古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

33 / 1000
第33話

 初めての実地訓練、初めての多数の味方との連携作戦。敵はゴブリンだけだが左右から陽動まで仕掛けて攻めてくる。

 此方は先生3人生徒15人、ゴブリン共は確認出来るだけでも合計47匹と手強い……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 覗き窓から左側の陽動部隊のゴブリン共の様子を窺うが、どう見ても此方に発見され易い動きをしている。わざわざ見付かるように左右に動いたり威嚇したりしているが、絶対に一定以上に近付いては来ない。

 

「陽動の左側は攻めてきてるアピールはするが弓の射程には入ってこないだろう、注意を……」

 

 ベルベットさんの放ったショートボゥの矢が先頭で武器をかざすゴブリンの喉に突き刺さるのが見えた。ショートボゥの有効射程距離って30m以上有ったかな?今の矢って40m近く山なりに飛んだよね?

 

「コホン……一匹倒されても作戦に変わりないみたいだね。右側が本命だ、引き付けてから討つよ」

 

 ベルベットさんは狙いを定めて二射三射と矢を放って次々とゴブリンを倒していく。接近される前に全滅させられそうだが矢が20本しかないから無理だそうだ。

 陽動部隊が矢で討たれているのを見て慌てたのだろう、右側の本命のゴブリン共が屈みながら真っ直ぐ走ってくる。

 なりふり構わず吠えながら全力で真っ直ぐ突っ込んでくる! 20秒もしない内にドームに到達するぞ……

 監視してなければドームに取り付かれていたな。

 

「僕が先に迎え撃つよ。大地の精霊よ、我に力を……ストーンブリット!」

 

 カッカラを構えて呪文を唱え振り下ろす事により人の頭大の岩をゴブリンに向かって真っ直ぐに射ち出す!

 連射の利く消費魔力の少ない魔法だが効果は絶大で頭を前に低くしながら走ってくるゴブリンは……射ち出された岩に頭部を潰されて倒されていく。

 当てにくいように左右に蛇行せず真っ直ぐ向かってくるゴブリンなど的でしかなく簡単に当てる事が出来る。半数を倒した辺りで、ゴブリン共は不利を察して攻撃を諦めたのか蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

「ヨシ!接近される前に倒せたぞ、残りの敵は左側の陽動部隊だけだ」

 

 ゴブリン共は右側の本命部隊が壊滅し残りは左側の陽動部隊だけとなった。手柄無しと慌てた連中がドームから飛び出してゴブリン共を倒しに行ってしまう。

 もう作戦なんて関係無い力押しの戦いだな……

 

「スィー、上から敵は来ないかい?」

 

「うん、大丈夫だよ。遠くの空が明るくなってきたから、直に雨も止むかな……」

 

 ゼクスもゴブリンを倒しに行ってしまい先生方とスィー、それとベルベットさんとギルさんの7人しかドーム内には残って居ない。

 雨は未だ本降りだが雷は止んだみたいだし風も弱まったかな……

 びしょ濡れになりながらゴブリン共と戦う仲間を見て思うが、初めての実戦の連中が多いにもかかわらず意外に善戦してる。

 左側の陽動部隊は逃げ出さずに最後まで戦うみたいだ。

 

「リーンハルト君のパーティは合格、オブザル君のパーティもギリギリ合格。最後のパーティは残念ながら不合格かな。

リーンハルト君なら一人で対処出来るだろうけど、人を動かすって難しいでしょ?」

 

 随分と辛口な採点だけど不合格の連中って依頼達成出来ずって事なのかな?

 

「難しいですね……

僕等は上下関係の無い同じ生徒って立場ですし、まんまと先生方の作戦に引っ掛かったし。天候は別としてもゴブリン襲撃は予定の内ですよね?」

 

 薬草採取だけの簡単な依頼でポイントが貰えるなら全員が10日でランクEになってしまう。

 でも実際は初級の依頼でも死ぬ危険性が有るんだな、低レベルなパーティなら人数が居ないとゴブリンを退けて薬草は採取出来ない。

 

「偶然ですよ、でもリーンハルト君。

そんなに慌ててなかったし、もしかして集団戦慣れてませんか?作戦立案も指揮も、まぁ及第点でしたよ」

 

 ルトライン帝国の魔導師団時代に500人の魔術師を率いていたが、彼等は殆ど個人主義の塊みたいな連中だったからな。

 参謀が立案し説明すれば後は勝手に戦ってくれた。

 それに僕は作戦を指揮するよりも自分が率先してゴーレム軍団を率いて突撃してたから、一般兵を指揮したのは殆ど初めてだ。

 

