古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第3話

 熱をだして寝込んでしまったので酷くイルメラに心配された。

 僕の新しい名前はリーンハルト・フォン・バーレイ、新貴族ディルク・フォン・バーレイ男爵の長男だ。

 しかし母上が平民出の側室の為に貴族的観点から言えば弟のインゴの方が跡継ぎとして相応しい。何故なら彼の母上はアルノルト子爵の次女エルナ嬢で血筋としては問題ないからだ。

 父上は大恋愛の上で結ばれた母上に対しての思いから僕を跡継ぎにと考えているらしい、これは使い魔のスカラベ・サクレの記録でも母上が息を引き取る際に約束している。

 母上が僕を跡継ぎにしたいと言った訳ではないが、必ず立派に育ててバーレイ家を継がせる的な事を父上が言っていた。

 父上は母上がアルノルト子爵派に毒殺されたと思っている節があり、スカラベ・サクレの記録でもその通りだった。

 エルナ嬢には実家から連れてきた数人の従者がいるが、その一人が実行犯であり母上を毒殺後に僕も暗殺しようとしたが僕を守るように命令されていたスカラベ・サクレにより返り討ちになった。

 その死因は先王の毒殺と同じ症状だったが同一犯として結びつける奴は居なかった、時期的にも離れているし先王の死の詳細は公表されてないからだ。

 僕を暗殺しようとした奴は全身の毛穴から血を吹き出して狂い死んだ。

 ドラゴン種をも殺す毒を人間程度が受けてしまえば当たり前の結果だ……。

 その暗殺者の死はアルノルト子爵側にて隠蔽されたが、僕に姿を現さない守護者が居る事を知った連中は表立っての暗殺を諦めたみたいだ。

 

「父上の想い、母上の無念を晴らす為には僕がバーレイ家を継ぐ事が一番だろう。

だが、僕が家を継いでも未来は無いのが現実だ。血筋に煩い貴族社会では平民出の側室が産んだ子が生き残れる程甘くない。絶対にアルノルト子爵家辺りがチョッカイをかけてくるだろうな」

 

 因みに自分の呼称を我から僕に替えた、14歳の子供が我だと変だからだ。

 フカフカのベッドで寝返りを打ちうつ伏せになって考える。

 因みに僕は14歳だ、当初は10歳前後で覚醒と思ったが予想よりも時間が掛かってしまった。

 理由は分からないが転生の術自体が初めてだったり魂の一部をスカラベ・サクレに移したりしたのが原因だろうか?

 貴族の15歳は特別な意味を持つ。

 それは正式に跡継ぎとして貴族院に申請する事が出来て、一人前と認められる年齢だからだ。

 因みに廃嫡や相続放棄等は15歳以下でも貴族院に申請し受理されれば問題無い、その辺に貴族社会の闇が窺えるんだ。

 15歳まで生き残れば相続の権利を得られるが、その前では何時でも脱落させられる。

 

「相続を放棄するしかないな、この家を出て平民として暮らそう。

どの道魔術師として生計を立てていく心算(つもり)だったし、第二の人生でも権力争いはしたくない。あんな思いは一度だけで良い」

 

 貴族院への申請は直ぐにでも受理されるだろう、僕が廃嫡されるのは貴族ならば誰でも当たり前と願う事だから……

 問題は父上とイルメラの説得だ。彼らは亡き母上との約束と思いから僕を次期バーレイ当主にしたがってる。

 故人への思いは本人達にしか分からないが強いモノが有るのだろう。だが、ソレを故人が望んでいるかは別問題なのだが……思い込んだら命懸けみたいなモノかな。

 

「僕に魔術師の才能が有る事は誰も知らないし、知られてない。仮初の僕は大人しい性格だが騎士をしている父上を見習い、武術の腕はソコソコ有る。逆に弟のインゴは出来が悪い。

出来が悪いから血筋は悪いが出来の良い長男の僕が生かされていた訳だ、誰だって上司は無能より有能が良い」

 

 だが性格は悪くなく、内向的で物覚えが悪いが決して嫌な性格ではないのだ。それは正妻であるエルナ嬢も同じだ。

 彼女は12歳で母上を亡くした僕を本気で心配してくれた、深窓の令嬢は従者が毒殺した事は知らないのだろう。本当に善意で僕を心配し慰めてくれた。

 当時12歳の泣いていた僕を抱き締めてくれたんだ、彼女だって色々と思う所が有るだろうが母上を亡くして寂しかった僕はそれで救われた記憶が有る。

 

