古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第32話

 実地訓練の為にレゾ高原に薬草採取とゴブリン討伐に来た、ゴブリン討伐については序でで本命は薬草採取だと思っていた。

 山の天気は変わりやすく突然の濃霧の後に豪雨、テントを身を潜めて回復を待つが周囲の森にゴブリンが集まってきた。

 魔法迷宮にポップする連中と違い自然発生のモンスターには知恵がある。奴等は本当に豪雨に紛れて襲って来るのだろうか……

 

「先生、雷も鳴り始めました……」

 

 山の頂きを正面に見て右側は森まで100m以上、左側は森まで50m。レゾ高原は薬草の群生地だが大岩も点在し見通しは良くない。

 

「なぁ雨風が弱くなったらコッチから攻めようぜ。ゴブリンなら全員で攻めれば負けないぜ!」

 

 戦士系なら同数なら負ける事はないし、低レベルでも二倍までなら大丈夫だろう。だが僕等は先生を含めても六人、僕のゴーレムポーンなら余裕だが一人勝ちしても評価は低い。

 

「嫌だよ、雨の中で戦うなんて……天気が回復したら逃げようよ」

 

 男性陣は正反対の意見が出たが何気に気弱なスィーも自分の意見を言えるんだな、逃げる事だけど。先生は黙って僕等を見てるのは採点しますよって事か……女性陣の意見も聞きたいので目を向ける。

 

「私は戦うのは賛成だけど森に攻め込むのは反対」

 

「森から出てくる奴等を弓で攻撃して接近されたら接近戦で対処しようよ」

 

 うん、この子達は二人共同じ考え方をするのかな?

 でも今までで一番建設的で具体的な意見だし僕も賛成だ。最悪はゴーレムポーンを突っ込ませても良いけど、パーティとして行動してるから個人プレイは駄目な気がする。

 

「僕もベルベットさんとギルさんに賛成かな。

森に入るのは危険と言うかゴブリンの罠に引っ掛かるみたいで嫌だし、雨に濡れてまで率先して戦いたくもない。

天気は……空がまだ真っ黒だから暫く雨は止まない。

焦れて待てなくなって飛び出してきたゴブリンを迎え撃とう」

 

「ハイハイ、堅実な意見だし纏め方もギリギリ合格点だよ。けど周辺に仲間のパーティが居るのを忘れてないかい?

彼等と連携するか彼等の行動に追従するか選択肢は多いよ。

リーンハルト君は自分だけで何とでもなると思っていながらパーティ行動をしようとするのは感心だけど少し視野が狭いかな」

 

 なっ!? 確かに他のパーティと連携するのは全く考えてなかった。危なくなればゴーレムポーン達で力押しするつもりだった。

 流石に先生は良く見てるって事か……

 

「すみません。確かに他にも近くにパーティが二組居ましたね。

最初に先生方を入れても18人って言われてたのに気付かなかった……

ですが他のパーティのテントまでは10m以上離れてますし、意見を擦り合わせるには決断出来る権限を持ったリーダーが行くしかないですよ」

 

 全10班でレゾ高原に来たが群生地が点在してるので離れてしまった。しかも残りのパーティにはウィンディアは居ないから火力は僕が一番だけど個人プレイは駄目っぽい。

 

「そうですね、少なくとも全員集まった方が良いと先生は思います」

 

 意味有り気に言われても豪雨の中でテントから出て全員が集まるなんて……集めるには……どうする?

 

「先生、この場所に土のドームを造ります。他のパーティを呼んでも構わないですか?」

 

 この先生の落ち着き様はゴブリン程度は先生方三人でも対処出来ると思ってるか、天候は別としてもゴブリンの襲撃を予想してたかだろうな。

 大人数で遠征と言っても結果的には分散させられてるし楽過ぎると思ってたんだが……仕組まれていたんだなゴブリンの襲撃は、学校行事と甘くみていたよ。

 

「構わないよ。この実地訓練は連携や指導力、協調性とかも加点対象だからね」

 

 大岩に両手を付いて魔力を流し込む、大岩から大地に魔力を流して周りの土を盛り上げていき即席のドームを造る。

 強度は岩と同じくらい有るから大丈夫だ、崩れる心配は無い。

 ゴブリンが周囲をうろついているので監視用の小窓は多目に取り付けたから風が入り込んで寒い。

 

「他のパーティに声を掛けてきます」

 

