古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第286話

 偶然か?王宮内でリズリット王妃に出会い御茶会に誘われて中庭のテラスで二人切りで紅茶を楽しんだ。

 勿論、リズリット王妃は単純に御茶会を楽しむ訳じゃなく僕の行動の真意を探る為にだろう、マグネグロ殿を倒しハイゼルン砦の攻略をする僕の一連の動きが気になったんだ。

 僕の『リトルキングダム(視界の中の王国)』の性能を知り安心させて終わりと思ったが、自分の娘でありアウレール王からすれば三女のセラス王女を呼んでしまった。

 そしてこの時代での初めてのプリンセスへの謁見が叶った、勿論希望は出していない……

 

「リーンハルト・フォン・バーレイです」

 

 席を立ち片膝を付いて挨拶をする、初めて見たセラス王女はリズリット王妃と同様に凄い美女だが切れ長で薄紫色の瞳とか薄く酷薄そうな唇とか……その、大変気難しそうなプリンセスだと想像出来る。

 女性としては長身で165㎝以上、凹凸の乏しいスラリとした身体をして金髪は腰まで伸ばしている、全体的にみても理知的で野性的と言うか攻撃的だ。

 両親の面影が全く見当たらないが本当に血が繋がっているのか疑問に思うぞ。

 

「貴方が『ゴーレムマスター』ですわね、噂は聞いております。サリアリス様の秘蔵っ子にして後継者、未成年ながら既に宮廷魔術師第二席の凄腕の魔術師。

あの武闘派の重鎮達の集まるバーナム伯爵の派閥のNo.4にして、上位三人と引き分けた伝説の殿方にしては想像と違い優しい感じですわね?」

 

 凄い値踏みを含んだ視線を向けられたし色々と調べられているぞ、王女様が新人宮廷魔術師の僕の事を事細かく知っている事にドン引きした。

 リズリット王妃は嬉しそうに微笑み、セラス王女は愉(たの)しそうに笑った、そう愉悦の笑みだった。

 

「買い被り過ぎです、伝説の殿方などと言われると恥ずかしくなります」

 

 セラス王女を椅子に座ったのを確認してから自分も座る、この王女だが只の王族とは思えない凄みを持っているのだが噂は全然聞かなかったぞ。

 これ程の問題児なら噂の一つも有る筈なのに広まらないのは隠蔽したか、または噂話をする事自体を恐れられたのか?

 

「セラスはリーンハルト殿が王宮に出仕した日から気になって仕方無くて色々と貴方の事を調べたみたいなのです」

 

「あの弛み切った宮廷魔術師団員達に真っ向から勝負を挑み、鼻っ柱を叩き折った事は素直に称賛するわ。私もサリアリス様と同じく無能は大嫌いなのよ」

 

 ああ、王族の方々にまで不興を買っていたんだな、早くセイン殿達を鍛え上げ直さないと駄目だ。

 

「有り難う御座います、自分も全く同じ考えです。自己の研鑽を忘れた魔術師など呆れていました、我々は魔術の深淵を求め続けるのが本来の姿。

俗世にまみれた者達も多いですが、今は改善されつつありますから安心して下さい」

 

 このセラス王女はサリアリス様に通じる物が有る、あと微妙に魔力を感じるのはマジックアイテムを身に付けているからだな、指輪にブレスレットにネックレスもそうだ。

 本人からは微弱な魔力しか感じない、隠蔽してる訳じゃなく魔術師になれるだけの魔力が無いんだな。

 だが僅かにでも魔力が有ればマジックアイテムで底上げすれば多少の魔法は使える、ライトとか簡単な物だけど……

 

「そうね、貴方は割りと好きよ。皆は貴方の強さばかりを評価するけど、私は違うわ」

 

 腕をテーブルの上で組んだが胸を強調するつもりか?確かに流行の胸元が開いたドレスだが見せる程は無いだろう?

 確認などせずに視線をカップに移して一口飲む、もし胸元をチラ見でもすれば奥の神秘まで見えてしまい不敬罪とか言われ兼ねない。

 

「宮廷魔術師に求められる事は単純な強さ、一騎当千の強さが必要と思いますが?」

 

 然り気なく二人の表情を見る、リズリット王妃は少し困った顔でセラス王女は好戦的な笑みを浮かべている。

 彼女は僕を調べたと言った、強さ以外の僕の秘密を知っている口振りだ。何を評価している?錬金術による武器や防具の作成か、マジックアイテムの作成か、まさか古代の知識に迄は調査は及んでない筈だ。

 

 不安が顔に出そうなのをグッと堪えて微笑んで見せる、目が合っても逸らさないとは意思の強いお姫様だな。

 

「これを見て、貴方ならどう思うかしら?」

 

 左手人差し指に嵌めていた指輪を抜いて差し出して来た、シンプルな銀の指輪だが僅かながらに魔力を感じる、鑑定すれば『防毒の指輪:毒回避15%』と出たが性能は低いな。

 魔法迷宮でのドロップアイテムにしても精々中層階で王女が身に付ける品物じゃないけど何故身に着けているのかな?思い出の品とか?

