古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第281話

 ハイゼルン砦の奪還について公爵五家の思惑も混じり合い大事になってしまった、僕の援軍だがバーナム伯爵とデオドラ男爵にも声を掛けて少数でも頼むつもりだ。

 参加して貰う事に意味が有り戦いが大好きな彼等なら喜んで参加してくれる筈だ、勿論本人達は不参加で配下の者をお願いする。

 

 あの二人ならハイゼルン砦を奪還出来そうで怖い、二人で正面から乗り込んで何とかしそうだよな……

 

 一旦自分の執務室に帰り、バーナム伯爵とデオドラ男爵には手紙で知らせないと揉めそうだ。

 本来なら夜に屋敷を訪ねて直接報告すべき問題だが、今夜はバルバドス師の屋敷に勝利の報告に行く約束が有るから明日の夜だな。

 ビアレス殿の出発の一週間後にしたから最短でも十日、長ければ二週間後には王都を発つ事になる。ハイゼルン砦を落とした後は状況次第では連戦になる、籠城には外部からの増援と補給が必要。

 つまり他にも旧コトプス帝国の残党は居る、そいつ等を見付けられれば殲滅したいがウルム王国内に居ると攻めるのは難しい、他国の領内に侵攻する事になる。

 

「政治的圧力で侵攻するとウルム王国との関係も悪化する、それは好ましくないがハイゼルン砦を奪い取る結果にもなる。どちらにしてもウルム王国との関係は悪化するか……」

 

 またアーシャに泣かれてジゼル嬢には呆れられるんだろうな、自分で選択したから言い訳はしないが側室を泣かせるのは辛い。

 

 ついに戦争か、予測はしてたし準備もしていた。自分の立場も固まった状態で参戦出来る、予定通りと割り切って頑張ろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ただいま、留守中に何か有った……どうしたんだ、二人共?」

 

 自分の執務室に帰れば、ハンナとロッテが目を爛々と輝かせて待っていた。何時の間にか着替えたのか朝と衣装が違うし髪型まで変えたのか?並んで深くお辞儀をされたが色々と聞きたくてウズウズしてるのが伝わって来る。

 

 だが今は報告の手紙を書くので忙しいんだ、暫く相手は出来ないぞ。

 

「宮廷魔術師第二席、昇格おめでとうございますわ」

 

「ん、有難う。宣言通りに勝てて良かったよ」

 

 輝く笑顔でお祝いを言われた、嬉しいのだが彼女達の場合は悪いが警戒してしまうな。

 

「宣言通りの勝利に私達も盛り上がりましたわ、是非とも二回目の侍女達とのお茶会に参加をお願いします。今度は参加者が三十人位になりそうですわ」

 

 三十人って、それは個人を招くお茶会の範疇を逸脱してるよ、無理だって。

 

 興奮する二人との温度差を感じながら執務机に座る、マグネグロ殿を倒した後の僅かな時間で親書や恋文や贈り物が増えている。

 これは自宅の方も凄い事になるだろう、でも家臣として雇ったアシュタルとナナルに安心して丸投げ出来る、家臣の必要性と有り難みを痛感した。

 

「大事な手紙を書く、暫くは誰も寄せ付けないでくれ。それと再来週末辺りでハイゼルン砦奪還に出発するよ、ニーレンス公爵とローラン公爵が援軍を寄越してくれるそうだ。今は此処までしか教えられないから……」

 

 そう言えばバセット公爵との絡みは無かったな、ニーレンス公爵から情報が行くから大丈夫かな?ハンナはバセット公爵の縁者だし多少の情報流出は仕方無いか……

 

「分かりました、来客の取り次ぎは致しませんわ」

 

「紅茶の御用意だけさせて下さい、それと私達でケーキとクッキーを焼きましたので一緒にお持ちします」

 

 真面目モードに切り替えつつ手料理を差し込んで来るのが流石だな、急いで仕事をする為に思考を切り替える。 先ずはデオドラ男爵とジゼル嬢宛への報告から書き始めるかな、予定通りにマグネグロ殿には勝てたがハイゼルン砦の攻略を押し付けられた。

 攻略自体は問題無いがニーレンス公爵とローラン公爵から精鋭を応援として貰った。これが最大の問題だろう 緯(いきさつ)を書き終えてペンを置く。

 インクが乾いたのを確認し折り畳み封筒に入れて宛名を書いてから蝋燭をたらして密封する、これで一通目が完了だ。

 次は報告書とは別にジゼル嬢とアーシャに私信を書いてからバーナム伯爵への報告書、それとイルメラとウィンディアにも書いて……

 

