古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第276話

 男って結構単純な生き物なんだなって思う、情を交わすと愛情が深まるって性欲が関係してるんだろうか?

 バーナム伯爵の舞踏会に招かれて帰りにデオドラ男爵の屋敷に泊まった、当然だが側室のアーシャが居るから一緒の部屋で寝る。

 貴族として自分の子孫を作り家を継がせるのが重要な責務なのは周知の事実なのだが……

 

「毎回アーシャを気絶させるまで攻めるって、僕は猿か?猿なのか?」

 

 朝起きて隣に寝ているアーシャを見て我にかえる、常日頃から魔術師は冷静たれって言ってるのに昨晩も自制心を何処かに置き忘れてしまった。

 カイゼリンさんからも周りに甘えろって言われたが、これは違うだろう。

 

 疲労からか深い眠りについている彼女を抱き寄せて髪の匂いを嗅ぐ、良い匂いだ。

 部屋は仄かにランプの灯りに照らされているがカーテンの隙間から見える外は真っ暗、感覚的には未だ夜中の三時過ぎ位で朝七時に起こして貰う様に頼んである。

 

「もう一眠り出来る、既に今日だが魔法迷宮バンクを攻略し明日は……マグネグロ様に喧嘩を売るんだ」

 

 来週は忙しくなるだろう、既に聖騎士団は副団長以上が呼ばれているし場合によってはエムデン王国から旧コトプス帝国の事について通達が有るだろう。

 最悪は喧嘩を売る前に派兵される可能性も高い、マグネグロ様が指名された場合は喧嘩は売れない。

 王国から頼まれた仕事の妨害と取られる危険性も有る、だが彼も今日は休みで王宮に出仕するのは明日だ……

 

「やはり朝一で速攻喧嘩を売るしかない、性急に事を進めるみたいで嫌だが仕方無いな」

 

 目立ち過ぎるし自己主張が激しいと思われるが討伐軍に立候補するのも良いかも知れない、先に名乗り出て受けてしまえば良い。

 だが周りからは心配されるし悲しませる事になるよな、指名されたなら仕方無いが自分から首を突っ込むんだ……

 

「戦争に参加する、相手はモンスターや野盗共ではなく人間の軍隊だ。人を殺す禁忌感なんて既に擦り切れて無い、人殺しが悪だから駄目だとも思わない。戦争だから敵は殺す、自分の為に……」

 

「旦那様?起きたのですか?」

 

 もぞもぞと身体を寄せてきた、影となり表情は見えない。

 

「うん、何故か目が覚めたんだ。未だ夜中だからもう少し寝れるよ」

 

 胸にスリスリされたが髪の毛が当たり擽(くすぐ)ったい。

 

「旦那様、ごめんなさい。何時も途中で気を失って、その……最後まで、あの……」

 

「いや、それは僕が悪いんだ。感情の制御が利かないから無理をさせている、魔術師なのに暴走するとは未熟なんだ」

 

 彼女の髪の毛を撫でる、実際は最後まで達しているので不満など無い。問題は僕の方で転生前と違い、ちゃんと種が有ると良いのだが……

 無ければバルバドス師と同じ後継者問題で揉める事になるし、アーシャの立場も悪くなるので避けたい。

 

「ふふふ、私の身体に溺れてるって思っちゃいますよ?」

 

「ああ、それで良いよ。実際溺れている」

 

 彼女が大胆な台詞を言うとは、イマイチ信用出来ない兄弟戦士曰く『閨(ねや)を共にした男女の会話は本音が出る』そうだが……

 アーシャが実は大胆な娘とは思えないな、今回もガセネタだったか。

 

「その、女性には赤ちゃんを授かるのに適した日が有ります。来週末辺りに、か、可愛がって頂けると……その、嬉しいです」

 

「分かった、来週末は予定を空けておくから」

 

 暗闇でも彼女が笑ったのが何と無く分かった、確かに女性には妊娠しやすい周期が有るらしい。

 そこで頑張れば子供を授かる確率が高くなるらしいな、多分だがヒルデガードさんの差し金だろう。

 

 彼女を抱く腕の力を少しだけ強くする、来週末だとハイゼルン砦奪還の為に出兵してるかもしれない。

 先発隊として用意が殆ど要らない僕は、常備軍や聖騎士団と共に行く事になるだろう。

 

「もう少し寝よう、昨日は色々有って疲れたよ」

 

「はい、旦那様。おやすみなさい」

 