 

「15%の確率で毒を防ぐレジストリングですね」

 

「そうよ、正解。貴方は鑑定も出来るのね、これは私が主導している『王立錬金術研究所』で土属性魔術師達に作らせた物よ。

今はこの程度の性能しか魔力付加が出来ない、でもリーンハルト殿なら更に高性能な物も作れますわよね?」

 

 セラス王女が調べた僕の秘密って錬金術の方か!

 

 確かに今の僕ならレジスト30%以上は余裕で作成可能だ、だがエルフの里で取引されるレベルの品を大量生産出来る事が知られたらどうなる?

 前にジゼル嬢が恐れた国家お抱えの錬金術師として拘束されるって噂が現実に有ったとは驚きだ。

 

「貴方が錬金した物は一通り調べたわよ、装飾品類にガラス製の護り刀、それと古代のワンドを起動させたりとかね。そんな貴方がこの程度の物も作れないとか嘘は許さないわよ」

 

 ビシッと指を指されて宣言された、確かに僕は高性能のレジストリングは色々と作れる、作れるけど……

 

「えっと、それはですね」

 

 セラス王女は確信している、僕が高性能のマジックアイテムを錬金する事が出来るって。だが正直に全てを教えるのは悪手だ、何とか誤魔化すしかない。

 

「誤解を招いたのならお詫び致します。確かにこの程度のレジストリングなら解析して研究すれば可能だとは思います、言葉が詰まったのは今迄は興味の薄かった部類だからです。

僕のゴーレムには状態異常など無意味ですから、レジスト系の研究は殆どしていませんので即答出来ずに申し訳ないです」

 

 申し訳なさそうに言えば強気な視線が左右に揺れて、一度目線を合わせてから逸らされた。

 

「え?そ、そうよね。それだけのゴーレムの運用だもの、他の研究に時間が割けないのは仕方無いわよね」

 

 真っ赤になって下を向いてしまった、自信満々に詰め寄ったけど間違えたから恥ずかしいんだろうか?少しフォローした方が良いかな。

 

「武器や防具の延長で有る物や装飾品等の緻密な細工は得意ですが、レジスト系は少し研究する時間を頂きたいのですが宜しいでしょうか?」

 

 未だ顔が真っ赤だが上目使いに睨まれた、王女に恥をかかせた感じになってしまった。助けを求めてリズリット王妃を見れば肩を小刻みに揺らして笑っている。

 

「い、一週間の時間を与えます、それ迄に……」

 

 左手を腰に当てて、右手人差し指でビシッと指を指したが、人を指差すのが好きなんだろうか?

 

「セラス、駄目よ。リーンハルト殿はハイゼルン砦奪還に向かうのです、準備で忙しい時期に貴女の我が儘で時間を使わせては駄目よ」

 

 リズリット王妃の駄目出しに指差しポーズのまま真っ赤になりプルプルと震えだした、目には涙まで浮かべているし最初に抱いたセラス王女の怖かったイメージが今は変わった。

 

 この人かわいいぞ、年上なのに。

 

「大丈夫です、出発まで時間が有りますから一週間も有れば同等以上の物を作ってみせます。ですが完成したら誰に託(ことづ)ければ良いでしょうか?まさか王女様に会いたいとか急には言い出せませんよ」

 

 前は国家のお抱え錬金術師って話も有って警戒したが、今の僕は宮廷魔術師第二席だから安心だ。

 それにコレで実績を作れば気兼ね無くマジックアイテムの錬金が出来る、王女のお墨付きが貰えると思えば有難い。

 む、少し考えているが問題発言だったか?王女と直接の伝手が欲しいみたいに取られたか?

 

 暫く待つと後ろに控える若い侍女を指差した、やはり指差しが好きらしい。

 

「彼女は私の専属侍女のウーノです。貴方に配属された侍女達とも交流が有りますから、彼女を通してやり取りをしましょう」

 

 セラス王女の後ろに控えていた侍女を良く見る……確かにロッテ達とは交流は有るだろう、だって昨日練兵場に一緒に居た娘さんの内の一人だし。

 目が合うと僅かに目元を赤くして逸らされた、此処でバラしてくれるなって意味だろう、ハンナとロッテは王族付きの高級侍女まで声を掛けて見に来させたのか?

