古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第28話

 長い十人位座れる大きなテーブルに真っ白なクロス、その上に並べられた料理は全て僕の好物ばかりだ……

 

「入学手続きですか?」

 

「そうだ、冒険者ギルド養成学校に入学したという証明みたいな物だな。王都のギルド本部に行ってギルドカードに記載するだけだ、それと幾つか渡す品物も有るそうだぞ」

 

 実家から夕食に招かれた、明後日から冒険者養成学校に行く事になるので報告を兼ねての事だ。僅か一週間と少ししか家を出ていないのだが、予想以上にインゴの疲労が酷いのは……

 バーレイ男爵家を継ぐ為に騎士としてエムデン王国に仕えねばならないから父上に扱かれてるんだろうな。

 相変わらずのポッチャリ体型だが目の下に隈が出来ているな……頑張れ!

 久し振りの家族全員で食卓を囲む。バーレイ男爵家でのイルメラはメイドだから今は給仕に専念している。

 父上と母上は表面上は変わらずインゴのみ疲労を蓄積した感じだ。

 本来なら食後のお茶を楽しむ時に会話を楽しみ、食事中は基本的に無言なのだが今日は違うみたいだ。

 

「分かりました、明日ギルド本部にカードの更新に行く序でに済ませてきます」

 

 予想以上にバンク攻略は順調で二階層のボスであるオーク狩りを続けた結果、めでたくレベルは20になり貯金も最初の所持金を含めて金貨350枚を超えた。

 明日は一日休みの予定だったのでイルメラと一緒にギルド本部に行ってみよう。

 

「む、それで……冒険者として魔法迷宮バンクの探索をしてるそうだがどうだ?」

 

 今夜は食事のマナーは関係無さそうだな、久し振りの実家の料理を余り味わえないみたいだ……

 鶏の香草包み焼きは好物なんだけどな。

 エルナ嬢も会話に積極的に参加はしないが話自体には興味が有るみたいで、さり気なく僕を見ているし。

 インゴの興味は皿の上の鶏の香草包み焼きだけみたいだ。物凄い勢いでナイフとフォークを動かして鶏肉を切り分けては口に突っ込んでいる。

 最低限のマナーは守っているから父上も母上も文句は言わないが、体を動かして消費した以上に物を食べると太るぞ、インゴよ。

 

「順調です、レベルも20になりましたし資金稼ぎも予定通りです」

 

 予定通りどころかオーク狩りは一日に金貨50枚を超える稼ぎになっている、それはレアギフト(祝福)とゴーレムを使った戦闘の賜物だけどね。

 

「レベル20と言えば冒険者として一人前だそうですね、素晴らしい事ですわ」

 

 エルナ嬢が口元をナプキンで押さえながら会話に参加してくる、珍しいな。普段は此方からの質問に対して応えてくれるだけなのに……

 

「そうですね、明後日から冒険者養成学校で基礎的な知識から学んでいけば、恥ずかしくないだけの冒険者として生きていけます」

 

 早くランクC以上になって下級貴族程度の圧力は跳ね返す力が欲しいです。

 

「バンクの管理小屋の騎士達からも報告が上がってきてるぞ。何でも有能な新人として活躍してるらしいな。

バルバドス殿の門下生との件も聞いている、騒ぎを抑える為に王都ギルド本部が動いたそうだ……」

 

 父上と母上から交互に話し掛けられては食事に専念は出来ないな。鶏肉を諦めてナイフとフォークを置く。後でイルメラに夜食を頼もう。

 

「王都ギルド本部がですか?」

 

 何故わざわざ王都のギルド本部が僕の為に動くのだろうか?基本的にギルドはCランク以上の冒険者にしか力添えをしない筈だし、当事者の僕は何も聞いていない。

 尽力したんだから何か寄越せとか言われても、勝手にギルド本部が行ったんだろうと反論出来るのか?

 

「ああ、バルバドス殿に門下生を抑えろ、お前には不干渉をしろと話が行ったらしいぞ。

奴等冒険者ギルドが貴族に対して干渉してくるのは珍しくは無いが、未だ名前も売れていないお前の為に動くとは珍しい事だ。

建前としてはギルドに所属している会員同士での諍いを禁止する的な事らしいがな、どう見てもお前に対する配慮だろう……」

 

 僕のレアギフト(祝福)の件でか、ニケさんに渡したハーフプレートメイルでもバレた件でか、何が僕を冒険者ギルドに有益と判断したのだろうか?

