古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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本日から連続投稿開始します。予定では年内12/31までですが筆が進めば1/7まで頑張ります。


第327話

 ハイゼルン砦の最上階に到着、周りを見渡すとバレル川を挟んでエムデン王国とウルム王国の両方が見渡せる。先ずは旧コトプス帝国の国旗である『雄牛』がデザインされた戦旗を下ろし、セラス王女から頂いた自分の『戦旗』を掲げる。

 この『雄牛』の戦旗は何らかの謀略に使えそうなので空間創造に収納しておく。

 

 ゴーレムナイトに持たせた『戦旗』は風に靡き、遠目にもハイゼルン砦を落としたのが誰だか分かるだろう。

 

 既にレディセンス殿達はハイゼルン砦に突入したのだろう、見下ろす平原には誰も居ない。宝物庫と娼婦と拐われた女性達が居る食堂には護衛のゴーレムポーンが居る、言付けもしたし大丈夫だろう。

 

「漸く誰の目にも明らかな戦果を上げる事が出来た、アウレール王にもセラス王女にも自信を持って報告出来る」

 

 後は後続のライル団長率いる本隊を待ってハイゼルン砦を引き渡し旧コトプス帝国の残党共を倒す、残念ながら別動隊は居なかったので周辺に潜伏している筈だ。

 だが流石は難攻不落のハイゼルン砦だ、見晴らしも良いし我々の接近も早く見付けていただろうな。ゴーレムによる内部からの攻撃が出来た事と、本来の戦時下での一万人規模の兵士が常駐していたら微妙だった。

 

「運が良かったな……」

 

 つい弱気な言葉を言ってしまった、近くに人は居ないが気を付けないとな。指揮官が弱気な態度を見せては駄目なんだ、常に自信を持って強気な態度だから兵士は不安が無くなるんだから。

 

「此処に居たのか、リーンハルト殿。本当に一人でハイゼルン砦を落としたのだな」

 

「死屍累々って言葉がピッタリだったよ。いや、地獄絵図?」

 

「既に宝物庫も制圧済みとはな、しかも文官共も捕まえたみたいだな。だが食堂に居る娼婦共は何だ?」

 

「残念なのは拐われた女達が居た事だな、悪い様にはしたくないが何人かは心が壊れてしまっているぞ」

 

 レディセンス殿達が全員公爵家の『戦旗』を持って後ろに並んでいる。ニーレンス公爵家の『百合』とローラン公爵家の『剣と斧』、ザスキア公爵家の『一角獣』とバセット公爵家の『稲穂と三ツ又の槍』の四つの『戦旗』を受け取りゴーレムナイトに持たせる。

 

「壮観ですな、エムデン王国の悲願であるハイゼルン砦を我々は攻略した……」

 

「そうですね、再度奪われない様にしなければなりません。ですが先ずは砦内の探索をしましょう、未だ敵が隠れているかもしれません」

 

 殆ど居ないとは思うが隅々まで調べる必要は有る、略奪行為は許さないが多少の家捜しで見付けた物は見逃す事も必要だ。宝物庫は押さえているから大丈夫だろう。

 

「そうだな、小火(ぼや)の消火に死体の処理。ビアレス殿も探さなければならない、やる事は多い」

 

「捕虜として監禁されているか別の場所に移動されたか、僕等が完勝しても汚点が残るのって嫌だな」

 

「全くだな、数日前に先発部隊は全滅。そして第二陣の我々が敵を殲滅、エムデン王国の体面は保たれた。仇敵に完敗して現在は膠着状態など許されざる事だ、ビアレス殿とバニシード公爵は責任を求められるだろう」

 

 もっともビアレス殿は殺されている可能性が高いがなって最後に呟かれた……

 

 確かに僕は彼の失脚を狙って動いたが指揮官まで捕まるなんて大敗をするとは思わなかった、戦争なんだし甘い考えだった。

 ウルム王国側を見下ろす、バレル川の先の平原にゴーレムルーク四体を錬成し穴を掘る。6m級のゴーレムが巨大なスコップで穴を掘る姿に四人が呆然として見詰めているのが可笑しい。

 川の近くで土が柔らかいので掘るのは早い、一ヶ所に二百人埋めるとして十ヶ所掘れば良いかな。将軍職の二人は首だけ必要だから体は埋める、だが雑兵と一緒にしない配慮はする。

 

「敵兵を纏めて埋める穴ですよ、放置しても腐るだけだし引き取る連中も居ない。持ち物を全て剥いで埋めて終わり。

砦内を捜索する兵士達にも見付けた物は自分の物にしても良いが女子供への狼藉は厳禁、指令室や将軍や文官共の部屋などは荒らさずそのままにしておく事を言い含めて下さい」

 

