古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第278話

 宮廷魔術師関連の引き締めの最終目的である第二席殿との戦い、安い挑発に乗ってくれたので助かった。

 元々火属性魔術師達は性格的に強気な連中が多い、僕の主観だがマグネグロ様は典型的な強気で負けず嫌いな性格だ。

 だから格下と思っている僕に挑発された事で頭に血がのぼり冷静な判断が出来なくなってしまった、少し考えれば勝負を受けても自分に利する事など殆ど無かったんだ。

 適当に断る理由を考えれば逃げたなどと言われない、第二席と第六席にはそれだけの差が有る。

 

 第一段階は成功、言い掛かりに近いが生死を問わない勝負に持ち込めた。

 第二段階は失敗、火属性魔術師はその時々の精神状態により威力を増す、今の彼はヤル気に満ちている。

 第三段階は実行不可、精神的に揺さぶりを掛けるつもりだったが、人の話を聞く状態ではないかも……

 

「殺す、ブッ殺す!今更詫びても許さない、燃やし尽くしてやるぞ!」

 

 手に持つワンドを振り回して騒ぎ出した、落ち着きは無さそうだし纏う魔力も揺らいでいるが総量は増えている。テンションが上がると威力を増すタイプだな。

 

「そうですか?では宮廷魔術師万年第二席の力を見せて貰いましょうか?」

 

 此処でも安い挑発を行う、大分怒りでテンションが上がっているな。だが未だ開始の合図が無い、舌戦だけでは面白味に欠けるな。

 お互いに言い合いながらも距離を取る、練兵場の真ん中で距離は30mで向き合う。

 気になるのが観客の増え方が早い、僕が練兵場に来てマグネグロ様に勝負を挑んでから十分も経っていないのに三倍近く増えている。特に女性陣が多くないか?

 

「もう始めて良いか?魔術師ならば口よりも己の得意魔法で優劣を付けろ!」

 

 サリアリス様が模擬戦開始の合図を送ってくれた、手に持つ杖を振り下ろしただけだが僕等には分かり易い。

 

「こうして向き合っているとお前の師匠を思い出すぞ、奴も下らないゴーレムに拘りが有ったみたいだが俺の弾除けにしかならなかったぜ。知ってるか?奴は俺に勝負を挑んで無様に負けて引退したんだぜ」

 

 下品に笑いながら我が師バルバドス様の悪口を言ってくれたな、しかも取り巻き達迄も笑っている。言い返す為に息を大きく吸い込む。

 

「下らない時間稼ぎの為に我が師匠を貶すとは愚かな行為ですよ、ハンデとして攻撃しないで待ってあげているのです。本来なら周囲にゴーレムを召喚して瞬殺です。早く詠唱や準備を終えて下さい、貴方との会話は不愉快でしかない」

 

 大声で挑発する、実際に魔力を練って大技の準備をしているし時間稼ぎも間違いではないだろう。

 だが額の血管が浮き出ているし野犬みたいに歯を食い縛っているな、沸点が低すぎるぞ。魔術師としては失格だな……

 

「もう許さねぇ。死ね、糞餓鬼がぁ!俺の攻撃を」

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、奴をブッ潰せ」

 

 何か騒いでいたが四方にゴーレムルークを錬成し巨大なメイスを振り被る。

 

「のぅわ?おま、あぶねぇ!溶岩弾、溶岩弾、溶岩弾!まだだ、ようがんだーん!」

 

 突然四方から6m以上のゴーレムが武器を振り被っているのを見て慌てて溶岩で出来た直径50cm程度の火球を無茶苦茶に撃ち込む、当たると爆発するので二~三発当たるとゴーレムルークでもダメージが大きいな。

 合計四体のゴーレムルークに十五発もの火砕弾を撃ち込んで漸く倒す事が出来たみたいだな、手加減はしたが良くやったと誉めるべきだと思い拍手をする。

 

「お見事ですよ、でも四体倒しただけで息切れとは情けないですな。精進が足りませんね」

 