 急速に食欲が無くなってきたし胃がジクジク痛いぞ。

 ワイングラスを持ち上げようとしたらイルメラが注ぎ足してくれたので、一気に煽って咳き込んだ……

 

「ケホッ……ああ、有り難うイルメラ……もう大丈夫だよ」

 

 ナプキンで口元を拭いていると彼女が背中を擦ってくれるが、メイドの仕事範疇的にはマズい対応か?

 二人暮らしで彼女との距離が縮んだ気がする。

 

「父上、思い当たる節は有りませんが、一応は有能な魔術師としてギルドには認識されているのでしょうか?

バルバドス塾の高弟である、三羽烏?の内の二人は倒しましたから……」

 

 最近あの変な二人を見ないのはギルド本部が動いたからか……パウエルさんに御礼を言っておくかな。何か有れば相談してくれって言われたから、もしかしたら彼が動いてくれたのかもしれない。

 

「そうだな、14歳にして大人でも苦労する魔法迷宮を探索出来るのだからな。お前は自慢の息子だよ」

 

 それっきり父上は喋る事はせず夕食はお開きとなった。

 父上も自慢の息子を廃嫡する事が気になって仕方ない素振りだが、本人が望んでいるのだから大丈夫なのに……

 今夜は実家に泊まり明日はギルド本部に行く事にするかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝目覚めると父上は既にインゴを連れて騎士団の練兵場に出掛けていた、騎士団員との合同早朝訓練に参加させる事により顔と名前を知ってもらうのだろう。

 エルナ嬢と向かい合わせでの朝食は未だに緊張するが、昨夜の夕食とは違い食事中は無言で食後のお茶を楽しむ時に少し会話をした。

 

「明日から学校ですが準備は済んでますか?」

 

 貴族的マナーの見本のような所作で紅茶を飲む彼女から当たり障りの無い質問が来る、今日は純白で清楚なドレスを着込んでいるが、とても一児の母とは思えない若々しさだな。

 未だ20代後半だが本人も美容に対して色々と努力してるみたいだ。

 

「後は冒険者ギルド本部に行ってギルドカードの更新と記載だけです。手続きの殆どは父上が済ませてくれましたので」

 

 アルノルト子爵には思う所が有るがエルナ嬢には感謝こそすれ恨みなどは無い。だから普通に接する事が出来る。

 彼女自身も自分の実家が裏でコソコソ動いているのは知っていても、まさか暗殺までするとは考えていないし今は我が子のインゴがバーレイ男爵家の跡取りだ。

 実家から次男の息子を跡取りにしろと言われていただろうからな、今は落ち着いているのだろう。

 

「そうですか、未だ成人の儀も済ませてないのに独り立ちさせる事に心苦しく思ってましたが……」

 

 僕は成人して即廃嫡狙いなので華々しく成人の儀はしたくないです、残念だが彼女達とは徐々に距離を置かねばなるまい。

 

「いえ、逆に僕の方こそ残されたインゴに悪く思っています、今日も父上と共に騎士団で扱かれているのでしょう?

僕は元々貴族の生き方に疑問を持ってました、柵(しがらみ)だらけの生き方に……

今では冒険者として自由に生きる方が性に合ってると思ってます」

 

 頑張れば父上よりも稼ぎが多いんですよと、冗談っぽく言って彼女を笑わせた。

 少しでもエルナ嬢の良心の呵責が減れば良いと……

 実際に騎士団の副団長としての父上の収入は金貨2000枚、それに男爵としての年金が金貨1000枚で年間金貨3000枚。

 領地持ちならもっと収入が有るけど十分な収入だろう、役職の無い連中だと年金のみなのだから……

 

 僕はバンクの二階層でも頑張れば一日金貨50枚、この先更に下層階へ行けばもっと増える。

 勿論、全額が自分の物でないし必要経費その他諸々の出費は有るがトータルなら同額か少し上を稼げるかな?