「いや、拙くて指揮とも言えない出来ですよ。

結局本命部隊は一人で倒したから連携のレの字も出来てないですし、左側の陽動部隊への対応は全く出来てないから今も乱戦中じゃないですか?」

 

 視線の先ではオブザルとゼクスが善戦している、彼等はレベル10くらい有るんじゃないか? 意外なのはゼクスはゴブリンに押されている仲間のフォローに入り被害を抑えてる事だ。

 オブザルはゴブリンと上手く一対一になりながら倒している、他人との連携とかは考えてないな。

 他の連中は……結構酷いな、逃げ回る奴も居れば泣き出す子も居るぞ。ゴブリンは残り六匹、オブザルとゼクスだけで大丈夫か?

 下手に加勢すると手柄を独り占めとか言われて嫌な顔をされそうだ……

 それから待つ事五分、ゴブリンは全滅し僕等の初めての実地訓練は一応の成功で終わった。

 勿論、天気の回復を待って残りのノルマの薬草は採取させられた。今回の成果は薬草採取数が750株、ゴブリン討伐数は32匹。

 薬草の買取価格は一株銅貨1枚だから全部で金貨7枚銀貨5枚。

 ゴブリンの討伐報酬は銅貨8枚だから全部で金貨2枚銀貨5枚銅貨6枚だ。

 一人当たりの報酬は銀貨6枚と少し、あくまでもパーティ行動だから成果は均等割り。バンク攻略中の身としては丸一日頑張った報酬としては悲しいな。

 

 

 依頼達成、ギルドランク1ポイントを得てランクEまで残り9ポイントだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めての実地訓練の反省会、10人の教師陣が参加し意図的に3グループへ分けた。20人以下の人数、複数のパーティ、予定と違う出来事に対応出来るかを見る為にだ。

 無事に生徒達を帰してからギルド上層部を交えての報告会が始まる。

 

 

 

「それで?報告を聞こうか……」

 

「はい、初めての実地訓練は成功でした。怪我人は出たが酷い失敗も無く無事に帰還出来ましたからな」

 

「確かにヒヨっ子共の世話は疲れるな。レベル5以下が殆どだったから気を付けないと直ぐに死ぬしよ」

 

「でも我々が手を貸さなくても依頼が達成出来たのは何年振りですかね?毎年最初の実地訓練は初めての実戦って子達も多いですが、今年は楽でしたよ」

 

 初めての実地訓練を終えて全員無事に帰還する事が出来たので一安心だ。

 レゾ高原は最近になりゴブリンの目撃証言が多発している場所だから、新入生には丁度良い試練と思い決定した場所だ。

 予定通りゴブリン共は襲ってきたので新入生の素質を見極めるのに丁度良かった。

 

「ギルド上層部から言われているリーンハルト君ですが……リーダーとしてパーティを引っ張る能力は並みでしたね、可もなく不可もなくですね」

 

 特に強烈なカリスマが有る訳でもないがレベル20の魔術師という分かり易い力が周りを従わせた。

 

「まぁヒントを与えましたが理解は早い。

だが自分の力のみを信じている感じがするかな?いや、他人に期待して無いか信用して無いかかな?

たしかブレイクフリーもメンバーは二人だけだし、選民意識が有ると問題だな。

確かにレベル20の魔術師ならゴブリンが100匹居ても楽勝でしょうからね、レベルの低い連中と協力する意味が無いと思ってるのか?だが今回は一応はリーダーとして取り纏めたな。

もう一人の魔術師、ウィンディアよりはマシでしょう。聞けば彼女、風の刃でゴブリン共を切り裂いて一人で倒したそうだ……」

 

 ああ、確かに魔術師なら可能だろうが、何故パーティを組ませたかの意味は全く理解していない。デオドラ男爵も彼女のそんな部分を直したくて入学させたのだが……

 

「彼女はデオドラ男爵からの推薦で入学した別の意味での問題児だからな。彼女は無傷で卒業させてランクDを取らせなければならないのだ。

だが彼女はリーンハルト君に興味が有りそうだな」

 

 入学初日から接触しているのは複数の人間が目撃している。

 リーンハルト君は警戒していたみたいだが一緒に昼食を食べに行ったので、ある程度は友好的な関係を築きつつあるのかも知れない。

 

