古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第30話

 冒険者養成学校に通い始めて三日目、初めての実地訓練の日だ。最初の二日間は座学だけで色々な事を教えて貰った……

 我が国エムデン王国と周辺国家との関係、エムデン王国の貴族の派閥について。

 エムデン王国の歴史とか余り冒険者には関係の無い話も多かったが、僕は300年のギャップを埋めたかったので非常に興味深かった。

 最後に担当教師から真面目に全ての話を聞いてくれた生徒は初めてだと感謝された位だし……

 最初の実地訓練は全員同じ課題を教師側が割り振ったパーティにて行う『ゴブリン討伐&薬草採取』だ。

 最初から五回目までは教師陣が班編成と依頼内容を決めて六回目以降は自分達でパーティを編成し依頼を請ける事になる。

 Fランクの新米冒険者に任せられる依頼なんて討伐コースはゴブリンのみで、素材採取コースは近場に群生する数種類の薬草しか無い。

 なのでドチラかを達成出来ればOKの初回限定のサービス依頼だ。しかも学校側から教師陣が同行するので更に安心だ。

 この冒険者養成学校は授業で依頼を請ける事が出来る。大抵は二ヶ月間で依頼を10件こなしEランクへ、六ヶ月から八ヶ月くらいで依頼を20件こなしてDランクへと昇進するらしい。

 DランクからCランクに上がるのが新米冒険者から一流冒険者への最初の壁だ。Dランクになれば冒険者養成学校へと通う意味も無いので各自の判断で卒業となる。

 逆にDランクになれなくても一年間ミッチリと通い、出された課題を達成出来なくても卒業時にはDランクが与えられる。

 まぁ冒険者ギルドとしてもDランクまでは一年間頑張ったならあげても良いと思ってるのだろう。

 本当に必要な連中はランクC以上の連中なのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めての実地訓練、初めて武器を持ち実戦をする子達も多いみたいだ。先生方は僕等を五人一組で十組の編成とし、実戦経験者を必ず一人以上は組み込んだ。

 僕とウィンディアの班は僕等以外は実戦未経験者が集まっている、当然だが面倒を見てくれって事だ。

 只でさえ魔術師なのだから戦力の均等化を考えれば仕方ないと割り切る。実際に僕は戦い方を学ぶのではなく冒険者の基礎を学びに来たのだから……

 

「はーい、班に分かれたら自己紹介の後でリーダーを決めて下さい。持ち時間は一人30秒、リーダーを決めるのを含めて五分後に出発します」

 

 入学式に使った大広間で班分けを行い輪になって自己紹介、そして話し合いでリーダーを決める流れだな、制限時間を決めるのは良い手だと思う。

 僕の班には他に男女二人ずつの計五人、自己申告は全員が自己鍛練はしていても実戦未経験者だと先生が教えてくれた。

 でも女性二人は素人だとは思えない感じがするのだが……何故か全員の視線が集まるので最初に自己紹介をする。

 

「リーンハルトです、14歳で迷宮探索コース。既にバンク二階層まで攻略中、見た通り魔術師です。属性は土でゴーレム使い」

 

 言い終わり右側の奴を見る。

 

「ぼっ、僕ですか?僕はスィーって言います、討伐コースで15歳です」

 

 癖の有る金髪に華奢な体つきで気弱な性格、武器は腰のショートソードで皮の服を着ている。

 体型は弟のインゴとは対照的で華奢な感じだが戦士系で本当に大丈夫なのか?

 

「私はベルベット、素材採取コースだけど盗賊志望の14歳です」

 

 この子の方が余程戦士系だぞ、革で統一された鎧に手袋にブーツ。腰には二本のダガーを吊し背中にショートボゥを背負っている。

 長い金髪を頭の天辺辺りで結わいて後ろに流している、野性的な美少女かな。

 動きも機敏で悪くない、仲間候補の一番目とする。

 

「私はギルテック、ギルって呼んで下さい。素材採取コースですが手先が器用なので盗賊系に進む予定の14歳です」

 

 彼女も盗賊系なのか……此方は明るい金髪ショートボブにした大きな目をした可愛い系だ。

 最初の子と全く同じ装備だが、手に持つ武器はショートスピア。何となくだが二人は繋がりが有りそうだが、仲間候補の二番目とする。

 

「俺はゼクス、両親も冒険者だ!勿論だが討伐コースの16歳、得意な武器はコレだぜ」

 

 最後の男はそれなりに鍛えられた体をして誇らしげに抜き身のロングソードを天に突き立てている。

 両親が冒険者と言ったが本人は実戦未経験者なんだよね?

