古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第275話

 精神は肉体に引き摺られるらしい、転生して二回目の人生を歩んでいる僕だが子供扱いされたのは父上以外にはカイゼリンさんが初めてだった。

 他は当然の如く一人前に扱う、新貴族男爵で宮廷魔術師第六席の僕を子供扱いなど出来ない、皆一人前以上に扱う。

 そんな中で常に僕を子供扱いする人が居た、『ハンマーガイズ』のリーダーである筋肉の塊の人は大人として振る舞うのが辛いのかと聞いてきた。

 子供の僕に辛い思いをさせる周りの大人が不甲斐無いとも言ってくれた、だから僕は自惚れた馬鹿餓鬼の自分に気付かされた。

 

「ふふふ、色々と気付かされました。確かに辛い事も有りますが家族や大切な人に甘える事にします、頑張り過ぎずに程々にですね」

 

「いや、独身の俺に言われても困るのだが……大切な人とはいつぞやの僧侶殿か?又は美しい側室殿かな?羨ましいと言っておくぞ」

 

 素直に笑う事が出来たが周りには聞こえなかっただろう、普段公式な場所では敢えて自制して笑わない僕が笑い合うのを不思議そうに見ている。

 

「頼りないかも知れないが、何か有れば周りの大人を頼るのも必要だぞ」

 

「ええ、大分気持ちが楽になりました」

 

 特に何も求めず要求せず、カイゼリンさんは筋肉を無理に押し込めたキツそうな貴族服を気にしながら席を立った、少し変わっているが頼れる大人なんだな。

 

「少しお待ち下さい、有り難い話の記念にコレを貰って下さい」

 

 空間創造から過去に試行錯誤して大量に作った武器の中から取り出したのは両手持ちアックスだ。

 

「いや、礼など要らぬぞ」

 

 そう言うと思ったけど、僕の気持ち的に受け取って欲しい、重たい両手持ちアックスをカイゼリンさんに押し付ける。

 

「僕が錬金して作りました、ただ丈夫で硬いだけのアンバランスな武器ですが、カイゼリンさんなら使いこなせると思います」

 

 僕は『剛力の腕輪』の効果で何とか持っているが総重量は15kgを超える、ひたすら固定化の魔法を重ね掛けした硬度特化の逸品。

 他は自動修復機能だけの本当に丈夫で硬いだけの武器だが、使う人によっては銘刀よりも破壊力が有る。

 

「見た目より鍛えているのだな、軽々扱っていたが結構重いぞ」

 

 嬉々として軽々と片手で振り回す姿はバーナム伯爵の派閥構成員だなと思う、この集団は本当に戦う事が大好きな連中の集まりだな。

 

「また話を聞かせて下さい」

 

「そう言われると照れるな、こんな物まで貰って此方が恐縮するぞ」

 

 その後、カイゼリンさんは練兵場の一角に有る試し切り用の木杭や打ち込み用の鉄柱を破壊していた。

 鉄柱にメリ込んでも刃零れ一つしない事に周りも驚いていた、アレってその気になれば魔法で強化した城門だって叩き切れる品物だからな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーナム伯爵主催の舞踏会も問題無く終わりそうだ、未だ酔いから覚めて来ないので舞踏会の会場は長閑な雰囲気で楽しそうに踊る紳士淑女をぼんやりと見ている……

 エロール嬢はホストとして何人かと踊っていた、水属性魔術師だが貴族としてのマナーや責務についても学んで実践しているのだろう。

 僕はジゼル嬢とアーシャと一回ずつ踊って後は円卓に座っている、バーナム伯爵が不在の為に派閥No.4の僕が一番偉いそうだ。

 だからどっしり構えていて欲しいそうだ、フラフラせずに勝手に帰らないで下さいって意味だろう。

 

「旦那様、何時もと雰囲気が違いますが何か良い事でも有りましたか?」

 

「そうですわね、確かに少し……その、余裕と優しさを感じます」

 

 申し込まれるダンスパートナーの誘いを全て断っている二人から言われた、ジゼル嬢は婚約者(僕)が居るが未だ未婚だから分かるがアーシャは人妻だ。

 なのにダンスに誘うのは武力では勝てない僕への挑戦なのだろうか?

 

「古い……いや、古くはないが冒険者時代に世話なった人と話してね、気持ちが少し楽になったからかな?

