古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第323話

 

 

 アンクライムの街に到着、街の代表ダルクスさんと警備隊隊長のマッケルさんと今後の打合せをする為にアンクライムの街の最高級の宿に案内された。

 エムデン王国の王都の宿と比較すれば中の上位だが十分に豪華だ、ダルクスさん曰く僕は宮廷魔術師第二席で侯爵待遇だから当然だそうだ。精鋭騎馬隊の滞在費は払うが僕達の宿泊費は街持ち、所謂上級貴族様への接待費らしい。

 

 納得はしないがゴネても話は進まないので宿の中でも一番豪華な部屋に案内され、先ずは紅茶と焼き菓子でもてなされた。

 

「ダルクス殿、早速で悪いが先発したビアレス殿の部隊だが配下の傭兵団二つが敵前逃亡をした。一つはキーリッツの村を襲っていたので僕等が殲滅したが、もう一つの足取りが掴めない。警戒してくれ」

 

 ビアレス殿やバニシード公爵の失態を隠しても無意味なので正直に教える、既に生き残りの女性八人をレディセンス様が避難させたので知ってる事だ。

 

「あの柄の悪い傭兵団の内の二つもですか?確かにこの街でも素行が悪く難儀しました。マッケルと守備隊員達の苦労で最悪の事は無かったのですが、少なくない被害は出ています」

 

 マッケル殿の溜め息姿を見ても苦労させられたのだろう、何故僕達が奴等の素行の悪さの為に肩身の狭い思いをするんだよ!

 

「全く酷い連中ですね、弱者から搾取しかしない外道です。見付け次第に殲滅します、ですが軍において敵前逃亡は死罪ですから奴等も必死に逃げているのでしょう」

 

 契約による傭兵活動としても軍規に準ずるものだ、奴等は見付け次第捕縛でも殺害でも構わず懸賞金も出る。最初から難攻不落のハイゼルン砦攻略と知ってて逃げた、言い訳は出来ない。

 

「我々は明日、早朝からハイゼルン砦を攻略します。最低限の物資しか持って行きませんので野営地に置いておきますが宜しいか?勿論、警備の兵士も残します」

 

「はい、問題有りません。兵士の方々は有事の際には協力をお願い致します」

 

 片道二時間に安全な野営地が有るんだ、重たい荷物を持って行く必要は無い。だがダルクスさんも強(したた)かだな、その有事の際が街のゴタゴタは嫌だぞ。

 

「勿論です、外敵からアンクライムの街を守る事には協力しましょう」

 

「そ、それは有り難い事です。感謝致します」

 

 彼の目を見ながら言えば少しだけ動揺した、やはり有事の幅が広すぎたのだろう。何か有った時に言質を取られているから居残りの兵士はダルクスさんの言う事を聞かねばならない、拒否は僕への反抗と同じだ。

 

「難民の状況はどうですか?ラデンブルグ侯爵は援助をしてくれてますか?」

 

 この言葉にはダルクスさんとゲッペル殿が反応した、ダルクスさんは内心今は援助が足りていても心許なく思っているだろう。

 だから不足と言いたいが僕は此処に来る迄に四人の素性を明かしているから選択肢は少ない、足りないと言えばゲッペル殿の機嫌が悪くなる。足りていると言えば本当に足りているのだろう、ギリギリでも嘘は言えない。

 アンクライムの街は大きい、備蓄も多いのは事前に調査済みだ。例え周辺の六つの村人を受け入れても五百人にも満たない、万単位の兵士を賄える拠点の代表はどう答えるかな?

 

「今は足りております、ラデンブルグ侯爵様からも代官様を通じて街の備蓄の使用を許可して下さいました」

 

 即答した、強かだが強欲ではないな。だが突き放すだけでは協力的にはならない、利を見せれば協力を惜しまない相手と思う。

 

「そうですか、ですが先行きの分からぬ不安も有りましょう。僕の方から食料三万食と医療品を援助しましょう、それとキーリッツの村の生き残りの女性達については面倒を見て下さい。

彼女達はレディセンス殿が身体を張って守ったのです、不幸にする事は許しません」

 

 平民感覚の一食は原価で銅貨二枚程度、三万食でも金貨六百枚だし医療品と合わせても金貨七百枚程度だ。逆に彼女達の資産はキーリッツの村人と傭兵団から集めた物、金貨三千枚にはなるだろう。

 憔悴した彼女達に守銭奴共が群がり食い物にするのは目に見えている、だから守れと釘を刺した。現役宮廷魔術師と公爵の実子の頼みは適当には扱えない、この提案には驚いただろう。

 

「おい、リーンハルト殿!俺はだな……」

 

 聞き役に徹していたレディセンス殿が慌てた、だが彼には僕の比較対象として明るい部分を担当して欲しい。僕はこれから敵兵二千人を虐殺する暗い面を担当する、明るい話題は必要だ。

 

「助けた女性は見捨てられない。大丈夫です、言いたい事は分かりますので安心して下さい」

 

「違う!いや内容は違わないが言い方が違う、リーンハルト殿の方が彼女達に気を使っているだろ!」

 

 結構本気で反対してるけど、レディセンス殿は女性関係で弄られるのは苦手なんだな。たしか側室も本妻も居ない筈だったかな?いや側室は居たかな?