 ご褒美は必要、飴と鞭って奴だ。ウォーレン達には死体から装備品を剥いで貰うが僕のポケットマネーから報酬は渡す。剥いだ装備品はジゼル嬢がライラック商会の買い取り部隊を寄越す手配になっている。

 捨て値でも一人当たり金貨三枚、全部で金貨六千枚、補修して転売すれば売値は三倍以上にはなる。殆どが皮鎧にスモールシールド、それにロングソード程度だが戦争が始まりそうな時期だし高値で売れるだろうな。

 

「了解!最優先で小火(ぼや)は消しているよ。その後はお楽しみの宝探しだね!」

 

 ミケランジェロ殿の年相応な喜び方に思わず笑ってしまったが、言ってる事は怖いんだけどね。取り敢えずはハイゼルン砦を完全に把握する事が重要だ、今度は守る側に回ったのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 流石に広く複雑なハイゼルン砦も四百人以上が捜索すれば何とかなるものだ、夕食の前には全てを探索し隠れていた兵士十四人と文官一人、使用人四人を発見した。

 それと首を跳ねられ塩漬けにされたビアレス殿と副官のハン殿が入っていた首壺もだ……

 兵士と文官は捕虜とし使用人は解放した、妙に協力的な娼婦達がグレッグ殿と夕食を作っている。我々は元作戦室に集まり今後の方針を話し合う事にした。

 

「伝令兵を二十人、複数のルートで王都に向かわせたよ。内容は全滅して負けたビアレス殿の首の発見とハイゼルン砦を死傷者無しで陥落させた事、あと色々だね」

 

 ミケランジェロ殿の報告は子供っぽいのだが、最後の色々って何だろう?

 

「数日前に先発部隊の素行の悪さ、逃げ出した傭兵団の討伐の知らせを受けて次は全滅して指揮官のビアレス殿は戦死、バニシード公爵家の騎士は敵前逃亡の容疑で捕縛済みとはな」

 

「バニシード公爵とビアレス殿の実家は大騒ぎだろう、最悪の結果だからな」

 

「アウレール王に直訴してまで手に入れたハイゼルン砦攻略の先鋒、実際は配下が自国民から略奪し自分は戦死し部隊は全滅。これ以上の失態は無いだろうな、政敵ながら哀れに思うぞ」

 

 多分だがビアレス殿の実家も爵位を取り上げられて国外追放だろうな、王命に意見し与えられたハイゼルン砦奪還に失敗。配下の傭兵団は逃げ出し自国民から略奪、しかも部隊は全滅なんて恥でしかない。

 

 残りの三人の黒い笑みが恐ろしい、自分の仕えし公爵家の為に結果を出せた事が嬉しいのは分かるけどさ。絶対に悪の幹部連中の表情と会話内容だぞ。

 そして僕は悪の幹部連中を束ねる悪の首魁って事になるのか、全く嫌になるよな。

 

「それと宝物庫の財貨はどうするのだ?敵陣地の財貨は攻略した部隊に権利が有るのだぞ」

 

 ボーディック殿が真面目な顔で言ってくれたが、確かに攻略した敵の砦や基地に有る財貨や資材は自分の物にして良い軍規が有るのは確かだ。

 戦争には金が掛かり支度金では全てを賄えない、自腹を切らせると忠誠心が下がるし誰も戦争に行きたがらない。だから何処かで調達する必要が有るんだ。

 

「では五等分で……」

 

「俺は要らない、親父殿からも言われている。自分の功績も無しに欲しがるなど公爵家のする事でないとな」

 

「同感ですな」

 

「当然でしょう、我等は物乞いではない」

 

「ザスキア公爵様も言ってたよ、必ず分けるって言い出すから断れって。それと直ぐに資産が必要になるから無駄遣いせずに貯めなさいってさ、全く御姉様はリーンハルト殿の保護者かって言いたくなるよ」

 

 ミケランジェロ殿の言葉に顔が引き攣る、保護者って何だ?直ぐに必要になるって何だ?僕は分割する予定で先に必要な財貨は貰っていたんだが、まさか全員辞退するとは……欲張った自分が恥ずかしい。

 

「そ、そうですか。では御厚意を受けさせて頂きます。ですが明らかに略奪品と分かる物は商人に引き取らせて被害の有った街や村に均等に配ります、略奪品の返還ではなく僕からの援助金としてです」

 

 略奪品の返還ともなれば誰がどれだけとか多い少ないで揉める、だが僕からの援助と言えば一律でも文句は言えず責任者も被害者に均等に配るだろう。普通なら返還などされないのだから文句は言えない。

 

「なる程、分配の面倒臭さを回避したのですな。確かに奪われた物を返すと言えば少ない足りないと文句も有るが援助金は違う、中々の悪(わる)ですな」

 

