古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第336話

 アウレール王がハイゼルン砦に来られた、ウルム王国との外交戦の為に自ら最前線に来たんだ。

 近衛騎士団と直轄地から呼び寄せた王家直属の兵士も連れて来た、外交を有利にする為に一戦交えるかと思ったが慎重だ、指示が有る迄は余計な事はしない。

 近衛騎士団団長、聖騎士団団長、常備軍将軍、宮廷魔術師筆頭から三席迄と灰汁の強い連中が集まったがエムデン王国の頂点であるアウレール王が居る為に纏まりを保っている。

 

 最上級の貴賓室も整備してるので問題は無い、侍従が二十人も同行してるし警備は近衛騎士団の仕事。だが僕の肩書きは未だハイゼルン砦の総司令官のままだ。

 誰かに変わって欲しいのだが、自分が落とした要塞の管理は自分でしなさい的に言われた。だからアウレール王の滞在中に不備が無い様に仕事が増える、人手も増えたけどね。

 

 総司令室には不満や要望、改善を求めて毎日人が押し寄せてくる。全く冗談じゃないのだがアウレール王が役職に応じた俸給も出してくれるので断れない。

 

「リーンハルト殿!何故、この俺が娼婦達の担当責任者なんだ?」

 

 蹴破らん位の力で扉を開け放って入って来たのはレディセンス様だ、先日許可したエムデン王国の娼婦ギルド本部からの増援が来たのだろう。世話は全て押し付けた。

 

「直接が嫌なら配下に任せれば良いのです、要望等は書類に纏めて下さい。彼女達からの上前は実費を差し引いてレディセンス様の物です、頑張って下さい」

 

「いや、それは一寸嫌なんだが……」

 

 娼婦ギルド本部は本当は僕に売上金を献上し恩と伝手が欲しかった筈だ、だが敢えてレディセンス殿に任せる事でワンクッション置いた。売上金の話もしてある、だから僕との直接的な関わりは薄い。

 

「申し訳有りませんが、総司令官が娼婦に対してアレコレ便宜を図るのも問題です。レディセンス殿には悪いのですが他に適任者も居ないので頑張って下さい」

 

 申し訳なさそうな顔をして頭を下げた後で、笑顔で激励する。肩を落として部屋を去る姿を見て、ラミュール殿とマリオン将軍がクスクス笑っている。ライル団長は同情的だが自分に飛び火するのが嫌なのか無言だ。

 

「宜しかったのですか?仮にもニーレンス公爵の実子ですわよ」

 

「最前線に娼館擬きを作り娼婦を常駐させるなど不謹慎だ、仮にもアウレール王の滞在中なのだぞ!」

 

 ふむ……二人共に仮にもと言ったが、ラミュール殿はレディセンス殿を気遣い、マリオン将軍はアウレール王を気にした。戦場で兵士達の事を考えれば精神安定剤として役立つのは理解してるのかな?

 

「末端の兵士にとって戦場は生きるか死ぬかですからね、酒と女に縋(すが)りたいそうですよ。だから必要悪と割り切ってます、彼女達を追い払うと不満が出ますから。

それと僕に接触したがるのは情報収集です、彼女達娼婦ギルドの構成員は諜報員としても有能だ。新しい宮廷魔術師の情報はウルム王国等が高値で買ってくれる、だから直接の接触は避けて、向こうも無理強い出来ないレディセンス殿に押し付けました」

 

 もっともレディセンス殿は何度か利用している常連客らしいので丁度良いかなって教えた時の女性二人の目は、公爵の実子に向ける目じゃなかった。あの蔑みの目は怖いな、やはり女性って娼婦と関係を持つ男は嫌いなのかな?

 

「リーンハルト殿も、その……利用するのか?」

 

 マリオン将軍のトチ狂った質問には驚いた、利用なんてしてませんよ。仮にしてるって言ったらどうするんだ?

