古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第310話

 王家主宰の舞踏会は色々な意味でリズリット王妃に助けられた、アウレール王が僕とジゼル嬢との結婚を認めてくれた。

 これで一番心配していた身分不相応な相手だとか言われなくて済む、貴族の常識だから周りを説得させる理由が欲しかったんだ。

 多分だが急速に出世し、ハイゼルン砦攻略に成功すれば僕の王宮内での発言力は増す。次期王はグーデリアル様と決まっているので対抗馬は要らないと思ったのだろう。

 僕は血筋が悪い、新貴族男爵と平民の側室との間に生まれた男だが、仮に由緒正しき公爵家の直系令嬢を本妻に迎えたら……

 

「宮廷魔術師第二席の僕と公爵家が後見人となる貴(とうと)い血筋の子供が生まれては困るって事だな」

 

 僕とジゼル嬢の子供ならば血筋の問題で次期王にはなれない、頑張って暗躍しても無理だ。リズリット王妃は僕に恩を売りつつ未来の危険分子を排除したんだ。

 僕に王位簒奪の気持ちなど欠片も無いが、本妻の実家の意向は分からない。貴い血を引く現役宮廷魔術師第二席の子供の使い道は多そうだから未然に防いだって事か。

 

 全く嫌な事を考えてしまった、だが今の僕には子種が有るのだろうか?転生前は色々な思惑で何人もの女性に子種を求められたが結局一人も子供は生まれなかったんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハイゼルン砦攻略の前の最後の調整、それは各公爵家から派遣される精鋭達を束ねる指揮官との顔合わせだ。

 全員一同に集めるのだが僕や各公爵の屋敷では揉めそうだったので王宮内の応接室を借りる事にした、間違いなく各公爵家から遣わされる指揮官は貴族の筈だ。

 しかも上級貴族だと思うから王宮内に呼んでも問題は無さそうだし、王宮内に呼ぶ事により向こうも気を引き締めるだろう。防犯上一番外側だが王宮内の応接室など借りられないのだから……

 

「お久し振りです、レディセンス様。ニーレンス公爵なら貴方を寄越すと思ってました」

 

 実用性重視の無骨なフルプレートメイルにハルバードを担いでいる、話し合いなのに全員がフル装備なのは自身の力を参加者全員に示しているのだろうか?

 一応武器の類いは持ち込み可能と確認しておいてよかった、ロッテの提案を聞いておいて良かったな。

 

「うちは武官は少ないからな。それと立場上は俺に様付けは駄目でしょうな、リーンハルト卿」

 

 最初に応接室に来たのはザルツ地方のオーク討伐遠征から交流の有る、ニーレンス公爵の実子でもあるレディセンス殿だった。

 ニヤリと男臭い笑みを浮かべるニーレンス公爵家では最強の武人だ。

 

「お初にお目にかかります、私はランブル・フォン・ボーディックです」

 

 二十代後半の狼の様な雰囲気を持つ武人だ、防御力より機動性に重点を置いたハーフプレートメイルを着ている。装飾は控え目だが品質は良さそうだ、武器はレイピア二刀流と珍しい。

 

「お名前はヘリウス殿から聞いていました、ローラン公爵家最強の武人であると自慢されてましたよ」

 

 ヘリウス殿が自慢していたのは二人、ボーディック卿とべリスと言うお付きの若者だった。武門ローラン公爵一族の中でも最強と言われた男を指揮官として寄越して来たか……

 ニーレンス公爵家とローラン公爵家は予想通りの人物だった、事前に会っているし話も聞いているから能力的にも性格的にも信用出来る。だが身分も凄いな、公爵家の実子に従来貴族の子爵だぞ。

 

「ザスキア公爵からリーンハルト卿の言う事を良く聞く様に言われています、甥のミケランジェロと申します」

 

 三人目は同い年位の愁いのある美少年だ、癖の有る金髪が左目に掛かっていて色白で華奢な体格、魔力は感じないので魔術師や僧侶でもない。だがザスキア公爵が虎の子の騎兵部隊を預けているのだ、きっと用兵が巧みとかかな?