 ゆっくりとパチパチパチと拍手をしてあげる、最初に召喚したゴーレムルークを倒すだけで結構消耗してるな、手加減して補修も追加もしてないけどね。

 ゴーレムルークを魔素に還す、四体でギリギリなら六体で攻めれば勝てるだろう。

 観客達のテンションも上がっている、大型ゴーレムの瞬間錬成にマグネグロ様の溶岩弾乱れ打ちは見ていて楽しいだろう。黄色い声も聞こえるが殆ど僕なのはロッテとハンナの仕込みの所為だな。

 少し嬉しいが感謝はしない、きっとお茶会への強制参加の布石だろうし。

 

「お、お前は許さねぇ!もう我慢ならん、俺の必殺技を見せてやる」

 

「はいはい、頑張って下さい。待っていてあげますからね」

 

 攻防一体の『溶岩地獄』がマグネグロ様の最大で最強の魔法、そして僕が彼より強いと周りに認められるには破らなければならない魔法。

 普通にゴーレムルークの集中攻撃でも押し切れるのは確認したが、それでは周りに運が良かったとか接戦だったとか言われてしまう。

 

 だから最強の魔法を正面から破る、破らなければならない!

 

「余裕かますんじゃねぇ!これが俺様の最大最強の必殺技、『溶岩地獄』だ!」

 

「攻防一体って噂、本当ですか?確かめてみましょう」

 

 手に持つカッカラを頭上で一回転させてから振り下ろす、先端に付いている宝環がシャラシャラした澄んだ音を奏でる。僕はこの音が好きだ。

 

 魔法迷宮バンクの八階層のボスである『蒼烏(あおがらす)』を倒した包囲陣を展開する、正面と左右に三十体ずつ合計九十体のゴーレムナイトをロングボゥを構えた状態で三秒で錬成する。

 もはや淑女ではないと思うほどの侍女達の声援に軽く手を振っておく、良く見れば侍女見習いの若い令嬢も多いな。ハンナ達はどれだけ誘ったんだ?

 

「な?貴様、卑怯だぞ。数で攻める気か」

 

「我等宮廷魔術師とは戦場では一騎当千でなければならない存在です、貴方は違うのですか?

貴方が本当に戦場で役立つか調べて差し上げましょう、先ずは小手調べに弓矢を防げるか?三回斉射しますよ」

 

 指を鳴らすと三方から一斉に九十本の矢が射られる、どう守る?

 

「調子に乗るなぁ!俺様の『溶岩地獄』を……うわぁ、くそっ、ちょ貴様ぁ!」

 

 自身の周りの地面を溶岩に変えて操る火属性魔術師の操る上級魔法、一応事前に調べたし今も解析している、要は熱を制御する事で大地を溶かしている。

 結構な魔力を流し続けなければ維持出来ないし制御範囲も狭い、これではサリアリス様の『凍える大地』に勝てない筈だ。アレは広範囲の熱を一瞬に奪う僕でも防御不能な攻撃だ。

 そもそも断熱に対しては炉などのノウハウは持っているが冷気を防ぐ手立ては無い、一応対処方法を研究しておくか。

 

 三回斉射した矢は溶岩を自身の周りに盛り上げて囲む事で壁を作り防いだ、溶岩に突き刺さった矢は熱により赤くなっているが溶けてはいないな。

 溶岩は粘り気が大きい方が温度が低く900度前後、小さいと1200度位まで上がる、鉄の融点は1500度前後だから完全に溶けないなら1000度前後とみるか?

 ふむ、厚みも30cmというところだし鉄製の投げ槍ならば貫通しそうだな。でも1000度近い溶岩を自在に操れるなら増長もするか……

 

「ふはははは、どうだ?俺様の『溶岩地獄』は無敵だぞ、貴様のゴーレムなど目でもないわ!」

 

「そ、そうだ。負けを認めろ」

 

「降参するなら今だぞ、宮廷魔術師を辞めてしまえ」

 

「我等の長の強さを思い知っただろう!」

 

 取り巻きが五月蝿いな、手加減した攻撃を一回防いだだけで勝ったと思うとは情報分析力が無いのか?

