古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第306話

 魔術師ギルド本部でリネージュさんの提案を聞いた時は僕にメリットが殆ど無いので嫌だと思ったが、ジゼル嬢に組織的に後ろ楯が得られるのだから受けろと諭された。

 エムデン王国の数有るギルドの中でも冒険者ギルド本部と魔術師ギルド本部は最大手だ、この二つのギルドの後ろ楯は僕にとっても有効だと言われた。

 確かに土属性魔術師である僕が魔術師ギルド本部の幹部になれば、反発する他の魔術師達に対して幾らかは押さえ付けられる。対価を示せば見返りは大きいと言われたが幹部となり組織的にバックアップしてくれるのは魅力的だ。

 また最初から幹部にと言う事で向こうの本気さが分かる、幾ら宮廷魔術師第二席と言えども既得権や派閥順位の関係を考えても少々盛り過ぎな待遇らしい。

 

 成果を独り占めにしたいとか小さな事に拘ったが、大きな意味で見れば後ろ楯としては素晴らしい。

 

 他の大手ギルドだと盗賊ギルドや商人ギルド、鍛冶ギルドとか有るが、やはり冒険者ギルドと魔術師ギルドは別格だ。

 この二つのギルドの後ろ楯は僕の今後について重要な力になるだろう、だがどちらに対しても利益を供給し続ける事が出来るからこその待遇らしい。

 魔法迷宮でのレアドロップアイテムの収集に古代魔法知識の提供、確かに僕以外では無理だな。

 

「どうも僕は魔法絡みになると知識を独占したがる傾向が有る、反省が必要だ……」

 

 反省はしたが魔術師ギルドとしてはライティングの魔法よりレジストストーンの錬金方法の方が気になるのだろう、ジゼル嬢同伴で伺うのは少し恥ずかしいのだが仕方無いな。

 一人前となり宮廷魔術師第二席まで上り詰めても婚約者で本妻予定の彼女には頭が上がらない、周りからは完全に尻に敷かれていると思われている。

 

「まぁ事実だし甘んじて受け入れよう」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 本日は快晴、先日迄のぐずついた天気とは全く変わって青空が広がっている。前回の反省を鑑みて魔術師ギルド本部には朝一番で使いを送り訪問する旨を伝えてある、先方は既に条件を纏めているそうだ。

 

 結局昨夜はデオドラ男爵家に泊まった、対外的には通い婿扱いだ。早く貴族街に自分の屋敷を構えないと不味いかも知れない、何時までも自分の側室を相手の実家に住まわせるのは問題だ。

 だが屋敷の購入に際してはバルバドス師に一任している、催促は失礼に当たるから悩ましい。

 

 また昨晩はアーシャに負担を掛けてしまった、どうやら僕は匂いフェチで猿らしい。毎回彼女が気絶するまで攻めるって、そんなに欲求不満だったのか?自分では制御出来てると思っていたのでショックだ。

 だがアーシャ的には嬉しいそうなので一応安心した、彼女は僕が自分の身体に溺れているので幸せだと言ってくれた。早く僕との子供が欲しいとも……

 

 朝一番でデオドラ男爵家の馬車で魔術師ギルド本部へと向かう、同行者はジゼル嬢だけだ。昨日少し機嫌が悪かったのは最近呼ばれたお茶会でチクリと嫌味を言われたらしい、曰く『身分不相応な旦那様を持って羨ましい、どうやって口説いたのか教えて欲しい』だそうだ。

 言葉を濁したが本当はもっと辛辣な言葉だったのだろう、身分上位者の令嬢達から言われたので言い返せずにストレスが溜まっていたが、誰かに話して発散させる訳にもいかず悶々としていた。

 貴族の令嬢の全員が慎み深く優しいなんて幻想は抱いていない、僕の知る一番身分の高いメディア嬢やアルノルト子爵のグレース嬢もそうだが見た目で騙されては駄目だ。

 家臣にしたアシュタルやナナルも同じ、皆皮を被って本心を見せていない強かな連中だ。そう考えればアーシャは純真無垢だな。

 

 隣に座り気持ち身体を僕に預けているジゼル嬢の横顔を見る、貴族の正式な結婚は成人後だから予定を早める訳にはいかない。

 結婚前に同居や子供を作る事も貴族としては醜聞だ、それほど本妻とは重たい関係なんだ、特に僕は宮廷魔術師第二席で侯爵待遇だから余計にだ。

 試算したが結婚式に掛かる費用は金貨五万枚位になる、コレってセラス王女が『王立錬金術研究所』に投資した額と同じだぞ。

 

