古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第31話

 何故か固まる女性二人、彼女達もポーラさんに騙されたのだろう。

 しかし自然溢れる野外で休憩なんて久し振りだな……

 転生前も野営とか行ったが人間相手の戦争前提だったから、もっと極限にまでピリピリしていた。

 こんなに長閑に草木を見て風を感じたりする余裕は無かった……

 

「君達もポーラさんに騙されたんだね。確かに僕は盗賊系の仲間をこの冒険者養成学校で見付ける予定だよ。

まだ君達とは決めてないし一年近く有るから、じっくりと探すつもりだ。

だけど僕は早めにランクDまで上げたら自主卒業してランクCを目指すつもりだ」

 

 哀れな二人に止めを刺すとゴロリと仰向けに寝転がる……首の後ろが草でチクチクするしむせる様な土と草の匂いだ。

 目の前を飛んでいる蝶々を見ながら思い出す、先生の説明によれば最初の五回は学校主催の依頼を集団で請ける。

 その後は自由だがクラス内でパーティを組み請ける依頼を提出し先生の許可を得る。先生が同行するかは依頼内容次第で無謀なら許可しないし可能なら生徒のみに任せる。

 ゴブリン討伐と薬草採取以外にもランクFで請けられる依頼は何種類かは有るらしいので六回目以降を楽しみにするか……

 

「リーンハルト君意地悪だ!最初にアプローチした私達で良いじゃない、寝ないで話そうよ」

 

「そうだよ、私とギルは姉妹だからセットだよ、お得だよ、可愛い女の子が二倍なんだよ」

 

 予想はしてたが冒険者養成学校内まで勧誘の誘いが有るとは、魔術師と僧侶の需要って凄いんだな。目をキラキラさせて、いやギラギラさせて売り込む二人を見て思う。

 後二人、盗賊ギルドから選抜された盗賊予備軍が居る訳だ……

 

「まだ決めない、お互いの事を知り合ってないじゃないか。パーティとか集団行動だから性格的に合わない人は辛いよ? それにブレイクフリーにはもう一人仲間が……」

 

「それってさ、色んな女を深く知りたいって事だよな?お盛んだな色男って思うぞ」

 

 ゼクスの鋭い突っ込みに思わず頷く。確かに言われてみればその通りだし女性に対して失礼だった。思わず彼を見ると不機嫌そうに此方を見下ろしていたが、少しは感情を顔に出すの止めてほしい。

 

「そうだな、言葉にして言われてみれば確かに最低な男だな。有り難う、助かったよ。じゃ時間まで寝るから……」

 

「ふん!礼は要らない」

 

 彼には嫌われているのか違うのか分からない……まぁ後15分くらいは寝られるから今は考えるのはよそう。

 頬を撫でる風が涼しくて気持ち良かったので直ぐに睡魔が訪れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 辺りから金属の擦れ合う音が聞こえてきた、周りの連中が立ち上がり始めたのだろう。

 

「む、出発か?」

 

「リーンハルト君、たまにお爺ちゃんみたいな口調になるね、変なの」

 

 容赦無い女性の声が突き刺さる、転生前の僕は確かに一人称が我で口調も固かったがお爺ちゃんと言われる程の年齢では無かったぞ。

 

「貴族だからね、少し変かもしれないが気にしないでくれ」

 

 休憩中に使った木椀を片付けて湧水を入れた皮の水筒を肩に掛けたりとパーティの準備を見守る。因みに僕は何もない、お昼はイルメラ謹製のナイトバーガーを用意しているが全て収納袋の中だ。

 

「はい、出発します。後少し歩くとレゾ高原でも有数の薬草の群生地です。

周辺の森にはゴブリンが多く生息し、薬草を摘みに来た冒険者を襲う事が有ります。

幾つか種類別に群生地が点在しています、それと採取出来る時期が……」

 

 ゴブリンは単体なら一般人でも互角に戦えるが複数となると難しい、だからレベルの低い冒険者には最適な相手だ。

 だが自然発生のゴブリンは倒してもアイテムをドロップしない。

 死体も役に立たないし食べても美味しくないので討伐証明の為に右耳を削ぎ落としてギルドに提出すると銅貨8枚で買い取ってくれる、だから数を倒さないと赤字だ。

 薬草採取も同じで利益を出すには100株くらい採取しないと儲からない、此方は一株銅貨1枚。

 初心者冒険者が常に金欠なのは仕方ない。素材採取コースの連中の方が安定した収入を得られるが、ゴブリンの襲来に備えて討伐コースの連中も同行しないと危険だ。

 大抵は討伐二人素材採取一人でパーティを組み一日で金貨1枚くらいを稼げれば良い方らしい。

 一日頑張って一人銀貨3枚から4枚だと安宿に泊まって食事して終わりだな……

 世の中の冒険者の懐具合を想像してたら目的地に到着した。

 標高300mの割と低いレゾ高原だが見下ろす王都は素晴らしい眺めだ……

 そういえば転生前もレゾ高原は来た事が有ったな、確か他国の強行偵察部隊を追い詰めて殲滅したのが此処だった。

 

