古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第307話

 魔術師ギルド本部との話し合いだが、ジゼル嬢が恨まれ役を演じている様な運び方が気になる。

 確かに先方の交渉は金銭で抱き込み短期的には利益が出るかと思わせるが長期的に見れば元は十分回収出来る内容だ、此方を子供と甘く見たのか?

 

 だからジゼル嬢は話を打ち切り一旦持ち帰ると言った、理由も今夜のアウレール王主宰の舞踏会への参加準備だ。これに文句を言うのには相当の勇気が要る、国王より自分達を優先しろと強要するのだから……

 

「対価として金貨十万枚は凄いとは思うが宮廷魔術師の年間報酬の半分にも満たない、僕は金に興味は薄いのです。レジストストーンが一個金貨五百枚、装飾品に加工すれば倍の千枚ですから百個作って売れば良いので特に苦労は無い。

幸いセラス王女が優先的に購入してくれると約束してくれました、焦る必要は全く無いですね」

 

 追い討ちを仕掛ける、簡単に誘いに乗ると思われては駄目だ。苦労して引き込んだ相手だからこそ、助力を惜しまない。簡単に靡くならその程度の相手って事だ。

 この追撃にレニコーン殿の表情が僅かに変化した、リネージュさんは慌てている。

 

「ですが、実権も利益も確保するがギルドに貢献する義務は放棄するのは些か乱暴ではないですか?」

 

「あら?面子は保たれ王立錬金術研究所は順調に成果を出し利益を産む、更に魔術師ギルドにまで別件で貢献しろとは些か乱暴ではないでしょうか?」

 

 うわぁ、笑顔でバッサリ切ったよ。確かに言われた通りなんだよな、魔術師ギルドはギブアンドテイクだから一方的なギブな関係は敬遠される。

 リネージュさんとレニコーン殿は見詰め合った後に小さく笑った、想定外過ぎて壊れたか?それとも呆れて手を切るのか?

 

「分かりました、私達の負けです。その要求を飲みましょう、リーンハルト様には王立錬金術研究所の所長として自由に振る舞って下さい。成果品の販売については純利益の三割をお渡しします、私が副所長としてフォローします」

 

 この言葉に所長代理のバチダさんが反応した、降格か追放みたいな対応だし反発するよな。だがレニコーン殿が視線だけで黙らせてしまった、力関係は分かり易い。ギルド長の決定は絶対って事か……

 だが純利益の三割は難しいぞ、僕が作る場合は殆どが利益で必要経費は上級魔力石だけだ、金貨四百九十枚以上が純利益だからな。

 

「うーん、それは僕以外が錬金した製品で良いですか?あの程度のレジストストーンは魔力を満タンにした上級魔力石が一つ有れば作れるから殆どが利益、その七割を献上するならば自作は対象外ですよね?」

 

 この切り返しには一寸考えた、もっと経費や時間が掛かると思ったのか?いや、実際に目の前で作って見せたから手間が掛からないのは知っている筈だぞ。

 

「構いません、ですが我々でも魔力構成を教えて貰えば製作は可能なのかしら?」

 

 魔力構成の設計図が有れば多分作れるとは思うけど消費魔力は半端無いから一人だと三日で一個作れるからどうかだな、だから魔術師ギルドには金銭的な潤いは少ないかも知れない。

 

「可能だとは思いますが直ぐに完成品が作れるかは別問題だと思いますよ、そこは本人の資質と努力かな。コツを教える位は出来るけど暫くは試行錯誤でしょう、何日か練習して漸く製品としての基準に達するかどうかですよ」

 

 他の魔術師達では直ぐに成果は出せない事に難色を示したが、セラス王女への献上品は僕が作成するから問題無いと思ったのだろう。納得して条件の内容を書面に認(したた)める事になった。

 

 主な内容としては僕は『王立錬金術研究所』の所長としてセラス王女との交渉は一任され対応する、成果品の取り扱いについては毎回別途協議。

 魔術師ギルド本部の幹部となるがギルド職員としての義務や制約は免除、あくまでも『王立錬金術研究所』の仕事を優先的にする。

 

 王立錬金術研究所の構成は副所長としてリネージュさん、配下は一新して若手土属性魔術師を十人配置する、彼等は全員平民で貴族絡みの派閥とは無関係だ。

 これはつまり僕の為の配下の育成が建前だが、成果品の錬成を懇切丁寧に教えて量産させろって事だな。メンバーにロップスさんとミリアン、マックスも含まれているのが強かだ。