 先ずは全員一ヶ所に集めて話し合いをすれば良い、それで誰がリーダーになるかで揉めたら揉めたで考えれば良いか。

 

「「それは私達で行くよ、可愛い女の子がお願いに行った方が良いし両方同時に行けるよ!」」

 

 そう言うと返事も聞かずにベルベットさんとギルさんは飛び出して行った……

 ゼクスとスィーも何と無く気まずそうに僕を見るのだが、指示しなくても自主的に動いてくれた彼女達に感謝しなよ。

 

「先生、テントを畳んでも良いですか?このドームは直径10mは有りますから18人位なら余裕です、隅に大岩が有りますが気にしないで下さい」

 

 待つ事3分もしないで他の連中が走り込んでくる。雨足は激しく時々雷も鳴り始めた。

 引率の先生方は壁際に並んで僕等を見ているだけで特に指示とかは無さそうだ。自分達で考えろって事だな。

 取り敢えず班ごとに纏まっているが特に誰も話し出そうとはしない。

 だが二班の内、片方のパーティは何故か全員がびしょ濡れだ……テント有ったよね?

 

「ドームの中でも焚き火は出来るよ、先ずは暖を取った方が良い。

あと情報だけ共有の為に説明するけど僕等に近い左側の森の中にゴブリンが集まっている。数は確認出来ただけで10匹以上だが確実に増えているよ」

 

 周りを見回しながら説明するがびしょ濡れ連中は誰も焚き火を用意しないのだが……ああ、僕の考えが足りなかっただけだ。

 彼等は焚き火用の薪とかが無いのだろう、濡れた地面を魔力で盛り上げて1m角の台を造り乾燥させて収納袋から薪を取り出して並べる。

 ギルさんが慣れた手付きで火を点けて火力を強くしていく。

 薄暗いドーム内が揺らめく炎の灯りで浮かび上がる……

 

「ったく、ウチの班は準備が悪いったら無いぜ」

 

「何だって?お前がテントを破いたんだろ!」

 

「やめてよ、寒いんだから騒がないで!」

 

「少し詰めろよ、寒いだろ!」

 

 焚き火の周りに集まって来たびしょ濡れ連中が口喧嘩を始めた、話の内容から狭いテント内で喧嘩になりテントを破いたのか?僕の方からは破けた様には見えなかったけど……

 

「雨宿りドーム感謝するよ、僕等もゴブリンには気付いていたけど……どうする?僕はオブザル、一応リーダーだ」

 

 短い癖っ毛の金髪をガシガシと掻きながら右手を差し出して来た、髪を濡らしていた水が弾けて当たってるんですが……

 

「僕はリーンハルト、一応リーダーだけど……どうするかを相談したかったんだ」

 

 握手をすると意外と力強く握って来た。彼のパーティは全員男で戦士系だと思う……

 鎧こそ革製だが木の盾やロングソードで装備を固めている。つまりは接近戦が得意な連中の集まりだ。

 

「折角のドームだし雨宿りをして攻めてきたら返り討ちが良くないかな?」

 

「うん、ウチのパーティも同じ意見だよ。此方から森に入るのは危険だよね……」

 

 雷が光る度に森の中のゴブリンが持つ武器が光るのだが手入れが悪いらしく余り光らない。だが同時に光る場所は20近いから既に20匹以上のゴブリンが集まっていると思う。

 

「じゃ警戒しながら休憩だね、天候が回復しないと動きが取り辛いよ」

 

 僕とオブザルのパーティは意見統一が出来たが、焚き火に夢中な連中は横目で見てるだけで話に参加しない。協調性と言うか協力を頼むのも大変だぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ、リーンハルト君」

 

「何かな、ベルベットさん?」

 

 すきま風が酷いドームを欠陥だとか陰でブツブツ言われて、聞こえない振りをしているが実は凹んでいる僕の袖を引く彼女。

 

「右側の森も変だよ、左側ほどあからさまじゃないけどゴブリンが居る。しかも見付からないように警戒してる動きだよ」

 

 言われて右側の森を見るが……100m以上離れてると僕では見えないや。陽動か……ゴブリンが?