今の僕も変わらず子供扱いしてくれる人なんだけどね、当時は坊主呼ばわりだったけど流石に呼び名はかわったよ」

 

 知り合いに爵位で呼ばれると擽ったい感覚になるのは照れなのか何なのか?アレ?二人共渋い顔をしているな……

 

「不敬とかは無しだ、昔は昔で今は今だからね。僕は救われた気がしたんだよ、身分相応でなく年相応に扱ってくれる事が嬉しかったんだ」

 

 転生した年を足せば四十才を越える男が子供扱いを嬉しがるのも変な話だな、本当に変な話だな。

 微妙な顔で見詰める女性二人の視線に気付いて咳払いを一つ、子供扱いを喜ぶ大人びた子供みたいに思われたか?

 

「むぅ、何故かしらムカムカします」

 

「本当にね、自然に微笑ませるなんて私なんて苦笑しかされてませんわ」

 

 ジト目で見られても困るのだが、オッサンに話し掛けられて喜ぶ子供みたいで恥ずかしい。

 

「この話は終わりにしよう、その……周りから自分にも武器作ってくれオーラがさ、酷くないかな?」

 

 確かに色々と作ってるしヤラかしてるから自業自得と理解している分、自己嫌悪になる。

 

「それは前科が有りすぎとしか言えませんね、例えば硝子製の護身用ナイフとか」

 

「ドワーフ工房ブラックスミスのヴァン様のお墨付きを貰っている旦那様の事を皆さんご存知なのですわ」

 

 戦う事が大好き派閥に錬金とはいえ魔力付加の武器防具を作れる魔術師が加入すれは当然の反応だな。

 しかもワンドの5の魔力刃を発動させて鉄柱をも断ち切る両手持ちアックスを渡す、何やってるんだ僕は?

 

「さて、そろそろラストワルツだけど誰だろうか?」

 

 バーナム伯爵達が中々復活してこないが、時間的には最後を締め括るワルツの時間が近付いてきた。

 ラストワルツは舞踏会で一番輝いた紳士淑女のカップルが最後に一組で踊るのが最近の流行りで、僕が選ばれた場合の問題はパートナーだ。

 候補者の一番目は唯一の側室であるアーシャ、二番目は婚約者のジゼル嬢、三番目は主催者の養女のエロール嬢となるが選び辛い。

 そして目立ち過ぎたから誰か他のカップルが踊って欲しい、色々とヤバいと思うから……

 

「ラストワルツの方々は何方(どなた)でしょうか?」

 

「私達は目立ち過ぎたので選ばれないでしょう、舞踏会を皆に等しく楽しんで貰うのもホスト役に必要な配慮です。

私の意見ですと来月に御結婚されるコリン子爵の次男のグランジ様が婚約者の方と参加していますわ」

 

「結婚式か……幸せなカップルが居るなら問題無いね。グランジ殿はライラック商会のリラ嬢の結婚祝いパーティーで会った方だね」

 

 つまり本妻を迎えるのだろう、側室を迎える時は式など挙げないからな。

 

 

 

 

 その後もバーナム伯爵は復活せず、ラストワルツはグランジ殿と婚約者の方が踊って盛り上げた、歳の差は結構有りそうだが女性も幸せそうで良かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーナム伯爵の舞踏会を何とか被害少なく終わらせる事が出来た、デオドラ男爵もだが三度目の正直とばかりに頑張ったのが裏目に出たみたいだ。

 限界を超えて飲んだ事により回復が間に合わなかったのだろう、魔法で体内アルコールを消すズルをして勝ったので喜べない。

 

 酔いが酷いデオドラ男爵は今晩はバーナム伯爵家に泊まっていくそうだ、僕はアーシャとジゼル嬢を屋敷に送ってから帰る事にする。

 六人乗りの大型馬車の座席の真ん中が僕で左右が女性陣なので近い、アーシャは既に眠そうで僕に寄りかかっているし……

 

 明日は久し振りの魔法迷宮バンクの攻略だ、最近は出費も多いから少しでも稼がないと駄目だ。

 だが最近は一回探索すれば大体金貨一万枚を超えるのでパーティで分割しても三千枚にはなる、コレもバレたら大騒ぎになるだろうな。

 僕のレアギフトである『ドロップアイテム確率UP』とダメージ無視のゴーレム達が噛み合って他の冒険者パーティの二十倍位の効率が有るから可能なんだ。

 

「今日は楽しかったですわね、リーンハルト様の強さを知らしめる意味でも成功でした」

 

「最後のグランジ様と婚約者の方も幸せそうでしたわね、見ている此方も嬉しくなりました。何でもグランジ様が一目惚れして半年以上掛けて愛を受け入れて貰ったそうです」

 