「だがバーレイ家の相続については、彼女も我が子を跡継ぎにしたいだろうな……」

 

 現当主と正妻が表立って反対しないから僕が生き延びていたんだな。だが、それも来年僕が15歳になったらどうなるかは分からない。

 やはり早く家を出よう。魔術師として冒険者となり第二の人生を生きていこう。

 

「先ずは現在の僕の魔術師としての能力だが……肉体に依存しているからな、鍛えてレベルを上げねば全盛時の魔力は扱えぬだろう……クリエイトゴーレム」

 

 僕の得意な魔術は水と土、土は錬金術に通じ色々なゴーレムを作り出す事が出来た。

 全盛時は全金属製のゴーレム兵士を1000体同時に展開し操作できたのだが……今の僕ならゴーレムを……

 

 僕は全盛時の全金属製ゴーレムを三体造った時点で魔力切れを起こして昏倒した。

 気を失った僕と部屋に鎮座する全金属製のゴーレムを見付けたイルメラが悲鳴を上げた事により、僕が魔術師である事がバレてしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「説明してもらおうか、リーンハルトよ。俺はお前が魔法を使えるとは聞いてないぞ」

 

「そうです、リーンハルト様。イルメラは、イルメラは倒れていたリーンハルト様を見付けた時は心臓が止まるかと思いました!」

 

 父上は相当怒っておりイルメラは瞳に涙を溜めて両手を祈るようにしている。

 他にもエルナ嬢とインゴも僕の寝室に詰め掛けて一寸した家族会議となってしまった。

 記憶でない実物の父上やエルナ嬢、弟のインゴをリアルで見るのは初めてだ。

 父上は働き盛りの30代後半、流石は騎士団の副団長だけあり鍛え抜かれた肉体をもったダンディだ、エルナ嬢は15歳で嫁いだのでギリギリ20代のオットリ美女、弟のインゴは13歳で一寸ポッチャリだが痩せれば多分美少年。

 イルメラは今年18歳になった筈だが童顔なので15歳くらいに見える。可愛い系だが胸は残念だ。

 

「父上、エルナ様……僕が魔術を扱える事を秘密にしていたのは、バーレイ家の今後の為です」

 

 もう誤魔化す必要も無いので覚醒して二日目と早いが、相続放棄と今後の事について相談する事にする。

 エルナ嬢の取り巻き連中や実家のアルノルト子爵家が出てくる前に基本方針を決めてしまおう。

 

「我がバーレイ家の今後だと? 来年15歳になればリーンハルトよ、お前が相続するのだぞ」

 

 父上の言葉にエルナ嬢が僅かに顔を顰めたが反対する事はなかった、やはりエルナ嬢は優し過ぎるな。 

 貴女の取り巻きや実家から僕を廃嫡するように言われているだろうに。

 皆が僕に注目しているのが分かる。多分だがイルメラは僕が相続放棄する事を薄々感じているのだろう。握り締めた両手が真っ白だ。

 

「父上、僕はバーレイ男爵家を相続する事を放棄します。血筋から言えば弟であるインゴが相続するのが正当です。

僕は、僕の母上は側室で平民出ですからバーレイ男爵家を継ぐ事は不利益でしかない。

父上、バーレイ男爵家の未来の為に僕を廃嫡すると貴族院に申請して下さい」

 

「馬鹿者が!お前は我がバーレイ男爵家の長男なのだぞ!何故そんな悲しい事を言うのだ?それに今はお前が魔法を使える事に対して質問しているのだ、断じて相続の件では無い!」

 

 仮初の父上とは言え、僕は本物の愛情を感じている……だからこそ僕がバーレイ男爵家を継ぐ事は出来ない。

 

「有難う御座います、父上。

その気持ちだけで十分です。まだ子供とは言え貴族社会で生きていたのですから柵(しがらみ)についても十分に理解しています。

僕がバーレイ男爵家を継げばエルナ様の実家が、アルノルト子爵家が黙ってないでしょう。それは当然の事ですから僕としても異論は有りません」

 

 父上の目を真っ直ぐに見て決意を露(あらわ)にする。

 

 見詰め合う事1分位だろうか、最初に目を逸らしたのは父上からだった。

 

