古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第273話

 バーナム伯爵の派閥への御披露目、派閥の長とNo.3と模擬戦を行い何とか引き分けに持ち込んだ、だが手加減されての引き分けだ。

 武力の高い者は気付いただろう、気付けない者も多かったが反発していた若手貴族達は知らない内に屋敷を去っていた、最終的には六人だったな。

 顔は覚えたが名前は分からない、その点はジゼル嬢が調べるから問題は無いし元々全ての連中から歓迎されるとか甘い考えも無い。

 派閥争いなんて突き詰めれば好き嫌いと利害関係だ、仲良しだけで集まれるのは極少数だよ。

 

 なし崩し的に派閥上位陣と飲み比べとなったが、バーナム伯爵が親族の娘であるルーシュ嬢とソレッタ嬢を押し付けて来たが固辞した、今欲しいのは屋敷を守る常駐の警備兵だ。

 

「お前の女はデオドラ男爵の愛娘二人にローラン公爵の縁者一人、合計三人だが宮廷魔術師で伯爵扱いにしては少ないな」

 

 嫌な話の流れだな、それに柵(しがらみ)無しの筈のニールがローラン公爵の縁者になっている。何処で情報が変わった?いや、変えられた?

 チラリとデオドラ男爵を見れば渋い顔だし、女性二人は僕の背後に立っているから表情は伺えない、周りの連中は興味津々だし。

 

「僕は未だ未成年です、今から沢山の女性を侍らす事はマイナス評価だと自分は考えています。それに今欲しいのは屋敷を守る常駐警備兵です、王宮勅使の方に身分相応の屋敷を貴族街に構えろと言われまして難儀しています」

 

「ふん、それで家臣集めか。才媛二人に土属性魔術師を引っ張り込んだそうだな、お前が好待遇で雇ったのだから優秀なんだろう」

 

 む?コレットの事まで知ってるとなるとリアルタイムに情報が流れている、驚きを顔に出さずにワインを飲み干す。

 メイドのサラはジゼル嬢の寄越した人材だからな、情報が漏れるのは仕方無いか。

 

「はい、試練を与えたり依頼を共に達成しましたが能力的にも性格的にも問題無いです。得難い人材でした」

 

 ワイングラスをテーブルに置くと綺麗な所作でワインを注いでくれる、名前を言われる迄は興味も無く顔も見てなかったが金髪碧眼、典型的なエムデン王国人だな。

 

「だとよ、ルーシュ。お前も武力には自信が有るだろ?」

 

「はい、バーナム伯爵家に連なる者は鍛練を欠かしません」

 

「ソレッタもどうだ?」

 

「私も同様です、自信は有ります」

 

 ニヤリと恫喝の笑みを浮かべた、これは更に嫌な流れだな。バーナム伯爵の縁者二人を常駐警備兵として屋敷に招く、だが仮にも派閥の長の縁者を単なる警備兵として使える筈もない。

 

「常駐警備兵です、隊長格や直属の騎士候補を望んではいません」

 

 そうだ、僕は自分の責任の範囲で騎士を任じられるんだった。コレットが最有力候補だな、後はニールも護衛の要として……いや、側室に迎えるって言ってしまったから、騎士と側室の兼任は無理か?

 守るべき者に守られる、矛盾してるが立場を固めるには最適だし彼女の家の再興にもなる、貴族に返り咲けるのだから……

 

「そんなに警戒するなよ、俺の関係者がお前の側に居ないのを問題にしているんだ」

 

「では経験豊富な男性を警備隊長として斡旋して下さい、出来れば隊員もお願いしたいです。屋敷にはゴーレム使いの土属性魔術師も居ますから警備隊は総勢十人程度で考えています」

 

 女性は要らぬ問題が発生するから遠慮したいし、僕の家臣団には若い者しか居ないので中間層が欲しい。

 

「普通はそう考えるわな、確かに隊長格が居なければ警備網は構築出来ない。お前って奴は性欲が薄いのか?それともアーシャで満足してるのか?」

 

「な?な、何を言われるのやら」

 

 バーナム伯爵から酷い言葉を貰ったぞ、家の存続には親戚付き合いも大切なのは分かるけどね。

 手に持っていたワインを一気飲みする、フルーティーな筈が妙に渋く感じる、味覚って精神状態に連動してたっけ?

