古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第287話

 セラス王女との伝手が出来た、上手くすれば彼女の名前を利用して錬金した品物を売ったり使ったりする事が出来る。

 イルメラ達にも魔力の付加された装備品を気兼ね無く使って貰える事になる、彼女の希望はレジスト率15%よりも高性能な物だから第一段階は簡単だ。

 

「エルフの里で取引されていたレジストリングは単体効果で30%、複数効果で25%だったな。同程度で良いだろう」

 

 最初から高性能でなく、彼女の依頼で調べ始めて徐々に高性能な品物が作れる様になったと周りに思わせる事が大切だ。

 元々僕は錬金術に特化したゴーレム使いの土属性魔術師、高性能のマジックアイテムを錬金しても今は土属性魔術師の最高峰の位置にいるのだから問題は少ない。

 序でに参考として王家が所有している国宝級のマジックアイテムを見せて貰えれば万々歳だ、セラス王女に資料として必要だからと交渉してみよう。

 欲しいではなくて少し見せてくれ、同じ様な物が作れるかもしれないと言えば交渉の余地は有る筈だ。

 

「夢が広がった!本来の僕は戦いよりも錬金術で物を作る事に喜びを感じていたからな、研究させて貰えるなら本望だ」

 

 セラス王女には感謝しないと駄目だ、良い関係を築く為にも出来る限りの事はしてあげよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 当初の目的の通りにサリアリス様の執務室を訪ねた、先客が居たので複数有る別の応接室に通された。

 第二席から第十二席までは同じ作りの執務室だが、筆頭であるサリアリス様だけが王族の居住スペースの一画に広い執務室を持つ。

 この優遇がアウレール王と彼女が前国王殺しで繋がっている噂の根拠の一つでも有る、腹立たしいが原因の殆どが僕なので何とも言えない。

 

 僕の前の壁際に整列する四人の高級侍女達を見て、何か話題を振らなければ駄目なのかとプレッシャーを感じる。

 基本的にサリアリス様は用が無ければ侍女達を呼ばないし近くに居させない、大抵は控え室に居るので見た事がない人も居る。

 

「えっと、来客って誰かな?」

 

 沈黙に耐えられず、特に知りたくはないのだが話題を振ってみる。

 

 

「ザスキア公爵が三十分程前からいらしております」

 

「リーンハルト様の事について相談をしております」

 

「リーンハルト様の最大の庇護者であられるサリアリス様の元に、昨日から来客が多く来ております」

 

「どうしてもリーンハルト様と縁を結びたいがサリアリス様の逆鱗が怖い、つまりはお伺いですわ」

 

 

 右から順番に説明してくれた、事前に打合せしたみたいな連携に少し驚いたが僕って周りから見るとサリアリス様の庇護下に有るんだ。

 少しだけ嬉しく、そして情けなく思った。未だ自分の力が足りないと周りからは思われているのか……

 

 

「その様な悲しいお顔をしないで下さい」

 

「リーンハルト様の実力は皆が認めております」

 

「ですが、サリアリス様の過保護っぷりに周りが配慮しているのです」

 

「本当に過保護です、長年仕えた私達も驚いております」

 

 

 今度は左側から順次答えてくれた、やはり示し合わせたみたいに淀みなく四人で一つの文章になっている。

 全員二十代前半だと思うけど長年仕えたって何年専属侍女をしてるのかな?

 

「サリアリス様は僕が目指す頂きの魔術師、まだまだ精進が足りないと言う事ですね」

 

 内容がアレ過ぎて忘れていた、最初の情報でザスキア公爵が来ているって教えてくれたが彼女は僕の貞操を狙っているんだよな?

 そんなザスキア公爵がサリアリス様と面会って何を話し合っているのか気になる、魔力感知によるサリアリス様の魔力が揺らいでいるのは精神的な動揺の筈なんだ。

 つまりサリアリス様が動揺する話をザスキア公爵は持ち掛けている。

 

「ザスキア公爵の話って問題有りっぽいな、サリアリス様の纏う魔力が揺らいでいる。つまり感情的になってる、良い意味じゃないよ」

 

 何時の間にか出された紅茶を飲む、先ずはストレートで一口。次に砂糖をスプーン三杯入れてかき混ぜる、バルバドス師の甘党が移ったみたいだが精神安定に甘味は良い。

 

 

「纏う魔力の揺らぎですか?」

 

「離れていても感知出来るのですね」

 

「ザスキア公爵はリーンハルト様の後援についてサリアリス様に相談に来ました」

 

「ですがパトロンとは親密な関係を築くべきとの意見の親密な部分で意見交換をしています」

 

 