 

「僕は新婚です、側室を迎えて来年は本妻を迎えるのです。浮気はしませんよ」

 

「ならば良いのです」

 

「そうね、良い心掛けだわ」

 

 お互い見合わせて頷いたぞ、二人共に美人と言っても差し支えのない三十代の御姉様だが特定のお相手は居ないと聞いている。女性で高位役職を持ち強いから相手の男が萎縮するので敬遠されて結婚相手が見付からないとか……

 宮廷魔術師や将軍などの役職は一代限りだから婚姻で取り込むメリットよりも尻に敷かれるデメリットの方を嫌がるんだろうな、貴族って夫婦関係では自分が上に立ちたいって思う人種だから。

 

 いや余計な詮索は身を滅ぼす、触らぬ何とかに祟り無しと過去の偉人が言っていた。

 

 僕は机の書類に視線を戻した、この二人は同じ境遇を感じたのか親友みたいだし連携されたら厄介だから放置しよう。ライル団長も何事も無かった様に無視してるから、それが正解なんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夕食後は暇になる、酒は控えているし娼婦達の所には行かない、総司令官が娯楽室に行けば周りが遠慮してしまう。唯一の話し相手のサリアリス様は基本的にアウレール王の護衛の任務で近くに居るので邪魔は出来ない。

 

 僕は他に話し相手も居ない寂しい男なんだ……

 

 なので『春雷』のコピーである『雷光』を量産する、これは次期主力商品として王家に買い取って貰う事になる。近衛騎士団から優先的に装備されるだろう、総勢八十八人分を作ったら聖騎士団の分だ。

 此方は三百人以上だが所属派閥の関係で渡せない人も居る、だからライル団長と相談する事になるだろう。

 非常時の魔力を残す為に一晩で四本迄とする、レベルアップ前は一日五本だったが今は八本だから半分だ。基本的には長剣と槍の二種類だ、武人に言わせると戦場では大剣とか短剣よりも長柄の武器である槍等が一番で次が長剣らしい。

 変わり種の武器を作っても拘りの有る冒険者や武芸者しか喜ばないそうだ、ライル団長やデオドラ男爵が言うのだから間違いは無いな。

 

「はい、何ですか?」

 

 ドアをノックする音に錬金を止めて声を掛ける、僕に宛がわれた私室に誰か来るのは初めてだな。

 

「夜分すまない、少し話がしたくてな」

 

「珍しい組合せですね、ライル団長とマリオン将軍とは。何か問題でも有りましたか?」

 

 聖騎士団と常備軍を指揮する二人が来るとなれば軍事行動だろう、訓練とかなら問題無いが敵を探しに行きたいとかなら止めないと駄目だろう。

 作りかけの槍を後ろの壁に立て掛ける、先ずは話を聞くか。部屋の隅の応接セットに座る様に勧める。

 

「それで話とはなんでしょうか?」

 

 ん?執務机が気になるのか、それとも置かれた武器かな?二人共武人だし気持ちは分かるが先に話をして欲しいのだが……

 

「マリオンがな、お前に武器を錬金して欲しいそうだ。俺の貰った『雷光』は話題独占でどうしても欲しいって奴が多いんだ」

 

「そうですか、人気が出るのは嬉しいです。土属性魔術師冥利に尽きますが、作った物は王家の買い取りになってます」

 

 少し甘く見ていた、戦士職にとっては魔力が付加された武器は、どうしても欲しいんだな。それを知り合いが持っていれば余計に欲しがるか……

 

「何とかならないか?出来る限り望む物は用意する、金貨でも何でもだ」

 

 思いっきり力説された、女性に望みは何でも叶えるとか言われると誤解されそうだな。

 

「その机の上のロングソードも『雷光』だろ?同じ装飾だしな。しかし一晩に何本も作れるのか?」

 

 目敏く……もないか、目立つ様に置いていた僕の失敗だな。リズリット王妃もセラス王女もマリオン将軍に譲っても文句は言わない、でも買い取り一本金貨一万枚なんだよ。

 本物の『春雷』がオークション平均落札価格金貨三万枚、その三分の一の値段設定だけど大丈夫かな?

 

「見本と完成品です、基本的に量産品は同じ装飾にしますから見本を見て同じ様に仕上げていたのです。マリオン将軍に譲るのは良いのですが、リズリット王妃が買い取り金額を決めているので同じで良いですか?」

 

「勿論だ、それより高くても構わない。私は女だてらに武芸一本で成り上がったからな、装飾品やドレス等に興味は無い。だから国王より頂いた給金は貯まっているぞ」

 

 確かに鍛えた肉体は筋肉質だよな、造形は美人なのに勿体ないと言うか……確か住居も王宮に部屋を与えられて住んでる筈だっけ?自身も子爵だが天涯孤独の身だそうだ。

 お金は余り使わないな、僕なんか貴族街に屋敷を持てとか無茶振りされてるのに羨ましい。

 

「金貨一万枚で……」

 

「二本売ってくれ!いや三本欲しい」

 