 人肌の温もりが心を癒す、これも兄弟戦士の言葉だが……これは納得する事が出来たな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 早朝、デオドラ男爵の屋敷を発ち自宅へと戻る、身支度を整える頃にエレさんも到着し全員で馬車に乗り込んだ。

 少し遅れてしまったが今日も八階層のボス『蒼烏』を狩って軍資金と十回連続勝利アイテムの『春雷』を集める。

 この『春雷』は刀身に纏わせた魔力を帯びた雷により敵を麻痺させる状態異常付加攻撃が出来る優れ物だ、色々調べたので類似品を試しに作ってみたが微妙な性能だ。

 常に刀身に雷を纏わせるのは魔力供給が膨大で上級魔力石を核とした場合は三十分と保てずに枯渇してしまう、なので刀身に衝撃を受けた時だけ発動する仕様に変更。

 魔力コストを抑える為に刀身が短く、リーチも長いスピア(短槍)にしてみた。

 状態異常は確率の問題だから切るより突く方が手数を増やせると考えたからだ、柄の部分に上級魔力石を仕込んで直ぐに交換可能にしたので連戦も可能だ。

 同様に両手持ちアックスも作ったが一撃が重い武器に状態異常は必要か悩む、大抵当たれば致命傷だから意味が無いだろう。

 当然ロングソードも作ったが同じ武器では劣化品みたいで嫌だ、核となる魔力石がもっと強力な物ならば可能なのだが空間創造にストックされている魔石は流通させたくない。

 

「リーンハルト様、ずっと考え込んでましたが心配事ですか?」

 

「何か悩みが有るなら相談して欲しいな」

 

「ん?いや『春雷』をさ、自分なりにコピーしてみたんだけど核となる魔石を魔力石で代用すると効果が低いんだ。それで改善策を考えてたんだ」

 

 空間創造からスピアを取り出してエレさんに渡す、このメンバーで武器を扱うのは彼女だけだ。

 

「剣じゃなくて短槍なんだ、でも使い易そう」

 

「常時雷を刀身に纏わすのは無理だから衝撃が伝わると麻痺効果の有る雷撃を刀身に纏わせて対象に浴びせるんだ。でもトータル十分位だから一回二秒として三百回、突き刺したままだと更に短いよ。

でも魔力石の交換は簡単だから連戦にも対応出来ると思う、エレさんにあげるよ」

 

 ポイズンダガーよりも攻撃力は高いだろう、上手く使ってくれれば良いかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 魔法迷宮バンクの攻略を開始する、今回も聖騎士団の方々の配慮により手続きも代行して貰ったので直ぐに迷宮内に入る事が出来た。

 最短ルートでエレベーターを併用して八階層へ、今日もボスである『蒼烏(あおからす)』を狩る予定だ。

 

 エレベーターが八階層に到着し扉がゆっくりと開く、先ずはゴーレムナイト八体を先行させる、この階層からポップするモンスターは格段に強くなるから用心が必要だ。

 

「エレさん、ゴーレムナイトに先行させるから扉の解錠をお願い」

 

「了解、任せて」

 

 八階層は小部屋の扉には鍵が掛かり中にはモンスターが待ち構えている、エレベーターから出ると短い廊下になり正面と左右に扉が有る。ボス部屋へのルートは正面の扉だ。

 エレさんが懐から細く先端が直角に曲がった金属棒の束を取り出して鍵穴に差し込む、三本程差し込んで捻ると簡単に開いた。

 

「エレさんは下がって、扉を開けたらゴーレムナイトを先行させるよ」

 

 勢い良く片開き扉を開ける、10m四方の小部屋の中央に魔素が集まり始めた。数は四つ、現れたのは野生の肉食熊であるマーダーグリズリーだ。

 八体のゴーレムナイトを二体一組にして突撃させる、相手は分厚い毛皮と筋肉を纏う野獣だから半端な攻撃は通用しない。ロングソードを腰だめに構えて身体ごと突撃させる。

 

「ゴギャアア!」

 

 胴体に左右から刀身が80cm以上のロングソードを突き刺されてマーダーグリズリー達は断末魔の叫びを上げる、だが死力を振り絞り右前足の一撃で一体のゴーレムナイトの頭部が弾き飛ばされた。

 戦士職レベル45相当の強さが有っても生身だったら一撃で殺されてたな、これだから下層階にポップするモンスターは手強い。

 光沢の有る黒御影石の床に胆嚢と見慣れない腕輪が一つ落ちている、アレがレアドロップアイテムかな?