 戦士系二人、素材採取系二人、魔術師と僕等の班はバランスの取れたパーティなのかな?

 

「それでリーダーは誰にするんだ?」

 

 最後の彼が質問してきたが俺がやりたいオーラがヒシヒシと伝わってくるんだけど、何故か睨まれてるし……

 

「リーンハルト君に一票」

 

「実戦経験者のリーンハルト君でお願い」

 

 女性陣から立て続けに二票入りました、そしてゼクスの右眉がピクリと跳ね上がる。

 

「魔術師ならリーダーに最適だよね」

 

 はい、最初の虚弱な彼も一票入れてくれました、そしてゼクスの眉間に皺が寄りました。

 

「む、ならばリーダーに立候補するよ。良いよね?」

 

 三人から推薦されたら断る方が不自然だと思いリーダー役を受ける事にする。

 

「何故、俺を見るんだ?他の三人が良いなら俺も賛成だぞ!」

 

 不満そうだから確認したのだが多数決で決まったなら良いらしい、感情をストレートに表すだけで悪い奴じゃないのだろうか?

 

「自己紹介は済んだかな?リーダーは決まったかい?

君達の引率役のクラークだよ、冒険者ギルドの職員だけどランクはCだよ、宜しく」

 

 担当教師は50歳前後と思われる少しお腹の膨らみを気にするお年頃の人の良さそうな中年男性だ。

 ハーフプレートメイルを着込みロングソードとスピアで武装しているが、この年でランクCとは一流には成れなかったんだな……

 

「「「「「宜しくお願いします」」」」」

 

 心の中で失礼な事を考えていたが全員揃って挨拶をする。

 

「はい、それでリーダーは誰だい?」

 

 右手を顔の位置まで上げる、元気良く挙手も自分がリーダーですと喋るのも何か嫌だった……

 

「そうか、リーンハルト君か。現役バンク攻略中の魔術師の君なら適役だね。では出発するよ、王都の周辺でも城壁を出れば野生のモンスターも生息している。

その中でゴブリンは定期的に騎士団が巣を討伐するが絶滅はしないんだ。現在ギルドが確認して定期的に討伐依頼を出してる場所に向かうよ」

 

 迷宮内にポップするモンスターと違い繁殖により増える自然発生型のゴブリンか……

 一対一なら武装した一般人でも勝てるゴブリンだが、迷宮内は最大六匹でも此方は群れで襲ってくるらしい。

 ボスを中心に大抵は30匹前後らしいが中には100匹を超える群れも有り集団で村を襲う事も有る。

 襲われた村は悲惨だ、生き物は全て食料に変わり根こそぎ持ち去られるらしい……

 

「はい、此処からは王都を出ます。皆さん守衛にギルドカードを見せて下さい」

 

 ゴブリンについて色々聞いていたら何時の間にか城門に到着していた、外に出るのは初めてだな。

 言われた通りに受付カウンターみたいな所に並び中の兵士にギルドカードを渡す。

 

「初めての討伐か、頑張れよ」

 

 どうやら冒険者養成学校の初実地訓練は恒例行事らしく励ましの言葉を頂いた……

 それにしてもエムデン王国の王都だけあり城壁は巨石を組み合わせた造りとなっており高さは10m以上は有りそうだ。

 所々に矢倉が有り兵士が警戒しているし、城門の外には幅が10mくらいの堀もあって跳ね橋が掛かっている。

 当然だが堀は水をなみなみと湛えているし……流石は近年に大戦を経験し今も周辺諸国と緊張状態な関係の事は有るな、防衛力は万全だろう。

 

「はーい、全員居ますか?