「どうかしましたか?私を見詰めてますが、何か有りますか?」

 

「いや、掛けた苦労に見合う恩を返してないと思ってさ。何時も有難う、本当に感謝しているよ」

 

 何時も怒らせるか困らせているジゼル嬢には大した事はしていない、デオドラ男爵家としては側室の娘を宮廷魔術師の本妻に送り込めれば見返りは大きい。

 

 だが、それは本人には関係が薄い事なんだ……

 

「私もリーンハルト様には感謝していますわ、今の立場なら私を本妻に迎える事はデメリットしか無いのに拘るのですから。女として凄く嬉しく思います」

 

 そう言って綺麗な笑みを浮かべてくれた、知り合って三ヶ月しか経ってないのに、最初は信用されず怖がられたのに……今は僕と結婚しても良いと思ってくれる、人の縁とは摩訶不思議だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔術師ギルド本部に到着した、今回は裏手に馬車を回して正面玄関から入って騒ぎにならない様に配慮する、まぁ本来は配慮して当たり前なのだが……

 既に到着の報告が行ったのだろう、リネージュさんと初めて見た壮年の男性が出迎えてくれた。

 

「リーンハルト様、わざわざ御足労頂き有難う御座います。それとジゼル様とは初めてお会いしますね、リネージュと申します」

 

 事前に二人で訪問すると教えていたので初顔合わせでも問題無く対応してくれた。

 

「急な訪問に対応頂き有難う御座います」

 

 にこやかな社交辞令から入る、立場はお願いされる僕の方が上だが偉そうに見下しても良い事は無い。明確に敵対するなら悪い態度でも仕方無いとは思う。

 

「いえいえ、急なお願いに直ぐに応えて頂けたのです。感謝に尽きません。彼はバチダ、王立錬金術研究所の所長代理です」

 

「バチダです、リーンハルト卿の武勇伝は私達の耳にも入っております」

 

 恭しく頭を下げたが所長代理って事は責任取って辞めさせられた連中には所長も含まれているのか。

 立ち話は一旦終えて応接室へと通される、先ずは持て成しの紅茶と季節のフルーツが出され歓談する、暫くすると魔術師ギルドの長であるレニコーン殿が応接室に入って来てリネージュさんの隣に座る。

 先ずは挨拶をして本題に入る前に世間話で互いに友好的な雰囲気作りをする、この腹芸は転生前の王族だった時に慣らされたのだがジゼル嬢は普通に場に溶け込んでいる、流石だなと素直に思う。

 

 話を切り出したのは先方からだった、レニコーン殿から話を振ってきた。

 

「リネージュから聞きましたし実際に錬金したレジストストーンも見させて頂きました、素晴らしいの一言しか有りませんでした。

是非とも私達に協力して頂きたいと考えています、勿論ですが対価については出来るだけ希望を叶えさせて頂きます」

 

 二人揃って頭を下げて来た、魔術師ギルド本部の上位二人の懇願に何と言えば良いのか悩む、本当に悩んだのでジゼル嬢に視線を送る。

 一瞬だけ目が合い微笑まれたが直ぐに真面目な顔に切り替えた、これからが本題って事で気持ちの切り替えをしたんだな。

 

「その件については僕も家族と話し合いました」

 

「リーンハルト様の今後に関わる重大な事ですから迂闊な応えは出来ない、そう悩んで私に相談してくれたのです」

 

 ああ、このやり取りだけで彼女達は僕とジゼル嬢の関係を見抜いたな、交渉成功の鍵は彼女だと……

 

 レニコーン殿達の視線がジゼル嬢に移る、本来なら未だ本妻と言えども予定であり旦那の将来には口出しは出来ない。男尊女卑が蔓延る貴族社会では女性の地位は総じて低い。

 だが僕は敢えてジゼル嬢を家族と呼んだ、これで彼女を見下すならば今回の話は蹴るつもりだった。

 

「私は反対しました、個人の成果を組織のモノにしたいなどと失礼過ぎる願いですわ」

 

「それは……ですが十分な対価を用意する準備が私達には有ります」

 

「そうです、一方的に成果を掠め取るつもりなど有りません。希望を言って頂ければ努力します」

 

 あれ?反対したのは僕だった筈だよね、何故ジゼル嬢になってるんだ?直球過ぎる言葉は彼女が泥を被る事になる、そんな必要は無いんだぞ。

 

「エルフ謹製のレジストストーンと同等のモノの錬金方法を教えろと言うのですよね?製法が分かれば量産して販売し利益を得る事が出来ますわ。

王都の魔術師ギルド本部はエルフ族と同じ物を作る事が出来る、名声も高まり王族からも一目置かれる。それで対価についてはリーンハルト様に希望を言わせるのですね?

