古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第295話

 デオドラ男爵の奥様方達とのお茶会、前回同様に情報交換の場となった。だが今回は僕の動きを捉え切れなかったみたいだ、ザスキア公爵の件は掴んだがリズリット王妃とセラス王女の事は知らなかった。

 秘匿はしてない、だが今回は伝手が無かったか繋がっている侍女がその場に居なかったか……

 居たら居たで余裕が有る態度は取れなかっただろう、まぁ結果的には教えるから早いか遅いかだけの違いだけどね。

 

 そして教えた時点でジゼル嬢が切れた、王家と縁が出来る事の重大さを知ってるが故の反応だろうが……

 

「貴方は本当に魔法馬鹿ですわね、分かっていましたが油断しましたわ」

 

 呆れつつ諦めている顔で言われてしまった、家紋の件を言ったら更に呆れるか怒るかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 奥様方は固まりジゼル嬢は呆れ、アーシャは良く分からない顔をしている。

 

「敢えて言い訳させて貰えるならば、僕の錬金によるマジックアイテム作成に『王立錬金術研究所』とセラス王女が後ろ楯についた。

これにより更なる高性能のマジックアイテムを合法的に作り出せるのです、しかも王家秘蔵のマジックアイテムも調べさせて貰えます」

 

 これは言わねばならない、虐げられていた土属性魔術師の立場向上と僕の勢力の基盤作りに必要だったんだ!

 

「旦那様の作り出す品々は素晴らしい物ばかりです、その品々が王族のお墨付きなのは良い事ですわ。

今後の旦那様の立場を固める事と安定した収入源になります、あの一般には流出させるのを躊躇う品々もグレードダウンして売り出すのでしょ?」

 

 アーシャは無邪気に両手をポンッと胸の前で合わせて言った事は僕の考えと一致する、簡単に作れるレジストストーンでも一個金貨五百枚で王家が定期的に購入してくれる。

 今後は種類を増やせば安定した収入源となり購入層にも伝手が出来る、商売仇も増えるけど今更だな。

 

 周りも黙っているのは彼女の考えを吟味しているのだろう、だが大筋は合っている筈だし逆に彼女の理解力に驚いたみたいだ。

 

「ですがリズリット王妃の三女であるセラス王女と縁が出来たとなると、後宮の派閥争いにも自動的に巻き込まれるのですよ。

一応最大派閥であるリズリット王妃派なら安泰でしょうが、無闇に敵を作るのは感心しませんわ。女の恨みは怖いのですよ」

 

「最初はサリアリス様、次がリズリット王妃、そして今回はザスキア公爵にセラス王女ですか……リーンハルト様は女運が良いのか悪いのか分からなくなりましたわ」

 

「本当に言われてみれば全員に癖が有る女傑ばかりですわね、私達も諦めましたわ」

 

 おほほほほって笑われたけどさ、もう一つ問題が有るんだけど言うべきか?

 喉がカラカラなので温くなった残りの紅茶を一気に飲み干す、気分が少し落ち着いた。直ぐにアーシャが紅茶を注いでくれたが、僕の態度に不信を持ったジゼル嬢が鋭い視線を送ってくる。

 

「未だ何か有りますわね?」

 

 不味い、久し振りに『人物鑑定』のギフトを使われて悩み事が有る事がバレた、もう誤魔化しは効かない。両手を上げて降参の意を伝える。

 

「セラス王女は少しばかり僕に気を掛け過ぎたらしい、彼女が切望するレジストストーンを僕が作った事に対する純粋な御礼らしいが……

公爵四家の代理戦争とも言われる今回のハイゼルン砦の攻略、僕の味方はニーレンス公爵とローラン公爵だ。身分上位者には配慮が必要で、ハイゼルン砦攻略の手柄も彼等の手に多く渡る。

僕はそれでも良かったが、彼女は良しとはしなかった」

 

 此処で一旦話を止める、皆さん王家絡みだから真剣に話を聞いている。一旦話を止めても質問も無い、早く続きを話せと目で急かす。

 

「ハイゼルン砦を落としたのが誰か、周りから分かるにはどうしたら良いか?