 他の三人と違い意匠重視のハーフプレートメイルで所々パーツを省いて軽量化している、だが傷一つ付いていないのは避けるのが上手いと取るか見た目重視と取るか微妙だ。武器はショートソードだけか……

 

「同い年位かな?あの才能(と美少年)を愛するザスキア公爵が一部隊を預けるのだから期待しています」

 

 瞳の奥に隠し切れない嫉妬心が見え隠れしている。ミケランジェロはザスキア公爵の寵愛を受けているのだろう、だから僕に嫉妬と対抗心が有りそうだ。

 彼は問題児として注意する必要が有るな、僕の足を引っ張れる時は躊躇しなさそうな嫌らしさが有る。

 だが才能有る若い美少年が大好きと言っていたが、身内にも才能を認めた者が居たとは驚きだ。

 

 最後の一人に視線を向ける、バセット公爵から派遣された指揮官は中年の土属性魔術師だ。そしてバルバドス師ほどではないが身に纏う魔力は良く制御されている。

 焦げ茶色のローブを羽織っているが下にフルプレートメイルを着ているのは分かる、手には長大なメイス。長年使い込んでいるのだろう、手入れはされているが細かい傷も多い。

 当然防御には魔法障壁を使う筈だが其れを打ち抜かれて傷付く程の激戦を潜り抜けて来たのだろうか?

 

「ゲッペルです、宜しくお願いします」

 

 厳つく寡黙で筋肉質と普通の魔術師とは違う強かさを感じる、身分は一番下かもしれないが年齢は一番上だ。

 年功序列は無いが、経験豊富な年長者は敬う風習が有るから無下には扱えないな。面倒臭い人間を送り込んでくれたものだ……

 

 大きめなテーブルの端部に僕が座り長手部分に二人ずつ座る、レディセンス殿とゲッペル殿、ミケランジェロ殿とボーディック殿と別れて座ったな。

 ハンナが全員に紅茶を配って退室する、今回は近くに控えないで部屋の外で見張って貰う事にした。

 狭くはない応接室だが普通じゃない連中が四人も居るので息苦しく感じる、深呼吸を数回して落ち着く。

 

「我々は明日王都を出発します、中央広場を借りましたので朝九時に集合し十時には出発します。補給物資は各々で用意、基本的に拙速を求めていますので騎馬と馬車で参戦して下さい。

先に出発したビアレス殿には悪いが早くて三日、少なくとも四日目にはハイゼルン砦を攻撃します」

 

 此処まで話して一旦止めて全員を見回す、本題は偶発的に敵と遭遇した際の取り決めだが先ずは皆の意見を聞く。

 

「僕の部隊には伝令騎馬隊を多目にと言われたので二十騎用意したけど、そんなに連絡する相手が居るの?僕等は団体行動でしょ?周りと連携はしない筈だよ」

 

 ミケランジェロ殿が挑発的に聞いて来たな、ザスキア公爵は伝令兵を二十人も用意してくれたのか。流石だな、僕の考えはお見通しか筒抜けだ。

 全員が王都への連絡だ、全ての経路を使い途中の街や村にも教えながら確実に素早く情報を知らせたいんだ。誰かに妨害される前に事実を伝えたい、後続の本隊にも同様にだ。事実が広まれば潰したり誤魔化したりは困難だから。

 

「ハイゼルン砦は最短で攻略する、いち早く王都や周辺の街にも知らせたい。そうですね、出発して二週間以内に王都にハイゼルン砦攻略成功の報告をする予定です」

 

「つまり到着して五日前後で難攻不落のハイゼルン砦を落とすのか?無理じゃないのか?」

 

「長引けば聖騎士団と常備軍の連合軍が到着する。時間は思ったより少ないぞ、だが約束通りにハイゼルン砦を落とせる自信が有るのは聞いている。我々に求める事は貴殿の邪魔をしない事と護衛なのだろう?」

 

 流石はローラン公爵だ、ボーディック殿に下話はしてくれたんだ。護衛もそうだがビアレス殿とバニシード公爵の部隊への牽制も兼ねている、同じ公爵の部隊だからお互い無理強いは出来ないだろう。

 

「そうです、今回のハイゼルン砦攻略は僕と僕のゴーレム軍団で行いますから……問題は平地での遭遇戦です、アウレール王は敵の殲滅を望んだ。見敵必殺(サーチ&デストロイ)ですね」

 

 この言葉に戦働きが出来ると全員の目に力が籠る、やはり纏めるのは難儀するな、一筋縄ではいかない連中だぞ。

 特にゲッペル殿の暗い笑みは忘れられない、一瞬だったが魔力も高まった。つまり抜け駆けしてでも敵を殲滅するのか?それとも……

 

「皆さん自分の武力には自信が有るでしょうし所属する公爵家の為にも手柄を立てたいでしょう。なので早い者勝ちにしましょう、まさに見敵必殺ですね」

 

「我々の自由にして良いと?」

 

「部隊の乱れは良くないのでは?」

 

 ふむ、ゲッペル殿は予想外と言う感じでボーディック殿は連携の乱れを気にしたか。やはりだがゲッペル殿は隙有らば敵を率先して倒したい感じだぞ。

 バセット公爵を仲間に引き入れたのは微妙だな、彼等は積極的に自分達の利益と手柄を得ようとしているみたいだ。

 

