古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

326 / 999
第326話

 ハイゼルン砦の攻略は順調だ、敵戦力の殆どと将軍職の二人を倒した。ピッカーとゴッドバルドと呼ばれていた武人達だった。

 僕はレディセンス殿達に一時間経って戻らなければ探してくれと頼んだ、時間は四十分位しか残ってない。彼等が来る前にやらなければならない事が有るんだ。

 

 先ずは敵の将軍二人を確認する、二人共に全身に八本程度のアイアンランスを受けているのは半数以上は避けたのだな。盾やロングソードで払っていたが狭く周りに雑兵が居た状況では全てを避けるのは無理だった。

 死亡してる事を確認し敵に引き取られない様に警備のゴーレムポーンを十体配置する、その際に魔力の付加されたロングソードとロングボゥ、それに指輪とナイフは回収し空間創造に収納する。

 

「死体から盗む様で気が引けるが正当な権利だ、他には魔力を感じる武器は……」

 

 他にも倒した兵士達から槍二本にロングソードが三本、それにメイスとハンドアックスに魔力反応が有ったので迷わず回収し空間創造に収納する。

 

「ふむ、二千人規模の軍隊にしては魔力の付加された武器や防具が少ないな。防具には殆ど魔力の付加された物が無いし……」

 

 次の目的地に行く為に丸太の門を潜り抜けて奥へと進む、暫く死体を避けながら進むと岩肌をくり貫いた通路が見えてきた。急いでいたのだろう、見張りも居なければ扉も開いたままだ。

 警戒しながら中に入る、壁面にランプが吊り下げられているので薄暗いが移動するのには支障は無い。廊下は人の手で掘られたのが分かる、ノミの跡がクッキリ残っているから……

 

 過去に来た事が有るのと大抵の砦の作りは一緒なので目的地の一つに辿り着いた、分厚い鉄の扉は確りと施錠されている。だが土属性魔術師の僕には錠前など無意味なのだ。

 軽く扉に触れて魔力を通し錠前の部分に干渉する、流石に固定化の魔法が重ね掛けしてあるが問題無い。これが魔法迷宮の扉の解錠や罠の解除も出来たら良いのだが、向こうは全てが魔素で構成されているので干渉し難く殆ど無理なんだ。

 それ以外でも完全錬金製だと術者のレベル差により難易度が変わる、レベルが10も違うと殆ど無理だ。素直に盗賊職の解錠スキルに頼った方が良い。

 

 今回は無事に扉に付けられた四つの錠前を開けると大量の財宝が眠っていた、だが統一性が無く乱雑なのは周辺の村や街から略奪した物も有るからだ。

 

「ざっと見渡すと金貨の入った袋は軍資金、彫刻や絵画とかの美術品が乱雑に積まれた方が略奪品かな?」

 

 30m四方の窓の無い部屋の右側は金貨、左側は美術品等が置かれている。大事なのは金貨だ、手前の袋を蹴ると倒れて中身が零れる。

 

「やはりウルム王国の公式金貨だ、奴等のバックにはウルム王国の有力者が絡んでいるな」

 

 奥の方の麻袋にはエムデン王国の公式金貨が山盛りなので両方共空間創造に収納する、多分だが麻袋一つに金貨千枚が入っているな。ウルム王国の麻袋は五つ取り四十袋以上は残し、エムデン王国の金貨の入った袋の二十八袋は全て回収した。

 此処にも警備のゴーレムポーンを二十体程配置する、宝物庫の隣にも同様の扉が二つ有り開けてみたが一つは財宝でなく魔力付加の無い武器や防具の山だった。

 皮鎧の胸元のエンブレムはバニシード公爵家の『獅子』だ、つまりこの倉庫の武器や防具は先発隊から剥ぎ取った物か……

 

 もう一つは書庫だ、重要書類が有るかも知れないが今は調べている時間が無い。残念だが次の目的地を探す為に移動する。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイゼルン砦の中を徘徊する、ゴーレムポーンによる飽和自動攻撃により所々に兵士の死体が有る。ゴーレムポーンは襲って来る者に対しては攻撃し逃げる者は追って倒す様に指示していた、だが最初から隠れている者には反応出来ない。

 これは自動制御の時は感知機能が動く者にしか反応しないからだ、部屋に籠り隠れていると見逃す可能性が高いんだ。そして兵士以外は大抵隠れている筈だ……

 

「此処だな、多数の人間の反応が有る」

 