セラス王女は僕の家紋が刺繍された『戦旗』を作りプレゼントしてくれた、これを砦に掲げれば僕がハイゼルン砦を落としたと皆が知る事になる」

 

 王族のお願いを叶えた時に褒美は必要、褒美の品として王家から賜った品物は箔が有り価値が高い。

 奥様方も口々に祝いの言葉を言ってくれる、新しく家を興した新米貴族に家宝となる品物が出来たんだ。普通なら中々無い良い事だろう。

 

「彼女は更に感謝の気持ちを込めて、純粋に深く考えずに……その『戦旗』の隅に自分の家紋を許し、必ずハイゼルン砦を落とせと言ったんです」

 

 はははって乾いた笑いをして場を和ませ様としたが失敗したみたいだ、僕はアウレール王とセラス王女の両方から正式にハイゼルン砦を攻略する命令を受けた事になる。

 

「うふっ、うふふふ。そうですか、そうなんですか、セラス王女はリーンハルト様に『戦旗』を与えて家紋まで許したのですね?」

 

「えっと、ジゼル様?」

 

 下を向いてブツブツと何かを言い始めた彼女を心配して声を掛ける、何か弾けたか吹っ切った感じが怖い。

 

「リーンハルト様」

 

「はっ、はい。何でしょうか?」

 

 思わず背筋を伸ばして敬語になってしまった、今のジゼル嬢は正直少し怖い。周りの方々も無言で彼女を見詰めている……

 

「私、昼間のビアレス様の言葉に怒りを感じてました。それは『正当な出兵』や『卑劣な決闘』とか妄言を吐いた男に対してです。

ですが……この『戦旗』なら王家から『正当な出兵』を命じられたのは誰なのか民衆には分かるでしょう。

あの男は王命を偽った、そんな虚言癖が有る男の言う『卑劣な決闘』などは嘘だと言い切れますわ」

 

 目付きが怪しい、鼻息も荒く興奮している、何より普段と雰囲気も違う。だが僕の為に怒ってくれるのは嬉しい。

 

「うん、僕も全く同じ考えだった。だから来週僕が出陣する時に、この『戦旗』を掲げて中身はスカスカだが見た目は良いゴーレムポーンを九百体並べて行進する予定なんだ。

ビアレス殿は精々が皮鎧程度の装備しかしていない歩兵六百人、僕は全身鎧兜で輝くゴーレムポーンが九百体、差は歴然だろ?」

 

 そして行進を見た連中に最後の噂話を広げれば、自分達が直に見たゴーレム兵団の迫力と共に噂話は信憑性を持ち真実となる。バニシード公爵とビアレス殿は失脚するだろう、これが僕の筋書きだ。

 

「ええ、そうですわね。リーンハルト様の考えは分かりました、私達も全力で協力致しますわ」

 

 ニッコリ微笑むジゼル嬢を見て、何とか修羅場は収まったと安心した。これで準備に専念出来る。

 

「ですが……」

 

「ですが?な、何かな?」

 

 笑顔が消えて怒った顔になった、表情が180度変わるって凄い事だよな。天国から地獄へって感じだぞ。

 

「お部屋の方で二人切りでお話が有ります、余人を交えず二人切りで……良いですわね?」

 

 全然甘い話ではないだろう、多分だが暗躍してる事を全て話せって事だな。僕は黙ってコクコクと頷くしかなかった、だが得難い妻を得たと思えば怖くはないさ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから王宮での出来事や中央広場の管理棟でライル団長達との会話を全て話した、特にリズリット王妃とセラス王女との会話については念入りに幾つかの質問も有り全てが終わった頃には日付が変わっていた。

 僕に宛がわれた部屋とは言え内容が秘匿する物も多いので部屋付きのメイド達も下げたので、深夜の客間に二人切りの状態なのだが甘い雰囲気は全く無い。

 ジゼル嬢は額に右手を添えて考え込んでいるので黙って見詰める、こんなにマジマジと彼女の顔を見るのは久し振りだ……

 

「やはり、リズリット王妃はリーンハルト様の引き込みを考えていたのです。ミュレージュ王子の友人だけでなくセラス王女の『王立錬金術研究所』にまで協力させたとなれば、次に考えられるのは王位継承権の低い女性を宛がってきますわ」

 

「それって僕を末端とはいえエムデン王国の王族に迎え入れるって事だよね?流石にそれは無いよ、僕は宮廷魔術師第二席として侯爵扱いだけど実際は新貴族男爵だ。

仮にハイゼルン砦を落としても良くて子爵だよ、僕は最大限出世しても伯爵迄だから無理でしょ?」

 

 戦争に勝った恩賞としては破格過ぎる、周りが納得しない人事は王家の威信に傷を付ける行為だし僕を強引に王族にする意味は無い。

 仮に王位継承権二十位以下の王族だと位は高くても権力は侯爵以下だろう、あれ?侯爵扱いの僕に宛がうならギリギリOKか?

