古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第322話

順調だ、順調過ぎる滑り出しだな。今日俺はハイゼルン砦を落としたエムデン王国の英雄となる!

 

 全てが順調だ、先鋒として肉の壁として傭兵と冒険者に攻めさせているが中々優秀だ。敵の攻撃が散発過ぎる気もするが、寄せ集めの敗残兵などこの程度だろう。

 本来のウルム王国の正規兵が詰めていれば、此処まで簡単ではなかったかもしれない。だが今ハイゼルン砦に居るのは旧コトプス帝国の敗残兵だ、比べるまでもない。

 

「ビアレス様、魔術師達の魔力回復が終わりました!」

 

「良し、ならば進軍だ!我が配下の勇者達よ、進め進むのだ。敵兵からは奪いたい放題だぞ」

 

「「「「おう!」」」」

 

 一部だが略奪を認めた事により傭兵団と冒険者達の意気が凄い、単純な奴等だな。俺は罠避けに奴等を進軍させているのだが全く気付いてないのか?

 だが死者は0で負傷者は三十人にも満たず戦闘の継続は可能、実質的に兵力は減ってない。

 

 あれ程言う事を聞かなかった傭兵達が俺の言葉に従い全力で坂道を駆け上がる、続く冒険者達は少し警戒して盾を翳してゆっくりと進む。

 奴等は略奪という餌には食い付かないのか、流石は危険と隣り合わせの職業だけの事は有る『冒険者は冒険しない』だったか?

 

「ハンよ、俺はエムデン王国の英雄になれるな?」

 

「はい、ビアレス様。既に周りの者共はビアレス様を英雄と崇めています」

 

 そうか、既にか。俺は既に英雄になったのか!

 

「ふははははっ!リーンハルトよ、後から来ても何もする事は無いぞ。俺の引き立て役になれ」

 

 自信に溢れてゆっくりと先に進む、先ずは弓矢除けの連中が罠に嵌まり俺達火属性魔術師が食い破る。これが勝利の方程式で必勝パターンだ!

 

 正門まで残り20mだが今迄とは違い丸く広い空間がポッカリと現れた、直径50m位だろうか……

 その先には丸太で組んだ柵が有り内側には敵兵の気配が有る。しかも広場には深い溝が掘ってある、塹壕みたいだし中に敵兵が隠れている可能性が有るな。

 

「怯むな、溝の中に弓矢を射ち込め!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 傭兵達がショートボゥを弓なりに打ち込む、二百本近い弓矢が溝の中に吸い込まれるが反応は無い。どうやら唯の足止めみたいだ。

 

「反応無しか、今度は火矢を射ち込んでみろ!」

 

 鏃(やじり)は盾で防げても火は防げまい、俺達には油断は無いぞ。小手先の罠など食い破ってみせるわ!

 

「はい、火矢を射て!」

 

 一番手前の溝に火矢を十数本射ち込むが反応は無い、やはり進軍スピードを奪う為の障害物だな。暫く待つも敵兵の居る気配は無いが白い煙が発生してきた、中に枯れ草か何か燃える物が有ったのか激しく燃え出した。

 

「なる程な、火攻めの為に枯れ草か藁でも仕込んでいたのか。だが近付かなければ問題無い、燃え尽きるまで待てば良い」

 

 暫く待てば燃える物が無くなり自然に消えるだろう、接近してたら危なかったかもな。だが溝の中が燃えても被害は少ないだろう、つまり煙で目眩ましをして柵の内側の兵士が突撃してくるとかか?

 

「あの丸太の柵を俺の『サンアロー』で燃やし尽くすし内側に隠れた敵兵も一緒に燃やしてやる!射線から兵を退かせ!護衛部隊よ、盾を構えて俺を守れ」

 

 そう言った瞬間、柵の内側から火矢が飛んで来たが護衛部隊に構えさせた盾に弾かれた。見えない相手に山なりで弓矢を射っても当たらない、見当違いな場所に射ち込んでるぞ。

 白い煙が煙幕の役割を果たしているのか視界が悪い、幸い風も上から下に吹き下ろしているので直ぐに晴れるだろう。今日の俺はツイているな、ノッてるな、絶好調だ!

 

「ははは、自ら掘った溝にまで射ち込むとは適当だな。漸く視界が晴れてきたか、俺のサンアローは……あれ?何だ、目眩が……周りの連中も倒れて……」

 

 膝に力が入らない、魔力は八割は残ってるから魔力の枯渇による立ち眩みではない、何が……原因……だ?