 

「いえいえ、僕は彼女達から怖がられていますから……しかしアンクライムの街に住まわせるのではなく、レディセンス殿が彼女達を引き取るのですか?」

 

 状況の不利を悟ったのだろう、椅子から立ち上がって力説していたが素直に座り込んで力なく項垂(うなだ)れた。悪いとは思いますが貴方は彼女達にとって希望なのです、諦めて下さい。

 その後は情報交換や細かい協力内容の取り交わしをしていたが、扉がノックされ伝令がダルクスさんに何かを耳打ちした。その瞬間に顔をしかめたのは悪い知らせだな、何処かの村が襲われたのか?

 

「リーンハルト様、昨日我が街に傷付いた身なりの良い兵士が逃げ延びて来ました。直ぐに気を失い確認はしていなかったのですが先程気が付かれましてリーンハルト様の事を教えたのです、そして面会を求めて来ました。

ジュレッグ様と言いバニシード公爵家の騎士だそうです」

 

「騎士?つまり隊長格が傷付き逃げて来たのか?つまりビアレス殿の部隊は苦戦しているのか?

ダルクス殿、何故ジュレッグ殿の事を知らなかったのですか?バニシード公爵家の騎士ならば訪ねた時に挨拶位は交わしませんでしたか?」

 

 怪しい、騎士ならばビアレス殿達と一緒に行動している筈だ。本当に騎士ならば貴族だから下手な待遇は出来ないぞ、偽物の可能性が高いな。

 

「ビアレス殿は側近のハン殿だけを伴い我々と会いました、その時にはいらっしゃいませんでしたので……」

 

 ハン殿?ああ供回りの火属性魔術師だったかな、イーリンの調べてくれたリストでは副官扱いだったと記憶している。そのリストの中にもジュレッグという名前は有ったな、名前と本人が一致するかは別問題だが……

 

「会おう、だがゲッペル殿」

 

「何ですかな?」

 

「偽者の可能性も有りますので警備の兵を配して下さい、例え本物でも傭兵団を逃がしラデンブルグ侯爵の領地で略奪させた責任も有ります」

 

 お互い見詰め合いニヤリと笑った、バニシード公爵を責める材料をバセット公爵に渡したんだ。傭兵団の契約者はあくまでもバニシード公爵だからな、責任を問う事は出来る。

 そして面会を求めて来たジュレッグという騎士、敵前逃亡は無いと思うから何かを託されて来たのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「面会の許可を頂き有り難う御座います。バニシード公爵家の騎士、ジュレッグ・フォン・タイムズと申します」

 

「宮廷魔術師第二席、リーンハルト・フォン・バーレイです」

 

 負傷し気を失っていたそうだが目に見える範囲では酷い傷は無いな、それに意識も確りしている。つまり体調的には問題無し……

 

 鎧兜こそ着ていないが革製のシャツとズボン、腰には短剣を差しているが非武装じゃないのは礼儀知らずだな。扉の前で直立不動の姿勢を崩さない、僕の方から質問しないと話さないのだろうか?

 

「先ずは聞きますが、ビアレス殿はどうされましたか?ハイゼルン砦の攻略はしたのですか?」

 

 一応のライバルの動向を聞いておく、彼が負傷したのならば一度は攻略戦をした筈だ。

 

「我が部隊は壊滅、ビアレス殿は戦死が濃厚です」

 

「壊滅だって?無茶な攻め方をしなければ壊滅なんてしないだろ!」

 

 おお、僕の代わりにミケランジェロ殿が呆れて聞いてくれた。普通は戦死者が三割を越えたら撤退を考えて四割を越えたら全滅判定だ、壊滅とは言い方が微妙だが生き残りが半数近くは居るのか?

 

「文字通りの壊滅です、生存者は居ないでしょう……」

 

 本当に全滅なのか?悪いが傭兵団や徴兵された連中が死ぬまで言う事を聞くとも思えない、普通は逃げ出すだろ。例え敵前逃亡が死罪と言えども恐怖心には勝てない筈だ。

 

「そうですか、ビアレス殿は戦死してバニシード公爵の部隊は全滅ですか。それは困りましたね」

 

 宮廷魔術師に率いられた公爵家の歩兵部隊が一人残らず全滅だと!