 流石に王位継承権も二十位以下なら殆ど王になる可能性は低い、上位十九人に不慮の事故とか有ったら国家として維持は出来ない。

 

「その顔は可能性に思い至りましたわね?リーンハルト様をエムデン王国に縛り付けるには王族に迎えるのがベストなのです。

下手に派閥を作られるよりは王族として一括りにした方が都合が良く、対外的にも王族として外交も可能。優れた魔術師は引き抜きが有りますが、流石に末端でも王族ならば他国も躊躇しますから……」

 

 僕をエムデン王国に縛る枷としては有効って事か、王位継承権二十位以下なら恩恵は殆ど無くて名誉だけを与える程度。

 そして王族は率先してエムデン王国に尽くさねばならない、一石二鳥の嵌め技だよな。

 

「確かに僕は派閥の拘束が弱い、実情を知らない他国から引き抜き可能と思われるのを潰すのには有効ですね。

僕はこれから戦争向きな魔術師として認識される、侵攻戦に特化した魔術師ですよね。平地の集団戦も攻城戦も得意なのだから……」

 

「リーンハルト様?」

 

 まさに転生前の人生の焼き直しだな、だが今回は自分の意思で愛を育んだ相手が居る。前とは違う、違うんだ。

 

「別に後悔はしてませんし落ち込んでもいませんよ、もはやジタバタしても変わらないなら上手く立ち回るしかない。

ですが王族との婚姻は極力断ります、僕はジゼル様以外を本妻に迎えるつもりは無い。例え王族でも断り切れなければ側室に迎えます」

 

「馬鹿ね、本当にお馬鹿さんなんですから」

 

 下を向いて真っ赤になってしまった、殆どプロポーズに近い台詞だったぞ。そう考えると自分も頬が熱く感じて来た、ヤバいな僕も赤面してるな。

 

「そ、そろそろ遅くなりましたし、残りの話は明日にしましょう」

 

「そうですわね、遅くまで話し込んでしまい、その……すみませんでした」

 

 お互い慌てて立ち上がり扉まで一緒に向かう、やはり結婚する迄は清い関係なのが貴族と言うものだ。最悪の場合、僕が死んでしまう事も考えなくては駄目だから……

 扉を開けてジゼル嬢を見送る、今夜は一人でゆっくり寝れるな。

 

「それでは、お休みなさいませ」

 

「うん、また明日ね」

 

 彼女を見送り扉を閉める、窓の近くに行って外を見れば月も星も見えない位に雲が覆っている。明日は雨だな……歩兵を伴い野営する時に天候に恵まれないとは、ビアレス殿も大変だな。

 

「僕の応援は精鋭騎馬隊、資機材の運搬も全て馬車だから充実しているだろう。しかも公爵二家の精鋭達だ、早目に隊長格とは顔合わせしておくか」

 

 多分だが隊長格は貴族で爵位持ちも居るだろう、又は公爵家付きの騎士達だから僕でも配慮が必要だ。

 ニーレンス公爵は間違い無くレディセンス様が来る、彼等の一門で武力の高い連中は少ない。

 ローラン公爵は武門の一族だから候補は複数居る、ヘリウス様付のボーディック卿やべリス殿は紹介されたが場合によっては数人が派遣されるな。

 

「やはりザスキア公爵からも兵を頼もう、情報操作は見事だったが見えない成果より見える成果を周りに示すべきだよな」

 

 あとは何か自作のマジックアイテムを贈ろう、装飾品だと意味深に受け止められるからレジスト系か防御系が良いな。

 ジゼル嬢達に渡している『召喚兵のブレスレット』は危険だから、何が良いだろうか……

 

「ふむ、希少価値が有り今の僕が錬金しても疑われない物だな。鎧兜は着ないだろうし硝子製の護りの小刀とかかな?」

 

 あとは簡易型の魔力障壁か結界辺りがお礼として希少価値と利用価値が有る、簡易型の魔力障壁なら物理攻撃のみだが発動すれば十分は維持出来るし再度魔力を込めれば使い続ける事が出来る。

 魔力を込める事を僕だけに限定すれば今後の伝手としても有効だし、魔力障壁の強度をレベル20相当の魔術師に設定し数を少なくすればセラス王女への贈り物としても使える。

 量産せずに少数のみ献上すれば有効だろう。

 さらに強度を高めた物をザスキア公爵だけに送れば、他との差により贈り物としての価値も上がる。なにより本人の安全に関わる物だし丁度良いな。

 


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