 途中で言葉を被せて来たけど三本は無理だ、全体数が少ない中で融通するのは不味い。

 

「長剣タイプの『雷光』は一人一本しか売れません、流石に週に一本程度しか生産出来ないし最優先は王家に納品する事ですから」

 

「そうか、そうだな。王家の依頼に割り込ませて貰えるんだ、無理は言わない。だが長剣は分かるが、あの立て掛けてある槍は何だ?アレも魔力の付加された武器なのか?」

 

 王家の事を出されたら流石に引き下がるか、だが一本程度ならマリオン将軍に売る事は大丈夫だろう。逆に優先的に配備される人材だ。槍の件はどうするかな、正直に言うかな。

 

「ライル団長やデオドラ男爵から長剣よりも槍の方が戦場では使い勝手が良いと教えて貰いまして、試行錯誤中なんです。因みにアレは未だ魔力付加はしてないです、完成品はランダムに毒を与えるのと麻痺ですね」

 

「「ままま、麻痺だと?『雷光』と同じ麻痺が槍にだと!」」

 

 シンクロしたぞ、確かに魔力の付加された槍が欲しいと聞いて作ってるのだが凄い食い付きだな。

 

「はい、未だ試作段階ですけど。毒付加の方は完成してますよ」

 

 見せて欲しいと頼まれたので空間創造から完成品を二本取り出して渡す、柄も金属製だが軽量化の魔法も付加している。固定化も重ね掛けしている上の下位のランクの品だ、因みにランダムに錬金された毒を与える。

 

「あの、狭い室内で振り回すのは止めて下さい。危ないですよ」

 

 やはり頂点に上り詰めた武人は違うな、僕のゴーレムも槍捌きには自信が有るが全然違う。格の違いと言うか何と言うか……

 

「「売って欲しい、言い値で構わない!」」

 

 ライル団長もですか?てか、シンクロしましたが口裏合わせでもしてるんですか?二人並んで血走った目で見られるのは怖いです、しかも槍を構えてですよ。誰かに見られたら脅迫ですよ!

 

「それは構いませんが、一本金貨五千枚ですよ。一人一本ですよ」

 

「それで構わないぞ」

 

「もし他にも魔力の付加された武器や防具が有れば教えてくれ、言い値で買うぞ」

 

 前は錬金によるアイテム作成は国のお抱えになり自由が無くなると言われて自粛していたが、出世する事と『王立錬金術研究所』の所長と言う肩書きが有利に働いたな。

 リズリット王妃とセラス王女には感謝しないと駄目だな、確かに財源として殆ど元手が掛からないから利益率は高い。

 

「今は手持ちが無いので王都に戻ったら支払う、それまでは預かっておいてくれ」

 

「くれぐれも他の奴等には売らないでくれよな」

 

 商品先渡しでも構わないのだが信用問題で駄目だとジゼル嬢から念を押されている、信用してるのと無用心なのは違うそうだ。

 相手も困るらしい、信用されてると喜ぶなら良いが欲望に負けてしまう場合もあるから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイゼルン砦にアウレール王が滞在して五日目、漸くウルム王国から返事が来た。会場の場所で揉めに揉めたらしい、お互いに自分に有利な場所を選びたい。

 しかも外交官達は互いの国王が参加する為に妥協も出来ず話は平行線だったが、ハイゼルン砦攻略で捕まえた文官達の自白と見付けた資料により旧コトプス帝国の次の動きが掴めた事を盾に強引に押し切った。

 アウレール王もウルム王国に配慮しバレル川のエムデン王国側に天幕を設えて会場とする事にした、自領で行う事が大切だったそうだ。

 後は戦争を仕掛けて跳ね返された側が不利な場所、つまり後ろが流れが急なバレル側を背負う事で背水の陣になった。互いに同行する兵士は千人だが最悪の場合の増援はウルム王国は間に合わない、橋は近いが押さえられたら無いのと同じ。

 

 当然だがお互い近衛騎士団を同行させるが、その他の護衛には将軍職と宮廷魔術師が二名ずつと制限を設けた。我々はエルムント団長とライル団長、それにサリアリス様と僕だ。

 僕についてはウルム王国側からも逆指名が来た、旧コトプス帝国の残党を殲滅しジウ将軍とも戦った今回の件では一番の当事者だから当然らしい。向こうもジウ将軍を出席させると報告が有った。

 

 いよいよ国王同士の会談か、緊張するな……

 


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