 

 外交戦で問題視される内容だ、一旦引いたなら戦術的撤退とか言えるのに相手側の完全勝利は不味い。

 しかもビアレス殿は生死は不明で相手の手に有る、現役宮廷魔術師が捕虜とか醜聞でしかない。この戦争、初手は完敗で言い訳が出来ないぞ。

 

「何故、ジュレッグ殿は生き延びられたのですか?」

 

「リーンハルト殿、お願いが御座います。私をハイゼルン砦攻略に同行させて下さい、私は彼の砦の事を知っております。罠も知っておりますので必ず役に立ちます、お願い致します」

 

 先ずは質問に答えろよ……腰を90度に曲げてのお辞儀だが、要はビアレス殿達を見捨てて生き延びたけど責任が取れないので僕に鞍替えするつもりなのか?

 僕等に参加すれば例え他が全滅でも配慮はされる、しかも有益な情報をもたらしたとなればハイゼルン砦攻略の手柄の一部は奪われる。100%善意な場合も有るかも知れないが、それを信じては駄目だ。

 

「我等に参加する事は認められない。我等は明日ハイゼルン砦を攻める、其処に貴殿を参加させる事はバニシード公爵に借りを作った事になる。そんな不利益は背負えない、だから一切の情報も要らない」

 

 彼等の問題に僕等を巻き込む提案だ、普通なら攻略するハイゼルン砦の情報は欲しい。少しでも有利になる為に情報は必要不可欠だ、だが聞けばジュレッグ殿は攻略に貢献した事になる。

 それは困る、僕等はビアレス殿とバニシード公爵を追い込まねばならないから一片たりとも借りは作らない。

 

「何ですと?自信過剰も此処まで来ると笑えないですぞ、少しでも攻略を有利にする為には情報収集も必要です。エムデン王国の悲願達成の為にもです、ビアレス殿の敵討ちも含めてですぞ!

どうか、どうか同行を認めて下さい。エムデン王国の為にもお願い致します」

 

 ああ、やはり自分の保身が一番って事だな。彼はビアレス殿を見捨てたから同行すれば敵討ちもした事になる、そしてバニシード公爵に多少の利益をもたらし自分の失敗は不問にさせる。

 エムデン王国の為にとか、そんな下心が見え見えの提案になど乗れる訳がない。悪いがジュレッグ殿の身柄はバセット公爵に預けて色々として貰うか、恩も売れるし一石二鳥だな。

 

「ジュレッグ殿、貴殿には敵前逃亡および配下の傭兵団の管理不行き届の嫌疑が掛かっています。ゲッペル殿、彼の捕縛をお願いします」

 

 茶番劇だが仕方無い、ゲッペル殿に話を振ればニヤリと暗い笑みを浮かべた後で隠れていた兵士に指示を出す。

 

「分かりました、この不忠者め!おめおめと一人だけ逃げ出し、野盗と化した傭兵団を見過ごしエムデン王国の国民に害を与えた件は許し難し!捕まえろ」

 

 ゲッペル殿の言葉に別室に控えていた兵士八人が一斉に部屋に雪崩れ込み、ジュレッグ殿を捕縛した。猿ぐつわを噛まされて縄でグルグル巻かれたミノムシの完成だ!

 

「確(しっか)りと反省して下さい、貴殿の管理不行き届により逃げ出した傭兵団にキーリッツの村が滅ぼされたのです」

 

 ムームー騒いでいて何を言っているか分かりません、反省しても責任により大変な事になるとは思いますが、自業自得と諦めて下さい。しかしジュレッグ殿の言葉を信じれば先発隊は全滅、ビアレス殿も戦死か……

 

「予想が外れましたね、てっきり時間切れを狙ってるかと思えば全滅するまで戦っているとは思わなかった。敵が予想よりも強かったのかな?」

 

「撤退も出来ずに全滅ともなれば、野営中に奇襲でも受けたのか?しかしジュレッグ殿に詳細を聞かなくて良かったのか?悔しいが情報は必要だった、奴は罠がどうとか言っていたぞ。つまり罠に嵌まって全滅したんだ」

 

 ふむ、だが内容を聞けば一定量の配慮が必要になった。バニシード公爵に借りを作るのは悪手だったし罠の存在さえ分かれば注意すれば問題無いだろう、どの道僕は遠距離からのゴーレム飽和攻撃だ。

 罠に掛かったゴーレムは魔素に還して錬成し直せば良い、問題は無いな。

 

「問題有りませんよ、人と違いゴーレムは罠に掛かってもダメージ無視ですから問題無いのです。今は彼等に借りを作らず追い込む事が重要です」

 

 僕の黒い笑みに周りがドン引きしてしまったが、どの道明日は戦争の勝利の為と言う名の大量殺人者になるのだから関係ないか……


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