「はい、我々と他の二班は此処で薬草を採取します。

この薬草は葉と根に違う成分が有るので細い根も採取する必要が有ります。見本を見せますね……

こうして周りの土を掘ってからテコの原理でスコップを持ち上げると綺麗に根が周りの土と一緒に持ち上がります。

付いてる土を払えば完了です。ノルマはパーティ人数×50株です、では始めて下さい。

ああ、群生地とは言え1ヶ所から取り過ぎは駄目ですよ、適度にばらけて採取して下さい」

 

 依頼を請けているのだから全員分を採取する訳か、だが周囲の警戒はどうするんだ?

 

「先生、周囲の警戒が必要だと思いますが……」

 

 先生がニヤリと笑ったぞ。

 

「はい、正解!各リーダーは交替で見張りを立てて下さい。リーンハルト君のパーティには加点しておきます」

 

 加点?この実地訓練は加点制だったのか?良く分からないがギルド依頼の達成数には加点は反映されず学校内での成績の事だろうな。

 

「じゃ見張りはゼクスとスィーがやってくれる?僕が三人分の150株を採取するから、女性陣は50株ずつお願い」

 

 成果がパーティ単位なら採取が苦手そうな二人は見張りに専念させた方が良いだろう。折角素材採取コースの二人が居るのだから腕を見せて貰おう。

 

「三人分も平気か?確かに俺は採取なんて苦手だけどよ、他人に押し付けるのも嫌だぜ」

 

「僕は……」

 

 ゼクスの評価を変えようかな、割と良い奴っぽいな。

 

「僕は土属性の魔術師、つまり土弄りは得意分野なんだよ」

 

 見本で見せて貰った薬草は群生地と言うだけあり沢山生えているので適当に30株くらい集まっている場所に移動する。

 この辺は他にも群生してるので纏めて採取しても大丈夫だろう。

 皆が物珍しそうに僕の周りに集まるので少し恥ずかしいが両手を地面に付けて大地に魔力を流し込む……

 

「薬草が盛り上がってきたわよ」

 

「何か気持ち悪いな、地面がウネウネと動いているぞ」

 

 土属性の僕ならば薬草の根に絡む土を振動させて解して上に押し出す事が出来る、本来は触れた岩とかを細かく砕く術の応用編だ。

 

「薬草の根に絡む土に魔力を流して振動で細かく解したんだ。

本来は触れた岩とかを細かく砕く術だけど応用したんだ……普段は使わない、消費魔力が大きいから勿体ないんだ。

その分モンスターを倒したりした方が沢山稼げるからね」

 

 薬草の根も絡む相手がサラサラな砂だと持ち上げれば簡単に抜く事が出来る。

 

「じゃ頑張って250株集めよう、人数が多いから探すのが大変だよ」

 

 女性陣には悪いが手先の器用さを確認したいのでスコップを使って貰う事にして自分のノルマ150株を採取する事にする。

 自分の技術を見せる事が出来ると女性陣も張り切っているので特に文句も言われなかった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 採取した薬草は一旦腰の収納袋に入れる事にした、採り立てとはいえ天日に晒しているのも品質が劣化しそうだから……

 大きな岩に寄り掛かり薬草を採取している女性陣を見る。慣れた手付きで薬草の周りを掘りテコの原理で地面から抜いていく。

 薬草の根元を掴んで振ると土が落ちて綺麗に採取出来た。

 成る程、盗賊ギルドから選抜されただけあり手際が良いし優秀なんだな……

 多分だが盗賊ギルドから来た子なら誰を選んでも技術的には合格だろう、ウチのパーティは昼前には合計200株を越えた……

 休憩も各パーティの判断で良いそうなので切りの良いところで皆に声を掛ける。

 

「お疲れ様、そろそろ昼食にしようか?二時間近く穴掘りしてたから疲れただろ?」

 

 一応ノルマはこなしたが見張りもしていたので少しだけ疲れた事とお腹が空いたんだ。

 

「「りょーかい、リーダー!」」

 

「やれやれ見張りだけじゃ面白くないぜ」

 

「足がパンパンで疲れた……」

 

 女性陣は良い、薬草採取のノルマも残り僅かだから一時間も掛からないだろう。

 だが男性陣は問題だ、ゼクスは忍耐力が低いと思う。

 二時間は確かに長いが注意力が散漫だし常に何かを見付けては気にしている、なんて言うか興味津々な子供かな。

 スィーは……二時間立ちっぱなしだが倒れそうな程疲れたのか?

