ。儂の水属性魔術師としての全てをリーンハルトに継承する、その時間が欲しい。勿論周りには秘密じゃ、丁度良いダミーもある。新種のドラゴンの調査をする名目がな」

 

「分かった、リーンハルトは次期宮廷魔術師筆頭だからな、サリアリスの知識の全てを仕込めよ。我が宮廷魔術師達は世代交代の時期だ、ラミュールとリッパーは未だ二十年は現役で居られるが他は順番に引退だ。フレイナルは心許ない、ビアレスは馬鹿をやって死んだ。

リーンハルトよ、お前が二十歳になった時に宮廷魔術師筆頭に任命する。サリアリスにも余生を楽しむ時間を与えてやってくれ、頼むぞ」

 

 僕には無理ですって言葉を飲み込む、僕はサリアリス様の期待に応えたい。高齢の彼女は自分でも余命十年と言った、水属性魔術師は自分の身体の事には詳しい。

 ならば自由に身体が動く内に重圧から解放してあげたい、その為になら一国の宮廷魔術師筆頭位にはなってみせる!

 

「有り難う御座います、必ず期待に応えてみせます」

 

 それ以上は言葉が出ずに頭を下げて涙を隠す、膝の上に垂れたのは涙じゃない、鼻水だ!

 

「お主は対外的には土属性魔術師のバルバドスの愛弟子じゃ、儂とは共同研究者であり後継者で良いな。勿論、水属性を持っている事は秘密じゃぞ。切り札とは最後まで分からせない事が大切じゃからな」

 

「俺も秘密は守る、しかし本当に未成年とは思えないが信じるしかないんだよな。リズリットとセラスがな、お前を早く王都に戻せって毎日五月蝿かったぞ。もう既にハイゼルン砦を落とした実績が有るから事後処理は他に任せろってな」

 

 ハッハッハッて笑いながら肩を叩かれた、セラス王女は本当にフリーダムな姫様だよな。父親とは言え国王に直接お願いするとは思わなかった、早目にレジストストーンの性能向上の研究をするかな。

 今回の報酬として王家秘蔵のマジックアイテムも見せて貰えるし楽しみが増えた、早く研究を始めたい。

 

「ニヤニヤしやがって、本当にお前等魔術師って奴は俺には理解出来ない人種だな。権力や財力よりも知的探求心が満足出来れば良いって変態共め、どんな頭の構造をしてるんだ?」

 

 頭をグリグリと掴んで揺すられたが反抗は出来ないので、なすがままにされるしか無い。サリアリス様、笑ってないで止めて下さい、貴女の後継者が困ってます!


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