 確かに大した防御だが僕の魔法障壁と大差ない、一般兵なら火傷を恐れて近付けないが手段は色々有るぞ。つまり……

 

「戦場で『溶岩地獄』を使った事は有りますか?」

 

 威力は認めるが戦闘では使い辛いだろう、一対一なら効果は有りそうだが上空の守りが疎かだから弓なりに投擲攻撃をすればダメージを与えられると思う。

 

「有る訳ないだろう、俺様は其処まで追い込まれた事は無い、今回は特別なんだぞ。で、どうするんだ?降参するなら許してやらんでもないぞ、ん?」

 

 溶岩の壁を下げているが今攻撃されたら防げるのか?僕が攻撃しないと思ってるのかな?

 つまりマグネグロ様は常に戦場では護衛と共に行動する今の時代の戦術でしか戦ってない、遠距離攻撃魔法を撃ち込む機動力や防御力は無縁の戦いしかしてない。

 確かに溶岩弾は強力だし連射も出来るから一般兵なら千人単位で圧勝出来る、でもそれだけだ。

 

「どうする?ですか……そうですね、見るものは見たからもう結構です。

最後に僕の単体最強ゴーレムを特別に見せて差し上げます。ゴーレムビショップよ、古い戦いしか知らない者に新しい力を見せてやれ!」

 

 三十体のゴーレムナイトを魔素に還し、自分の前にゴーレムビショップを錬成する、現段階での単体最強ゴーレム。鋼鉄製の全長2.5m、盾は装備せず両手持ちの大剣だけを持たせた。

 大量の魔素が練兵場を覆い、晴れたら巨大なゴーレムビショップだけが鎮座している、周りの観客達の興奮も凄いな。

 

 ハンナ、ロッテ……淑女たるもの興奮しても抑えた方が良いと思います、周りの連中を抑えて下さい。

 王宮勤めの侍女達は上級貴族の子女の憧れの職業の筈なのに、手を振ったり隣の人の肩を叩いたり少し品性が……

 

「見せ掛けだけのデカいゴーレムじゃ、俺の『溶岩地獄』は破れないぜぇ」

 

 確かに溶岩弾だったら破壊されるリスクは有った、でも爆発の無い熱のみの1000度前後の溶岩では融点が1500度の鋼鉄製ゴーレムビショップは倒せませんよ。

 

「ええ、分かりました。遠慮なく全力で行きます」

 

 ゴーレムビショップは制御ラインを二十本繋げてある、何度か見せて貰ったアノ技を真似てみる。

 

 右手で大剣を持ち肩の高さで後ろに引く、左手を剣先に添える、イメージは引き絞る弓だ。

 腰を落とし右足を後ろに下げて左足は膝を曲げる、魔力を大剣に練り込む、後は溜めに溜めた力で前に出るだけだ。

 

「偽・剣激突破!」

 

 魔力を放出し機動力特化のゴーレムビショップのスピードを更に底上げする、マグネグロ様が慌てて防御の為に前方に集めた溶岩の壁を大剣を突き出す事で吹き飛ばす!

 

「俺の、俺の『溶岩地獄』がぁ!」

 

 守りの要の溶岩を弾き飛ばしマグネグロ様本体の身体の中心、心臓に向かい大剣を突き出す!衝撃波を纏った大剣は心臓を貫いただけでは威力が収まらず彼の上半身を吹き飛ばす……

 

「マグネグロ様ぁ!」

 

「遣り過ぎだ、模擬戦で殺すなんて……」

 

「そんな、マグネグロ様が……土属性魔術師ごときに、負けるなんて……馬鹿な事が……」

 

 観客席から悲鳴が上がるかと思えば黄色い歓声で沸いた、セイン殿達も喜びの声を上げている。勝った、誰からも文句の出ない圧倒的な勝利だ。

 

 右手に持つカッカラを天に突き上げる。勝った、僕は宮廷魔術師第二席、『噴火』のマグネグロ様に圧勝する事が出来たんだ。

 観客席に居るハンナとロッテに手を振ると周りの侍女達により揉みくちゃにされて視界から消えた?