 いや、実際に倒れて自分で足をマッサージしている……本当に体力が無いんだな。

 何となく輪になるように座る、僕の両隣は女性陣で向かいは男性陣だ。別に両手に花が嬉しい訳じゃないのだが、ゼクスは羨ましそうに見てる。

 

「僕はナイトバーガーと桃の果汁水だけど皆バラバラだね」

 

 マジックアイテムの収納袋は入れた品物が劣化しない。だから熱々の食べ物は熱々で取り出せる。

 勿論、冷やした桃の果汁水も冷たい状態だ。

 

「ふん、俺は肉だ!」

 

 ゼクスがリュックから取り出したのは鶏の丸焼きだ……あと丸い固焼きパン。

 

「僕は軽食で十分です……」

 

 スィーはサンドイッチだが中の具がフルーツみたいだし三切れしかない、体力が保つのだろうか?

 

「ふふふ、やはり男性はダメね」

 

「私達の昼食はコレよ!」

 

 自慢気に見せてくれたのは土鍋だが蓋から湯気が漏れている、匂いからするとクリームシチューかな?

 

「ジャーン!チキンのクリーム煮だよ」

 

「それと無花果(イチジク)のパンと葡萄水なの!」

 

 蓋を開けて見せてくれたが、此方も鶏が丸々一羽入っているのけど、二人で食べ切れるのか?

 

「先生は妻のお手製サンドイッチだ、具はローストビーフだぞ。それとワインだ!」

 

 先生……結婚されていたんですね、スミマセン独身者だと思ってました。それと生徒同伴の実地訓練でお酒を飲むのはどうなんですか?

 チキンのクリーム煮は全員に振る舞われたが僕のナイトバーガーは女性陣に半分取られた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

  騒がしい昼食を終えて各自で休んでいると急に頬に冷たい風が……急速に山の下の方から霧が流れ込んでくる。

 

「ふむ、山の天気は変わりやすいんですよ。

湿った空気が上昇し露点に達して霧となるのです、水の粒が大きくなると雨になりますよ。

皆さん一雨来そうです、雨具の用意を……

不用意に森にはいると危険ですよ、霧に紛れてゴブリンが襲ってきます」

 

 森に入り枝振りの良い木の下で雨宿りしようと思ったが駄目だったのか……雨具は表面に防水処理(獣の脂を塗り込んだ)を施した外套が有るので素早く羽織る。

 僕なら錬金で土をドーム型にして中に入るのだが、普通の冒険者ならどうするのか興味が湧いた。

 

「簡易テントを設置しましょう。丁度良い大岩が有りますから風上を大岩にしますよ」

 

 流石は先生、マジックアイテムの収納袋から簡易テントの部材を取出し組み立てていく。

 どうやらパーティメンバー全員が入れるみたいだ。他の班の連中も引率の先生を中心にテントを組み立てている。

 粗方テントを組み立て終わった頃、強い風と共に大粒の雨が吹き付けてきた。

 

「さぁテントの中に…雨に濡れると体が冷えて体力を奪い衰弱します。

山の天気は変わりやすいので注意が必要です、雷雲にならなければ良いのですが……」

 

 大岩の陰を利用したとは言え地面は水浸しなので座る事が出来ず狭いテント内に身を寄せ合うしかないのが辛い。

 だがこんな経験も楽しいし役に立つ事も有るかも知れない。

 テントの隙間から森の方を見張っていると、木々の間に動く影が見える……その数は10以上確認出来る。

 

「先生……どうやら豪雨に乗じてゴブリンが襲ってきそうですよ。森の中で活発に動いてますがテントまでは50mくらいの距離が有りますね。

弓は射程外ですし……森から飛び出してきますかね?」

 

 確かに距離は有るが、他の班もテント内に居るので周りを注意して見張ってないかも知れない。

 少なくとも雨風の所為で視覚や聴覚で察知するのは厳しいし……

 

「ふむ、そうですね。

私達は教師を含めて18人居ますがゴブリンは倍居れば攻めてきますね。

どうしますか……」

 

 当然コレの対応も加点対象ですよね?二倍以上なら攻めてくるなら36匹以上なら危ないって事だ。多分だが僕がゴーレムで無双しても評価は上がらない、パーティとしての対応を見るのだろう。


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