古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第277話

 魔法迷宮バンクの攻略、朝十時から初めて夕方六時まで頑張った、途中休憩を挟んでも七時間、一時間に平均七回で五十回、蒼鴉を三百体を倒した。

 ドロップアイテムは『羽根飾りの冠』が七十一個に『黒い尾羽根』が六十八個、『春雷』が五本だ。

 買取価格はノーマルの『羽根飾りの冠』だけで金貨七百十枚、レアだと二万四百枚って金銭感覚が麻痺してしまう。

 最近は配当が凄くて15%がパーティ共有財産、40%が僕でイルメラ達が15%にしている、今日だけでも金貨八千枚を越える。

 僕だけが取り過ぎだと言ったんだが迷宮攻略の殆どを担っているので半分でも良い位だと恐縮されてしまった。

 だがパーティの共有財産と言っても殆ど使わないんだ、精々が地方遠征時の宿泊費と食事代、後はポーションとかの消耗品位だ。

 一応サブリーダーをイルメラに任命し共有財産の管理を任せた、しっかり者の彼女なら安心だ。

 

 元々冒険者ギルド本部が僕等を優遇するのは魔法迷宮でドロップするレアアイテムの収集が目的だ、なので指定された品物を大量に集めてくるのが仕事。

 確かに他の冒険者パーティの二十倍は集めてくるが値崩れする程でもない、需要は沢山有るし王都で捌けないなら地方に行けば売れる。

 『春雷』も九本手に入れたから次回は九階層に降りるかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いよいよ宮廷魔術師第二席である『噴火』のマグネグロ様に喧嘩を売る日が来た、体調は万全で魔力も限界まで回復している。

 だが先ずは自分の執務室に行って気持ちを落ち着けなければ駄目だ、後はハンナかロッテにマグネグロ様の行動を調べて貰い他人の目が有る所で勝負を挑む。

 

「おはよう」

 

「おはようございます、リーンハルト様」

 

「御不在の四日間で色々と親書や御品物等が届いております」

 

 部屋に入ると二人が並んで深々と頭を下げて休み中の出来事を報告してくれた、また返信手紙を書く日々か……

 取り敢えず自分の実務机に座ると直ぐに紅茶の用意を始めてくれた、彼女達は有能だが裏が有るから怖い。

 

「本日のマグネグロ様の行動ですが、既に出仕されています。午前十時から練兵場にて配下の宮廷魔術師団員達と訓練の予定となっております」

 

「最近は宮廷魔術師の方々も配下を鍛える事が多くなりました、リーンハルト様が初日に団員達の鼻っ柱をへし折った事により危機感を感じたのだと思いますわ」

 

 ほらな、コレだよ。既にマグネグロ様の行動を調べて十時に喧嘩を売りに行けって背中を押された。

 ハンナが綺麗な所作で紅茶を注いでくれ、ロッテは既に作成済みの贈り物の目録を手渡してくれる。

 

「親書は二通、贈り物は二十六個か……少なくはなったけどさ」

 

「此方が恋文となります」

 

 何だ、その手紙の束は?生花が添えられたりリボンでラッピングされたり、ロングソードに手紙が括り付けられているのには驚いた、確かに僕はバーナム伯爵の派閥だが嬉しくは無い!

 

「ふぅ、週の初めから頭が痛くなってきた。人気者とか言わないでくれよ」

 

 紅茶をストレートで飲み干して立ち上がる。

 

「サリアリス様の所に行ってくる、その後で練兵場に行くから」

 

 無言で深々と頭を下げるので二人の表情は見えない、だがマグネグロ様に喧嘩を売りに行くのは伝わったのだろう。

 

「御武運をお祈りしております」

 

「怪我をなされない様に気を付けて下さいませ、それと本日の午後に非公式ですが公爵五家と侯爵七家の当主が王宮に呼ばれています。宮廷魔術師様も全員呼ばれる事になります」

 

 非公式、つまり未だ僕は知らなくて良い情報って事だな。事前に教えてくれたのは助かる、悠長な時間は無いって事だ。

 

「ああ、大丈夫だ。十時過ぎに練兵場に行くから近くで見ていてくれ、必ず勝つよ」

 

 む、何かニマニマかニヤニヤって淑女がしてはいけない表情だな、変な事は言ってない筈だが何だ?

 

「服装か髪型でも乱れているかな?」

 

 髪を手櫛で整えて服を手で払うが身嗜みは可笑しくはないぞ、違うのか?