 

「ビアレス様?ビアレスさ、ま……クソッ、この煙は毒を含んでいるぞ。お前達、ビアレスさまを抱えて……逃げろ。早くしろ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 無警戒に前進し、わざわざ毒煙を晴れるまで待って吸い込んでくれた無能部隊を見下ろす。これがエムデン王国の公爵家の部隊と宮廷魔術師の力とは、奴等は人材が枯渇してるのかもな。

 

「良し、馬鹿共が毒草の煙の罠にマンマと嵌まったぞ。弓矢隊、ありったけの弓矢を食らわせてやれ」

 

 わざと少数で迎撃し勝たせて罠を張った場所に誘導する、奴等は五十人程度を倒しただけで勝てると思い無警戒で攻めて来た。

 情報ではエムデン王国のバニシード公爵と現役宮廷魔術師が攻めて来るとあって安全策を取ったのだが、味方に犠牲を出してまで騙して誘き寄せる必要は無かったな。

 

「無駄な犠牲者を出してしまったか、難攻不落のハイゼルン砦だし正攻法で良かったか。

さて、此方もケリが着いたな。敵の先鋒は壊滅、何人かの魔術師も倒せた。後方に居た歩兵部隊の逃走は早く統制も取れていたが、迂回して出口前で待ち構えているぞ。ゴッドバルド殿が率いる重装騎兵部隊『神の槍』三百騎がな。お前等に逃げ道は無いんだ!」

 

 俺の弓兵部隊『千の腕』の一斉攻撃を防げる奴は居ない、毒煙との併せ技は堪えただろう?風属性魔術師に敵の魔術師に気付かれない程度の弱い風を起こして吸わせたんだ。

 この作戦はリーマ卿が自ら授けてくれた物、成功してホッとしたのが本音だがな。

 

「ピッカー隊長!敵兵の殲滅完了です、もう動く奴は居ません」

 

 大地に伏せる敵兵を見て感覚的に思ったのだが、先鋒部隊の二百人以上は倒したか?大成果だぞ。

 

「そうか、では用心の為に止めを刺すんだ。死体からの略奪を許可する、裸にひん剥いて裏の川に捨ててしまえ!」

 

「了解しました!」

 

 これで武器や防具の補充も出来た、補修は必要だが籠城戦に贅沢は言えない。後はゴッドバルド殿が敵を倒し野営地から物資も回収してくるだろう。

 俺等は新しい敵の為に罠を仕掛け直しだな、リーマ卿の本隊到着までに何人の敵兵を倒せるか楽しみだぜ。

 

「エムデン王国もこの程度か、随分と腑抜けになったモノだな。興醒めだぞ……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ピッカー殿の罠から逃げ出してくる敵を待つ、既に野営地を守っていた十人程の敵兵は倒した。後は坂道から転げ落ちて来る残党の殲滅で完了だ、事前情報では強敵と言われたが逃げ出して来た時点で半壊してるだろう。

 

「お前等、敵が完全に坂道から出て来たら突撃するぞ」

 

「「「「了解ですぜ!」」」」

 

 ふふふ、頼もしいな。我が重装騎兵部隊『神の槍』は無敵部隊、我等三百騎からなるランスアタックを防げる敵など居ない。

 暫く待てばそれなりに統率の取れた歩兵部隊が坂道から降りてきた、中程に居る身なりの良い奴が隊長か?確か隊長は宮廷魔術師と聞いたが奴は騎士っぽいが……

 

「戦場では臨機応変!前情報が間違っている場合も有るだろう。お前等、あの中に宮廷魔術師が居るらしいが構わず殺せ!

だが顔は分かる様にしろよ、首級を上げたが判別不能は勘弁だからな……では、突撃だ!」

 

「「「「おう!」」」」

 

 名乗りは上げぬ、奇襲とはスピードが命だ。呑気に名乗って敵に迎撃の準備をさせる時間は与えない。

 斜め後ろの岩影から敵の残党に向かって突撃する、一瞬動揺を見せたが直ぐに円陣を組んで正面に盾を構えた、だが反応したのは百人前後と全体の三割にも満たない。

 

「蹴散らすぞ、そのまま突撃だ!」

 

 ランスを水平に構えて馬の突進力を生かしたまま突撃する、構えた盾を貫通し敵兵をも貫いた。そのまま横に振って次の獲物を探す。

 三人ランスの餌食にして敵陣を突き抜ける、反転して再度突撃を敢行する。

 

「オラオラオラ!我が重装騎兵部隊は最強騎兵部隊『神の槍』を誰も止められないんだ!」

 

 反転した事で全体を見渡せる、一部が兵を纏めて戦線離脱を開始したが……

 

「逃がす訳はねぇだろ?あの部隊は逃がさねぇぞ。しかし精鋭って情報は嘘だな、良くて二線級だがエムデン王国は弱体化したのか?」

 

 もはや統率された動きも出来ず数人単位で向かってくる歩兵など物の数ではない、平原で歩兵が騎兵に勝てる訳もない。簡単に討ち取って行くが魔術師の一団が居たらしく其処だけ苦戦していた。

