古代魔術師の第二の人生(修正版)   作:Amber bird

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第270話

 バーナム伯爵の派閥への御披露目、舞踏会と聞いたが実際は武闘会だった……分かってはいたが淡い期待を持っていたんだ。

 個人の屋敷に広い客席付の練兵場を持ってるのが凄い、デオドラ男爵でさえ中庭で模擬戦を行っていたんだぞ。

 

「畜生、距離を取られたぜ」

 

 目の前には所属する派閥の長が凶悪な顔で悪態をついている、だが接近戦は危険なので全力で距離を取った。

 アイアンランスと山嵐の複合魔法は有効だ、反撃の隙を与えずに全方位から一方的に攻撃出来たが掠りもしなかった。

 

「僕はゴーレム使いですから接近戦は苦手なのです」

 

 手に持つカッカラが汗で滑りそうなので握り直す、僅か一分にも満たない攻撃なのに緊張して喉がカラカラだ。

 カッカラを頭上で一回転させて振り下ろす、先端の宝環がシャラシャラと澄んだ音を奏でるのが好きだ。

 

「さて、仕切り直しをさせて頂きます。ゴーレムマスターの二つ名の意味を教えて差し上げましょう」

 

 深く息を吸い不安と一緒に吐き出す、無様に負ける訳にはいかないんだ。

 

「不死人形達よ、無言兵団よ。集団戦の妙技をお見せしましょう。取り囲め、円殺陣!」

 

 レベル45相当のゴーレムナイトによる包囲陣、内側に槍装備の十体、外側にも槍装備の二十体、内外で違う方向に回転させながら攻撃を加える。

 

「圧し倒せ!」

 

「俺を舐めるな!」

 

 槍による鋭い突きを避けて両手剣で攻撃を加える、だが内側のゴーレムナイトが倒されたら外側のゴーレムナイトがフォローに入る、故に攻撃は止まらない。

 

「舐めてませんよ、全力です」

 

 外側のゴーレムナイトに一斉に槍を投擲する指示を出して実行、その後に内側のゴーレムナイトの背中を足場にバーナム伯爵に飛び掛からせる。

 武器は両手持ちアックスに変えた、振り下ろす一撃はゴーレム自身の体重も乗せているので重く強い。

 

「これが噂の上下立体攻撃か。確かに普通なら難儀するが、俺は普通じゃねぇ!」

 

 分かっていたさ、デオドラ男爵にも防がれた多重円殺陣による攻撃が更に強いバーナム伯爵に利かない事はさ、だから警戒してた。

 信じたくないが直に見ているから信じるしかない、飛び掛かるゴーレムナイトを左手の一振りで弾き飛ばし両手剣を片手で振り回し真っ二つにする。

 山嵐の変形魔法で絡みついた鋼鉄の蔦を引き千切るし、同じ人間か?

 

「ヌゥン!我が一撃を受けてみろ、斬撃一閃!」

 

 小刻みに斬撃を飛ばして内側のゴーレムナイトの陣形を崩してから、大きく振りかぶって振り下ろす。刀身に纏わせた闘気が大地も裂ける一撃となり真っ直ぐ向かって来た!

 

 デオドラ男爵と同じ放出系や突破系の技を持っていると警戒していて正解だったが……

 

「魔法障壁、全開!」

 

 手加減って言葉を知らないのかもしれない、それ程に危険な一撃を飛ばして来た。衝撃波が魔法障壁に当たった瞬間に押し負けそうになったので魔力を注ぎ込み耐える。

 

「想像以上の圧力だが、耐えられない事はない!」

 

 本来なら斜めに反らすのだが観客が多いので真正面から受けた、だが結構危なかったぞ。魔力総量の二割を持ってかれた、想像以上の威力と手加減の無さだ!

 

「おぃおぃ、まともに受けるとは馬鹿正直だな。それとも受け止められると自信が有ったのか?」

 

「反らしたら観客に被害が出ましたよ、特に最前列の特別席は危険でした!」

 

 慌てて僕の真後ろの特別席を見て、エロール嬢やジゼル嬢達の安全を確認する。エロール嬢が手を振って無事だったとアピールしてくれた。

 

「む?うん、その何だ……気を付ける、悪かったな」

 

 目を逸らして反省と謝罪の言葉を紡いだけどさ、デオドラ男爵もそうだが熱くなると周りが見えないタイプだな。

 でも観客は興奮しているので貰い怪我も織り込み済みって事かもしれない。

 

 だが我が婚約者と側室に危害を加え様とした事は許せない。

 

「その、今後は本当に気を付けて下さいね。では行きます」

 

 言葉を一旦止めて精神を集中し魔力を練り込む、保有魔力は六割を切ったが見せ場は必要だろう。

 

「クリエイトゴーレム!ゴーレムルークよ、捻り潰せ」

 

 バーナム伯爵を取り囲む様にゴーレムルークを六体錬成、メイスを思いっ切り振りかぶる。

 

「おい、お前!自分の女が危険に晒された事を怒ってるだろ?」

 

 バーナム伯爵の言葉に笑顔で応えて振り上げたメイスを全力で振り下ろす、全長6mのゴーレムルークの攻撃に大地が激しく振動した。

 

「「「バーナム伯爵!」」」

 

 土煙が舞い上がり小石が周囲に弾き飛ぶ、観客がバーナム伯爵の無事を確かめる為に騒ぎ出した。だが避けられる筈だ、デオドラ男爵は直上に跳んだがバーナム伯爵は……同じだ!

