古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第283話

 マグネグロ殿を倒し宮廷魔術師第二席に昇格した、彼は我が師であるバルバドス師と因縁が有った、彼に負けた為に引退に追い込まれたと教えられた。

 だが弟子の僕が勝った事により相殺だな、本人を殺してしまったから因縁を知る連中からは師匠の敵討ちと言われそうだ。

 結局バルバドス師の屋敷に泊まる事になってしまったが仕方無い、遅くまで飲んで語って楽しい一時だったが合計二回拳骨を落とされたのが納得いかない。

 僕は武闘派で有名なバーナム伯爵の派閥のNo.4らしいが肉体言語は苦手なんだ。

 バルバドス師からは魔術師としての後継者として、彼の知識や魔法に関する資料等は引き継ぐ事になった。嬉しいがこれからが大変だ。

 後妻のフィーネ様やフレネクス男爵に上手く説明しないと財産を横から盗まれるとか思われそうだ、身分も立場も此方が上だが成り立て貴族の僕には隙が多い。

 バルバドス師も金銭的な財産は最終的には彼等の提案通り養子を取って引き継がせると言った、だから僕が口出しする事は出来ない……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バルバドス師の屋敷から王宮までは近い、馬車なら三十分程の距離だ。出仕は九時迄だから七時起きでも十分に間に合う。

 用意されたのは何時もの部屋で僕専用扱いらしい、出入りの商人から仕入れたワインはどれも美味しく勿体無いので魔法でアルコールを飛ばさなかったので酔いは深い。

 酔いが深いと逆に寝れなくなるのか日付が変わる時間を過ぎても一向に眠くならない、ベッドでゴロゴロと向きを変えても無理みたいだ。

 

「目が冴えて寝れない、早く寝ないと明日の仕事に影響するのに全く眠気が無い」

 

 フカフカのベッドから上半身を起こす、寝酒は意味が無くお腹も空いてない。話し相手でもと思うが深夜に寝室に引っ張り込んでナニするんだと誤解されるから無理だ。

 ベッドに居ても眠くはならないと思い起き上がり、窓の脇に用意された椅子に座る。

 

「雨か、久し振りだな」

 

 カーテンを開けるとパタパタと窓ガラスに大粒の雨が打ち付けて来る、暫くボーッと見ていると腹の底に響く轟音と共に稲光が見えた。

 

「雷、雷雨か……」

 

 僕のゴーレム召喚方法の『雷雨』も上空から重量の有るゴーレムを落とす事による奇襲攻撃で、ゴーレムの落下音を落雷に見立てた技だ。

 名前を思い付いたのも、雷雨を見ていて近くに落ちた事からヒントを得たんだよな。

 

「ついに転生前と同じ宮廷魔術師になった、筆頭にはサリアリス様が引退する迄は挑まない。

転生前よりも権力は少なく配下も居ない、セイン殿達土属性魔術師はメディア嬢のモノだし。自分だけの配下を育てないと駄目なんだよな」

 

 だが宮廷魔術師団員は駄目だ、他の属性は良くて中立悪くて敵対だ、今から土属性魔術師を集めて一から鍛えるとなれば何年掛かるか分からない。

 宮廷魔術師として私塾を開き才能有る若い者達を集めれば、何年か後には魔導兵団を作り出せるか?

 

 考えに耽っていたら雷が結構近くで派手に鳴り出したな、遠くの空が光っていたと思ったが段々近付いてきているし雨の勢いも強い。

 窓の外を見れば雷雨の中でも警備兵はフードを羽織り巡回している、悪天候な時ほど侵入し易くなるから警戒は必要だ。

 そう言えばバーナム伯爵とライル団長に頼んだ警備兵の件はどうなったかな?貴族街の屋敷探しも滞(とどこお)っているしハイゼルン砦に出発する前には探したい。

 ハイゼルン砦を落とした後だが、増援として居るだろう敵の別動隊との戦いまで参加するかが問題だ。

 今回の派兵はハイゼルン砦の奪回と旧コトプス帝国の残党狩りが目的だ、ハイゼルン砦を落とされた残党達がエムデン王国領に侵攻すれば戦えるがウルム王国領に留まれば外交絡みの問題だ。

 自国の内乱に他国の軍は引き込みたくないのが普通だ、下手をすれば国境付近で待機とかも有り得る。

 長引くのは嫌だが文句は言えない、外交の交渉次第では協力して戦う可能性もゼロじゃない。

 だが今回は戦いに勝利しても領地を得る訳でもないし戦後処理は大変だろう、ハイゼルン砦は領地としては貰えないし貰っても収入が無いから無意味だ。

 領地も貰えず金銭的な報酬で終わるだろう、それも国庫から出るから高くはなく普通なら派兵費用で相殺だな。

 

