古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第320話

 キーリッツの村が襲われている、旧コトプス帝国の略奪部隊の仕業だと思うが装備が貧弱で歩兵だけなのが気になる。

 略奪部隊とは迅速に物資を運ぶ為の輸送部隊を同行させる精鋭部隊の筈だ、敵陣近くに斬り込み無事に生還しなくてはならないから。

 

 ボーディック殿に荷馬車隊の守りを任せて残りの全員で敵に向かう、奴等は周囲の警戒を怠ったのか500mを切るまで近付いて漸く気が付き逃げ出した。それもおかしな事だ、無用心過ぎる。

 

「だが退路が有ると思うなよ、クリエイトゴーレム!奴等を一兵たりとも逃がすな」

 

村の反対側を半円の形で三百体のゴーレムポーンが囲う、敵は逃げ出せずに慌てるが最初にレディセンス殿の部隊が突撃をした!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ほぅ?流石はリトルキングダム、退路側がゴーレムで埋まったぞ。もう奴等は俺達の方にしか進めないな」

 

 けして狭くない村の外周の半分を覆う様にゴーレムが錬成された、逃げ場を失った奴等が慌てて右往左往しているが……

 

「死ね!」

 

 ハルバートを水平に降って横をすり抜ける時に首を跳ねる、騎馬隊三百騎の突撃の迫力に恐れをなしたのか半数以上の奴等が同じく三百体のゴーレム目掛けて突進していった。

 騎兵より重装歩兵の方が逃げやすいと思ったのだろうが、奴のゴーレムは凶悪だぜ?

 

「村人の保護を優先しろ、敵に容赦は要らない。抵抗するなら迷わず殺せ!」

 

 村の中央で馬を止める、周りは地獄絵図だ……殆どの家屋が燃えていて、その前には村人が殺されて倒れている。か弱い老人や幼い子供まで倒れている。

 中央に置かれた馬車には略奪品が置かれて茫然自失の若い娘達が集められている、奴等若い娘以外は皆殺しにしやがったな。

 

「五人ほど娘達を守ってろ、火で怯えた馬は村の外へ移動しろ。消火は無理だ、諦めて隠れている敵兵を探し出せ!」

 

 状況的に生き残りを人質にされるかと思ったが、俺達が騎士で平民の人質は通用しないと考えたのだろう。脇目も振らずに逃げ出したがゴーレム達による連携攻撃で全て倒された、あのゴーレム達は接近戦も凄いが近距離でも弓矢による攻撃も行う。

 味方はゴーレムで誤射してもダメージ無視だから可能な、味方も巻き込むヤバい攻撃だぞ。

 

「私達、助かったの?」

 

「でも、お父さんもお母さんも、弟たちも……みんな殺された」

 

「兄さんも私を庇って、みな殺されたわ……もう、生きていても。私も死にたい」

 

 顔を殴られたり服を引き裂かれたりはしているが全員酷い怪我は無さそうだ、自分達が助かった事によりショックから回復し現状を理解し絶望したのか?

 

 クソッ、クソッがぁ!旧コトプス帝国の連中め、弱い奴等を狙うなんて酷い真似しやがって!

 

「安心しろ!お前達の事は俺が守ってやる、もう安心だ。何の心配も要らないから大丈夫だ」

 

 生気が無くなってブツブツと独り言を言い始めた女達に活を入れる、これじゃリーンハルト殿を平民に甘いとか言えないな。だが生き残りの八人の女達には生きて貰いたい、折角助けたのに絶望で自殺とかは勘弁だ。

 暫くは燃えている村の中で生存者と隠れている敵兵を探す、奴らは目撃者を残さない為にか徹底的に村人を殺している。致命傷に達する傷が二か所以上有るのが証拠だ。

 そしてゴーレム八体を従えたリーンハルト殿が近付いてきた、戦場なのに妙に落ち着いているな……

 

「ニーレンス公爵の実子、レディセンス殿が大丈夫だと言ったのです。何も心配せずに全て身を任せれば良いのです、レディセンス殿なら貴女達を悪く扱わないでしょう」

 

「リーンハルト殿、意趣返しですか?」

 

 からかっているのかと思ったが厳しい顔をしている、敵兵は既に殲滅済みらしく何人かは捕縛してゴーレムが押さえ付けている。しかし兵士と言うよりは野盗っぽい姿だな、村を襲い略奪し年頃の女以外は皆殺しもそうだ。

 

「レディセンス殿、コイツ等はビアレス殿に同行していた傭兵団です。出兵式の時に見覚えが有ります、少しヤバい状況かも知れません」

 

「何だって?あの野郎、自国民の略奪まで許可したのか?」

 

 いくら追い詰められているからって兵士の戦意高揚の為に非道な行いを許したのなら、宮廷魔術師だからって許さねぇぞ!