「彼女からしたら周りは低レベルの連中ばかりだからな、相手になるのはリーンハルト君くらいだ。

興味も湧くだろう……」

 

「またはデオドラ男爵から言い含められているかだな、有能な若者が居れば仲間に引き込めと……

彼女は『デクスター騎士団』壊滅の責任を取る為に冒険者養成学校に入れられたのだからな。少しでもデオドラ男爵の役に立つ事をするだろう。

だが彼の真価(レアギフト)は迷宮内でのみしか分からない、だから大丈夫だ」

 

 冒険者養成学校は魔法迷宮を攻略する事はしない、もっとも強制実地訓練が終われば他の冒険者と同じ様に生徒達でパーティを組み依頼を請ける事が出来る。

 

「ならば極力二人を一緒にはさせられないな。

リーンハルト君は将来冒険者ギルドに役立つ人材だ。盗賊ギルドとも下話はついている。彼には有能な盗賊を付けて今後も魔法迷宮を探索しレアドロップアイテムを集め続けてもらうのだ」

 

「「「了解です」」」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 強制実地訓練の一回目が終わった、次は三日後。

 一週間に二回、学校主催の実地訓練が有るが残り四回だ。六回目からは自由にパーティを組み依頼を請けられる。

 学校が終わりウィンディアやベルベットさん達が帰りに寄り道しようと誘われたが断った。

 ウィンディアとは色んな意味で距離を置きたいし、ベルベットさん達は残りの盗賊ギルドから送られた子達の能力を見てから付き合い方を考えなければならない。

 盗賊ギルドからは四人、学校に送り込まれたそうだが残りが誰だかは分からない。気は早いが低ランクでも請けられる依頼を確認したくてギルド本部へと足を運んだ。

 ローブを脱いで革の鎧にロングソードと戦士系を装い依頼が貼られているコーナーへと向かう。因みにギルドは在学中に学業以外で依頼を請ける事を禁じていない、ある意味自由過ぎるのだ。

 ランク別に依頼書が貼られているブースが違い、ランクFは一番手前だ。

 

「なになに……ゴブリン討伐と薬草採取はもういいや。今日でお腹一杯だし作業で終わってしまう。そこに学ぶ事は少ないからな……」

 

 高さ2m幅10mは有るだろう衝立に貼られている依頼書は少ない、当たり前だろう。最下級ランクの冒険者は依頼を選り好みなど出来ない。

 

「郊外の農園に出没するゴブリン退治、ランクFは畑を守りランクEかDがゴブリンの巣を潰すのか……」

 

 確かに現在進行形で畑が襲われてるなら守りと原因撲滅の攻めと分けるのは理に適ってるのか?

 

「後は……無い、ゴブリン関係しか無い。討伐数が30匹(一人当たり)で依頼達成か……」

 

 結局、力ずくで討伐数を稼げばランクEまでは上げられるのか。普通は30匹×10ポイントとして300匹倒して漸くランクが一つ上がるか。

 

「よう、坊主。何か依頼を探してるのか?」

 

 乱暴に頭を掴まれワシワシと撫でられた。

 

「ええ、今日一つ依頼を達成出来たので次を探してます」

 

「ほう、スゲーじゃねえか、何やったんだ?」

 

 何とか腕を払い除けて相手を見ると肉の壁が……冗談ではなく肉の壁が居た、目の高さにゴツゴツした腹筋が見える。

 ヤバイ一つが僕の握り拳くらいの大きさの腹筋だ……恐る恐る見上げれば、上半身に肩当てしか着けてない半裸のオッサンが僕を見下ろしている。

 

「ええ、ゴブリン討伐と薬草採取を……」

 

「そうかそうか、だが無理すんなよ。

子供が死ぬのは嫌なモンなんだぜ、ひょろいが鍛えてはいるみてぇだな。何かありゃ鍛えてやるぜ、俺はカイゼリン、『ハンマーガイズ』のカイゼリンだ!」

 

 よく分からないが僕のゴーレムナイトと互角な力比べが出来そうなオッサンが笑いながら、離れていった。多分善意だけで話し掛けてくれたのだろう、僕の事を子供戦士くらいにしか思ってないんだろうな。

 

「ハンマーガイズってガイじゃないだろ、オッサンですよね?」と呟いてしまった僕は悪くはないよね?

 

 言葉は交わさなかったが、カイゼリンさんのパーティも半裸の筋肉男達だけだった。毒気を抜かれたな……いや焦る気持ちが無くなったな。

 今日は無理せずにイルメラにお土産買って帰ろう。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。