「最悪は長期滞在か、普通に考えて宮廷魔術師第二席の僕をすんなり帰してはくれないよな、戦力的な意味でも立場的な意味でも……」

 

 他国の軍隊との交渉は身分が高くて強い方が有利だ、その点で言えば僕は宮廷魔術師第二席だから条件を満たしている。

 酔い醒ましの為にテーブルに置かれたポットの水を飲む、僅かに柑橘類の味がした果汁が搾ってあるのか。二日酔いは大丈夫みたいだが胃に染みる。

 

「ふぅ、頑張って寝るか。明日は手紙と贈り物の処理で忙しくなるだろうな」

 

 多分だが山の様に届けられた祝いの品や手紙を思い浮かべ嫌になる、本心から祝ってくれる者は少ない。

 殆どが礼儀と思惑有りなんだが対応を間違えると悪い噂が広がる、僕はバニシード公爵の派閥からは敵認定されたから仕方無いけどさ。

 

「また王宮内での謀略合戦に身を置くのか、生まれ変わって二度目の人生も生き方は変わらない」

 

 ハァと深い溜め息を吐いた、悩んでいたら雨は大粒になり雷も更に近付いて来てるみたいだ。眠気は全く無いが起きていても仕方無いのでベッドに潜り込む。

 稲光は眩しいし雷の音は五月蝿いが知らない内に寝てしまい、ナルサさんに起こされる迄は熟睡してしまった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝、食堂でバルバドス師と朝食を食べていたが少し問題が発生した。昨夜の雷雨もすっかり止んで朝から快晴だった、少し寝坊したが出仕の時間には十分に間に合う。

 甘党のバルバドス師はジャムを山盛りにパンに塗る、僕はバターだけで良いのだが食卓には五種類のジャムが並んでいる。

 苺にブルーベリー、オレンジと後は何だろう?

 

「お前って大酒飲みの割に食が細いな、大丈夫か?」

 

 向かい側に座るバルバドス師はきっちりと正装している、何処かに出掛けるか来客でも有るのだろうか?

 

「そうですね、少食の類いですが問題は無いです。一応肉体鍛練もしています、体力勝負の冒険者も兼任してますから気を使ってますね」

 

 宮廷魔術師第二席がパーティ組んで魔法迷宮バンクを攻略するのって一般の冒険者からしたら迷惑だろうな、でも看板背負って動いてる訳じゃないから分からない。

 二つ目のギフトとゴーレムのお蔭で魔法迷宮バンクの攻略は他のパーティよりも二十倍以上の収入が有る、宮廷魔術師の俸給も莫大だが更に稼げるので止められない。

 残念な事は長期的に私用で王都から離れる事は出来ないので他の魔法迷宮を攻略出来るかは微妙だな。

 

「もっと食べろよな」

 

 もっと食べろと言われても焼きたてのパンが二個、南瓜のスープに季節の野菜のサラダ、それに茸のオムレツに厚切りのベーコンとボリューム満点だ。

 メルサさんと孫娘のナルサさんが世話をしてくれるが、料理のお代わりは要りません。

 

「申し訳ないですが、もう十分です」

 

「そうか?ふむ、お前から見てナルサはどうだ?」

 

「ナルサさんですか?」

 

 問われてチラリと給仕している彼女を見れば両手をお腹の下の辺りで握り締めて顔を仄かに赤くしている、上目遣いで僕を見る彼女は可愛いがあざとい。

 彼女は自分の魅力を理解し一番効率的に使って来る。

 

「良く出来た娘だと思いますよ、メイドとしても有能だと思います。それが何か?」

 

 何だろう、バルバドス師と彼の隣に控えるメルサさんが嬉しそうだが?

 使用人や孫娘が褒められて嬉しいだけじゃないよな、だが平民のメイドを僕に側室や妾として押し付けるのは無理だぞ。

 

「ナルサはこの屋敷で生まれ育った、有る意味では俺の家族みたいなモノだ。乳飲み子の時から俺は知っている。

最近だが養子候補のバカがナルサを気に入ったみたいでな、何かとモーション掛けて来るらしいが気に入らないんだ」

 

 ああ、確かにメルサさんの孫娘が気に入らない奴の欲望の対象になるのは嫌なんだな。家督を継げば好き勝手出来るからな、周りも使用人の一人位で騒ぐなと言うだろう。

 それが貴族の考え方だ、だが他家に雇われれば手を出せば問題になる。特に身分下位者が上位者の使用人に手を出すなど有り得ない。

 