 

「そう簡単な話ではなさそうです、一旦村から出ましょう。火の回りが早い、煙で目や喉を痛めますよ。貴女達もレディセンス殿と一緒に移動して下さい、僕は村人の死体を運び出します」

 

「え?ああ、そうだな。お前達、立てるか?一旦村の外に出るぞ」

 

 リーンハルト殿の厳しい表情は何だ?何の可能性に思い至ったんだ?

 

 取り敢えず腰が抜けた女を抱き抱えて立たせる、これじゃ俺も平民の女が大好きみたいじゃねぇか?だが彼女等を突き放す事は出来ない、色々と限界みたいだし助けた相手が絶望で自殺とかは嫌だしな。

 

「貴族様、有難う御座います。私達、今後どうしたら良いのですか?」

 

「もう生きる望みも術も有りません、いっそ両親の後を追って……」

 

「お父さん、お母さん、私も直ぐに一緒の場所へ行きたい」

 

 クソッ、俺は女子供には弱いんだ。こう言うのは本来は女慣れしているリーンハルト殿の担当だろ!

 

 奴等も最悪な狼藉はしてないみたいだな、安全な場所に連れ込んでから楽しむつもりだっのか?少しだけだが救われた気持ちだ。これで襲われた後だったら俺では何も言えなかっただろう。

 

「安心して俺に任せておけ、悪い様にはしない。さぁ行くぞ」

 

 未だ座り込んでいる女の手を取り引き立てる、目の前で両親や隣人達を殺されたんだ。悲しむなとは言えないが、先ずは安全な場所に移動するしかない。

 リーンハルト殿が保護したリィナには劣るが田舎では中々居ない様な容姿の良い女ばかりなので、周りの味方の兵士からも白い目で見られている事が納得いかないぜ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「本当に何でも出来るんだな、あの汎用性は驚くぜ。王国軍の工兵部隊と同じだな」

 

 リーンハルト殿のゴーレム達は村の外へ死体を運び出し同時に複数のゴーレムが穴を掘り村人達を埋葬していく、見付けられた村人は六十二人だが残り十四人は家屋の中で燃えてしまったのだろう。

 敵兵については放置すると自然発生のモンスターが死肉を食べに来るからと、大穴を一つ掘って纏めて放り込んだ。まだ息が有った重傷者も問答無用で生き埋めにした、敵対すると恐ろしく非情になれるんだな……

 僅か十五分足らずで村人の埋葬を終えて短い祈りを捧げている、敵兵からは武器や防具それに持ち物全てを回収し村人達から奪った物が積まれた馬車に乗せた。

 これも生き残りの八人の女達の物だって事か、俺と違ってやる事がスマートで優しいのがムカつく。

 

 祈りが終わると捕虜とした四人の生き残りの尋問に移る、リーンハルト殿の特製拘束具で逃げ出す事が不可能な為か睨むしか出来ない。

 両手と両足を拘束する錬金製の鉄輪は繋ぎ目が全く無いので外す事は不可能だな、隙間無く嵌まっているので手足を切断するしかないか……

 

「お前達は傭兵団だな、何故此処に居るんだ?ハイゼルン砦を攻略する為に雇われた筈だぞ?」

 

「知らないな、俺達はウルム王国の兵士だ。それなりの待遇を要求する」

 

 無精髭の生えた中年の男が生き残りの中では一番偉そうだ、他の三人は若かったり怯えが酷い。喋りたくても恐怖で歯がガチガチと鳴っていて無理っぽい、村人を殺しておいて自分が捕まったら怯えるとかふざけるな!

 それとウルム王国の兵士と騙るか、友好国の捕虜としての扱いにしろって事だな。

 

「別に死体でも顔さえ判別出来れば良いんだ、お前はエムデン王国の王都中央広場の出兵式に居た筈だ。僕は管理棟の二階から見下ろしていたから分かる、嘘をついても無駄だ」

 

 誤魔化しが利かないと分かったみたいだな、唾を吐いて睨み付けて来たぞ。拘束されても度胸だけは有るみたいだな。

 

「お前がリーンハルトか?俺等は赤月の敵討ちの為と嫌がらせで村を襲った……」

 

「御託は良いんだ、お前等は僕への復讐なんて関係無く弱者に危害を加えるだろ?そんな戯言で僕が罪悪感に苛(さいな)まれるとでも思ったか?