 

「年上の私達を口説いてるのですか?」

 

「受けても宜しいのですが、今の旦那様との離婚には少し時間が必要になりますよ」

 

 ああ、未だ最初の事を根に持っているんだな。女性を怒らすと長引くのは知っていたが……

 

「全然違うと言わせて貰おう、純粋に企みの結果を見に来て欲しいと言っているんだ。報告にリアルな情報は必要だろ?」

 

 軽く手を振って部屋を出る、サリアリス様の部屋の場所は聞いて覚えているし一応僕は彼女のお気に入りだからフリーパスらしい。

 王宮内を一人で歩く、擦れ違う侍女やメイドさん達は立ち止まり頭を下げてくれる、警備兵は目的地を言えば丁寧に教えてくれたが流石に王族の住居エリアでは同行し先導してくれた。

 

「此方がサリアリス様の部屋になります」

 

「有り難う、助かりました」

 

 軽く頭を下げる警備兵達だが、部屋の前で立哨警備をするらしく扉の左右に別れて立った。ノックを四回すると中から入れと言われた、お互い魔力感知で存在は分かっていたから……

 

「失礼します。おはようございます、サリアリス様」

 

「良く来たな、リーンハルトよ。おい、お茶を淹れろ」

 

 壁際に控える侍女に声を掛けて応接室の方に向かう、今朝は珍しく侍女が居たな。

 向かい合って座ると直ぐに紅茶が用意される、珍しい透明な硝子製のティーセットだな。でも既に自分の執務室で飲んでいるのでお腹はタプタプだ。

 

「大事な話が有る、暫く部屋には近付くな」

 

 深々と頭を下げて侍女が部屋から出る、念の為に気配を探るが二つ先の控え室に入って行った。

 

「厳重ですね、何か有りましたか?」

 

 サリアリス様は砂糖を一杯だけ入れてスプーンでかき混ぜている、僕はストレートで一口飲むが僕の部屋に用意されている茶葉より更に高級っぽい味だ。

 

「ふむ、お主も知っておろう?旧コトプス帝国の残党の件は。午後からアウレール王が重鎮を集めて話をする、我等も呼ばれるぞ」

 

「はい、ニーレンス公爵経由でメディア様から聞いています。やはりハイゼルン砦の奪還に動き出しますか?」

 

 アウレール王が決めたならば臣下は従わなければならない、そして外交の観点からしても攻勢に出るべきだと思う。それが侵略者に対する行動だし近隣諸国に対しても弱腰対応は駄目だ。

 

「ふむ、メディアがの……アレはどうだ?愚かではないが賢くもないぞ」

 

 思わず苦笑いをしてしまった、サリアリス様はジゼル嬢は認めてもメディア嬢はイマイチなのか。

 

「悪くはないと思います。僕達に友好的なだけでも助かります、彼女は僕の配下の土属性魔術師の裏の支配者ですよ」

 

 セイン殿以下の連中の顔を思い浮かべる、バルバドス塾生も多いしニーレンス公爵の派閥構成員が殆どだ。最悪ニーレンス公爵と敵対した場合は全員僕から離れるだろうな。

 

「ふん、宮廷魔術師団員など居ても居なくても同じなのだがな。だが儂も練習風景は見たが少しはマシになっているのは認めるぞ」

 

 む、照れたのか?視線をずらしてボソッと認めると言ったよな?才能と努力に厳しいサリアリス様が少しとはいえ認めてくれたのか?

 

「それは彼等も励みになるでしょう」

 

「本当に少しだぞ」

 

 サリアリス様が少しずつだが周りを認め様とし始めた、これが良い意味で変わる切っ掛けになれば良いのだが……

 

「さて、午後からは忙しくなるでしょうから先に済ませておきたい事が有るのです」

 

「そうじゃな、居場所は分かっているのか?」

 

 黙って頷いて席を立つ、これが宮廷魔術師関連では最後の大仕事だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 サリアリス様と連れ立って練兵場に向かう、流石に長年宮廷魔術師筆頭の席に居続けただけの事は有り擦れ違う人達も一様に畏敬の念が有りそうだな。

 広い廊下を歩く、僕が案内する形なので先導するが目的地を知られているなら後ろに控えるべきか悩む、宮廷作法は色々だから。

 

 狭い入口通路を抜けると練兵場に到着、広い場内には幾つかの団体が練習しており、目的のマグネグロ様は中央に居て存在感を醸し出している。

 隅にはセイン殿が土属性魔術師達を指導しているし、ハンナとロッテが手を回したのか観客席にもチラホラと人影が見えるな。

 

「いよいよじゃな」

 

「はい、緊張しますね」

 

 制御下に置いて隠蔽していた魔力を放出する、二人共に攻撃的な態度を隠さずにマグネグロ様を中心とした団体に近付く、当然だが向こうも気が付いて此方を睨んでいる。

 

「おはようございます、マグネグロ様」

 

「何だ、第六席。保護者同伴で俺に何か用か?」

 

 あからさまに蔑んだ言葉に周りからも笑いが漏れる、ニヤニヤと下品な顔だが今日は派閥topと同伴だから怖くないってか?