 だが自分の使用人とは言え他人に理由を話して雇って欲しいと頼む事も貴族としては珍しい、やはりバルバドス師とメルサさんには何か深い絆が有るんだ。

 僕に彼女を押し付けるなど邪推した事が恥ずかしくなった、最近自意識過剰になってるな、気を付けよう。

 

「分かりました、僕も新しく貴族街に屋敷を構えろと王宮勅使の方に言われているので信頼出来る使用人を探していました。ナルサさんが良ければ僕が雇いましょう」

 

 お詫びも含めて彼女の面倒を見よう、ナルサさんの能力は確かだしバルバドス師から託されたと言えばイルメラ達も悪くは思わない。

 対外的にも僕の元に縁者を送り込んだと言えば文句を言う奴は少ない、情報収集で縁者を相手に送り込むのは常套手段だしね。

 

「そうか、悪いが頼むぜ。ナルサもリーンハルトに確り尽くすんだぞ」

 

「分かりました、有難う御座います。リーンハルト様、末長く宜しくお願い致します」

 

 やはりだ、使用人の為に軽くとはいえ頭を下げるなど有り得ない。普通なら貴族のお手付きは上手く行けば妾になれるチャンスでも有る、だから此処まではしないと思う。

 メルサさんは深々と頭を下げている、彼女からすれば孫娘の貞操の危機だからな。だがバルバドス師の養子候補とは嫌な奴なのかもしれないな。

 

 だがナルサさんの言葉は少し変だぞ、末長くって辞めさせる事はしないが僕に嫁ぐみたいに言われたぞ。

 

「実際に僕の所に来て貰うのは新しい屋敷を手に入れた後になるのかな、中々良い物件が無くて難儀しています。バルバドス様は貴族街の外れに有る変わった屋敷をご存知ですか?

確か持ち主はレレント・フォン・パンデック殿だと思いますが……」

 

「ああ、あの蔦だらけの古い屋敷だろ?妙な防御陣が組み込まれているよな、アレって人避けの効果が有ると思うぜ。詳細は持ち主も知らないそうだかな、アレが欲しいのか?」

 

 む、この口振りだとバルバドス師は持ち主や屋敷の経緯を知ってそうだな。

 

「はい、魔術師として気になっています。確かに人避けの効果が有る継続魔法が掛かってますし屋敷自体に掛けられた固定化の魔法も素晴らしいです。

手に入れられるなら色々と調べてみたいのです、問題児の僕は曰く付きの屋敷位が丁度良いですから」

 

 腕を組んで考え出したが、もしかしてあの屋敷って貴族の間では禁忌な問題でも有るのかな?だから僕に勧めるのを悩んだ?

 三分位考え込んでいるので僕も料理に手を付けずに待つ、バルバドス師をこれだけ悩ませるのだから問題有りなんだな、諦めて普通の屋敷を探すか……

 

「変わり者のお前なら、あの屋敷の秘密にも辿り着くかもしれないな。だが予算は有るのか?あの屋敷だと相場でも金貨二十万枚以上にはなるぞ」

 

 金貨二十万枚か、ドラゴン狩りの収入が金貨六万枚。宮廷魔術師の収入が凄い事になっている、第七席で月に金貨二万枚と席次報酬を含めて年間金貨二十五万枚。

 そして第二席に昇格したら月に金貨が三万枚で席次報酬が金貨五万枚、差額の十六万枚を貰ったので手持ちの資金は金貨四十七万枚を超えている。金銭感覚が狂うな。

 

「いくら宮廷魔術師になっても未だ自分で稼ぎだして三ヶ月だからな、俺が貸してやるよ」

 

「大丈夫です、貯蓄は無くなるけど稼げば良い……あの、無言で近付いて右手を振り上げないで下さい。拳骨は嫌です」

 

 その無言で腕を振り回して来られると警戒します、未成年ですが金貨四十万枚以上持ってますが真面目に稼いでるのです!

 

「そうだったな、ドラゴン種の買取り値段と宮廷魔術師第二席の俸給だけでも凄い金額だよな、お前は何もかもが変だぞ。屋敷の件は俺に任せろ、変な条件を付けずに金銭だけで交渉してやる」

 

「有難う御座います、流石に宮廷魔術師第二席になっても新貴族街の歴史の浅い屋敷に住んでいると周りが五月蝿そうで嫌だったんですよ。僕は気に入ってたのに残念です」

 

 最後までバルバドス師には叱られたり呆れられたりしたが、あの屋敷の件は何とかなりそうで良かった。

 


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