 分かり易い説明を有り難う、僕の予想通りだったよ。

 

「親書で交際を申し込まれたからね、まさか自分の貞操が狙われていたとは驚いたよ」

 

 極甘の紅茶を一気飲みする、頭を使う場合に糖分は必要らしい。だが現状を打破する素晴らしいアイデアは生まれない、駄目だな、僕は魔法馬鹿だからな。

 

 直ぐに新しいカップが用意され紅茶が注がれる、毎回カップを変えるのも贅沢だよな。

 

「やらんぞ!お主にリーンハルトはやらん、出直して来い」

 

「あらあら、でも恋愛は当人同士の問題で第三者は関わっては駄目ですわ」

 

 ああ、終に怒鳴ってしまったな。あのサリアリス様を怒らせても平気な事に警戒をしなければならない、やはりザスキア公爵には配慮が必要だが……

 

「すまないが乱入してくるよ」

 

 これ以上悪化させてもお互いにマイナスだな、しかしザスキア公爵も何を考えているんだが分からないな。

 

 

「「「「御武運をお祈りしております」」」」

 

 

 ああ、そこはハモるんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「失礼します」

 

 ノックを四回した後に返事を待たずに扉を開けて中に入る、マナー違反だが言い合いの当事者だから良いだろう。

 

「む、リーンハルトか」

 

「あら、リーンハルト様。女性の話し合いに入るのはマナー違反でしてよ」

 

 サリアリス様は隠蔽している魔力を三割位解放している、それでも普通の魔術師の数倍のプレッシャーを相手に感じさせる量だ。

 対するザスキア公爵は涼しい顔で上品に紅茶を飲んでいる、この話し合いはサリアリス様が不利だ。

 相手に主導権を取られている、公爵五家の最下位などと軽く見れないぞ、まだ二位のバニシード公爵の方が与し易い。単純で力任せな相手なら何とかなるが謀略系は苦手なんだ。

 

「盗み聞きでは有りませんが、聞こえてしまった話の内容が僕の事だったので非礼をお許し下さい」

 

 非礼を詫びる為に深く頭を下げてからサリアリス様の隣に座る、向かい側に座るザスキア公爵の視線を正面から受けるも互いに逸らさない。十秒程見つめ合い、僕が負けて逸らした。

 

「私の恋文は読んで頂けたかしら?」

 

 柔和な笑みだな、だが腹黒いイーリンの親玉だし油断は出来ない。

 

「親書には目を通しましたし、イーリンからの提案は聞きました。情報操作に長けたザスキア公爵の協力については大変有り難く思います」

 

 一旦言葉を止めて頭を下げる、横目で見るサリアリス様は不機嫌だし頭を上げてからみたザスキア公爵は満面の笑みだ。

 

「ふふふ、それでも私からの提案は蹴るのね?」

 

「いえ、バニシード公爵を蹴落とす事への協力は惜しみません、双方に利が有りますしローラン公爵との絡みも有ります。

不義理と言うならハイゼルン砦攻略迄と期間を切っても良いですし、今この場で敵対しても構いません。サリアリス様の反対している事については僕も応じかねます」

 

 状況的には公爵家を敵に廻すのは馬鹿だろう、しかも情報操作が得意な相手なら僕の評判は地に落ちるかも知れない。

 だが僕の為に王族殺しの濡れ衣を二十年近く受けていたサリアリス様の為になら構わない。

 

「リーンハルトや、それは嬉しいのだが、この女狐と敵対するのは……」

 

「構いません、サリアリス様の恩に報いる為ならば、ハイゼルン砦くらい助力がなくとも僕一人で落としてみせましょう。例え公爵二家と事を構えても些細な事です、だから気にしないで下さい」

 

 この言葉にザスキア公爵も怒るだろう、しかし……あれ?この人、性的に興奮してないかな?真っ赤になって目も潤んでるし全身が小刻みに震えてる、ヤダな怖いぞ。

 

「良いわ、本当に良いわね!リーンハルト殿は私の理想の少年だわ。有能で生意気、しかも恩師の為になら私に喧嘩を売る義理堅さも度胸も有る。

ハイゼルン砦が落ちる迄とか、バニシード公爵のお馬鹿さんを蹴落とす迄とか言わないわ、リーンハルト殿が私に靡くまで離れないわよ!

サリアリス様、むやみやたらとリーンハルト殿に迫らないから私達は協力関係を築きましょう」

 

 凄い勢いで迫られた、淑女がテーブルから身を乗り出すって何だよ。この申し出は断った方が良さそうだ。いや、断った方が良いに決まってる。断ろう、大事だから三回思った!

