古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第332話

 

 

「リーンハルト殿、騎兵部隊が迫って来るぞ。交渉なんて罠だったんだ、我等を盾に早くハイゼルン砦に逃げ込んでくれ!」

 

 ボーディック殿の叫び声に後ろを振り向く、土煙を上げて接近してくる騎兵部隊が見えた。ジウ将軍が罠に嵌めて僕等を倒すと言うのか?あの卑怯な事が嫌いと感じた豪放な男が?

 確かに距離100mまで接近してくる騎兵部隊、御丁寧に十人横並びで真っ直ぐ向かって来る。これは魔法の攻撃を受けて前列が倒されても後列が確実に敵を倒す犠牲前提の布陣だ。

 先頭の騎兵部隊は盾を構えて突撃してくる、損害覚悟の必勝パターンか……

 ボーディック殿と護衛の兵士が僕の前に立って盾となってくれる、自己を犠牲にしても助けてくれる気持ちは受け取った。だが魔術師の援護の無い騎兵部隊など怖くは無い。

 

「馬鹿が、大地に立つ限り僕に負けは無い。僕に勝ちたければ空でも飛ばないと無理と思え!」

 

 ボーディック殿の前に立ち敵と向き合って馬上だが両手を広げる、単純に突撃するだけなら問題無く倒せる。それが防御を固めて捨て身で突撃してきても同じだ。

 

「アイアンランス!」

 

 自分の周囲に二百本の鋼の槍を錬成する、敵がアイアンランスを確認し更に身を縮めて盾を構えた。やはり精鋭騎兵部隊、覚悟が出来ている。

 確かにアイアンランスでは半数を倒した時点で接近されて負けるかも知れない、だが僕の攻撃魔法はこれだけじゃないんだ!

 

「大地より生まれし断罪の剣よ、敵を滅ぼせ山嵐!敵を串刺しにしろ」

 

 突撃してくる騎兵部隊に斜めに生やした五百本の槍衾(やりぶすま)を錬成すれば勢いに任せて馬ごと身体を槍に貫かれる。

 

 死角である足元から長さ4mの槍の攻撃は、馬の身体を突き抜け乗っている人間も串刺しにする。また振り落とされた乗り手は後続の馬に踏まれ絶命する。

 先頭が失速し馬ごと倒れれば後続の突撃の勢いは削がれる、たたらを踏んで馬を制御するが隙だらけなんだよ。

 左右に別れて再突撃を試みるも一度失速すれば騎兵部隊の威力は半減、左右どちらかが倒せればと思っても僕のアイアンランスは広範囲に射てるので無意味。

 

「アイアンランス、乱れ撃ち!僕を倒したいなら五倍の戦力を用意しろ」

 

 勢いの半減した騎兵部隊など的と変わりが無い、合計二百本の鋼鉄の槍が生き残りを貫き命を絶つ。レベルアップの恩恵で威力を増したアイアンランスは二~三人の身体を楽々と貫通した。

 五百騎の突撃も近付かせなければ問題無い、騎兵部隊だけの突撃では甘かったんだ。

 槍投げや弓矢で牽制しながら接近すれば対処が出来ずに僕に迫れたかも知れない、だが現実は50m手前で全滅した。騎兵部隊は使い所が難しいんだ、常勝無敗のジウ将軍にしてはお粗末な用兵だな。

 命令違反か独断専行か、だがウルム王国とは開戦したと思って良いだろう。

 

 そしてレベルアップし41になった、レベル20以上の騎兵部隊を五百人近く倒せば効率良く経験値が稼げるんだな。

 

「凄いですな、連中の騎兵部隊は全滅ですぞ。残りは歩兵と槍兵に弓兵のみ、移動力の弱い部隊ならば中遠距離攻撃で一方的に倒せますな」

 

「用兵が変でした、騎兵部隊の戦術は覚悟を決めた見事なものでしたが突撃のタイミングがお粗末過ぎる。僕が土属性魔術師と知って速攻で攻めたにしても……」

 

 火属性魔術師ならば『サンアロー』や『ビッグバン』で同様の結果を出せた筈だ、現代での火属性魔術師の運用は広域殲滅魔法だからな。如何に敵を纏めて射程距離内に誘き寄せるかが問題、近付いてくれるなら的にしかならない。

 

「油断や慢心にしては交渉の場で互いの力量を理解した筈ですな、それでこの稚拙な突撃か。確かに少し変ですな、独断専行か命令違反も考えられますぞ」

 

 従来の土属性魔術師なら今回の突撃で十分倒せた、犠牲も先頭二十人位で収まった筈だ。だから用兵としてはギリギリ正解だった、今回は油断はしてないが僕の力量を計り間違ったって事か?