私の旦那様は優しいので見合う対価を言えないのも考慮していますか?」

 

 希望を言わせるとは、そういう捉え方も有るのか。予定より低ければ問題無く、高ければ一旦持ち帰って相談し代案なら妥協案なりを模索する。

 

「此方に私達が提示出来る最大限の内容を纏めました」

 

 リストアップした内容が書かれた用紙をテーブルの上に置いた、最初から用意していたが出さなかったんだな、話の流れ次第で条件を提示する予定だったのか。

 リストアップされた内容を確認しているジゼル嬢に身体を寄せて盗み見る、一番上には幹部として迎え入れ、その報酬について書いて有る。

 年間報酬は金貨三千枚、だが労働対価が必要になるので権力と同時に拘束と義務も発生するので一見有利だが長い目で見れば先方が有利だ。

 後は金銭かマジックアイテムの譲渡、此方は王立錬金術研究所への協力が前提だから余り変わらない。金貨十万枚とか凄いと思うが面子を保ち尚且つレジストストーン等の技術提供するマジックアイテムが量産されれば回収可能だろう。

 マジックアイテムの譲渡には心引かれたが目録を見ると数は多い、だが入手は困難だが金と時間を掛ければ手に入る物ばかりだ。

 だが全て売っても金貨十万枚は越える、魔術師ギルドは今回の対価に金貨十万枚を交渉の最低ラインに設定したんだな。

 

「魅力を感じる提案は無いな、僕は魔術師だがら知的好奇心の方が強い。だけど金銭や珍しくもないマジックアイテムとか大量に貰ってもね」

 

 この一言に反応したのはリネージュさんだけでレニコーン殿は表情を変えなかった、宮廷魔術師になったとはいえ子供が金貨十万枚を提示されれば頷くと考えたか?

 本当は知的好奇心と保身の手段が欲しいんだ、協力関係を築きたいにしては自分達が有利な提案しかしてこない。未だ第一段階だが気が抜けないな。

 

「そうですわね、自分達の面子も保ち長い目で見れば利益まで見込める提案では乗れません。リーンハルト様、出直しましょう。

ハイゼルン砦攻略の後に改めてお話させて下さい、今夜は国王主宰の舞踏会に呼ばれているので準備が有りますので失礼させて頂きます」

 

 柔らかい笑みを浮かべているが台詞は凶悪だ、時間を掛ければ掛ける程、相手は不利な状況に追い込まれる。そして早く出ようと立ち上がる。

 

「お待ち下さい、未だ全ての条件を提示していません」

 

「少し性急過ぎませんか?落ち着いて下さい」

 

 慌てて引き留められる、だが彼女は座らず僕も立ち上がるタイミングを失った、どうするんだ?

 

「お互いに魅力を感じる提案が有るのなら、出し惜しみは無しでお願いしますわ」

 

 チクリと毒を吐いて座った、珍しく態度が悪い交渉を続けてるのは彼女の『人物鑑定』のスキルで相手の思考を読んでるからか?対人交渉の場だと凶悪だよな、考え事が筒抜けなんだから……

 無言の睨み合い、いや微笑み合いが続くが僕の精神が耐えられなくなった。

 

「此方の希望としては王立錬金術研究所の責任者の立場が欲しい、技術提供するのなら誰かの下に付くのは嫌だ。魔術師ギルドの幹部になると義務が発生する、利益よりも義務の方が多そうなんですよね」

 

 先ずは王立錬金術研究所に利益提供するならば、topの椅子を寄越せと言ってみる。じゃないと何もしない所長に成果が渡ってしまうので旨味が少ない。

 だがこの条件は飲んでくれそうだな、所長になれば責任も発生するから定期的な成果を出さなければ駄目だし、その成果が出せないから僕を引き込みたいと考えたのだから……

 


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