 エルナ嬢とイルメラは泣いているしインゴは何故こんな状況なのか分からないのか、ポカンとしている……

 インゴよ、弟よ。君にバーレイ男爵家を継がせる事が果たして良い事なのか疑問に思ってしまうよ。

 自分の身の安全と自由に生きたい為に相続を放棄するのだが、家臣団から見たら血筋は悪くとも有能な者が相続した方が良いって考える奴もいるかもしれないな。

 自分の将来について重大な話し合いがなされている中で、全く我関せずとポカンとしている弟を見て自分が凄い自分勝手な奴かもしれないと思い始めてしまった。

 

「何時からだ、お前がそんな目をする様になったのは? イェニーが亡くなり塞ぎ込んでは居るが剣の修業は怠らなかったお前が魔術師として訓練していたのを気付けなかったとはな。俺の目も節穴か……」

 

「そうです、リーンハルト様の事は全てイルメラが把握していた筈です。でもこんな立派なゴーレムを三体も召喚出来るなんて信じられません」

 

 む、確かに仮初の僕は父上の跡を継ぐ為に騎士として武術の訓練しかしていなかったからな。お蔭様でそれなりの肉体と剣技は身に付けられた。

 彼等が不思議に思うのも当然だし調子に乗って全盛時に使用していた全金属製のゴーレムを召喚してしまったのも問題だ。

 前世の僕が能力の全てを注ぎ込んで作り上げたゴーレム……だが、今の僕では召喚はしたが動かす事が困難な逸品だ。

 一旦召喚したゴーレムを消す、魔素を撒き散らしながら解ける様に消えていくゴーレム。今後はレベルの低いゴーレムを召喚して地道にレベルアップに励むしかないだろう。

 

「ああ、消えてしまった……あの剣や盾を使いたかったのだが……」

 

 父上の呟きは聞こえない事にしよう、ゴーレム召喚時に作り上げた武器は当時の名工の作品のコピーなので流通したら市場が混乱するだろう。

 

「僕の魔法の師は……母上です。高位神官であった母上は僕に魔力が有る事を知った時に内緒で制御を教えて貰いました。

母上は昔一緒に冒険したロータルという魔術師から簡単な指導を受けていたそうです、お爺ちゃんと慕っていたと聞いています。

そして魔術を使える事を内緒にしていたのは、いずれ僕はバーレイ男爵家を出ていく事になるからです。

数の少ない魔術師は貴重な存在、それが身内に居た場合どうなるか?しかも男爵家の相続絡みだと?」

 

「確かにな……お前にとって辛い立場に追い込まれる事になるか。だが、それで良いのか?

廃嫡しても実家に居続ける事は出来るが魔術師として家に抱え込まれる事になってしまう。

だが貴族として育ったお前が平民として生きていけるのか?」

 

 尤(もっと)もな意見だ、貴族の子弟として不自由無く暮らしていた14歳の餓鬼が平民として生きていけるのかと言われれば、ハイそうですとは言い辛いだろう。

 だが此処で甘えてしまえば、僕はバーレイ男爵家当主となったインゴに飼い殺しにされるだろう。本人にはその意志は無くとも同列となった取り巻き連中に良い様に扱われてしまうだろうな。

 

「僕は冒険者として生きていこうと考えています。それで父上にお願いが有ります。僕の冒険者養成学校への入学を認めて下さい」

 

 冒険者養成学校、それは1年間だけ冒険者として基本的な知識や技能・戦闘技術・魔法技術を有料で教えてくれる養成機関だ。

 勿論、普通に冒険者ギルドに登録すれば直ぐに冒険者として活動出来る。だが貴族の三男以降とか裕福層の子弟で実家を継げずに家を出る連中の為に有る金持ちの為の学校の側面も有るのだ。

 世間ズレしていない坊ちゃん嬢ちゃんが、いきなり海千山千の冒険者連中と渡り合う事など出来はしない。

 食い潰されるとかいいように扱われるとか実家に迷惑が掛かるとか甘い世界では無いのだ。故に同じような境遇の連中を短期間一緒に学ばせて繋がりを作らせるのが裏の目的だ。

 実際に養成学校の同期連中でパーティを組むのが普通らしい。

 僕の第二の人生を今度こそ誰にも束縛されずに自由に生きていく為に、どうしても父上を説得しなければならない。

 


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