 

「分かりました。ウーノさん、その時は宜しく頼みます」

 

 軽く微笑んでみせる、二十歳前後の優しそうな侍女だ。セラス王女の専属ともなれば気苦労は絶えないだろうな。

 

「承りました、リーンハルト様。此方こそ宜しくお願い致します」

 

 深々と頭を下げられた、敵意は無さそうだしハンナやロッテと懇意にしてるなら問題は無いな。

 これで王女と伝手が出来たのだが、この出会いと伝手がプラスに働くかマイナスに働くか今は分からない。

 だが基本的に根っこは善人そうな王女だし無茶振りはしないだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「セラス、随分と積極的だったじゃない。リーンハルト殿は気に入ったかしら?」

 

 用が済んだとばかりに退出したリーンハルト殿を見詰める我が娘の態度に溜め息を吐く、この子のマジックアイテム好きはもう一人の息子であるミュレージュの『剣術狂い』と同じレベルで病気だわ。

 エルフ族やドワーフ族からマジックアイテムを買い漁り、最近は飽きたのかお抱え錬金術師に作らせる始末。

 だが成果は微妙で最高の出来が、この『防毒のリング』だけど性能はイマイチなのよね。投資した額に比べると遥かに低い成果しか出せてない。

 

「ねぇ、お母様。あの子ってハイゼルン砦を落とせるのかしら?バニシード公爵が色々と戦力を増強してるわよ、少し手助けをするべきかしらね?」

 

 あらあら、王女の貴方が手助けとは重いからリーンハルト殿が可哀想よ。変な繋がりが有ると邪推されてしまうわ。

 

「自信満々だったわね、根拠となる理由を聞いて私としても安心しているわ。貴女は心配なのかしら?」

 

 この『マジックアイテム収集狂い』の娘も私と同様に興味を持った少年は、未成年ながら既に一流の域に居る凄腕の魔術師。

 魔術師の最高峰である宮廷魔術師の第二席、ドラゴンスレイヤーでもあり強さは誰もが認めるけれど駆け引きはどうかしら?

 ただ強いだけでは王宮内で生き残る事は出来ないわよ、此処には魑魅魍魎が溢れているのだから……

 

「そうね、死なれたら困る程度には心配かしら。でも出発前にレジストリングは作ってくれそうな感じだったから楽しみだわ」

 

 夢見る乙女みたいな表情よね、貴女はもう二十歳だけど嫁ぎ先が中々無いのよね。でもリーンハルト殿は駄目よ、貴女では彼を制御できない。

 まぁ貴女は彼よりも彼の作るマジックアイテムにご執心なのは分かる、我が子ながら恋愛感情を私のお腹の中に忘れてきたみたいな異性に興味が薄い娘……

 

「そうね、問題にしていなかったわね。研究してない部類だけで少し調べれば製作可能と判断したのでしょう」

 

 もし言葉通りにハイゼルン砦を陥落する事が出来れば、王宮内での彼の発言力は跳ね上がるでしょう。

 今はサリアリス様の庇護下に置かれているから手出しは控えている連中も、放置出来ない事になるでしょうね、だから……

 

「彼はエムデン王国に縛り付ける必要が有る、でもアウレール王の実子を嫁がせるのは駄目だわ、王位継承権を持つ娘を妻にすれば本人にその気が無くとも周りが煽る。

もし彼がその気になれば何とか出来る実力が有る、政敵を実力で排する力が有るわ」

 

 そして自分の子供を次期王に押し込む可能性は捨てきれない、王族でも血の薄い権力を持たない娘が欲しいわ。王位継承権が二十位以下の年の近い娘が良いわね。誰か居たかしら?

 

「お母様?何やら良くない話が漏れ聞こえますわ、そんなに警戒しなくても彼は大丈夫ですわよ」

 

 呑気なものね、少し会って優しそうだから大丈夫とかじゃ駄目なのよ。少なくともリーンハルト殿は自分の為にマグネグロ殿を殺した非情な面も持っている、見掛けの優しい雰囲気を信じては駄目ね。

 

「リーンハルト殿は我が子であるミュレージュの友として近くに居させたかった、でも凄い勢いで権力を持ちつつあるわ。警戒は必要よ、それが無駄になれば良いだけでね」

 

「お母様、ミュレージュに甘いわよ。私にも彼を使わせてよね、きっと凄いレジストリングを作ってくる筈だから凄く楽しみだわ」

 

 私の大切な子供達が競ってリーンハルト殿を奪い合うとは、何とも微妙になって来たわね。でも有能なのは分かったから私の派閥に引き込む事にしましょう。

 後宮の派閥争いに巻き込む事は悪いと思うけど、それ以上の恩恵を与えれば良いでしょう。

 

「お母様、凄い黒い笑みよ。また悪巧みを考えているのかしら?」

 

「ええ、飛びっきりの悪巧みよ。あの子を私達の派閥に引き込みましょう。貴女の為にもなるしね」

 

 敵対を恐れるなら味方に引き込めば良い、単純な話よね?

 


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