 グランジ殿は爵位は無いが王宮で働いている、そして同僚の四女に一目惚れか……

 三十六歳と十八歳の歳の差二倍の夫婦だが二人共に幸せそうだったな。

 グランジ殿は側室も妾も居ない真面目な男らしく一途に恋心を伝えたそうだし、相手には歳の近い婚約者も居たが解消したそうだ。

 次男故にコリン子爵の跡は継げないがジゼル嬢が有能だと言った男だし問題は無いのだろう。

 

「円満に結婚にまで漕ぎ着けたのは凄い努力が有ったと思います、結婚式には招待されましたし何か祝いの品を考えないと……何が良いかな?」

 

 確か彼は男爵の時と宮廷魔術師の祝いの品を送ってくれた、両方共に美術品だったが価値有る物だったのは覚えている。ならば結婚祝いは其なりの品物を……

 

「武器でしょうね」

 

「武器ですわね」

 

 真顔で言ったぞ、即答だったぞ。

 

「結婚式に血生臭い武器はどうだろうか?新婚生活の門出に必要な家具や食器の方が良くない?例えばドレッサーとかティーセットとか実用的な品物の方が喜ばれると思うんだ」

 

 真顔で首を横に振る令嬢二人、どうやら本気みたいだな。世間の常識とバーナム伯爵派閥の常識は違うみたいだ。

 

「分かった、自作じゃなくて魔法迷宮バンクで見付けた魔力の付加された武器を贈るよ」

 

「それが良ろしいかと、ご自分で錬金された品物を贈るのはお控え下さい」

 

「効果が高いですから相手と目的を考えて贈った方が良いですわ」

 

 色々考えているみたいだ、僕は元手無料だから多用しようかと考えていたのだが控えよう。

 

「そうだね、他人には控えるよ。さて、先ずはアーシャからだ。手を出して……」

 

「えっと、はい?」

 

 おずおずと差し出された左手を両手で包み込む様にする。

 

「あの?此処ではジゼルが見てますので、帰ってからお部屋の方で、その……」

 

 相変わらず細く白い手だが肌がきめ細かくでツルツルしているな、いや邪念を払い意識を集中する。

 大量の魔素を集めて十八連のブレスレットをイメージする、彼女の場合はジゼル嬢と違い全てのゴーレムは護衛対象を中心に円陣を組んで守る。

 命令は受け付けない仕様にすればゴーレム本体の強度を増す事が出来る、助けが来るまで時間稼ぎが出来れば良い。

 

「あの、これは……新しい装飾品ですか?」

 

 レベルアップの恩恵で前は銀色の丸い玉でしかなかったが、今回は花の蕾の形に模して銀でコーティングしてみた。

 

「前に約束した物です、但し少し違うのは護身用の装飾品ですね。

アーシャに危害を加える奴が居た時に、このブレスレットを引き千切り周りにバラ撒いて下さい。ゴーレムナイトに変化してアーシャを中心に防御陣を敷きます。

円陣の逆でアーシャを守る二重の円で敵からの攻撃を防ぎます、半日は持ちますし発動すれば僕にも分かるので助けに行きますから……」

 

「アーシャ姉様、他言は無用でお願いします。

これは古代の高貴な姫達を護っていた伝説のアイテム『竜牙兵』を模した『召喚兵のブレスレット』です。現代で再現したのはリーンハルト様だけですから……」

 

 ジゼル嬢が説明してくれたので問題は無さそうだ、次にジゼル嬢の手に巻かれている『召喚兵のブレスレット』に手を重ねて装飾だけ変更する、これで姉妹の防御力は上がった。

 

「所詮は模造品ですから危険と思ったら迷わず使って下さい、君達に何か有る方が僕は嫌だからね。それは安全の為に渡したのだから」

 

 二人共に少し赤くなっているが薄暗い馬車の中だから良く分からない、だが両方から抱き付かれたのは嬉しく思ってくれたんだな。

 

「旦那様、有難う御座います。今日は屋敷の方に泊まっていって下さい」

 

「え?いや、その……明日は魔法迷宮バンクを攻略するから」

 

「お願いします」

 

 ギュッと左腕に抱き付かれたが、デオドラ男爵の屋敷に泊まるって事は早く子供が欲しいって意味だよな?転生後の僕はちゃんと子種が有るのだろうか?

 




この話にて連続投稿は一旦終わり、次話は6/18 朝8時の毎週木曜日となります。
ストック増やして夏休みに連続投稿予定、8月なら何とかなる筈です。

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