 給料向こう持ちで配下が増えて育成出来ると喜ぶべきか、紐付きと悲しむべきか微妙だが人員は追々増やせば良いから今は満足としよう。

 

 有意義な話し合いを終えると時間は既に昼を少し越えてしまったので、昼食をご馳走になって魔術師ギルド本部を出る。もう今夜の舞踏会の準備をしないと間に合わないので先に自分の屋敷へと送って貰う事にした。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ユリエル様の御息女をエスコートして王家主宰の舞踏会に初参加する、ハードルが高い。

 

 先ずは先方に迎えに行くのだが前準備で情報を集めた結果、ウェラー嬢は相当のお転婆で僕の事を良く思っていない。それは親の敵と思っていたマグネグロ殿を先に倒したから、目標を横取りされた位に思っているだろう。

 だが彼女は幼いが水属性と土属性を持つ優秀な魔術師だ、年下と甘く見れば足元を掬われる可能性が有る。ゴーレムを操り毒に特化した特性を持つ、僕の下位互換みたいな存在だ。

 

 簡単な昼食を終えて風呂に入り身嗜みを整える、午前中はイルメラ達とオペラでも見ようと思っていたが急な予定変更で中止になってしまったのが残念だ。

 だが今は地盤固めの大事な時期だから我慢だ、これを疎かにすると失脚させられる。このギスギスした緊張感が王宮内で生き残る事に必要な事なんだけど、だから貴族の柵(しがらみ)は嫌なんだ。

 

 ウェラー嬢を迎えに行く馬車は趣向を変えて自作の錬金した馬車と馬ゴーレムを使用する、土属性魔術師の最高峰としての見栄とデモンストレーションだ。

 未だ僕の力に半信半疑な連中に分かり易いレベルの高さを知らしめる為に、それとウェラー嬢に対する牽制の意味も有る。

 現役宮廷魔術師であるアンドレアル様の息子のフレイナル殿を魔法の的扱いするお転婆令嬢だ、僕に対しても何らかの悪戯を仕掛けて来ると確信している。絶対に何か仕掛けて来る。

 

 流石に御者はゴーレムでは不可能なので、タイラントに任せる。いくら自動制御が可能とはいえ細かい操作は誰かが見てないと出来ない。

 僕が馬車の中に居ては無理なので仕方無い、これが『リトルキングダム(視界の中の王国)』の欠点だ。僕が見えない場所では自動制御になるので細かい操作が出来ないんだ。

 敵を見付けて倒せとか簡単な命令は自立行動と組み合わせれば問題無いが御者として馬車を操る事には不安が有る、僕以外の人間に一時的に命令を聞かせる事は可能だ、命令権の譲渡はゴーレム操作の奥義に近いけど……

 

 午後四時半にユリエル様の屋敷に到着、少し歓談して六時に王宮に到着する様に時間に余裕を持たせた。道行く人々が完全錬金馬車と馬ゴーレムに気付いて騒ぎ出すが、僕の家紋を見付けると納得したみたいだ。

 

「リーンハルト様、ユリエル様のお屋敷前に到着致しました」

 

 馬車が止まりタイラントが声を掛けて来た、馬車の窓から顔を出すと警備兵が敬礼した後に門を開けてくれる、顔パスが可能な位に人相書きが広まっているのか?

 馬車は門から屋敷まで一直線の道を進み玄関前で横付けに停車する、石畳のアプローチが有り玄関へと通じている。

 馬車を降りると左右に整列していたメイド達が一斉に頭を下げる、執事らしき壮年の男から歓迎の言葉を貰いユリエル様とウェラー嬢が直ぐに出迎える旨を伝えられた。

 

 石畳に片足を軽く乗せた瞬間に僅かな魔力と違和感を感じる、目を凝らして周りを見れば石畳の下の地面に満遍なく魔力が浸透しているのが分かる。

 

 これって気付かずに石畳に乗ったら自重で泥沼化した大地に石畳ごと沈むぞ、王家主宰の舞踏会に行く前にエスコートを頼んだ相手を泥だらけにしようとは常識がブッ壊れた令嬢だな。

 気付けば後は簡単だ、石畳の下の土の部分には魔力を流し込んで制御しているが石畳自体には何もしていないので、僕は石畳に魔力を流し込み連結させて一枚岩の橋に作り替える。

 作業を終えると丁度ユリエル様とウェラー嬢が玄関先に現れた、手前で立ち止まって僕を待っている。

 

「わざわざ悪いな、リーンハルト殿。少し屋敷内で寛いでくれ」

 

「ようこそいらっしゃいました、リーンハルト様。どうぞ、中へ」

 