 

「婚姻は家と家との繋がりに有効なのは理解していますが、乱発は控えますし強引に押し付ける相手には警戒し距離を置く様にしています。

女性一人の犠牲で優遇して貰えるなど浅はかな考えの連中が多過ぎです、勿論お二方は例外です。さて、少し重要な話が有りますので人払いか場所の変更をお願いしたいです」

 

 女性一人押し付けるだけで優遇して貰えるなんて思うなよ、安易な考えで擦り寄って来る相手は警戒が必要だ。そこには一方的な利害関係しか無いから。

 

「む、確かにお前の地位と立場なら警戒もするか。分かった、俺とライルの所から信用出来る警備兵と隊長格を送る。後は大事な話なら俺の執務室に行くか、エロールは同席しろ」

 

「俺の所からは送り込み過ぎだから駄目かよ。ジゼル、付いて来い」

 

 各々の腹心と五人で密談か、周りの連中が騒ぎ出したが情報が広まるのは好ましくないから無視だな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 バーナム伯爵の執務室は練兵場を見下ろす屋敷の三階に有った、流石に一派閥の長だけあり内装も調度品も豪華だ。

 しかし壁一面に自慢の武器や防具が飾られている、殆どが魔力が付加されている業物だろう……

 

 続き部屋に応接室が有り通された、此方は華美でなく落ち着いた内装で冷静な話し合いが出来るだろう。

 

「話はワンドの件だな?」

 

「古代のマジックアイテムの再現だ、秘匿する内容だな」

 

 俺は分かってるぜ的に話し出すが全く違います、ワンドの件は暫く時間を置いて沈静化させる予定なので蒸し返されるのは困るんです。

 だがエロール嬢も、そうなんですか的に期待に満ちた顔をしている、義理かもしれないが武器大好きな似た者同士の二人だな。

 ジゼル嬢は懲りないですね、またですか的な叱責を込めた顔をしている、申し訳ない反省してます。

 

「確かにワンドの件も大事ですが今は違います、お二方に話しておきたかった事は……」

 

 一旦言葉を切って注目を促す、この話はエムデン王国の存亡にも関わる大切な話であり、僕の進退にも関係する話だ。

 

「旧コトプス帝国の残党が動き出した事は御存知ですか?バレル川の畔に有るハイゼルン砦が残党共に占領されました、難攻不落の砦を落としたのは旧コトプス帝国の重鎮であるリーマ卿。

敵戦力は二千人、既にウルム王国は討伐軍を編成し我がエムデン王国も派兵の準備を急いでいます」

 

 バーナム伯爵とエロール嬢の表情を見れば知らなかった事が分かる、未だ数日前の事だし公爵クラスだから知り得た情報だ。

 

「何故、そんな重要な情報をリーンハルト殿が知っている?宮廷魔術師だからか?そして何時の事だ?」

 

 真剣な表情だ、バーナム伯爵やデオドラ男爵は前の大戦の経験者だから旧コトプス帝国については思う事だらけだろう、無意識に殺気を放ち出した。

 

「情報元はニーレンス公爵の御息女メディア様からです、僅か数日前の出来事ですね」

 

「ニーレンス公爵がか……余り嬉しい相手では無いな、リーンハルト殿も彼等とは距離を考えて欲しい」

 

 苦虫を纏めて噛み潰した顔をしている、やはり敵対はしてないが心情的には不仲な相手なのだろう。

 だがメディア嬢はジゼル嬢と喧嘩友達だしゼロリックスの森のエルフ族絡みの事も有る、距離は置けないし適切な付き合いが必要なんだ。

 ジゼル嬢も分かっているから苦笑いだな、彼女達は急速に仲が良くなっているから裏切りは無いと思いたい。

 

「僕の予想ではエムデン王国もハイゼルン砦の奪還に意欲的です、彼の砦奪還は長年の悲願でもある筈ですし今後の戦略的にも重要な位置を占めています。

エムデン王国としても開戦は避けられないでしょう、だから僕は宮廷魔術師関連の引き締めの為に……」

 

 一呼吸入れる、この言葉を吐いたらもう止まれないし止まらない。

 

「来週早々、宮廷魔術師関連の和を乱すマグネグロ様に……喧嘩を売ります」

 

 この問題発言を聞いた男二人は呆けた顔をして、エロール嬢は単純に驚きジゼル嬢は頷いた。

 

「お前、もしかして認知し忘れた俺の子だろ?超攻撃的な性格は俺譲りにしか考えられない」

 

「俺も義理の息子だが実子って言われても違和感ないんだ、紅い髪こそ継いでないが中身は我が一族と変わらないな」

 

 斜め上な言葉を貰った、しかも同類扱いだ!