 

「この勝負はリーンハルトの勝ちじゃ、正々堂々とした生死を賭けた立派な勝負だった。

この勝負に異議を唱える奴が居るならば立会人の儂に直接言ってこい、これは不正の無い正当な勝負じゃ!」

 

 不満顔のマグネグロ様の配下達は何か言おうとして、耐える様に震えながら下を向いた。言いたくても言えない、勝負自体は正当で違法は無い、文句は言い掛かりでしかない。

 だがサリアリス様に対して不満や憎悪が向く事は許さない、それは当事者の僕が受けるべきだ。

 

「確かに喧嘩を売ったのは僕だ、恨むなら僕に言って来るんだな。何時でも何人でも相手になろう、その気概も無いなら王宮から去るんだな。これから先は弱者や敗者は要らない、挑む勇気が有る者だけが必要だ」

 

 突き放す様に言うのには考えも有る、この後は公爵二家、いや三家からの勧誘合戦になる。

 彼等には選択肢を強制的に与えた、僕を恨むならニーレンス公爵やローラン公爵の元には行かない、敵対してるバニシード公爵の元に行くだろう。

 中途半端な考えだと再引き抜きに応じるかも知れない、憎むなら最初から敵対派閥に行って欲しいんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おいおい、勝ってしまったぞ」

 

「ああ、しかも躊躇無く殺した。確かに助言はした、敵対するなら手加減はするなと。それを実行できるとは奴を甘く見ていたな、普段は優しいだけに騙される」

 

「父上、我等の火属性魔術師の頂点である第二席のマグネグロ様が、いけ好かないけれど強さは本物だったマグネグロ様が、良い様に蹂躙されて負けた」

 

 カームが執務室に飛び込んで来た時は驚いた、先週第六席を負かしたリーンハルトが今朝は第二席に喧嘩を売ったと聞いた時は危ないと思い止める為に急いで来たのに……

 勝負は一方的だった、四大属性最強と言われた火属性魔術師の頂点のマグネグロが何も出来ずに負けて死んだ。

 

「だが中途半端に生かしておくより殺した方が安心だ、リーンハルトには甘さも甘えも無いな。自分が不利になると思いマグネグロを始末したんだ」

 

「合法的にな、生死を問わない決闘は貴族間でも少ないが普通の事だ。これに文句を言うのは相当な勇気が必要だろう」

 

 最初から居た周りの連中に状況を聞けば、リーンハルトが勝負を挑んだ時点で生死を問わず全力で戦うと宣言した、しかも立会人は宮廷魔術師筆頭のサリアリス様だ。

 彼女に文句を言える奴は殆ど居ない、だがリーンハルトは悪意を自分に向ける様な悪役みたいな言葉を吐いた。奴のサリアリス様に向ける気持ちは尊敬以上の何かを感じる。

 

「どうするよ、ユリエル。俺達を飛び越えて奴が宮廷魔術師第二席だぞ」

 

「どうもしない、マグネグロは強かったが俺達宮廷魔術師にとっては困った奴だった。上位二人は蜜月だ、良い方向に向かうと思えば歓迎すべきだな。お前等親子は火属性魔術師だろ、奴に戦いを挑むのか?」

 

 挑むなら止めるぞ、あの『偽・剣激突破』だがデオドラ男爵の得意技だ。しかも威力も同等に近い、奴のゴーレム操作は異常だな。既存の運用を真っ向からブチ壊した新しいスタイルだ。

 実際に俺やアンドレアルでも勝てない、何故急いで席次を上げたかは分からないが理由が有るのだろう。

 

 良く出来たアイツが名誉欲や権力欲で無駄な戦いを仕掛けるとは思えない、思えないが真意を聞いておかなければ駄目だろうな。まさか上司になるとは驚いたぜ。

 

「午後にアウレール王が公爵五家と侯爵七家、それに宮廷魔術師を集めた。一悶着有るぞ」

 

 その場で今回の件は話題になる、新人宮廷魔術師が十日と経たずに席次を第七席から第二席に上げる。異常事態に周りがどう思うかなんて俺でも分からない。

 だがサリアリス様に褒められて嬉しそうな少年魔術師殿は派閥の柵(しがらみ)が弱い、それは拘束が弱い反面擁護も弱い。引き抜き合戦になるか連携して排除されるか。

 

「だが宮廷魔術師に推薦したのは俺達だ、出来るだけ擁護しよう」

 

 展開が急過ぎる、少しは俺達にも配慮してくれ!

 


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