 

「リーンハルト様、ノーマルの『胆嚢』とレアの『狂戦士の腕輪』です」

 

「有難う、レアドロップアイテムの『狂戦士の腕輪』は初めてだね」

 

 イルメラが拾ってくれたドロップアイテムを受け取る、今回初めて手に入れた『狂戦士の腕輪』だがシンプルな鉄製の輪にマーダーグリズリーの物らしい牙が嵌め込まれている。

 筋力UPは効果的だが確か防御が疎かになる副作用が有るんじゃなかったかな?完全な換金アイテムだ。

 

「次に行こう、残りの小部屋は二つだ」

 

 通路でポップしなければ鍵付きの小部屋は後二つ、今の僕等なら問題無いだろう。

 ゴーレムナイトを六体先行させて二体は最後尾で後方を警戒する、ポップするモンスターもそうだが人間の冒険者パーティも警戒が必要なんだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 残りの二部屋もポップしたモンスターはマーダーグリズリーが三体と二体だった、もしかして種類は固定なのだろうか?

 ボス部屋に到着した、挑戦者も待機してる者も居ない。八階層には宝物庫と武器庫が有り必ず宝箱が現れるので、普通はボス部屋の方には来ないので助かる。

 

「先ずは準備だな、エレさん扉を開けて」

 

「ん、分かった」

 

 重たい両開きの右側の取っ手を掴んで手前に引くと幅60cmの扉が金属が擦れる甲高い音を立てながら開く……

 

「ライティングよ!」

 

 合計二十個の光の玉を部屋の中の天井スレスレの高さに均等に浮かべる、ぼんやりと真っ暗だった部屋が明るくなる。

 エレさんに扉を閉まらない様に押さえて貰いゴーレムナイトを錬成する。

 

「前回最も効率が良かった前に三十体、左右の壁際に三十体ずつ合計九十体の制御訓練を始める」

 

 横十五体で二列のロングボゥ装備のゴーレムナイトを三組錬成する、対面に配置しないのは誤射を避ける為で左右に配置したのは自分を基点とした場所での制御範囲を鍛える為だ。

 自分から見て正面の攻撃や接近戦での前後左右の動きは大丈夫だが、離れた部隊の遠距離攻撃の距離感と命中精度を掴むのが難しく訓練が必要なんだ。

 

「今回も九十体?」

 

「最大三百体を運用する為の訓練も兼ねているんだ、エレさんはクロスボゥで攻撃、イルメラは防御に専念、ウィンディアは風属性魔法で牽制してくれ、倒せるなら積極的に攻撃して良いよ。

では扉を閉めてくれ、本日一回目のボス狩りを始めよう」

 

 ゴーレムナイト達にクロスボゥに矢を番えさせる、上空で魔素が集まり出し淡い光の球を形成する前回と同じパターン。

 実体化するのには暫く時間が掛かる、ゴーレムナイトの前列四十五体にラインを通じて指示を出し狙いを均等に割り振る。

 

「実体化と同時に攻撃する、前列……今だ、矢を射れ!」

 

 魔素から実体化すると僅かに自由落下するので位置を予測し羽を広げて自力飛行をする瞬間に四十五本の矢を射る。

 三方向から射られた矢は六体全てに命中した四体は致命傷を与えられたみたいで落下するが、二体は羽を広げて滑空して向かって来る。

 冷静に予測進行位置と避けられた場合を考えて上下左右にも狙いを付ける。

 

「第二射、射て!」

 

 残り四十五本を一斉に生き残りの二体目掛けて射ち込み、前列のゴーレムナイトに第三射目の準備をさせる。

 今回も第二射目とエレさんの狙撃で倒せた、避ける事を予測し矢をバラ蒔いた事により確実に攻撃を当てられる、手数が多いから可能な戦術だ。

 

「幸先が良いな、ノーマル一個にレアが二個とはね」

 

 ノーマルの『羽根飾りの冠』とレアの『黒い尾羽根』がフワフワと落ちてきた、『黒い尾羽根』は気を付けてないと床と同系色だから見失う事も有る。

 ウィンディアが拾ってくれたので受け取って空間創造に収納する。

 

「さて二回目を始めよう。エレさん、一緒に外の様子を確認してくれる?」

 

「分かった」

 

 エレさんの気配察知と僕の魔力感知で周辺に誰か居ないか確認する、前に『リトルガーデン』や『春風』とかに尾行されてたからな。

 今回なんてボス部屋の中にはゴーレムナイトが大量に居るし注意は必要だ。

 

「誰も居ないな」

 

 では二回目のボス狩りを始めようか。

 




 今回から暫くは毎週木曜日掲載になります、また夏休みに毎日連載始めますね。

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