 

 周囲を警戒していたのでいち早くバーナム伯爵を確認、追撃に移る。

 

「ゴーレムルークよ、格闘戦だ!」

 

 メイスを放して拳を握り締めて振りかぶる、直上に跳んだバーナム伯爵は重力に逆らえずに真っ直ぐ落ちてくるのでタイミングを合わせて……

 

「ぶん殴れ!」

 

 同士討ちも構わずにゴーレムルーク達が拳を突き出す、鈍い金属音が鳴り響くが当たらなかったみたいだな。

 絡み合うゴーレムルークを魔素に還す、煌めく粒子が風に飛ばされて無くなると中心に少し汚れたバーナム伯爵が佇んでいた。

 

「流石はエムデン王国の武の重鎮達を束ねるバーナム伯爵ですね、無傷とは驚きました」

 

「無傷じゃねぇ!一発貰ったぞ。お前、大人気ないぞ」

 

 一発貰っても平然としていらっしゃるじゃないですか、何処も怪我などしてないですよね?

 もしかして羽織っているマントの解れとかですか?僕のゴーレムルークの一撃を食らっても無傷って自信が無くなるんですけど。

 

「はい、僕は未だ未成年ですので大人ではないです」

 

「口の減らない奴だな、もう勘弁ならないぞ。本気でやってやる!」

 

 大の大人が大人気ないですよ、チラリと審判役の人を見れば頷いてくれた、後半はグダグダだが十分経ったみたいだな。

 

「残念ですが時間ですね、今回は引き分けでお願い致します」

 

 長話で丁度時間となった、一応無傷だが本人が一発貰ったと認めてくれたので良かった。カッカラを空間創造に収納して一礼する、周りから盛大な拍手を貰ったので一応成功だな。

 

「納得いかねぇよ、全然納得いかねぇ!」

 

「また次の機会にいたしましょう、有難う御座いました」

 

 再度お礼を言って頭を深々と下げると渋々とだが両手剣を鞘におさめてくれた、本当に渋々だが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 取り敢えず模擬戦は問題少なく終わった、中途半端だからバーナム伯爵は納得していないけど今日は凌(しの)いだ。関係者の方に行こうと思い特別席に向かうが人の波に飲まれる。

 

「流石はゴーレムマスター殿ですな、是非とも我が家に遊びに来て下され」

 

「後半は兎も角、新人がバーナム伯爵と引き分けなのは本当に久し振りなんですぞ。彼の相手はライル団長かデオドラ男爵位ですからな」

 

「凄いゴーレム運用ですな、是非ともウチの家臣団と模擬戦をお願いしたい」

 

 派閥を構成する男性達に取り囲まれた、その後ろに女性陣と彼等の息子達だろう、若い男達が睨んでいる。

 ふむ、男達の反骨心は素晴らしいが女達の値踏みする様なギラギラした視線に胃がシクシクと痛み出した、これならバーナム伯爵と二回戦の方が良いぞ。

 

「そうだ、我が娘を紹介しましょう」

 

「ウチの自慢の娘にも会って下され。サルファーよ近くに」

 

「確かにそうですな。おい、ドリスよ」

 

 親父包囲網の外側に居た娘まで参戦してきた、僕の円殺陣と一緒で内側と外側が連携して攻めてくる。

 

「お初にお目にかかります、ドリスと申します」

 

「サルファーと申します。是非とも私に、リーンハルト様の御活躍を教えて下さい」

 

「お茶会のお誘いを断られて寂しく思っていました、次は是非とも参加をお願い致します」

 

 十代の着飾った女性達に囲まれてしまった、その外側は父親達が固めている、この包囲網を打ち破るにはどうしたら?