今日は王都から一番近いゴブリンの繁殖場所で有るレゾ高原に向かいます。レゾ高原は同時に薬草の群生地としても有名です。

今は四月で春先ですから、解毒効果の有るゴボウとポーションの原料となる……」

 

 移動中もクラーク先生が今から行くレゾ高原に群生する薬草や生息するゴブリンについての事を教えてくれる。

 特にゴブリンだが自然発生種は迷宮にポップする連中と違い人間に対して罠を仕掛けてくるそうだ。

 奇襲は当たり前、中には少数で襲い逃げて仲間の所へ誘導する事も有るらしい。

 駆け出し冒険者はゴブリン討伐で生計を立てる連中が多いが駆け出し故に被害も多い。

 奴等に負ければ、そのまま食料に成り下がるんだ。

 駆け出し冒険者が50人もゾロゾロと歩く姿は周りからも生暖かい目で見られてしまうが当然だ、素人の集団なのだから。

 歩き始めて二時間、すっかり周りは自然豊かな景色へと変わりレゾ高原と言うだけあり山登りに体が疲れたところで休憩の指示が出た。

 勿論、パーティ単位での休憩だ。

 

「はい、30分休憩。

休憩と言っても周りはモンスターの縄張りだから注意が必要だよ、全員が休憩せずに交代で見張りを立てるのが常識だ。

レゾ高原一帯で比較的安全な水場は此処だけだから覚えておくように! それと此処は湧水が出てるから休憩所として使われるけど水を飲むのは人間だけじゃない。

モンスター以外にも野生の動物も時として脅威だ、特に子育て中の熊や猪は……」

 

 こういうマイナー情報が欲しくて冒険者養成学校に来ているので助かる。

 水は空間創造の中に3000食分有るが、僕が負傷したり意識が無い場合は取出し不可だから場所を覚えていて損は無い。

 配られた地図に場所を書き込んでおく……

 

「じゃ、リーダー権限で10分交代で三人が見張りをするよ。僕が最初で次がゼクス、最後はスィーで良いかな?」

 

 最初は男三人で交代とする、スィーを最後にしたのは今直ぐ休憩が必要そうだから……

 そういえば僕は三羽烏の奴から奪ったマジックアイテムの収納袋をダミーで腰に付けてるけど他の皆はそれなりの鞄や袋を持っているな。

 

「異存はないが貴族様だからって女ばかり優遇するのはどうかと思うぞ」

 

 ゼクスの表情は不満そうだが批判的な感じはしないな……彼は思った事は特に考えずに口にするタイプか?

 

「最初なんだから見栄を張ろうよ、男だろ?」

 

 少し笑いながら言ったら目を逸らされた……えーと、アレだツンデレ?女性陣は笑ってくれたがスィーは仰向けに大の字になっているが大丈夫か?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ゼクス、交代だ」

 

「ん、分かった……周囲を見回していれば良いんだな」

 

 周辺には50人からの連中が見張りを立ててるから必要性は限り無く低い。油断を見越して攻めてくるモンスターも居ないだろうし……

 何と無く皆の近くに腰を下ろすと、水の入った木の椀が差し出された。

 

「はい、冷たいよ」

 

「ああ、有り難う。えっと、君はギルテックさん?」

 

 差し出された木椀を受け取り一口含んでみるが確かに湧水は冷たく美味しかった、軽く汗をかいていたので直ぐに木椀を空にする。

 

「ギルで良いって言ったよね?ギルテックって男みたいな名前だから嫌なのよ」

 

 律儀に飲み終わるのを待ってから話し掛けてくれたが、ギルも大変男らしい名前じゃないか?

 

「む、(親しくない)女性を呼び捨てには出来ないのでギルさんって呼ぶよ」

 

 余り馴れ馴れしく呼ぶのも考えものだから妥協案を提示する、そういえば女性を呼び捨てで名前を呼ぶのはイルメラだけだな。

 自分に仕えるメイドだから当たり前なのだが、そんな事を考えてしまった。

 

「リーンハルト君、ポーラお姉様の言っていた感じと違うね」

 

「そうそう、私達も含めて四人はね。盗賊ギルドからリーンハルト君に選ばれたいから来たんだよ。

若くて可愛い女の子、同い年くらいでレベルは低くても素質が有れば良いからって……

条件外で悔しい思いをした子も多いんだよ」

 

 ベルベット嬢が不思議な事を教えてくれたが、そんな条件は付けた覚えが無いぞ。

 

「誤解が多分に有るから言うけど、僕は同い年くらいで素質が有ればレベルは低くても構わないって言ったよ。

三人パーティを考えているからパーティメンバーのイルメラの事を考えての女性メンバーは分かるが、可愛い女の子とは言ってない。そもそも性別を条件に付けてないよ」

 

 ポーラさん、絶対に僕で遊ぶ気だな……若くて可愛い女の子なんて一言も言ってないのに……

 

「「え?」」

 

 何故か二人が固まったぞ……

 


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