 でも左側から派手に攻めてくれば全員が警戒を左側に集中する。しかも豪雨だから音は掻き消されて聞こえない。

 左側が陽動で本命が右側からなら不意を突かれれば被害は大きい。

 

「オブザル、良いか?右側にもゴブリンが集まっている、左側は陽動だ。

つまり天気が悪い間に攻めてくるぞ」

 

「ゴブリンの癖に生意気だな……分かった、左側は受け持つから右側を頼むよ、アレと一緒にさ」

 

 彼の視線の先は焚き火を占領する五人組なのだが正直嫌だな……

 

「先生、僕等はゴブリンが悪天候の内に攻めてくると判断しました。

左側は陽動、右側が本命と考えます。

左側はオブザルのパーティが右側は残りのパーティで対応しますが、先生方は左側のフォローをお願いします。

スィーは念の為頂きの方を監視してくれ。君達もそれで良いか?」

 

 何時攻めてくるか分からないので作戦と役割分担は決めておきたい。

 咄嗟の判断なんて烏合の衆には無理だし先生方も放任っぽい。勿論最後は手助けしてくれるとは思うけど減点になるのだろう。

 

「そりゃ構わないけどさ、魔術師だからって偉そうじゃね?アンタ、そんなに強いのかよ?それに何で山頂の方も監視するのさ?」

 

 気にもしなかったから注意して見ていなかった、名前も知らない最後のパーティのリーダー……

 身なりは良いが言葉遣いは貴族のソレじゃない。自己紹介もなく質問だけって新鮮な対応だ。

 

「先ず山頂を警戒するのは僕なら左右の連中は陽動、本命を上からにするからだ。斜面を横切るのと駈け下りるのじゃ駈け下りる方が勢いが有り突破力も有る。

左右に気を取られて脇腹に少数精鋭の連中に攻められたら負けるよ。

偉いかと言われれば僕もパーティのリーダーだから他のリーダーと同じだが、強いかなら僕はレベル20の魔術師だよ」

 

「何だよ、魔術師でレベル20って学校来るなよ!必要無いだろ、そんなに強いならさ。分かったよ言う通りにすれば良いんだろ?」

 

 酷い言われようだけど、文句は言うが強い者には従うみたいだな。後ろに控えている連中も頷いてるから大丈夫かな?

 

「いくらレベル20で普通なら一人前と言われても僕は世間知らずなんだよ。

力が強くても慢心すると直ぐに死ぬのが冒険者稼業だからね、最低限の知識は持ってるけど応用力が欲しいんだ」

 

 実際に『デクスター騎士団』の対応は勢いと女性を見捨てる事への罪悪感、勝てるだけの自信と準備は有ったがその後の事迄考えてなかった。

 後悔はしていないが教訓にはしないとね。

 

「「後は私達(の力)が欲しいんだよね!」」

 

 左右からベルベットさんとギルさんが声を掛けてくるが言葉が足りない!

 

「……学校は女漁りの場所じゃないんだぜ、来るなよ貴族様はよ」

 

 何故か態度が酷く悪いのだが、今も一応身分制度は厳しい世界だよな? 彼は貴族に対して大口を利ける秘密が有るのか?

 

「何か色々と台無しだと思うのは手遅れだけど言っておくよ……僕は盗賊系の仲間が欲しいのであって愛人が欲しい訳じゃない。

この二人は仲間の最有力候補には違わないが愛人として囲うつもりは無いから勘違いはしないでくれ」

 

 折角の説得も微妙な雰囲気になってしまったのが悔しい。

 だが仲間候補はベルベットさんとギルさんでも良いとは思い始めてるのも事実だ、実際に短いやり取りしかしてないが有能なのは確かだしね。

 

 そんな不毛な会話をしていると遂にゴブリン共が動き出した!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ゴブリン27匹、此方を威嚇しながら向かってきます」

 

 ベルベットさんの報告を聞いてドームに造った窓から外を見る。

 27匹なのか、数えられなかったが確かにゴブリン達がゆっくりと此方へ向かってくる。

 見付かっても当たり前みたいに剥き身のショートソードや手斧、ダガー等を持って威嚇しながら歩いてくるけど……

 

「完全な陽動だね、右側の森はどうだい?」

 

「体を低くしながら走ってくるゴブリンが居るよ、その数は20匹!」

 

 ギルさんも正確に数を数えて報告してくれる。盗賊系って視力も良いんだな、確かに仲間に欲しい人材だ。

 

「オブザル、陽動の方は任せる。多分だが本命の奇襲が失敗すれば数を頼みに攻めてくると思う」

 

 空間創造からカッカラを取り出して握り締めた。


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