 自分の魔力を周辺に浸透させる事による感知魔法に引っ掛かった、両開きの木製扉にはウルム王国の文字で『食堂』と書かれている。

 非戦闘員が集まる場所として目星を着けていた、他だと経験則から言えば食料倉庫とか休憩室とかが多い。

 ノブを掴んで回すが中から鍵が掛けられているのか動かない、時間が無いのでゴーレムポーン二体に両手持ちアックスで蝶番を壊し扉を手前に引き倒す。

 案の定内側にはバリケードとして机や椅子が積まれていたがゴーレムポーンが両手持ちアックスを振り回し壊して通れる様にする、破壊音の合間に男女の悲鳴が聞こえる。

 

「落ち着いてくれ、抵抗しなければ危害は加えない」

 

 ゴーレムポーン十体を周りに並べて防御し中に入り声を掛ける、広い食堂だ……多分だが同時に三百人位は食事が出来そうだ、奥には厨房が有り何人かが覗いている。

 他には老若男女の五十人位の団体が右側に、若い女性ばかりの団体が左側に同じく五十人位集まっている。だが左側の女性達の半数は無気力に座り込んでいて半数は此方を睨み付けている。

 

「抵抗しなければ危害は加えない、奥に隠れた連中も出て来い。僕はエムデン王国宮廷魔術師第二席、リーンハルト・フォン・バーレイ、この攻略部隊の責任者だ」

 

「き、宮廷魔術師だと?」

 

「エムデン王国が攻めて来たんだ、俺達は皆殺しだ」

 

「他の兵士はどうしたんだよ!威張ってばかりだった癖に、肝心な時には役立たずかよ」

 

「もう駄目、私達此処で死ぬんだわ」

 

 パニック寸前だな……仕方無いか、敵国の軍隊に制圧されたんだ。平民階級だと略奪の対象にされると思っているんだな、まぁ嫌な話だけど普通はそうだし。

 

「我々は兵士以外には危害を加えない、君達は砦の兵士達を世話する為に居るのだろう?」

 

「そ、そうです。私達は兵士じゃないです」

 

 この言葉に観念したのか厨房からコックの一団が現れて右側の団体に合流した、パッと見でも身なりが綺麗な連中が居る。彼等はコックや使用人ではないな、多分だが文官の連中が隠れて混じっている。後は炙り出す方法だが……

 

「だが使用人でない者も混じっているな?」

 

 ぐるりと目を合わせる様に見回す、何人かが顔を伏せて目を合わせない。見付からない様にと身体を縮ませたり他人の背中の後ろに隠れている。

 

「使用人以外の者を教えてくれたら安全に逃がしましょう、それに報酬としてウルム王国公式金貨を渡します。名前を教えても逆恨みはされません。ソイツは捕まって死罪、ですが庇えば全員死罪です」

 

 突き出しても自分は安全で報酬も貰える、大分気持ちが動いてるので止めとして宝物庫から持ってきたウルム王国公式金貨入りの袋を彼等の前に一つ置く。

 ドサリと重たい音がして何枚かの金貨が溢れた、近くに居た男の『本物だぞ』って声に皆の目の色が変わった。もう一押しだな。

 

「約束の報酬です、金貨千枚有ります。どうしますか?金貨を貰い無事に逃げるか、共に捕まり死罪になるか?僕はどちらでも構いません」

 

 なるだけ優しく言って嘘じゃないとアピールする、隠れている奴は周りに売られると心が折れ易い。つまり尋問も楽になる、どうせ死ぬなら洗いざらい話して楽に死にたいと思うのが人情だ。

 

「コイツとコイツだ、コイツ等は文官だ!」

 

「そうよ、この人もそうだわ!私の背中に隠れないでよ」

 

「コイツもだ、威張り散らしていたんだ」

 

 そして自分が生き残る為になら他人を売るのにも罪悪感は生じれども実行する、彼等は雇われていた使用人だから逃がしても構わない。

 中年の男二人に女が一人、後は若い男が突き出された。喚き散らしているが身なりも良いし間違い無いだろう、彼等の持つ情報には一定の価値は有る。

 

「拘束させて頂きます、他の方々は金貨を持って逃げて下さい。時間は余り有りませんよ」

 

 錬金にて手足を拘束する彼等には価値が有るので逃がさない、自殺防止に猿轡を噛ませて床に転がしておく。勿論周囲にゴーレムポーンを十体配置し逃げられない様にするのも忘れない。

 頭を下げながら僕の脇を通り抜けて逃げ出す使用人達を眺める、殆どが肉体労働に従事していたのが分かる疲労し少し汚れているから。贅沢をしている連中は見れば大体わかるものだ。