お前等には楽に死ねるか拷問され苦しんで死ぬか二択しか無い、素直に言えば良し。言わなければ火炙りか股割きかモンスターに生きたまま食われるか三択が追加されるだけだ」

 

 男が絶句した……リーンハルト殿は本気だぞ、前にもボルガ砦に攻めてきた傭兵団『赤月』を慣れた風に拷問して情報を得たと聞いている。

 問答無用で拷問対象を順番に殺して生き残りにプレッシャーを与えていたとか、あっさり殺される仲間を見れば自分も身の危険を感じて口を割るか……

 

「お、俺達は逃げ出して来たんだ。あんな無謀な突撃なんて出来るか!」

 

「馬鹿がっ!喋るな」

 

「は、八組いた傭兵団の内、二組が逃げ出したんだ。残りは知らない。お、俺等は……」

 

 もう一組の傭兵団が、この付近を彷徨いているだと?周りの村や街に危害が加わる危険性が高いぞ。コイツ等は命大事に敵前逃亡した上に逃走資金を得る為に村を襲ったのか。

 

「もう良い、お前達はエムデン王国に引き渡す。レディセンス殿」

 

「何だ?リーンハルト殿」

 

「隊長全員を集めて下さい、予定を変更します」

 

 お互い苦虫を纏めて噛み潰したみたいな表情だな、こんな外道傭兵団がもう一組居るとなれば退治しなければならない。どの道奴等は敵前逃亡した、発見次第殺しても構わない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 村の外に出た、生き残りの村娘達がリーンハルト殿の非情っぷりに恐怖して全員が俺の周りに集まって離れない。嬉しいが嬉しくない、ボーディック殿達の俺を見る目に蔑みが有る。

 

「戦場で色を奏でる事は悪いとは言わない、だが今は非常事態だから遠慮されよ」

 

「流石ですね、リーンハルト殿の八倍か……そこに苛つき蔑みますよ」

 

「まぁ彼女達にとってレディセンス殿は英雄、色を好むのは仕方無しだな」

 

 お前等ニヤニヤと言いたい放題だな、本来公爵家は仲は良くないし互いに順位争いをしている関係だが俺は後継者でも何でもないんだぞ!

 

「お遊びはその辺にしましょう。ゲッペル殿、ラデンブルグ侯爵から情報が行ってると思いますがアンクライムの街の周辺には六つの村が有った筈です。

ヴァレン・ツェレ・ゴスラー・ゾルタウ・トリアー・ケーテンと六つの村の避難状況は聞いていますか?残りの傭兵団なら何処かを襲うと思いますか?」

 

 そうだ、俺で遊ぶな!

 

 ゲッペル殿はラデンブルグ侯爵と仲の良いバセット公爵の配下、やはり情報提供を受けているのか……

 

「ヴァレン・ゾルタウ・トリアー・ケーテンの四つの村は無人だ、アンクライムの街に避難した。だが比較的被害の少なかったツェレとゴスラーの村は女子供は避難しているが最低限の農作業が出来る男手だけ残している」

 

 そうか、女と子供を無事に避難させているのは流石だな。だが男だから見捨てる訳にもいくまい、リーンハルト殿はどうするんだ?

 

「擦れ違った可能性も有りますが我々も今更後退は出来ません、二手に別れてツェレとゴスラーの村の安全を確認しアンクライムの街で合流しましょう。

割り振りは僕とゲッペル殿、ボーディック殿とミケランジェロ殿、レディセンス殿は彼女達を守りながら先にアンクライムの街へ行き警戒を促して下さい」

 

 ちょ、未だ彼女達の面倒を見るのか?俺にも活躍の場が欲しいのだが……

 

「無難な割り振りですな、ボーディック殿はこの辺りの地理に詳しいので私とは分かれた方が効率が良い」

 

「ふーん、他家の領地に詳しいのか……」

 

「それとミケランジェロ殿は伝令兵を使い王都及び途中の街や村に報告。

内容はバニシード公爵が雇いビアレス殿に預けた傭兵団が敵前逃亡し、周辺の村々を荒らしている。証拠に捕虜の四人を連れていって下さい、後は明日の朝に僕等はハイゼルン砦を攻略すると……頼みます」

 

「了解、だけどバニシード公爵の第二陣には教えないよ。最悪伝令兵が口封じじゃん」

 

 ミケランジェロ殿の心配も分かる、なるだけ情報の伝わりを抑えて何とかしたいのが本音だろう。自分に責任が無い様に全てをビアレス殿に押し付けるかも知れない。

 

「構わない、その辺はザスキア公爵にも相談して決めて下さい。彼女には情報操作も頼んでいる、自国民に最悪の裏切りをしてくれたんだ。責任は取って貰いましょう」

 

 いや、リーンハルト殿の事が怖いのは分かるがよ。だが俺に抱き付くのは止めるんだ、余計な誤解を招く行動は慎んでくれ。

 


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