「またジゼル嬢に叱られそうだな、アーシャは泣くだろうし何か贈り物でも用意するか。イルメラやウィンディアにも何かプレゼントを贈ってご機嫌伺いだな」

 

 最愛の人達の喜びそうな物を考えるがアクセサリー位しか思い浮かばない、ライラック商会に寄って見繕って貰おう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸く手紙を書き終わった、窓の外を見れば夕陽が差し込んで来て真っ赤に見える。前にウィンディアが白亜の王宮に夕陽が当たり燃える様だって言ったっけ……

 呼び鈴を鳴らすと待っていましたとロッテとハンナが部屋に入って来た、手紙を書いている時に何人かが訪ねて来たのは気配で知っているが取り次ぎはしなかった。つまりそこまで偉い人は訪ねて来ていないな。

 

「リーンハルト様、お呼びでしょうか?」

 

「ああ、手紙を届けて欲しい」

 

 実務机の上には親書二通と私信四通が有る、書くのに二時間近く掛かったのだが女性四人分の方が苦労した。何度か書き直したから……

 

「承りました」

 

 手紙を受け取ると一旦退出したが直ぐに戻って来た、事前に手紙を届ける人を呼んでおいたみたいだ。 有能なのは理解してるが直ぐに戻って来て二人並んで笑顔で見詰めて来るのは何か話が有るんだろうな。未だ帰る迄には少しだけ時間も有るし一応話を振ってみるか。

 

「僕が部屋に籠っている間に誰か来たかい?」

 

「はい、親書が三通届きました。送り主はラデンブルグ侯爵とエルマー侯爵、それとザスキア公爵からです。此方になります」

 

 ザスキア公爵だって?全く接点が無かった公爵五家の最後の一人だ、先程の会議でも会話は無かった。値踏みする様な視線も無く優しい笑みを浮かべていた三十代位の美人だった印象しか無い。

エルマー侯爵はバニシード公爵に嫌味を言った小肥りの中年男性で侯爵七家の五番目、ラデンブルグ侯爵は二番目だったな。

 

ハンナがトレイに入れた親書を差し出して来た、三通共に豪華な親書で特にザスキア公爵の親書には綺麗な青い鳥の尾羽根が刺さっている、これってマジックアイテムだぞ。

取り敢えず放置は出来ないから内容を確認する必要が有る、先ずはエルマー侯爵の派手で豪華な封筒を手に取る。金箔と花弁で飾られている親書の封を切り中身を取り出て読む……

 

「援軍の申し出か、清々しい位に勝ち馬の尻に乗るつもりだろうか?善意にしても公爵二家の面子も有るし無理かな?」

 

 ビアレス殿の側には行かずに僕に助力を申し出た、突き放すと敵に廻りかねないのがこの手の連中なんだよな。ニーレンス公爵とローラン公爵にお伺いを立てるしかないな。

 

 次にラデンブルグ侯爵の親書を手に取る、此方は染料で染めたシンプルな品の良いデザインだな。手紙を取り出して読む……

 

「既に最前線で戦っているので敵の詳細な情報を教える事と協力の要請か、現地で私設部隊と合流し援助をお願いしたい。見返りはどんな希望も叶えるね、随分と気前が良いが怖くて仕方無いな」

 

 ラデンブルグ侯爵は自分の領地のゴタゴタを自分でケリを着けたい、だが僕とビアレス殿が競う様に戦いを挑み更に討伐遠征軍の本隊が続く。

 良い様に自分の領地を荒らされて復讐は他人任せ、面子も有るし我慢出来ないだろう。だから見返りはどんな希望も叶えると言ったんだ。

 そしてバセット公爵とも繋がってそうだ、勝てれば派閥構成員だから公爵三家の手柄にもなる。

 

 後は宮廷魔術師第二席でドラゴンスレイヤーな僕ならば万が一も有ると思って保険を掛け様としているかだな……

 

 この辺の腹芸が僕には出来ないんだ、予測は出来るが断って良いか悪いかは分からない。

 

「む?どうしたハンナ、じっと見詰められると困るのだが」

 

妙に熱い視線を感じてしまう、照れは無いが気まずいんだ。

 

「ラデンブルグ侯爵はバセット公爵と繋がりが有ります、出来れば協力して欲しいのです」

 

「気持ちは分かるが増援ばかり増えても困るんだ、実際戦うのは僕だけで良いからね。

二千人が籠城しているなら三倍から五倍の戦力が必要だが集まって千人位だろうし、中途半端に集まっても移動とか補給とか大変だし逆に足手まといなんだ」

 

手紙を机の上に置く、既に公爵二家とバーナム伯爵の派閥からの応援を貰う、そこにバセット公爵絡みのラデンブルグ侯爵や全く絡みの無かったエルマー侯爵の援軍を増やす?

