古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第303話

 

 バセット公爵とラデンブルグ侯爵との話し合いは終わった、バセット公爵からは騎兵を百騎預けて貰い、ラデンブルグ侯爵は現地での案内と情報の提供。

 二者共に大した貢献度は無いので全てが終わった後の利益分配の話し合いでも同様に発言力は低い、メインは一番最初に援軍の約束をしたローラン公爵とニーレンス公爵、それと情報操作で暗躍したザスキア公爵になる。

 悪いがバセット公爵は参加した事による名誉と幾ばくかの報奨で終わりだ、あとはエムデン王国からの報奨次第だな。

 割合としてはローラン公爵とニーレンス公爵が25%、僕とザスキア公爵が20%、バセット公爵とラデンブルグ侯爵が10%を分け合う感じだ。

 デオドラ男爵率いる後続部隊の報奨は僕の分から分ける事にする、参加した各自にもエムデン王国から報奨は有ると思うが最悪は自腹だな。だが対外的に立場を固める為には有効だし、結果を出せばアウレール王も無下にはしないだろう。

 打算的な関係だがバセット公爵とラデンブルグ侯爵との話し合いは終わった、後は……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ふむ、有意義な話し合いが出来たな。さて、リーンハルト殿?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 有意義か、ジゼル嬢からすれば甘い条件だって叱られるだろう。だが僕では此処が限界だ、敵対せず無理のない報酬で協力を取り付けたと思う。

 二人も安堵した表情だし、もう少し厳しい条件を付けられると思ったんだろうな、勝ち馬に乗るのと変わらない状況だし。

 

「親書にも書いたが我が娘を貰ってはくれぬか?親の贔屓目なしに美しく心が清らかな娘に育てたつもりだ」

 

 来たか、嬉しくない条件が!

 

 バセット公爵にすれば普通の貴族ならば公爵家と縁が出来る素晴らしい条件なんだろうな、僕の所属するバーナム伯爵の派閥とも敵対してないし……

 だがバセット公爵から娘を貰えば残りの公爵家からも同じ条件を飲まなければならない、ニールは未だギリギリセーフだ、彼女自身が没落した男爵家の娘だから拘束力が殆ど無い。

 ニールは僕の騎士として任ずる予定だから大丈夫、問題はバセット公爵の実子の場合だ。僕には未だ本妻は居ない、ジゼル嬢とバセット公爵の実子だと選ぶのは後者しかない。

 

「単純に嬉しく思いますが、僕は戦場に向かう身です。生きるか死ぬか分からぬ状況ではお受け出来ません、申し訳有りませんが会う事すら憚(はばか)られるでしょう」

 

なるべく真摯な表情で頭を下げる。結果を出した後なら断れるが今は厳しい、会って縁が出来ればゴリ押しも可能なのが公爵家だ。

 

「ふむ、真面目だな。だが生死を賭ける程の危うい状況ならば、此方も考えを改めねばなるまい」

 

「無謀な賭けに協力は出来ないですな」

 

 揺さぶりを掛けて来たか……弱気に取られて協力を断られた場合、僕のメリットとデメリットは何だ?

 

 メリットは単純に分け前が増える、居ても居なくても変わらない連中だし。

 

 デメリットはバセット公爵が非協力的になる、中立か最悪は敵対。だが同盟を組んでいるニーレンス公爵に仲裁は頼める、対価はデカイが不可能ではない。

 

 余り返事を待たせるのも良く無いな、だが結論は既に決めて来ている。

 

「覚悟の問題です。戦争に100%は無い、勝てる手立ては有りますが油断や慢心は戦場では最も忌避する事です。

弱気と取られたなら断って下さい、勝てるならば援軍を寄越すとお考えならば攻略後に合流でも構いません」

 

 強気過ぎるとは思うが、公爵四家と平等に仲良く付き合えるなんて思ってない。いずれ破綻するならば先か後かの問題だ、バセット公爵の娘を本妻にするにはデメリットが多い。

 二人共に表情が固まったな、まさか断ると思わなかったのか?格下の身分下位者なら何とかなると考えたなら縁切りだ。他の公爵家と縁を強めれば対抗出来る、未だ想定内だから大丈夫。

 

 チラリとハンナを見る、目が合うと頷きバセット公爵に何か耳打ちした。驚いた表情を浮かべてから信じられないモノを見る目を僕に向けたが何かを納得したみたいだ。

 