 生き残りの火属性魔術師は四人、輪になって誰かを守っている。あの無様に倒れている奴が偉い奴なんだな……

 

 遠巻きに円を描く様に取り囲む、奴等も魔力が少ないみたいで散発的にしかファイアボールを撃ってこない。だが時間切れみたいだぞ、ピッカー殿の弓兵部隊『千の腕』が応援に来たからな。

 俺達が囲んで逃げられない様にした後で、後方から弓矢を連続で射る。魔法障壁って奴は強力だが魔力が枯渇すれば張れないんだよ。それに……

 

「槍を一斉に投げるぜ、全員構えろ!」

 

 弓矢と違い重さも威力も有る投げ槍の三百本の一斉投擲を防げるか、火属性魔術師よ?

 

『ま、待ってくれ!投降する、投降するから待ってくれ。俺達はエムデン王国宮廷魔術師であるビアレス様の家臣団だ、投降するから命だけは助けてくれ!』

 

 何だ、本当にコイツ等がエムデン王国の精鋭かよ。随分と弱い連中だな、捕虜は最初から要らぬと決めていたんだ!

 

「構わん、投擲!」

 

『まっ、待ってくれ。抵抗はしない、うわぁ!』

 

 流石の魔術師も投げ槍三百本は防げなかったみたいだな、だが針鼠みたいになっちまった。これじゃ誰だか判別出来ないかもしれないが構わないか、憎きエムデン王国の奴等を殲滅させたのだから……

 

「よーし、コイツ等からも根こそぎ奪うぞ!死体は川に捨てるぞ、その金持ちっぽい貴族の死体は別の使い道が有るから倉庫にでも放り込んでおけ」

 

 宮廷魔術師様か、大した魔法だったが油断し過ぎだな。敵兵の目の前に姿を表すなんて馬鹿なんだろうか?または自分の力を過信し過ぎたか?

 

「まぁ良いか、折角の手柄を上げたのだからな。せいぜい俺の出世の為に利用させて貰うぞ、宮廷魔術師殿」

 

「ゴッドバルド様!一名が我等の馬を奪い逃走しました、敵の騎士階級だと思われます」

 

 む、あの騎士が逃げ出したのか?騎士って奴等はプライドが、いや誇り高い人種なのだが奴は違ったのか?まぁ良いか、一人逃がした程度では我等の有利は変わらぬよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アンクライムの街に到着した、ウルム王国との国境に一番近い街で有り防衛戦の拠点となりうる街でもある。周辺の村人達や有事の際には王国軍を受け入れる為に一寸した城塞都市となっている。

 周辺には丸太で塀が組まれ東西南北に大門が有り矢倉も多数建っている、そして街の中には広大な平地が有り兵士達がテントを張る野営地としても使える。

 

 だがビアレス殿は此処の野営地を引き払いハイゼルン砦の近くに移動した、三日前の事だ。そして此処でも住民達とのトラブルも有ったが、ラデンブルグ侯爵配下の警備兵が多数巡回していたので大事にはならなかった。

 

 僕等は規律を乱さず整然と街へと入った事とツェレとゴスラーの村の安全を確認し村人を避難させた事、そしてラデンブルグ侯爵と懇意なバセット公爵の配下であるゲッペル殿の存在が決め手となり歓迎された。

 

「リーンハルト様、ようこそいらっしゃいました。アンクライムの街の代表をしております、ダルクスと申します。この様な時期ではなければ盛大に歓迎の催しを行う事が出来たのですが、今は戦時下故にお許し下さい」

 

 腰の曲がった老人だが眼光鋭く中々の人物だと思わせる雰囲気を纏っているな。

 

「アンクライムの街の守備隊隊長、マッケルです」

 

 此方は三十代後半、白髪混じりの短髪で無精髭の似合う筋肉質な男だ。ハーフプレートメイルを着込み背中に大剣を背負っている、背も高く2m以上有りそうだ。

 街の代表と警備隊隊長が出迎えてくれた、先ずは情報収集と周辺の安全確認の二つを話し合うか。

 

「出迎え感謝します、先ずは今後の話し合いをしたいので場所を用意して下さい。それと兵士と馬を休めたいので手配をお願いします、詳細はグレッグに一任しますので頼みます」

 

「はっ!リーンハルト様、了解致しました」

 

「事前に連絡が有りましたので既に用意は整っております。ワナビーよ、グレッグ殿の補佐をしておくれ」

 

 先ずは兵士と馬の休憩、そして情報収集だな。明日は予定通り朝からハイゼルン砦を攻めるのだが遠征部隊の責任者として色々とやる事が有るので大変だな。

 


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