 ならば次は策を練って来るだろう、楽には勝てないな……

 

「敵は二陣を向かわせる気は無いみたいですね、少し仕掛けましょう。ボーディック殿、使者を送って騎兵部隊の回収と負傷者の救護をする間は休戦で良いと伝えて下さい」

 

「なる程、時間稼ぎですな。雑兵と違い精鋭の騎兵部隊を野晒しには出来ない、馬も回収となればかなりの時間が稼げますな。それとライル団長率いる本隊にも伝令を出します」

 

 後は見張りの強化と防御戦の準備だ、女性達はライル団長が到着したら護衛と共に一端アンクライムの街に送るか。バレンシアさん達はどうするかな、防衛戦の最中にウロウロされるのは嫌なんだが……

 

 考え事をしながら警戒していたら使者が戻って来た、騎兵部隊の回収と休戦は了承して貰えたみたいだ。先ずは一勝、敵の機動部隊は潰したから背後に回り込まれる心配は減った。

 残りは歩兵部隊だけだが旧コトプス帝国の残党討伐がウルム王国と戦争する事になるとは……

 ミケランジェロ殿に頼んでアウレール王に報告しないと駄目だ、ウルム王国は最初から戦争ありきで動いていたと。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ウルム王国の聖堂騎士団の騎兵部隊が壊滅?五分と経ってねぇぞ!土属性魔術師があれ程の広域殲滅魔法を使えるなんて聞いてねぇ!」

 

 デルリンチの馬鹿野郎が騙し討ちみたいな突撃をしてしまった、敵の指揮官に攻撃を仕掛けたんだ。言い訳しようもない、仕方無く一気にハイゼルン砦を攻め落とそうと考えた時に騎兵部隊が壊滅した。

 良く見えなかったが大地から多数の槍が生えて左右に別れた騎兵達は何かに貫かれて倒された、多分アイアンランスだが数が半端無い。

 普通は多くても十本程度だが少なくとも百本は越えていた、どういうトリックが有るんだ?

 

「このまま押し切りたいが敵は馬に乗っている、逃げられてしまうな。クソッ、騎兵部隊が全滅したのは残念だ。用兵の幅が狭まったぞ、デルリンチ!」

 

「はっ、はい。ジウ将軍!」

 

 この馬鹿野郎が!国王からお預かりした騎兵部隊が壊滅じゃないか、この責任は重いんだぞ。

 

「馬鹿な命令をしやがって!軍法会議に掛けて殺してやる」

 

「私は突撃など命じておりません!本当です、信じて下さい。卑怯な策など貴族の面子に泥を塗る様な事は絶対にしない」

 

 む、確かにコイツは正々堂々とか貴族の誇りがなんだとか言ってるな。騙し討ちや不意討ちは貴族らしくない卑怯者だと綺麗事を騒いでいた、だがデルリンチの名前で命令されたと言ったんだぞ。

 

「ジウ将軍、どうやらデルリンチ殿の名を騙り騎兵部隊を動かした奴が居ます」

 

「俺達が倒されて得する奴が後ろから操っている訳だ、俺の事が気に入らない馬鹿な貴族共か?」

 

 それとも戦争に負けて我が国に転がり込んで来た奴等の線も有るな、元々は奴等からハイゼルン砦を奪い返しに来たんだ。

 

「または旧コトプス帝国の残党かも知れません、此処でエムデン王国と開戦すれば三つ巴の戦いになります」

 

 モーデスの意見も俺と同じか、此処で敵を増やせば二方面作戦となり旧コトプス帝国の連中が国力の弱まった我等に何か仕掛ける可能性は高い、それは不味いのだが既に矢は放たれた、開戦は防げない。

 

「一騎向かって来ます、伝令兵ですね」

 

「此方の真意の確認か宣戦布告か、悔しいが奴等の思惑に踊らされた。だがハイゼルン砦は奪い返すしかないんだ」

 

 伝令の兵士から一時的な休戦と倒された騎兵部隊の回収を提案された、飲むしか無いのだが時間を稼がれたな。

 出来れば千人しか居ない時に攻略したかった、増員は二千人規模と聞いている。もう単独攻略は無理だ、此方も王宮に報告し増援を待とう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「凄いですね!見てました、簡単に騎兵を何百人と倒せるなんて興奮しちゃいました。今夜は私を部屋に呼んで下さい、お願いします」

 

 妙に扇情的なドレスを着て胸を強調したバレンシアさんが出迎えてくれた、横目で見たボーディック殿は目を反らしたがストイックな人なんだろう。

 彼女達と遊んでないのは僕とボーディック殿だけで、女性が苦手そうなレディセンス殿でさえ遊んでいる。

 

「何故、出迎えがバレンシアさんなんですか?」

 