 他の同レベルの冒険者達が一日金貨2枚稼げれば御の字なのだから、僕の能力は本当に恵まれている。

 エルナ嬢から解放されたのは一時間後だった、何故か毎月一回は実家に帰る事を約束させられた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者養成学校入学当日……

 

「リーンハルト様、前髪がはねてます」

 

「む、すまない……では早く帰ってくるので留守を頼むね」

 

 何処の新婚家庭かよと突っ込みが入りそうな会話をして自宅を出た。自宅は住宅街の中級層の多く集まる場所故に新婚家庭が多く、同じような事が周囲でも行われている。

 流石に行ってらっしゃいのキスとかは……憧れは有るが人前では無理だ。

 イルメラに頼めば笑顔でしてくれるとは思うが、それは何か違う。

 漸く入学式当日を迎える事が出来たが暫くはイルメラと別行動になるだろう。

 自宅を出てのんびりと歩いて冒険者養成学校の有る商業区に向かう。早朝は人通りも少なく長閑だ。

 綺麗に敷き詰められた歩道を歩いてると何台かの馬車と擦れ違う。仕事に向かう裕福層の連中だろうか? 貴族達程の豪華な馬車ではない簡素な物が多い。

 因みに自宅から冒険者養成学校までは徒歩でも10分で行けるので僕は徒歩だ。疲れたらゴーレムを召喚し肩にでも乗れば良いのだが、目立つからしない。

 住宅街と商業区の間には城壁が有り門には兵士が詰めているが殆ど毎日通っているから顔見知り。

 

「ご苦労様です」

 

 軽く会釈しながら挨拶する。

 

「今日から冒険者養成学校に通うんですよね、頑張って下さい」

 

 見知らぬ人はチェックするが住人に対しては比較的緩やかだ。それに僕は14歳の子供だから警戒心は低いのかな?

 

 しかし年上に敬語を使われるのには慣れないが、上手くコミュニケーションは取れていると思う。

 新貴族の男爵家の子供が偉ぶったって仕方ない、来年は廃嫡され平民になるのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 冒険者養成学校は王都の冒険者ギルド本部と隣接している。教員もギルド職員が兼任らしいし実技講習は実際に依頼を受けるらしいから丁度良いのだろう。

 新入生全員は大広間に集められているが、今年は全員で50人程しか居ないのかな?

 壁に寄りかかり新入生を観察すると男女比は七対三くらいで男性が多い。

 殆どが戦士系らしく軽鎧に剣といった出立ちだが、中には見た目にも高級な服を着ているのも居る。入学式だから正装で来たのだろうか?

 僕はレザーアーマーの上に魔術師の正装である黒色のローブを着ている、同じように白いローブを着ている人が居るが魔術師は二人だけみたいだ、因みに僧侶は居ないな。

 このメンバーで仮パーティを組んで実技講習をするのか……

 殆どが十代前半、裕福な家庭で育ったが家は継げない連中だから冒険者としての基礎をこれから学ぶ連中だ。

 つまり未だ冒険者ギルドに登録しただけの素人連中が殆どだな。

 数人で輪になり楽しそうに話しているグループも居るが、これからが大変だぞ。

 入学前に資料は読んだが、基本的に出席率に拘ってないし座学は午前中のみの選択制で自分の学びたい授業だけ出れば良い。

 午後は実技だが此方も選択制で武術や魔術、盗賊の技能を現役のギルド職員か冒険者に教えてもらえる。実際に依頼を受ける場合は学校を休んでいくので計画性が無いと学びたい授業を欠席してしまう。

 やはり冒険者ギルドは意地悪だな、自由という餌に自分を甘やかすと一人前に成れない。

 才能の無い連中を篩(ふるい)にかけていると言う意味でなら抜け目ない。

 考え込んでいたら白いローブの魔術師が話し掛けてきた。

 

「どうやら今年の新入生で魔術師は二人だけみたいね。仲良くしましょう」

 

 ゆったりしたローブで性別が分からなかったが、どうやら若い女性らしい。魔術師が二人しか居ないなら仲良くしておくべきだろうか?

 

「ええ、此方こそ宜しくお願いします。リーンハルトと言います」

 

 軽く微笑みながらフレンドリーに挨拶を返したのだが、見覚えが有るぞ……そうだ! 『デクスター騎士団』の生き残りの、確かウィンディア嬢?

 

「詳しい話は後で、今は初対面として対応しましょう」

 

 悪戯っぽく微笑んで小声で話し掛けてきたが、何故君が此処に居るんだよ?




あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。
1月中は毎日連載出来そうです。

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