「援助して悪者扱いは酷いですね、僕は出来る範囲の事はしますが優先度が有るのです」

 

「全てを自分の物にしてしまう輩も多いのですから、御立派と言っておきましょう」

 

 ゲッペル殿から大変含みが有る言葉を貰った、やはり彼は腹に一物(いちもつ)持っているな。最後まで協力を拒んだ事による意趣返し程度なら良いのだが、更に考えが有るなら注意が必要だ。

 

 暫くは見張りの当番制の件や防衛の配置、泊まる場所等の細々(こまごま)とした話を詰めていたがボーディック殿の従卒が夕食の支度が出来たと報告に来た。

 軍の規律では軍事行動中は全員同じ物を食べる事になっている、だが我々は公爵家の精鋭部隊なので同じ物でも他と比べれば質が良い。今まではデオドラ男爵家のメニューを食べていたのだが今夜は違う、楽しみだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ささ、貴族様」

 

「今は軍事行動中です、酒は控えます」

 

 バレンシアと名乗った娼婦が我々五人のテーブルの給仕として付いてくれた、ありがた迷惑なのだが誰も文句を言わないのは何故だ?一段落したから花が欲しいのか?

 

「戦勝祝いです、固くならずにワイン位は良いでしょう?」

 

「そうだよ、良いワインが沢山有ったみたい」

 

「今夜だけだ、貴殿は偉業を成し遂げた。その貴殿が自粛しては周りも素直に喜べまい」

 

「エムデン王国で一番の酒豪なのに禁酒ですか?王家主宰の舞踏会で自称酒豪達を全て潰し、上級侍女を侍らしていた男とは思えませんな」

 

 ハッハッハッて四人で連携して毒を吐かれた、そんなに飲みたいのか?しかも舞踏会の話は盛り過ぎです、バレンシアさんが驚いていますよ。

 

「また誤解を生む話をしないで下さい、確かに専属っぽい侍女は居ましたが自称酒豪達が飲むワインを用意する為に側に居てくれたのです。分かりました、飲み過ぎない様にして下さいね」

 

 此処で変に断っても良い事は無い、彼等と確執を持っても意味が無いし祝いの酒なら喜んで飲もう。

 バレンシアさんが嬉しそうにグラスに並々と赤ワインを注いでくれた、シーアさんとネーデさん達を思い出す。あの後バレて大変だったんだ、浮気じゃないのに理不尽だよな。

 

 胸の高さまでワイングラスを掲げて乾杯する、口に含めば確かに美味しいワインだが一本金貨五枚位かな?最近酒については詳しくなった気がして凹む、本当に酒好きになったみたいで……

 ワインは程々に料理を楽しむ事にする、コース料理など無く先ずはサラダだが刻みキャベツのマスタード和えの辛さが食欲をそそる。シャキシャキした歯応えとマスタードの辛さが合うな。

 直ぐ次がメインディッシュで、胡椒と蜂蜜を絡めて焼いた鳥モモ肉。それに拳大のパンが食べ放題、野菜と雑穀の塩味スープも飲み放題だ。因みにローラン公爵家の陣中食らしい。

 

 メインディッシュの鳥モモ肉だがパリパリの皮に蜂蜜の甘さと胡椒のスパイシーさが絡み合った中々の味だ、正直に美味いと思う。

 

「もうお酒は飲まないのですか?」

 

「ええ、今は空腹を満たすのに専念したいのです」

 

 笑顔でワインボトルを傾けてくるが、そんなに酒を勧めてどうするんだ?見渡せば半数が食事をしているテーブルに娼婦達が酌婦として付いている。良くないと思うのだが皆さん嬉しそうだな、止めたら暴動が起きそうで嫌になる。

 

「リーンハルト様が一番活躍なさったのでしょ?ならば飲まないと周りも遠慮しますよ」

 

 グイグイ来るな、そんなに僕に飲ませたいのか?飲ませて討ち取るみたいな事はないな、ハイゼルン砦の支配者が変わったから媚びる。

 これが一番正解に近いのだろう、そして手っ取り早いのが指揮官の僕に取り入る事か……

 

「女、違うぞ。一番活躍したんじゃない、全てリーンハルト殿が一人でハイゼルン砦を落としたんだ。最初から宣言し実行した、見た目と違い恐ろしい男なんだぞ」

 

 レディセンス殿、意趣返しですか?他の三人は苦笑しだした。バレンシアさんもこの対応だと冗談と思ったのだろう、レディセンス殿の膝に手を置いて笑っている。

 しかしレディセンス様……何故顔を赤くしてるんですか?見掛けによらず女性には慣れてないのだろうか?

 


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