 

「サリアリス様は誰からも文句の出ない立会人としてお願いしたのです。ああ、マグネグロ様にもお願いが有ります。宮廷魔術師の決まり事で性(さが)みたいなモノですが正々堂々勝負を挑みます」

 

 笑顔で言い切る僕の後ろにセイン殿が近付いてくる気配も感じている、彼等には秘密にしていた為か感じる魔力に揺らぎが有るぞ。

 

「舐めるなよ、餓鬼が!俺に勝負を挑むとは百年早いわ」

 

「いくらリッパー様を倒したとはいえ増長し過ぎではないかな?」

 

「思い上がりも甚だしいですぞ」

 

「我が主に楯突くとは愚かな行為ですよ、控えなさい!」

 

 顔が真っ赤になって面白いな、本当の意味でも『噴火』って二つ名だな、取り巻き達も各々が文句を言い始めた、マグネグロ様が負ければ立場は最低まで落ちるから必死なのだろうか?

 気を付けなければ駄目なのはサリアリス様の方だな、僕を貶された事を怒ってくれるのは嬉しいが冷気が駄々漏れしてるよ、物理的に周りの地面に霜(しも)が生えてきてる……

 

「サリアリス様、抑えて下さい。さて、マグネグロ様は格下の僕の挑戦を受けて頂けないのでしょうか?逃げませんよね?」

 

 ジゼル嬢に黒い笑みと称された表情を浮かべて挑発する、周りも僕等のやり取りを聞いて騒ぎ出した。

 中には又かよ的な意見も出ている、主に僕の後ろのセイン殿だが……

 だが注目を集めるのはマグネグロ様にプレッシャーを与える意味でも有効だ、観客席を見回せばハンナ達も……侍女を三十人近く集めて此方を見ているので軽く手を振る。

 

「周りの方々も期待していますよ?まさか逃げますか、第二席殿?」

 

「馬鹿にしやがって、ぶっ殺してやる!」

 

「流石は第二席殿、生死を問わず全力で掛かって来いと言う訳ですね。素晴らしい覚悟です、では全力で掛からせて頂きます!」

 

 言質は取った、後は速やかに行動するだけだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「偉く簡単に挑発に乗ったわね、もう少しごねるかと思ったのに拍子抜けだわ」

 

「リーンハルト様の挑発が上手かった訳じゃないわ、元々感情的になり易い男だったから格下と思っていた相手の挑発を避けられなかったのね。

愚かな男だけど強さは本物だから真っ向から挑発された事が初めてだったのよ、だからまんまと戦う羽目になった」

 

 愚かな男、生死を問わずって言質を取られた事に気付いてない、負ける訳がないと信じているのね。私も半信半疑だけれど最年少宮廷魔術師殿は私達に必ず勝つと言ったわ。

 

「ハンナ、ロッテ!貴女達はリーンハルト様がマグネグロ様に勝負を挑む事を知ってたわね?」

 

「こんな特大の情報を独占してたのは酷いわ、勝っても負けても大問題じゃないの!」

 

「しかも手なんか振られてさ、貴女達は旦那様が居るじゃない!」

 

 同僚達から質問が集中するけど秘密にしていた事は教えられない、それとあの方は私達に砂一粒程の情欲も抱いてないわよ。

 

「いいえ、知らなかったわよ。ただ練兵場に見に来いって言われただけよ」

 

「そうよ、結果を見せるから直に確認しろって言われたのよ」

 

 だが在り来たりな挑発でも生死を賭けた戦いにまで持ち込んだ、後はリーンハルト様がマグネグロ様を害する覚悟が有るかどうか?

 または周りに仲裁される前に事を終わらせる事が出来るかが問題だと思うわ、この事が知れ渡り誰か上級貴族や官吏達が止めに入る前によ。

 

「どうやら始まるわね、万年第二席様と新人第六席様の戦いが……」

 

 立会人のサリアリス様が開始の合図である杖を振り下ろしたわ。

 


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