 頼りの我が側室と婚約者は不機嫌そうでエロール嬢は困った顔で苦笑いを浮かべた、僕の方が困っているのですが……

 

「今は慣れない王宮勤めで余裕が有りませんので、その内に余裕が出来ましたら考えさせて頂きます」

 

 何とも冴えない捻りもない言葉を言いながら何とか父娘包囲網を抜けてデオドラ男爵達の所に到着、一息つけるかと思えば此処にも興奮した戦闘狂が待ち構えていた。

 

「リーンハルトよ、あの大型ゴーレムだが俺の時より数が倍も多いがアレか?手加減なんかしてないよな?」

 

 娘二人を押し退けて僕の両肩に手を置いて迫って来る中年の戦闘狂に引いた、今回は少し大雑把で力押しの戦い方だったので反省が必要だな、本来の僕の戦闘スタイルは制御特化だ。

 

「手加減などしていません、最後のゴーレムルーク六体による攻撃は大雑把過ぎて反省してます。本来なら時間差攻撃や得物を変えて多彩な攻撃パターンで攻めるのですが……

僕も未だ子供、自分の大切な人に危害を加えられそうになったのでカッとなって単純な攻撃をしてしまいました」

 

 苦笑いをして頭を掻く、咄嗟の判断で避けなくて良かったと思う、運が良かっただけだ。

 

「あら?それは私も含まれるのでしょうか?」

 

 エロール嬢が悪戯っぽい笑みを浮かべているが冗談だろうな、今回もドレスの上から薄い青色のローブを羽織り手には魔石の嵌まったロッドを持っている。

 やはりバーナム伯爵の派閥構成員の殆どが武器を携帯している。

 

 因みに僕はハーフプレートメイルに真っ黒のローブを羽織っている。胸には転生前の家紋だった鷹を少しデザインを変えて着けている、新しく家を興したので家紋にする予定だ。

 家紋は盾に施して貴族院に申請すれば完了、他の家とデザインが似てなければ許可が下りる。

 

「派閥の長の娘を蔑ろにする者は居ませんよ、それにエロール様はアーシャの友人と聞いていますから余計にです」

 

「まぁ、アーシャ様は幸せ者ですわね。リーンハルト様の寵愛を独占しているのですから、羨ましいですわ」

 

確かに婚約者は居ても側室として迎えたのはアーシャだけだな、宮廷魔術師に側室が一人だけは良くないとか言い出さないで欲しいぞ。

 

「来年成人したらジゼル様を本妻として迎えます、今は地盤固めが必要な時ですが無闇に親戚関係を増やす予定は無いのです」

 

 周りが聞き耳を立てているので牽制する、本妻はジゼル嬢で今は側室は要らない。

 ジゼル嬢を本妻に迎えたらイルメラとウィンディアを側室に迎える、彼女達の後見人を探さないと駄目なんだが周りにバレない様に慎重にだ。

 有力な商人か信用出来る貴族の養子にして貰い嫁ぐのが一番だが商人はライラック商会と懇意にしてるから他の……

 

「明確な未来予想図が有るのですね、そろそろ屋敷の方に入りましょう。他の方も模擬戦をしたがってますので場所を空けないと駄目ですわ」

 

「他の?ああ、流石はバーナム伯爵の派閥構成員だけあり自分達も戦わせろって事ですね」

 

 既に相手を決めて練兵場の中央に数組が向かっている、バーナム伯爵の戦いを見て自分達も興奮したんだろうな。

 

「僕はこの派閥でやっていけるのかな?」

 

 イマイチ自信が無くなってきたな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 練兵場は広く数組の狂戦士達が戦いを始めたがスルー推奨で屋敷へと向かう、本来は舞踏会の筈なのに殆ど武闘会だよな、詐欺だよね?

 ホスト役なのだろう、エロール嬢が広い食堂に案内してくれた、未だ昼前だから軽食とお酒が用意されている。

 特にお腹は空いてないのでワインだけ貰い隅に用意されたテーブルに座る、メンバーは僕とアーシャ、ジゼル嬢にエロール嬢だ。

 デオドラ男爵はバーナム伯爵と共に他に行ってしまい男は僕だけになってしまった、妙に周りから注目されて居心地が悪い。

 

「そうでしたわ、義父様より預かり物が有りました。これをリーンハルト様に渡す様に頼まれていたのです」

 

 そう言って腰に差していたワンドを抜いて渡してくれたが、コレってエロール嬢のじゃなかったのか。

 

「ナンバーズワンドの5です、既に付加魔力の効果は無く古代の品として好事家の間を転々としていました」

 

 手に持つワンドの重みを確かめる様に握り締める、鑑定しなくても転生前の僕が作った物だと理解したが詳細が思い浮かばない、記憶が霞んでいる。

 確かこのナンバーズワンドは放浪の民であるジプシーの王に献上したんだなよ、十本全部同じ効果だった筈だが付加した効果が何だか思い浮かばない。

 

「確か……この……」

 

 両手で持ったワンドに魔力を注ぎ込む、登録者しか起動出来ないが制作者が使えなくては意味が無い。思い出した、ジプシーの王の側近十人に作って渡したんだ。

 僕の魔力に反応しワンドの柄が伸びて先端が淡く光った。

 


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