 

「さて、後は貴女達の事ですが、彼女達以外は自主的に娼婦としてハイゼルン砦に留まっていたと考えて宜しいか?」

 

 身綺麗にして扇情的な衣服を着ているのは娼婦達だろう、戦場に同行する事が有るのは知っている。死の恐怖に怯えた兵士が求めるのは酒と女なのは何時の時代も変わらない。

 身綺麗にはしているが簡素な服を着ていて茫然自失なのは強制的に連行されて酷い事をされた女性達だ、エムデン王国の軍に籍を置く身として彼女達を守る義務が有る。

 

「そうよ、私達は娼婦ギルドに所属しているわ」

 

 一際派手で化粧の濃い二十代位の女性が立ち上がり残りの女性達を守る様に前に出て来た、彼女が娼婦達のリーダーか?

 

「貴女のお名前は?」

 

「バレンシアよ、彼女達を取り纏めているわ」

 

 バレンシアさんね、他の娼婦達が僕に怯えているのに堂々としている。それなりの修羅場を潜っているのだろう、だが交渉する時間も無いので手早く話を進めるか。

 

「ではバレンシア殿はお仲間の娼婦達と共に逃げて下さい、但し彼女達は僕が保護します」

 

 娼婦も逃がして構わない、だが拐われた女性達は保護しなければ駄目だ。少なくとも自立するだけの支援はしなければ、精神が壊れた娘は可哀想だが安らかな死を与えてあげなければ……

 

「嫌よ、私達まだ給金貰ってないし。今度は貴方達を相手に商売をしたいのよね」

 

 は?この女性は何を言っているんだ?敵国のギルドに所属する娼婦が攻め落とされた相手に対して商売をする?

 

「何を呆れた顔をしてるのよ、私達娼婦ギルドに所属する女は国境なんて関係無く仕事が出来るのは常識でしょ?」

 

 腰に手を当てて呆れましたみたいに言われたぞ、しかも逃げる気はなさそうだ。面倒事を背負った気がするが娼婦ギルドなるモノの詳細が分からないと迂闊な対応は出来ない。

 人間の三大欲求である食欲・睡眠欲・性欲の一つを司るギルドだ、もし対応に失敗したら大問題になりそうだぞ。

 

「勉強不足で悪いが知らないな、だから調べる間は大人しくしていて貰おう。この部屋で待機していてくれ、護衛は残すが僕の仲間が来たらリーンハルトから待機してろと言われたと伝えれば良いから」

 

 これで目的の殆どは達成だ、後は一番上に上って『戦旗』を立てれば第一段階は成功。後続のライル団長率いる本隊を待つだけだ、肩の荷が降りた心境だな。

 更に護衛としてゴーレムポーン十体を錬成する、特に問題は無いだろう。

 

「ちょ、ちょっと待ちなよ。こんなゴーレムが十体や二十体でコトプス帝国の連中が来たら私達を守れるのかい?」

 

「旧コトプス帝国の残党共ですね、安心して下さい。ピッカーおよびゴッドバルドと呼ばれた隊長格の二人と共に全員倒しました、だから大丈夫ですよ」

 

 時間が無い、既に一時間は過ぎたから早く『戦旗』を掲げたいんだ。これを掲げる事により、セラス王女からの勅命も達成されるんだ。

 

「全員って二千人は居た筈だよ、本当に全員を倒したのかい?嘘じゃないよね?」

 

「嘘を言っても仕方無いですよ、僕はアウレール王から敵兵を全滅させろと勅命を貰って来たのですから……」

 

「流石は宮廷魔術師で貴族の若様って事かね?怖い坊やだね」

 

「不敬に取られる発言は控えて下さい、今は僕一人ですが周りに人が居れば大問題になりますよ」

 

 そう言って食堂から出る、しかし娼婦ギルドは知らなかったが需要の高いギルドには違い無いだろう。誰が詳しいのかな?情報通のミケランジェロ殿か最年長者のゲッペル殿か?

 大貴族の御曹司のレディセンス様や爵位持ちのボーディック殿には無縁なギルドっぽいんだよな、娼婦って頭に付いているから男の欲望を満たす相手なのは分かる。歓楽街には必要な職種であり男の性欲の発散には必要なのも理解出来る。

 今同行してる連中も全員男だから欲求不満は理解するが、果たして彼女達を買って大丈夫なのか不安だ……

 

 




12月1日から一か月間、予定通り毎日朝八時に連続投稿を開始します。宜しくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。