 

 だが僕は貴方達とは違う、脳筋な集団では無い知的探究心溢れる魔術師だと言っても無駄だろう、空気を読んで否定はしないでおく。

 

「国益を損なう事を防ぐ為に仕方無くです!

大体火属性が魔術師の最強とか世迷い事の妄言を吐いて自分の派閥を作ってやりたい放題なのが駄目なんです。

戦争は国家が一丸となり協力しなければ継続は不可能なんです、負けてしまうんです。国益よりも自分の利益を追及するならば……物理的に引退して頂きます」

 

 一部私情が混じったが概ね本当だし本心だ、後はマグネグロ様配下の火属性魔術師の取り込みの件をお願いすれば完了だ。

 派閥構成員として出来るだけ有利な条件を伝える義務が有るし、出来ればバーナム伯爵の派閥に魔術師を増やしたい。

 

「腕が鳴るな、久々の戦争か……」

 

「ああ、攻城戦は好きじゃないんだが仕方無いか。いや、上手く平地に誘き寄せれば或いは……」

 

 何やらブツブツ言い始めたが、もしかしなくても二人共に参戦する予定じゃないよね?

 流石に初戦で二人を投入する事は無いだろう、先ずは正規軍と聖騎士団に宮廷魔術師、その後に貴族達からなる私兵部隊と動員兵じゃないかな?

 いや、義勇軍枠で参戦って事も有るしローラン公爵も僕と共に配下を参戦させるって言ってたな……

 

 戦う事が大好きって奇行に走る父親をどう思っているのか娘達を見る、特に動揺もしていないし呑気にお茶の用意をしている。

 

「あの?」

 

「リーンハルト様もワインばかりでなく紅茶も楽しんで下さい、少しは身体を労らないと駄目ですわ」

 

「本当に飲み比べは派閥でNo.1とか自慢は出来ません、もう今日は控えて下さい」

 

 え、いや、その普通に諭されたけど未だ昼間だし本番は夜の舞踏会だよね?

 差し出されたカップには琥珀色の液体から芳醇な匂いが漂う、シュガーポットから砂糖を二杯いれてかき混ぜる。

 

「リーンハルト様は砂糖派なのですね、私はミルクも入れます」

 

「私はレモンですわ」

 

 呑気にお茶を飲んで和んでしまったけど一応報告も宣言もしたから良いよね?

 宮廷魔術師第二席に挑むって言ったのに、その部分はスルーされたが僕は言いましたから!

 

「最近ですが、バルバドス様の影響か甘党になりつつあります」

 

「まぁ!弟子は師匠に似てくると言われますが味覚もですか?」

 

「巷ではバルバドス様の後継者としてリーンハルト様が最有力って噂が有りますわ、優秀な愛弟子が跡取りの居ない師匠と養子縁組をする。珍しい事では有りませんから……」

 

 巷の噂が伯爵令嬢に届くのが疑問だが現実的には有り得る話だ、バルバドス師本人も養女を僕に嫁がせる的な裏技を教えてくれたし。

 

「一応否定しておきます、確かに養子縁組の話もされましたが今の立場では無理です。確かに後継者問題で揉めてますし後妻殿にも警戒されてます」

 

 納得ですみたいに頷かれた、自分も相続問題で成人後に廃嫡するつもりだったが骨肉の争いだよな、相続問題って……

 インゴの件を父上と相談するのを忘れた訳ではないが時間が中々取れない。

 

「ん?あれ?今日の舞踏会って父上やインゴは来るのかな?」

 

「バーレイ男爵とインゴ様ですね、確か招待客リストに名前が有りましたわ」

 

「そうですか、良かった。インゴの件で父上と相談が有ったのですが里帰りする暇が無くて」

 

 家族の事を忙しいからと後回しにしなくて良かった、序でにジョシー副団長にもカーム嬢とセイン殿の馴れ初めも話すか。

 あの二人が夫婦になるのか、何だか自分の事みたいに嬉しくなってきたな。祝い事だからかな?

 

「何か楽しそうですが、良い事でも有りましたか?」

 

「何時もの黒い笑みではなく自然に微笑まれましたわ、普段からそういう表情ならば社交界でも更に人気が上がりますわよ」

 

「そんな人気は要りません」

 

 ジゼル嬢の僕への評価に戦慄を禁じ得ない、いや黒い笑みなんて浮かべてないしバーナム伯爵の評価も酷いと思うんだ。

 机に伏した僕の背中を優しく撫でてくれるけど後で追及するからな!

 


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