 

「残念ですが……」

 

「分かった、儂の我が儘でリーンハルトの不利を招く事は出来ない。嫌々じゃが協力関係を築いてやるぞ、本当に嫌々じゃがな」

 

 え?断りましょうよ!

 

「そんな顔をするな、お前が儂の為に悪役を演じたり不利な状況になるのが嫌なんじゃよ。

今回の件もだ、これ以上不利な状況に追い込まれる事もなかろう?幸いじゃが、コヤツの諜報能力と情報操作は中々じゃから精々バニシードの馬鹿は追い詰めてやろうぞ」

 

「はい、サリアリス様がそう言うのでしたら……」

 

 頭を撫でられながら諭されたが、この協力って後々で後悔しそうなんだけどな。

 

 その後、魔術師ギルド本部への圧力掛けについて相談し了承を貰った。『白炎』のベリトリアさんクラスを雇えば難攻不落のハイゼルン砦でも破壊され尽くしそうで怖かったから。

 僕は冒険者ギルド本部に行ってバニシード公爵から依頼が来ても有耶無耶にして貰うお願いに行く事になった。

 少なくとも五日前後で王都を出発しないと約束に間に合わないので、バニシード公爵も魔術師ギルド本部と冒険者ギルド本部に圧力を掛ける時間は少ない。

 

 そして心底怖いと思ったのは、ザスキア公爵が王都中に噂を流すそうだ。内容は『バニシード公爵はハイゼルン砦を攻める連中を探しているが国王との約束の期間が短いので無謀な玉砕を強いるだろう』と……

 

 これなら各ギルドを通さず自前で募集しても応募者は少ないだろうな。彼女に借りを作るのは心配だが今は考えずにおこう、問題を先送りにする様で嫌だが仕方ないよな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「今戻ったって、ハンナにロッテか。何を不機嫌そうにしてるんだ?」

 

 執務室に戻れば専属侍女四人が並んで出迎えてくれたが、セシリアとイーリンは笑顔だがハンナとロッテはご機嫌斜めだ。僕は何もしていないよな?

 

「いえ、後輩二人と少し揉めただけですわ」

 

「年長組と年少組との細やかな意見の食い違いです、リーンハルト様の気にされる事では有りませんわ」

 

 ロッテの応えにイーリンが嫌味を言った、確かに既婚者二十代半ばと未婚の十代の二人組か。女性の喧嘩に巻き込まれるのは勘弁して欲しい。執務机に座る、先程読めなかった親書を読む事にする。

 

「そうか、先任侍女を立ててくれよ。そうだ、ハンナとロッテはウーノと言う侍女を知ってるかい?」

 

「はい、王族付きの侍女ですわ」

 

「彼女が何か?」

 

 王族付き、セラス王女は自分の専属侍女と言ったが教えられない訳でも有るのかな?あの王女は少し変わっていたし……

 その辺も追々調べておくか、彼女とは末永く協力関係を結びたい。錬金関連なら最高の後援者だろうな。

 

「リズリット王妃から紹介されてセラス王女と縁が出来た、彼女が主導している『王立錬金術研究所』だっけ?それを少し手伝う事になったんだ。

セラス王女への連絡はウーノを通して行う事にした、この件に関しては二人に任せるよ」

 

 この言葉を聞いたハンナとロッテの様子が可笑しくなった、何かテンションが上がったみたいだぞ。

 

「「お任せ下さい、リーンハルト様!」」

 

 ドヤ顔で後任の二人を見ている、王族との伝手を任されたのだから当然か。それに若い二人に妙な対抗意識を持ってるみたいだし。

 

「そんなに大声を出さなくて良いから、それとイーリン」

 

「はい、何でしょうか?」

 

 彼女も何かを期待しているみたいだな、だが浮かべた笑みに揺らぎは無い。大したポーカーフェイスだ、流石はあのザスキア公爵の血縁者だな、僕に送り込む位だから相当似ているのだろう。

 

「ザスキア公爵とは協力する事になった。サリアリス様と同席で直接話す機会があったんだ、一悶着有ったけど何とか纏まった。だが彼女と個人的に親密になるつもりはない、そこは理解してくれ」

 

「つまり協力はするけど交際はしない、変な橋渡しをしない様に私に釘を差すのですね?」

 

 その通りだと頷いて伝える、この件は余り蒸し返したくないので早めに切り上げたい。セシリアが期待を込めた目で僕を見ているが、君の関連の話はないんだよな。

 

「えっと、セシリアについては……アレだ、ローラン公爵とは上手くやっていくから心配するな?かな」

 

「最後が疑問形でしたわ」

 

 うん、だって君の希望が分からないから仕方ないよね。

 


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