 

あれ?断る事を匂わせたのだが悲しみより驚きの表情だな、変な事は言ってない筈だぞ。

 

「そうですわね、ですが現地の情報は必要でしょう?援軍は不要でも情報提供ならどうでしょうか?」

 

「ふむ、現地の生の情報は助かると思うけど……」

 

 僕に必要か?僕の『リトルキングダム』なら何とかなると思うから倒す相手の情報には拘らなくても良くないかな?

 やはりジゼル嬢と相談しないと決められない、恩には恩で返さなければ駄目だが必要性が低いと思うんだ。

 余り味方を増やすと成果も分配されるんだよな、僕は侯爵七家と同等扱いだが公爵五家より格下なんだ。その公爵の三人から応援を貰うのは……

 

「忘れてた、ザスキア公爵からも親書を貰ってたんだ。これで公爵五家の当主とは全て接触した事になるのか」

 

 先ずは親書に添えられた青い鳥の尾羽根から鑑定する、正式な名前は『青い尾羽根』で効果は『魔力UP大』だ。

 魔法迷宮バンク八階層のボスである『蒼烏』のレアドロップアイテムの『黒い尾羽根』と同じシリーズみたいだな、しかし魔術師の僕に『魔力UP大』の効果は抜群だな。

 

「この青い鳥の尾羽根は見た目の通り『青い尾羽根』だけど魔力を底上げする貴重なマジックアイテムだ、価値は高い。さてコレをタダで寄越すとなれば……」

 

 品薄でオークションでしか手に入らない魔術師にとっては最も価値の高いアイテムを寄越す位だ、かなりの条件を言ってくる筈だ。

丁寧に親書を開いて読む、最初は普通に自己紹介と僕を持ち上げる言葉が書かれている、直筆だろう女性らしく丸みを帯びた綺麗な文字だし紙も僅かに良い匂いがする。

続けて読めば本題だろう、ザスキア公爵の要求は……

 

え?一緒にオペラを見に行きましょうだと、何だこの要求は?

 

 物凄く丁寧な前書きから本題は一行だけだ、しかも一緒にオペラ?何を考えているんだ。裏は何だ、彼女は何を考えているんだ?

 全く予想外の内容に頭の中が真っ白になる、彼女と一緒にオペラに行くとどうなるんだ?

 

「どうかしましたか?手紙を持って固まってましたが?」

 

 ロッテの声に我にかえる、予想外の出来事にも対処するのが魔術師だろう、落ち着いて先ずは情報収集だ。

 

「いや、何でもないよ。少し疲れたのかも知れない……この二人、エルマー侯爵とザスキア公爵の情報を教えてくれるかな?」

 

動揺を悟られずに落ち着いて丁寧に手紙を畳んで封に戻す、これを見られたら何か嫌な事に発展する感じがする。

だが誤魔化し切れずにハンナもロッテも少し怪しんでいる感じだな、結構鋭いから何か普通と違うとはバレただろうな?

 

「エルマー侯爵ですね、先代から家督を継いでからは良い噂は有りません。典型的な長い物に巻かれろ的な考えの持ち主です」

 

「ただ最初からでも途中からでも必ず最後は有利な方に付く選定眼は評価されています、ですが裏切りが多いので評価も低く重用もされません」

 

 ふむ、状況把握に優れて有利な所属陣営を選べるのか、確かに評価には値するが不利になると裏切り上等じゃ重用なんて出来ないな。

 今回は最初から僕を選んだ、だが彼の応援を拒否すると嫌がらせして来る気がするが敵対行動はしない。

 

「面倒臭い方なのは分かった、自軍に引き込んでもメリットは殆ど無いけど拒否れば嫌がらせ位はする意地の悪さを感じるよ。それではザスキア公爵は?」

 

 本命の方を聞いたが二人共に困った表情だな、言い辛いのは良くない事が多いからか?僕に入ってくるレベルの情報で悪い噂は聞かないのだが……

 

「年下の美少年好きの方です」

 

「でも無能は嫌い、有能な美少年が大好きなお方です」

 

「は?」

 

えっと幼女趣味は良く聞くが少年趣味って事なのか?僕をオペラに誘ってくれたのって誘惑されるのか?

 


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