「ハンナ曰くリーンハルト殿には貴族の常識は通用しないそうだな、自身が廃嫡し平民になると思っていた頃から尽くしてくれたジゼル嬢を捨てられぬか。

僅か三ヶ月前は廃嫡し平民になると思ったのに新貴族男爵位となり宮廷魔術師第二席に上り詰めたのだ、貴族の常識は通用せず義理を重んじるとはな……

悪かった、謝罪しよう。娘の件は白紙撤回するぞ」

 

「義理と人情、恩には恩をか……若いな、若過ぎるが実際に未成年だったな。困ったぞ、若さ故の特権だが本当に年齢と実績がアンバランス過ぎる」

 

 微妙な評価を貰ったが、ハンナの気転に感謝しよう。バセット公爵の娘を貰えば、もれなく他の公爵家からも押し付けられて身動きが取れなくなっただろう。

 今は宮廷魔術師第二席とはいえ、内輪で戦った結果でしかない。対外的な評価は無いに等しいので、ハイゼルン砦の攻略は願ったり叶ったりだな。

 そうか、その意味ではバニシード公爵とビアレス殿には感謝が必要だ。感謝はするが叩き潰すつもりで相手になろう。

 

「ご理解有難う御座います。ああ、そうだった。実は自分の祖父がバセット公爵の派閥に属してまして……」

 

 感謝の言葉の後に強引に話題を変えた事に少し驚いたみたいだ。

 

「バーレイ男爵本家だな。一応調べはしたが、何か配慮した方が良いのか?血の繋がりの有る祖父なのだろう?」

 

 直ぐに名前が出るとなれば一通りは調べられているな、だが僕との関係性は分からないだろう。僕だって疎遠だったのが、今日久し振りに会ったのだからな。

 

「いえ、先程父上の屋敷で久し振りに会ったのですが、僕はバーレイ男爵分家から廃嫡される身です。本家筋とは縁が切れますから、お祖父様に過分な配慮をされても嬉しいとは思いません」

 

 彼等を配慮したから恩を感じろは無理だと教えておく、窮地に陥っているので与し易いと彼等を援助しても僕は恩を感じないし逆に迷惑だぞ、と……

 

「ふむ、そうか。奴は孫が大出世したと吹聴していたがな、実際は縁が薄いのか」

 

「実の息子とは疎遠なのに、その孫と親密だとか無理が有るだろうな」

 

 僕に聞かせる様に説明口調だったが、お祖父様は大分僕と縁が有ると吹聴してるんだな。だがバセット公爵とラデンブルグ侯爵には釘を刺せた、配下の連中にも伝わるだろう。

 

「そうですね、僕は自分の家を興したのでそちらを大切にします。此れから色々と大変ですが頑張ります」

 

 あはははって長閑に笑い合って話を纏めたのだが、ハンナの腹黒ですね視線に胃が痛くなる。仕方無いだろう、これも根回しなんだから!

 

「しかし我が娘は純粋にリーンハルト殿と会える事を楽しみにしていたのだが困ったな。ふむ、そうだ!明日の王家主宰の舞踏会だが参加するのだろう?」

 

「はい、先輩宮廷魔術師であるユリエル様の御息女をエスコートします。あのユリエル様の溺愛する愛娘と聞いていますが、完全に悪い奴を近付けさせない虫除け扱いです」

 

 あはははって渇いた笑いで実状を伝えた、ユリエル様には僕に嫁がせて親戚付き合いをしたいなんて打算は一割以下で、本当に虫除けに最適と思っているんだ。

 浮わついた気持ちで接したり感じられたら大変な事になる、それは理解して貰いたい。

 

「ああ、ヤンチャで腕白だったウェラー嬢も今年で十二歳だったな」

 

「周りも巻き込む『台風』殿が溺愛する『土石流』の噂は知っている、彼女のお世話は大変だぞ。まぁ頑張ってくれ」

 

 ふむ、ヤンチャな姫様だとは思っていたが実際に周りに迷惑を掛け捲りか?流石は『台風』の後継者だな。

 バセット公爵の娘の件は何とか有耶無耶にする事が出来た、最後は和やかに笑いながら帰れたので良しとしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ハンナ、ご苦労。今後もリーンハルト殿に尽くして信頼を得るのだ、下がって良いぞ」

 

「はい、有難う御座います」

 

 あの少年魔術師との会合を設けた労をねぎらい今後も頑張る様に言い含めてハンナを帰した、未だ短い期間だがそれなりに信用されているみたいだな。

 ハンナを下げてから、ラデンブルグ侯爵と今後の話を進める事にする。

 