「構いませんよ、元々は混成軍ですから統率して敵に一丸となって当たる必要は無いし出来ないでしょう。宮廷魔術師とは一騎当千の連中の集まりですからね、群れよりも個が強いのです。

僕のゴーレム軍団よりも先に見付けて倒せる自信が有るなら許可しますよ」

 

 僕の『リトルキングダム』の制御範囲は半径500mだ、平地の遭遇戦で僕より先手を取れるなら構わない。

 

「大した自信が有るんだな、正に見敵必殺の早い者勝ちかよ。リーンハルト殿のアレは反則なんだぞ」

 

「それじゃ僕等も負けない様に頑張ろうかな、流石に精鋭部隊を任されて何も成果無しじゃ格好悪いからね」

 

 レディセンス殿には『リトルキングダム』を見せているからな、突撃が基本の騎馬隊と任意の場所に錬金出来る僕とでは不利なのは明白だよな。

 ミケランジェロ殿の意見は普通だ、参戦して成果無しは武人としてどうかと思われるし……

 

「僕もアウレール王から直々に彼等を殲滅しろと言われています、なので誰にも譲る気は無いのです」

 

「俺達にもチャンスは有りって事だな、まぁ先発隊も居るしハイゼルン砦から出て彷徨く馬鹿も居ないだろうし問題は無いな」

 

 レディセンス殿が纏めてくれたので、取り敢えず納得はしてくれた。エレさんの『鷹の目』が有れば索敵は楽なのだが、戦争に同行させる訳にはいかないんだよな。

 これで全ての準備は整った、後はハイゼルン砦を落とし敵を殲滅させるだけだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ハンナ、ロッテ。有難う、助かったよ」

 

 各公爵家から遣わされた指揮官達との打合せを終えて自分の執務室に戻る、応接室を借りたり段取りをしてくれた二人を労う。

 

「打合せ自体に問題は無かったみたいですわね」

 

「昨夜の出来事の方が問題でしたわ、オリビアに凄い嫉妬が向かってます。王家主宰の舞踏会の主賓クラスに、一介の侍女が御礼まで言われたのですから」

 

 ああ、うん。そうだね、噂話が大好きの君達には堪らない話題だったよね。僕も迂闊だったよ、反省している。

 

「オリビアには悪い事をしたと思ってるよ、世話をして貰って助かったのも確かなんだ」

 

 そのまま執務机に向かう、二日間空けたが親書や恋文の類いは少なくなったな。大分落ち着いたのだろう、だが昨晩ダンスの相手からは丁寧な礼状が来ているのは予想通りだ。

 

「ハンナ、昨夜の御礼をリズリット王妃とセラス王女に言いたいのだが面会を頼めるかな?」

 

 後はミュレージュ様もだが、僕には近衛騎士団に伝手は無いのでリズリット王妃に口利きをして貰うしか会えない。王族に模擬戦を申し込まれてハイゼルン砦攻略の後まで伸ばす事は出来ない、今日会って模擬戦をするしかない。

 または日を改めてと約束を交わすか、出来れば明日出陣するので模擬戦はしたくないのだが……

 

「分かりました、申し込んでみます」

 

「うん、悪いが頼む。今日なら何時でも良いが明日以降だとハイゼルン砦攻略に向かうので無理なんだ」

 

 多分だが大丈夫だと思う、セラス王女は王宮から出歩かないし、ミュレージュ様は王宮を守る近衛騎士団だ。二人共に王宮内に居るだろう、時間に余裕が有れば謁見の後でサリアリス様の所に遊びに行くかな。

 

「リーンハルト様、ザスキア公爵も出発前にお会いしたいと申しておりました。昨夜の御礼を言いたいそうです」

 

 イーリンの申し出に少しだけ表情が固まる、帰りに僕が錬金した全金属馬車に乗って送ったのだが馬車の中は密室なんだよ。

 

「そ、そうかい」

 

「はい、昨夜はお楽しみだったそうですね?」

 

 何故そんなにも嬉しそうな顔をするんだ、何時ものポーカーフェイスがどうした?

 

「王家主催の舞踏会だからね、楽しんだと言わなければ不敬だと取られるよ。実際は疲れたが実りは有ったから良かったよ」

 

 関係各所と色々と話せたのは良かった、次に話せるのは凱旋後になるからな。

 

「違いますわ、帰りの馬車の中でザスキア公爵と……」

 

「何も無かったよ、何もね。この件は他言無用だ」

 

 密室で年上で身分も上の淑女との攻防戦は、僕の辛勝だったと言っておく。

 


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