 満面の笑みで中に、つまり先に進めと催促するウェラー嬢。もし僕が罠に嵌まり泥だらけになったらどうするつもりだったんだ?大騒ぎじゃ済まない失態なんだが……

 

「お招き頂き有難う御座います、ユリエル様。初めまして、ウェラー様」

 

 にこやかに挨拶をしながら問題無く石畳の上を歩く、最初の一歩を乗せた時のウェラー嬢の顔はしてやったりだが、二歩目で疑いの顔に変わり三歩目で魔力の確認をしたが問題無く石畳の下は泥沼化している。

 そして僕が何かしたのに気付いたのだろう、睨んできたぞ。

 

「土属性魔術師の僕に仕掛けるなら空でも飛ばないと無理だよ、大地の上で僕に勝てるとは思わない事だ」

 

 言い含める様にウェラー嬢の目を見詰めながら諭す、指を鳴らして石畳に流した魔力を切ると泥沼化した大地に石畳がバラバラに沈んでいく。

 これにはユリエル様も周りの使用人達も顔面蒼白となる、招いた身分上位な相手を泥沼に沈めようとしたんだ。親しい相手なら笑い話で済ますかもしれない、だが最悪は敵対するだろう。流石はフレイナル殿を魔法の的にする娘さんだな。

 

「おい、ウェラー。お前また同じ悪戯をしたな」

 

 容赦無く拳骨を脳天に突き刺した、ゴッと鈍い音がしてウェラー嬢が頭を抱えて踞(うずくま)る。やり過ぎな悪戯は親が叱らなければならない、だが涙目ながら睨んで来るのは反省してない証拠だな。

 

「でもお父様、リーンハルト様は私の獲物を横取りしたのよ!」

 

 おお、前宮廷魔術師第二席だった『噴火』のマグネグロ殿を獲物扱いしたぞ。相当自分に自信が有るタイプだな、これは扱い辛い。

 

「横取りじゃない、お前ではマグネグロには勝てなかった。自分と相手の技量の差も分からないのか!」

 

 拳骨の二発目が突き刺さった、ユリエル様は親バカかと思ったが叱る時は叱れるんだな。僕もバルバドス様に殴られるから痛みは分かる、令嬢らしからぬ痛みで転げ回るウェラー嬢から視線を外す。

 

「済まなかったな、リーンハルト殿。我が娘ながら腕白で困るんだが……」

 

「それでも大切な愛娘なのですね。まぁ魔法で挑んで来るのならば受けて立つのが僕の生き方ですので、気にしないで大丈夫です」

 

 互いに競い合い切磋琢磨する事を是とする僕は彼女の挑戦を受けるだけだ、未だ荒削りだが大した魔力量と制御力だ。素直に年齢の割には優秀な魔術師だとは思うが……

 

「不意を突いての泥沼化だけど支配力は僕の方が上だね、まだまだ精進が足りないよ」

 

 僕の足元を泥沼化しようと魔力を浸透させるのは良いが、より強い魔力で侵食すれば制御は奪える。ウェラー嬢は踞り転げ回りながらも周囲の大地に魔力を浸透させていた、不意討ちも見事だが未だ甘い。

 

「全く紳士としてあるまじき対応ですわ、レディに対して酷すぎます!」

 

「淑女は痛みで転げ回らないよ。無色透明か、麻痺毒としては及第点だが秘匿性に重きをおいた故に即効性も無く威力が低いかな」

 

 僕の周囲に麻痺毒を錬金する容赦の無さと思い切りの良さは認めるが、威力が低いし即効性も無い。生死に関わる毒素は使わない常識が有った故なのかは分からないが未熟だな。

 散布された麻痺毒に錬金を掛け直して無害化する、更なる拳骨が脳天に突き刺さると捨て台詞を吐いて泣きながら走り去って行った。

 

「色々と済まない、でもウェラーの猛追を三度凌いだのは流石だな。俺でも最後の無色透明で無味無臭な麻痺毒は分からずに何度もやられているんだぞ」

 

「ふふふ、今後に期待かな。あの程度では僕には効きませんよ。伊達にサリアリス様と毒性学について語ってませんから」

 

 結局あの後ウェラー嬢は拗ねてしまい、王家主宰の舞踏会には参加しないと駄々を捏ねて部屋に籠ってしまった。この辺は未だ子供だな、思い通りにならないと拗ねるとか可愛いものだ。

 まぁ問題児をエスコートしなくて良くなったので、ユリエル様には気にしないでくれと言っておいた。気楽に一人で参加なら適当に切り上げて帰れるかな。

 


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