「青いですな、たかが男爵の側室の娘に拘るとは。魔術師としては大したモノだが交渉事は苦手なのだろう」

 

「最初から決めていたのだ、だから揺さぶりを掛けた後に直ぐに反発した。臨機応変に交渉する術は無いのだろう。そこに付け入る隙が有る、所詮は子供だよ」

 

 奴にとっては我々の援軍は必要ないのだ、ニーレンス公爵も言葉を濁していたが奴一人でハイゼルン砦を落とせる手段が有るのだ。

 だから援軍要請は敵か味方か決めさせる踏み絵に過ぎない、そして政略結婚を嫌う噂は本当とはな。

 

「若い故の潔癖さと純真さなのか、確かにアンバランスだがムカついたのも事実だ。我々が正面から否定されるのは珍しい、しかも格下にだ」

 

「やんわりと、でしたな。だがもしハイゼルン砦を単独で落としたならば奴の発言力は高くなる、実績を積むには最適だな。

バニシードの馬鹿めが、わざわざ敵に塩を送る様な事をしやがって……」

 

 今回は向こうの思惑に乗ってやろう。だがこの次が問題だ、奴はハイゼルン砦の攻略が成功すれば宮廷魔術師第二席の役職も合わせて王宮内での発言力が増す。

 しかもリズリット王妃とミュレージュ王子、セラス王女と交流が有る。そして所属する派閥は超脳筋戦闘集団だ、旧コトプス帝国やウルム王国との戦争で確実に手柄を掴む。

 あの戦争馬鹿達は身分が低いから何とかあしらっていたが、奴が所属した事により状況が変わった。政治力を付け始めている。

 

「前にオークの異常繁殖の時に、詳細を詳しく知りたくてレディセンス殿の配下を金で買収したのだが……

単独でトロール三体を瞬殺したそうだ、勿論ツインドラゴンを倒せる程の使い手だが100m以上離れた場所にもゴーレム複数体を召喚し制御出来るのだ」

 

「つまり外部からハイゼルン砦の中にゴーレムを複数体召喚して戦えるのか、自分の周りには騎兵が四百騎で守りを固めている。

仮に敵がハイゼルン砦から出て来ても負けないだろう、参ったな」

 

 ローラン公爵とニーレンス公爵が我先にと協力を申し出た秘密の一部が分かった、勝てるならば最精鋭部隊を送り込んで発言力を高めるつもりか……

 

「出遅れた。三番目、いや四番目では大して恩も感じぬか」

 

 ザスキアの女狐が猛アタックをしているのは焦りによるモノか?あの年下好きの好色女に靡かれても面白くないな。さて、どうするか?

 

「だが使える小者も居るな、バーレイ男爵本家か。確か傾いているのだな、多少の援助をして確保しておくか」

 

「あとアルノルト子爵だな、アレは典型的な破滅型貴族だ。使い捨てには良さそうだぞ」

 

「周りの小者に足を引っ張られるか、それも一興だな」

 

 打とうと思った二つの杭の片方は太く長い丸太だった、今手を出すと此方の被害も大きい。幸い大して調べもせずに食い付いた馬鹿のお陰で何とかなりそうだ。

 

「そしてバニシードの馬鹿が失脚するな、この機会を最大限に利用させて貰おう。公爵五家の一つが無くなるかも知れん、これは面白いな」

 

「それと今回の遠征だが少し仕掛けてみようと思う、奴等の略奪部隊に偽の情報を掴ませてリーンハルト殿達とわざとニアミスさせる。

各公爵から団体行動を乱すなと言われているらしいが、やはり精鋭達ならば家の為にも手柄を欲するだろ?」

 

 なる程な、悪くない手だな。派遣される連中は騎兵故に攻城戦では無理はするなと言われているが、平地での遭遇戦ならどうだ?

 我先にと突っ込んで手柄を独り占めにするだろう、未だ未成年のリーンハルト殿は彼等を御せるとは思えない。

 

「確かにハイゼルン砦は落とせるかも知れないが、奴の指揮能力に疑問を持たせられる。また公爵四家の不和にも発展するから相当悩むだろう、重圧に耐えられるか見物だな」

 

 互いに見つめ合い黒い笑みを浮かべる、これで奴とニーレンス公爵達との仲に亀裂が生じれば面白い。四番目の俺達との関係にも変化が有れば上手く立ち回って更なる協力を取り付ける。

 若い宮廷魔術師殿では我らの相手は未だ務まらぬぞ。

 


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