 ウルム王国側の跳ね橋を渡り大正門を潜ると先頭で出迎えてくれたのは女性陣だった。バレンシアさんは分かる、情報収集の最終段階として直接話を聞きたい。

 もっとも油断する情を交わした後を狙っての事だ、そろそろハイゼルン砦から出て行くのだろう。僕の情報は今が旬だ、だが大して集まってはいないか。

 

「勿論、激励と祝福ですわ。後は守ってくれるお礼かしら?」

 

 馬から降りて世話係に引き渡す、錬金製の鎧兜を魔素に還して身軽になる。それなりに緊張していたのか軽い疲労とお腹が空いた、何か油っこい物が食べたいな。

 

「お礼なら美味しい食事をお願いします、お腹が空きました。でも貴女達まで出迎えとは、何か有りましたか?それとも希望が有るのなら叶えますよ」

 

 拐われた女性達まで集まっている、保護者の僕に死なれては困るとかかな?真剣な表情だが僕に対して僅かに恐怖を感じている。早目にニクラス司祭に訳を話して修道院に連れて行った方が安全だな。

 

「その、ご無事でなによりです」

 

「私達も心配で……ご迷惑でしたか?」

 

「希望なんて、私達感謝し過ぎても足りない位です」

 

 ああ、下心の無い純真な心配をしてくれたのか。最近少し疑心暗鬼になってるのかもな、反省しよう。

 

「迷惑ではないよ、有り難う。だが無理をして外に出る必要は無い、増援が来たら速やかに護衛を付けてアンクライムの街に送る。

その後に王都に行って貰うから安心して欲しい、もう誰にも傷付けさせないから大丈夫だよ」

 

 そう優しく微笑み掛けて司令室に向かう事にする、ジウ将軍の兵士達はもう少し減らしたい、騎兵部隊の回収と治療が終わった後で奇襲を掛ける。

 何もハイゼルン砦に引き籠っているだけじゃない、積極的に攻勢に出る方が意外性が有るからね。防衛戦に専念すると先入観は植え付けた、後は利用して攻めるだけだ。

 悪いがソッチから仕掛けた戦争だ、手を抜く事はしない。

 

「差別よ、私達みたいな商売女には構わないのですね?」

 

 身分は天と地程も離れているのに場を上手く使うな、拗ねたり涙ぐんでみたりと多彩な小技に感心すらするよ。これで不敬と取られ難くしている、彼女は僕が罰を与えないと確信してやっている。

 

「バレンシアさん達は自分の意思で残り仕事をしている、彼女達は強制的に連れてこられた僕等が守るべき国民だ。差別じゃなくて区別ですよ、ですがウルム王国との戦争が始まり此処は最前線になりました。

危険ですし、バレンシアさん達も早目に移動した方が良いでしょう」

 

 ライル団長達が来る前に出て行って欲しい、必要だったとはいえ娼婦達を常駐させてる司令官ってどうだろう?

 

「でも此処に居る限りは守ってくれるんでしょ?今夜は私の故郷の料理を振る舞うわ」

 

 あれ?そろそろ潮時じゃないのかな、旬な情報を売るなら今でしょ!女性陣が僕に頭を下げてから引き上げていく、予想と違う展開だが読み間違えたな?

 

「リーンハルト殿、余り平民に構いすぎるのも問題ですぞ」

 

 ボーディック殿に叱られた、だがバレンシアさんの件は誤解です。彼女達は諜報部隊も兼ねてるから泳がせて、都合の良い情報を与えているだけです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 屋上からジウ将軍の陣地を確認する、そろそろ日が暮れる。彼等はあの場所で野営するのか、無用心だよな。

 ハイゼルン砦から3kmと離れていない、奇襲を警戒せずに近くで何時でも攻められると此方にプレッシャーを掛けているつもりか?

 

 障害物は低木や草むら程度で見通しは良い、レベルアップの影響で『視界の中の王国(リトルキングダム)』のゴーレムの制御数は五百体、制御範囲は半径700mまで増えた。

 だが半径700mでは気付かれずに敵陣に接近するには夜間しかない、幸い空には雲が多いので月が隠れて視界が悪くなりそうだ。

 

 陣地内部にゴーレム召喚は未だ知られたくない、だが制御範囲と射程距離を組み合わせれば敵陣との距離は伸びる。具体的には制御範囲700mと弓矢の射程距離300mを合わせて1kmは離れられる。

 

「突然の奇襲に右往左往するだろうな、悪いが先に手を出したんだ。相応のダメージは負って貰うよ」

 

 今回は考える暇を与えずに速攻で敵兵を減らす作戦を実行する、戦争とは敵戦力を減らす事が重要だ。被害が大きくなれば作戦の幅が狭まるし早期休戦も視野に入る。

 今は積極的に戦争に力を入れるか判断が出来ない、方針が決まるまでは大規模攻勢は控えるか……

 


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